コンプライ・オア・エクスプレイン開示のコンプライアンス
コンプライ・オア・エクスプレイン開示のコンプライアンス : ■要旨 コーポレートガバナンス・コードの導入から3年余りが経過したが、コード原則の実施状況について、企業がコンプライ(実施)と開示しているものの、形式的な対応にとどまり、実質的な取組にまで至っていないというケースが一部あるようだ。それ自体にコンプライアンス上の懸念があるのは勿論だが、公器たる上場企業が公式書類において利害関係者をたばかるような開示を行っているとすれば、コンプライアンス精神という最も重要な会社財産を毀損していることになるだろう。 ■目次 1――コンプライの実態 2――実態と開示の乖離は何が問題なのか 3――会社が失う大切なもの コーポレートガバナンス・コード(以下、コード)は原則主義を採用する。原則主義とは、抽象的で大掴みな原則について、形式的な文言・記載にとらわれることなく、その趣旨・精神に照らして真に適切か否かを各自が判断して行動する手法である。同時にコードは、コンプライ・オア・エクスプレイン方式を導入し、会社が個別事情に照らして遵守(コンプライ)することが適切でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を説明(エクスプレイン)することにより、一部の原則を実施しないことを許容する。いずれの手法も、形式に堕すことなく、自ら考えて実質を追求できるようにする知恵である。では、上場企業がコードに臨む姿勢は実際どうなっているのだろうか(図表1)。コードは法的拘束力がない「ソフト・ロー」とはいえ、一つの規範(有価証券上場規程の別表)である。企業はまず極力、各原則を実施することを基本としながら、コンプライ・オア・エクスプレイン方式に則り実情に即した取組を進めようとしていることがうかがえる。しかしその一方で、28%の企業が、実質が伴わないにも関わらず、形式的な取組をもってコンプライと表明している実態を明らかにしている。ただこの約3割という水準も、企業担当者が経産省のアンケートに対し実情を「真摯に」回答した割合に過ぎず、実際には同様のケースがさらに多く存在するのかもしれない。 では、2018年6月のコード改訂で改めて必要性が強調された経営者の後継者計画(コード補充原則4-1③)でその実態を見てみよう。2017年7月時点(東証調べ)では、「取締役会による後継者計画の監督」について実...