ベーシック 米国生保業界の概要(2)米国生保の収入構造2017-米国生命保険協会のファクトブック掲載データから-

ベーシック 米国生保業界の概要(2)米国生保の収入構造2017-米国生命保険協会のファクトブック掲載データから-: ■要旨

 



  • 米国生保協会の『ファクトブック』から「米国生保協会が消費者に伝えたいと描く自画像」を見るシリーズの第2回。今回は「米国生保会社の収入構造」を見る。


     
  • 2017年の米国生保業界の総収入は9,730億ドル。うち62%が保険料収入、29%が投資収益。


     
  • 保険料収入は2015年から2017年にかけ、3年連続で対前年マイナス。1986年に年金保険料が生命保険保険料を上回って以降、両者の差は拡大し、現在は年金保険料が生命保険保険料の倍以上となっている。


     
  • 総投資収益の52%を挙げる債券投資が投資収益の最大の源泉。次は普通株式投資の25.2%。


     
  • 2017年の総資産(一般勘定+分離勘定)の正味収益率は4.28%、分離勘定を含まない一般勘定資産のみの正味収益率は4.80%。ともに低下基調にある。


     
  • 営業利益では、年金事業が全体の55.6% を計上する稼ぎ頭である。


■目次



はじめに

1―― 米国生保会社の収入

2―― 保険料収入の状況

  1|保険料収入のトレンド

  2|生命保険からの保険料

  3|年金からの保険料

  4|医療保険からの保険料

3―― 投資収益と投資収益率

  1|投資収益

  2|投資収益率

4――営業利益NET GAIN FROM OPERATIONS

さいごに米国生保協会の『ファクトブック』を主な情報源として見ることができる「米国生保協会が消費者に伝えたいと描く自画像」を、さまざまな角度から見ていくシリーズの第2回。



今回はファクトブック第4章「INCOME」を使って、「米国生保会社の収入構造」を見る。

 



1―― 米国生保会社の収入

生命保険会社の収入の源は、保険契約者から支払らわれる保険料と投資収益である。



2017年の米国生命保険業界の総収入は9,730億ドルであった。このうち62%にあたる6,072億ドルが生命保険、年金、医療保険からの保険料収入で、29%、2,808億ドルが投資収益である。



残り9%、855億ドルは、金利平衡準備金(interest maintenance reserve)の償却、手数料収入、出再保険の費用控除等、その他の収入項目であった。



総収入の3割弱を投資収入が稼ぐ形は1990年代以降、変わらない。

2―― 保険料収入の状況

1|保険料収入のトレンド

(1)合計保険料

生命保険、医療保険、および年金の販売から得られた保険料収入は、2017年に2016年から0.5%減少して6,072億ドルとなった。金融危機時に年金と生命保険の両方で大きく落ち込んだ後、再び増加基調にもどったかに見えたが、2015年から2017年にかけ、3年連続で対前年マイナスとなっている。(2)生命保険と年金の保険料構成比の推移

保険料中の生命保険と年金の保険料の構成割合は時間の経過とともに著しく変化してきた。

1986年以前は、生命保険からの保険料の方が年金からの保険料よりも多かったが、1986年以降は年金からの保険料が生命保険からの保険料を上回るようになった。両者の差は拡大し、現在は年金からの保険料が生命保険からの保険料の倍以上であることが常態化している。2017年では、保険料収入のほぼ半分(49%)を年金からの保険料が、4分の1(23%)を生命保険からの保険料が占めた。なお、米国生保協会はファクトブックにおいて、生命保険からの保険料(23%、1,418億ドル)を上回る28%、1,705億ドルの保険料を計上している医療保険については、生命保険の保険料や年金の保険料との比較を行っていないことが奇異に感じられるかもしれない。



これは公的医療保険制度が限定的にしかなく、民間医療保険がその代替的な役割を果たしている米国においては、全国レベルで医療保障を提供できる生保会社は少なく、医療保険市場が10社程度の医療保険を主たる業務とする医療保険会社による寡占状態にあることと無関係ではないと思われる。



一般的な生保会社にとって、公的医療保険を代替するような本格的な医療保険の提供は事業対象から外れている。一般的な米国の生保会社にとっては、生命保険と年金が事業構成の主軸であり、医療関係の保険は歯科診療保険や眼科診療保険等の、周辺的な医療保険費目に限られている。



米国の保険協会としても、米国生保協会ACLI(American Council of Life Insurers)の他に、医療保険を中心とする保険会社とヘルスケアプランの団体であるAHIP(America's Health Insurance Plans)があり、米国生保協会の側に遠慮というか、自分たちの管轄外であるという意識があるようだ。こうしたことを背景に、米国生保協会のファクトブックにおいては、生命保険と医療保険の狭間に陥りがちな介護保険や所得保障保険についての記載があまりなされていない。2|生命保険からの保険料

2017年、米国における生命保険からの保険料合計は1,418億ドルであった。



内訳を見ると、個人生命保険の保険料が79%、1,121億ドル、団体生命保険からの保険料が21%、290億ドル、ローン借り入れにともなって加入する信用生命保険からの保険料は0.4%、5.97億ドルであった。個人生命保険料の67%(760億ドル)、団体生命保険料の82%(290億ドル)が、保険加入後2年目以降の更新保険料であった。契約加入時に一括で払い込む一時払い保険料の割合は個人生命保険で17.5%、団体生命保険で9.4%とそれほど高くはない。ただし更新保険料の中には、わが国で考えるようなきちんきとんと毎月払い込むというよりは、余裕があるときにどんと払い込むといった形のものがあり、それも一時払いの一種と言えなくもない。なお米国の人たちは2017年中、全個人可処分所得(税引き後)の1.03%を個人生命保険に費やした。ちなみに、わが国生保業界の2017年度の個人生命保険からの保険料収入23.7兆円が総務省の平成29年度国民経済計算年次推計中の家計可処分所得302.8兆円に占める割合を類似のデータとして計算してみると7.8%となる。3|年金からの保険料

2017年の米国生保業界の年金からの保険料収入は2,950億ドルであった。うち、個人年金の保険料収入が1,648億ドルで、年金保険料の56%を占めた。団体年金の保険料は年金保険料の44%、1,301億ドルであった。



払い方別の構成比を見ると、個人年金では契約1年目の初年度保険料が48.2%で最も大きく、次が一時払いの40.8%となっている。契約2年目以降の更新保険料は11.1%と少なく、生命保険における状況と様相を異にしている。初年度保険料が大きければ2年目以降の更新保険料も大きいとなりそうであるが、そうなっていないのは、個人年金でも、契約上は一時払いではないが、初回に大きく払い込んでおき、次年度以降はあるときに払い込もうと思えば払い込んでもいいという契約形態のものがあるからだと思われる。その意味では、米国の個人年金に加入する人は、一時払いで加入しているという気持ちの人がほとんどなのではないかと考えられる。



個人年金と異なり、団体年金では、更新保険料が67.9%と大きな比率を占めている。勤務先を通じて加入する形態であることから、保険料を継続的に支払う形態が主流となっているのであろう。なお2017年、米国の人々は、個人年金の保険料として可処分所得の1.32%を支出した。ここでも、わが国生保業界の2017年度個人年金保険料収入3.6兆円が総務省の平成29年度国民経済計算年次推計中の家計可処分所得302.8兆円に占める割合を類似のデータとして計算してみると1.2%となる。4|医療保険からの保険料

2017年、医療保険(ファクトブックでは傷害保険・医療保険としているが、本稿ではまとめて医療保険と記述する)からの保険料は1,705億ドル、生命保険からの保険料を上回る規模となっている。



このうち団体医療保険からの保険料は1,114億ドルで、医療保険からの保険料のうち65%を占めた。



一方、個人医療保険の保険料は580億ドルで医療保険中の34%であった。

3―― 投資収益と投資収益率

1|投資収益

次に投資収益の状況について。2017年の米国生命保険業界(一般勘定+分離勘定)全体の純投資収益は2,665億ドル、総投資収益は2,808億ドルであった。



投資収入の最大の源泉は債券投資の1,465億ドルで総投資収益全体の52%を占めた。次が普通株式投資の707億ドル、総投資収益全体の25.2%である。モーゲージが230億ドル、8.2%で続く。2|投資収益率

図表8は投資パフォーマンスを示す3つの指標の推移である。最近の低金利状況等を受けて各投資収益率は低下し続けてきた。



正味収益率は、投資費用控除後、連邦所得税控除前の正味投資収益を純投資資産の2年間平均残高で割り算することによって算出される。



2017年、総資産(一般勘定+分離勘定)の正味収益率は4.28%で、2016年の4.50%から低下した。また、分離勘定を含まない一般勘定資産のみで計算した一般勘定正味収益率も、2017年は4.80%と、2016年の4.86%からわずかながら低下した。



確定利付き資産(一般勘定+分離勘定)の総投資収益率は、債券、優先株式、モーゲージという確定利付き資産に分類される資産の投資収益の測定に使用される指標である。確定利付き資産の総投資収益を確定利付き資産の平均純投資額で割ることによって計算される。減価償却費、投資費用は考慮しない。値上がり益のある株式投資を除くのは、計算の分母と分子における不公平な処理を避けるためである。



2017年の確定利付資産総収益率は4.43%、2016年の4.56%から低下した。

4――営業利益NET GAIN FROM OPERATIONS

ファクトブックの第4章は、『収入』という表題ながら、営業利益に話を進めている。米国の生保法定会計規則の下では、保険事業からの営業利益は純利益よりも先に計算される。



営業利益は、総収入から営業経費、保険契約者配当金、および連邦所得税(ただしキャピタルゲインは営業利益に含まれていないため、キャピタルゲインに対する税金を除く)を差し引いたものである。なお、営業利益に税引後のキャピタルゲインを加算して税引後の純利益が計算される。



連邦所得税引き後の営業利益は、2017年には対2016年で5.3%減少して584億ドルになった。



図表9の事業ライン別の営業利益状況を見ると、個人年金と団体年金の年金ラインが325億ドルと全体の55.6% を計上する稼ぎ頭である。個人、団体あわせた生命保険ラインが70億ドル、12%であった。個人、団体あわせた医療保険が69億ドルと、生命保険とほぼ同額を稼いでいる。



また「その他」の事業ラインが121億ドルと、生命保険や医療保険を凌ぐ利益を挙げていることが目を引く。ファクトブックは「その他」について、「労働者災害補償保険、航空保険等のビジネスライン」を表の脚注で例に挙げているのみであるが、企業年金の管理業務や一般企業の余裕資金運用に対応する商品の提供等も含まれるのではないかと思われる。

さいごに

以上、今回は収入構造の面から米国生保の概況を見たが、米国生保協会の「ファクトブック」にはさらに様々な情報が盛り込まれている。



今後も継続的に「ファクトブック」を材料とした米国生保の概況紹介を行って行くこととしたい。





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