対談 スタンフォードに最も近い高校「ハーカースクール」に迫る

対談 スタンフォードに最も近い高校「ハーカースクール」に迫る:

シリコンバレーの中心に位置し、世界最高峰の大学として知られるスタンフォード大学。そんなスタンフォード大学に最も近いと呼ばれるスクールをご存知だろうか。

ハーカースクール(The Harker School)、初等部から高等部まで擁する私立校である。シリコンバレーで働く親を持つ子、あるいはスタンフォード大学の研究者の子が多く通う当校は校内にシステム担当エンジニアを抱えるほどデジタルやITの教育に力を入れており、卒業生にはアレキサンダー・ワン、マークザッカーバーグの妻で医学博士のプリシラ・チャンなど多彩な人材輩出を行っている。

日本ではまだまだ知名度の低いこのスクールではあるが、この学校出身の人物たちが経済あるいは技術の世界で活躍し、その名が日本にも轟くの時間の問題、ということで、そのハーカースクールに保護者として子どもを通わせていたネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長の石黒不二代氏とハーカースクールへの留学サポートを行う幼児教育スクールGKの磯邊里紗氏の対談を通じてこの学校の魅力を深掘りしていこう。

左)幼児教育スクールGKの磯邊里紗 氏・右)ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長の石黒不二代 氏



磯邊: 石黒さんの息子さんは何歳からアメリカで教育を受け始めたのですか。最初から留学を目指していたのですか。

石黒: 子供が生まれ、日本での子育てとキャリアの両立が難しいことと、学校選びや塾の存在などが煩わしいことを先輩方を見ていて思っていたのですが、結局は私自身がスタンフォード大学のビジネススクールに留学することになり、当時2歳の彼も連れて行ったので、そこからはもう必然でしたね。でも最初からハーカースクールに入学したわけじゃないんですよ。

磯邊: そうだったんですね。

石黒: 最初は公立校に通わせていたんです。スタンフォードのすぐ隣にあり、親もスタンフォードの教授が多い学校だったので安心して学校におまかせしていたら、2、3年でとんでもないことがわかって。アメリカに住んでいると、やはり日本比べて政府が小さいことを実感するようになります。市場原理に任されて官が介入してこない国なのですが、それが学校にも適用されていて、教科書を使わないとか担任の先生が自由にカリキュラムを考えているとか、子どもに合う合わないの点においてすごくギャンブルみたいな状態になっていたの。はじめは全くアメリカの学校事情がわかっていなかったけれど、息子に聞いたら「理科は習ってないよ」と言い出すなど驚きの連続で、それでこのままではマズいと転校先を探し始めました。

磯邊: 大学や高校から海外で学ぶという選択肢は今日本でも急激に広がっていますが、その行き先としてハーカースクールはまだ知られていないですよね。石黒さんと息子さんがハーカースクールに行き着いたきっかけは何だったのでしょうか。

石黒: アメリカの学校は子どもの入学に関して親へのチェックが非常に厳しいところも多くて、私自身が留学生の立場だとなかなか難しいこともありました。でも、ハーカースクールは将来性がある優秀な子を両親に関係なく入学させるということがわかり、試験を受け、入学することができたんです。そこからは天国みたいでしたよ。小学校の先生も殆どは博士号取得者で、しっかり勉強させてくれました。初等部でも全部科目ごとの専門の先生がいて、各科目で習熟度別の授業が行われ、授業のスピードと合わずに飽きてしまったり、脱落してしまうこともありませんでした。

アメリカの学校は物理的な面からいっても日本とは異なる大規模なものがあり、ハーカースクールの場合も初等部・中等部と高等部とでは同じ一貫校とはいえ校舎の移動には車を必要とする距離がある。それでも学校側は飛び級して高等部の授業を履修する中等部生徒のためにスクールバスを校舎間で走らせるというから、個々の能力を伸ばすための力の入れ具合が伺い知れる。

磯邊: 勉強といっても、自分を表現するための教育が充実していて、日本でイメージする「勉強」とは少し違いますよね。ハーカースクールのプレスクールでも手を使って工作をしたり、歌をたくさん歌ったりして、自分で自分を伝える方法を学ばせるという意識がとても強いです。私たちが教室で行っていることが近くてとても共感したのですが、五感を磨くことが重視されている学校ですよね。

石黒: クラブ活動も、ピアノ、テニス、空手、数学、プログラミングなど日によって好きなプログラムを選べたし、生徒に得意不得意があるのを前提に個性を伸ばせばいいという教育でしたね。あまりに充実していたので、「私が教育ママするより絶対いいよね」と安心できました。息子はプログラミングの授業が好きで、校内の科目別成績優秀者に選ばれたことでとても自信を持ち、ますますその勉強が好きになった。学年の終わりに表彰式があるのですが、表彰をするということは、少なからず生徒間の競争があるということなのだけれども、それだけでなくて褒められるモチベーションを生徒に与えられていましたね。生徒同士もお互いに別の強みがあるのを理解しているのか、不思議といじめもなかったし、仲もとてもよかったのではないかと思います。

磯邊: ハーカースクールはとてもシンプルに「学校で学んで学校で楽しむ」が徹底されているのが強みですね。日本の学校ですとせっかくいいと思って入った学校でも、学校生活を楽しむ余地もなく塾やお稽古事に時間を持っていかれてしまいがち。子供にとっても自分の得意なことという軸がなくなってしまうのではないかと危惧しています。

石黒: 確かに日本の教育はどうしても生徒が受け身になりますよね。でも今は「記憶」の部分はもうAIをはじめとする技術がいくらでも肩代わりしてくれるじゃないですか。そうすると私たち人間でないとできないことというのは「新しく作り上げること」だと思うのです。それができる人に育てられるかどうか、というのは教育を選ぶ重要な視点ではないでしょうか。

磯邊: おっしゃる通りですね。そして、「新しく作り上げること」のツールとして英語力が非常に重要だと思います。使いこなせるようになった時に中身のない人にならないように、自ら考えて表現する学びを大切にするハーカースクールのようなカリキュラムは強いですね。土台づくりを提供できる学校です。

技術の発達により、「人間の仕事がなくなる」と騒がれるようになって久しい。今の日本の学生が学校で学んでいることは全て機械に置き換わるという人さえいるなか、自己表現力を伸ばすことには重きを置いてこなかった日本の教育から脱していく子ども達も増えていくだろう。その時の選択肢のひとつとしてこれからハーカースクールに注目が集まりそうだ。

対談者プロフィール




石黒 不二代

ネットイヤーグループ株式会社

代表取締役社長 兼 CEO


名古屋大学経済学部卒業。米スタンフォード大学MBA取得。 ブラザー工業にて海外向けマーケティング、スワロフスキー・ジャパンにて新規事業担当のマネージャーを務めた後、シリコンバレーでコンサルティング会社を設立。YahooやNetscape, Sony, Panasonicなどを顧客とし日米間のアライアンスや技術移転等に従事。1999年にネットイヤーグループのMBOに参画し、2000年より現職。 現在、内閣官房 「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」 本部員、経済産業省「産業構造審議会」の委員などを務める。その他、内閣府「選択する未来」委員会、外務省「日米経済研究会2016」など多数の公職を歴任。




磯邊里紗

幼児教育スクールGK

取締役・コンテンツディレクター


1988年生まれ 東洋英和女学院小学部、中学部から、青山学院高等部、慶應義塾大学理工学部卒業。 一流コンサル企業内定するも、教育事業の素晴らしさに目覚め、その道をすすむ。家業である30年以上続く有名幼児教室にて、多くの有名私立小学校合格者を輩出。2018年GKを創立。プログラム制作責任者を務める。 過去実績 慶應義塾幼稚舎、慶應義塾横浜初等部、早稲田実業初等部、田園調布双葉学園、横浜雙葉学園、青山学院初等部、学習院初等科


【関連URL】

・[公式] GK

蛇足:僕はこう思ったッス
maskin-bit-2016
シリコンバレーは、もともと大陸横断鉄道を敷設したスタンフォード財団の影響を多く受けている。その財団が生んだ大学がスタンフォード大学で、関連施設などがその周辺に多く立ち並ぶ、まさに学園都市の様相だ。大学の前から伸びるサンドヒル・ロードは、クレイナー・パーキンスを筆頭とした超有力VCなどが並び、もちろん大学と投資家の関係は多くの有力スタートアップを成長させることになった。スタンフォード大学は学び舎の在り方をも変え続けてきた。磯邊さんの言う「学校で学んで学校で楽しむ」という言葉はまさにそのことを表しているように思う。

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