IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について(2)-IASBにおける検討状況と各種関係団体の反応等-

IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について(2)-IASBにおける検討状況と各種関係団体の反応等-: ■要旨



保険契約のための新たな国際的な会計基準である「IFRS第17号(保険契約)」については、IASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)が、2017年5月18日に基準の最終案を公表してから、1年半が過ぎた。



IASBは、IFRS第17号の履行を支援するために、TRG(Transition Resource Group:移行リソースグループ)を設立し、ここでIFRS第17号の新しい会計要件について、ステークホルダーからの質問等を議論してきた。



一方で、IFRS(国際財務報告基準)を採用している世界の各国の保険関係団体等は、このIFRS第17号の公表を踏まえて、その採択に向けて、各種の議論・検討を行ってきている。特に、欧州の会計基準設定において重要な位置付けを有しているEFRAG(European Financial Reporting Advisory Group:欧州財務報告諮問グループ)は、欧州委員会の要請を受けて、IFRS第17号の承認に向けた議論を行ってきている。



IFRS第17号については、保険契約を発行している殆どの会社にとって、その適用に当たり、既存の実務の根本的な変更が求められることになり、大変な努力が必要となることが想定されている。実際に各国の関係団体は、最終基準の詳細な検討等を踏まえて、基準が定めている「2021年1月1日以降に開始する期間」への適用スケジュールがかなり厳しいとの意見を発出してきている。さらには、基準そのものに対する問題点も指摘され、意見や質問もかなり提出されてきている。



こうした動きを踏まえて、IASBも10月24日からIFRS第17号に関する議論をスタートして、こうした意見に対する対応を協議している。



前回と今回の2回のレポートで、これらのIFRS第17号公表後の各国・各地域におけるIFRS第17号の採択の検討を巡るこの1年半の動きの中から、EFRAGにおける検討状況、関係団体による実施時期の延期を求める動き及びこれに対するIASBにおける議論再開後の動きや関係団体等の反応を中心に、ここ数か月における状況を報告する。



まずは、前回のレポートでは、EFRAGにおける検討状況、欧州監督当局等の反応、保険業界団体等からの実施時期の延期を求める動き等、10月24日のIASBにおけるIFRS第17号に関する議論再開に至るまでの動きを報告した。また、併せて、EFRAGの審議会で報告された「IFRS第17号の欧州保険業界への影響に関する報告書」について、その概要を紹介した。



今回のレポートでは、これらの動きを踏まえての10月24日のIASBにおけるIFRS第17号に関する議論再開後の動き、具体的には、IASBにおける会議の概要やそれを受けての関係団体の反応及びKPMGが策定したIFRS第17号の導入に伴う影響に関するアナリストに対する調査結果の報告書の内容等を報告する。



■目次



1―はじめに

2―10月及び11月のIASB会議の内容

  1|10月24日のIASB会議

  2|11月14日のIASB会議

  3|IASBのpodcast

  4|保険契約移行リソースグループ会議のリスケジュール

3―10月及び11月のIASB会議の内容を踏まえた関係者の反応

  1|グローバルな保険業界団体の反応

  2|Insurance Europe(保険ヨーロッパ)の反応

  3|ABI(英国保険会社協会)の反応

  4|EIOPA(欧州保険年金監督局)の反応

  5|EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)の反応

  6|ASAF(会計基準アドバイザリー・フォーラム)での12月6日の議論

  7|APRA(オーストラリア健全性規制機構)の反応

  8|IAA(International Actuarial Association:国際アクチュアリー会)の反応

4―12月13日のIASB会議の内容

  1|12月13日のIASB会議

  2|IASBのHans Hoogervorst議長によるAICPA(米国公認会計士協会)の

    規制進展に関する年次総会におけるスピーチ

5―12月前後の各種団体等からの反応等

  1|CFO Forumの反応

  2|EFRAGの反応

  3|アナリストの反応(KPMGによる調査結果報告書)

6―まとめ

  1|実施時期の延期問題

  2|基準への修正要望問題

  3|IFRS 第17号の導入による影響評価

  4|日本の生命保険会社の対応等保険契約のための新たな国際的な会計基準である「IFRS第17号(保険契約)」については、IASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)が、2017年5月18日に基準の最終案を公表してから、1年半が過ぎた。



IASBは、IFRS第17号の実施を支援するために、TRG(Transition Resource Group:移行リソースグループ)を設立し、ここでIFRS第17号の新しい会計要件について、ステークホルダーからの質問等を議論してきた。



一方で、IFRS(国際財務報告基準)を採用している世界の各国の保険関係団体等は、このIFRS第17号の公表を踏まえて、その採択に向けて、各種の議論・検討を行ってきている。特に、欧州の会計基準設定において重要な位置付けを有しているEFRAG(European Financial Reporting Advisory Group:欧州財務報告諮問グループ)は、欧州委員会の要請を受けて、IFRS第17号の承認に向けた議論を行ってきている。



IFRS第17号については、保険契約を発行している殆どの会社にとって、その適用に当たり、既存の実務の根本的な変更が求められることになり、大変な努力が必要となることが想定されている。実際に各国の関係団体は、最終基準の詳細な検討等を踏まえて、基準が定めている「2021年1月1日以降に開始する期間」への適用スケジュールがかなり厳しいとの意見を発出してきている。さらには、基準そのものに対する問題点も指摘され、意見や質問もかなり提出されてきている。



こうした動きを踏まえて、IASBも10月24日からIFRS第17号に関する議論をスタートして、こうした意見に対する対応を協議している。



前回と今回の2回のレポートで、これらのIFRS第17号公表後の各国・各地域におけるIFRS第17号の採択の検討を巡るこの1年半の動きの中から、EFRAGにおける検討状況、関係団体による実施時期の延期を求める動き及びこれに対するIASBにおける議論再開後の動きや関係団体等の反応を中心に、ここ数か月における状況を報告する。



まずは、前回のレポートでは、EFRAGにおける検討状況、欧州監督当局等の反応、保険業界団体等からの実施時期の延期を求める動き等、10月24日のIASBにおけるIFRS第17号に関する議論再開に至るまでの動きを報告した。また、併せて、EFRAGの審議会で報告された「IFRS第17号の欧州保険業界への影響に関する報告書」について、その概要を紹介した。



今回のレポートでは、これらの動きを踏まえての10月24日のIASBにおけるIFRS第17号に関する議論再開後の動き、具体的には、IASBにおける会議の概要やそれを受けての関係団体の反応及びKPMGが策定したIFRS第17号の導入に伴う影響に関するアナリストに対する調査結果の報告書の内容等を報告する。

 



2―10月及び11月のIASB会議の内容

前回のレポートで報告したように、EFRAGは、EU(欧州連合)におけるIFRS 第17号の承認プロセスを保留にして、「構成員が提起した6つの問題」に関するレターをIASBに送付した。さらには、IFRS第17号を適用する必要がある地域からのグローバルな保険業界団体は、IFRS第17号の基準適用の延期と基準そのものの改善を求めた。



こうした動きを受けて、IASBは、基準修正や基準適用時期の見直しを検討し、これに応じて、IFRS第17号を再公開するかどうかについて、議論するように圧力を受けてきた。



この章では10月及び11月におけるIASBの審議会(以下、「IASB会議」という)での議論の内容について報告する。これらの内容については、IASBのWebサイトのIASB update1において、適宜更新されており、これに基づいて、日本の会計基準設定主体であるASBJ(企業会計基準委員会)もその日本語版を公表2しているので、適宜それらを引用ないしは参照している。





1|1024日のIASB会議

IASBは、10月24日の審議会3において、IFRS第17号「保険契約」の議論を再開した。



この会議では、2018年9月26日から27日に開催されたIFRS第17号「保険契約」のための移行リソースグループの会議を含むIFRS第17号「保険契約」の実施を支援する作業に関する最新情報を受け取り、IFRS第17号の修正の可能性を評価するための基準が検討された。



(1) IFRS17号の修正の可能性を評価するための基準

この中で、審議会は、将来の会合において、IFRS第17号の費用と便益に関するものを含む、移行リソースグループと他のステークホルダーによって議論された懸念と実施上の課題のいずれかがIFRS第17号の要求事項を修正する必要性を示すかどうか検討することに言及した。



さらに、IFRS第17号の修正を提案する際には、修正の必要性を証明することに加えて、その提案が以下の基準を満たすことをスタッフが示さなければならない、と暫定決定した。



a.この修正によって、IFRS第17号が財務諸表利用者に提供していたものと比較して、有用な情報が大幅に失われることはない。いかなる修正も以下の点を回避しなければならない。

i. IFRS第17号を適用する会社の財務諸表における情報の目的適合性及び忠実な表現の低下

ii. 比較可能性の低下やIFRS第17号を含むIFRS基準における内部的な不整合の発生

iii.財務諸表利用者にとっての複雑性の増加、それによる理解可能性の低下



b.この修正は、既に進行中の導入作業を不当に混乱させたり、既存の広範な保険会計実務における不備に対処するために必要な、この基準の発効日(effective date)を過度に遅延させるリスクにさらすことはない。



14名の審議会メンバー全員がこの決定に同意した。



なお、スタッフは、IFRS第17号の修正案が基準を満たしていることに同意したとしても、これらの基準を満たす全ての修正が正当なものであるということを意味するものではない、とし、またいかなる変更も発効日に影響を与えることを強調した。





(2) ステークホルダーによって提起された主な懸念及び実施上の課題

次に、審議会は、IFRS第17号の要求事項に関して、ステークホルダーによって提起された以下の25項目の主な懸念及び実施上の課題の概要について議論した。なお、これらに関しては、審議会はいかなる決定も行わなかった。



 1) IFRS第17号の範囲(保険リスクを移転するローンや他の形態の信用供与)

 2) 保険契約の集約レベル

 3) 測定(契約境界線外の更新の獲得キャッシュフロー)

 4) 測定(契約上のサービスマージン(CSM)を調整するためのロックイン割引率の使用)

 5) 測定(主観性:割引率とリスク調整)

 6) 測定(エンティティグループのリスク調整)

 7) 測定(契約上のサービスマージン:一般モデルにおけるカバー単位)

 8) 測定(契約上のサービスマージン:リスク軽減例外の適用の限定)

 9) 測定(保険料配分アプローチ:受取保険料)

10) 測定(企業結合:契約の分類)

11) 測定(企業結合:決済期間中に獲得された契約)

12) 測定(保有再保険契約:基礎となる保険契約が不利な場合の当初認識)

13) 測定(保有再保険契約:変動手数料アプローチに対する不適格性)

14) 測定(保有再保険契約:未発行の基礎となる保険契約から発生する期待キャッシュフロー)

15) 財政状態計算書における表示(資産グループと負債グループの分離表示)

16) 財政状態計算書における表示(未収保険料)

17) 財務業績計算書の表示(保険金融収益又は費用のその他の包括利益(OCI)オプション)

18) 定義(直接連動有配当保険契約)

19) 期中財務諸表(会計上の見積りの取扱)

20) 発効日(IFRS第17号の適用開始日)

21) 発効日(比較情報)

22) 発効日(IFRS第9号適用の一時的免除)

23) 経過措置(オプション性)

24) 経過措置(修正遡及アプローチ:さらなる修正)

25) 経過措置(公正価値アプローチ:関連金融資産に関するOCI)



これらの項目のうちのいくつかについては、議論が行われたが、修正が必要か否かの議論は行われず、基準の発効日の修正を目指すこともなかった。



この審議会での理事(審議会メンバー)からの発言等の詳しい内容については、ここでは触れないが、Hans Hoogervorst議長は、「悄然と議論のためにペーパーを読んだ」と述べて、次の金融危機の前に基準が成立することを期待しているとした。Hoogervorst議長は、「実施を混乱させるリスクや基準を遅らせるリスクを受け入れることは非常に難しい。非常に高いハードルが必要だ。基準の変更は微調整であるべきであり、主たる正当化は実施コストを削減することでなければならない。」と述べた。



審議会は、将来の会議で、懸念及び実施上の課題が、審議会が既に暫定的に提案することを決定している年次改善を超えてIFRS第17号の要求事項を修正するための基準設定の必要性を示すかどうかを検討する。審議会はまた、IFRS第17号の発効日に対する影響を検討する、とした。2|1114日のIASB会議

IASBは、2018年11月14日の審議会4において、10月の審議会で提起された25項目の主な懸念及び実施上の課題のうちの20)と22)に対応する以下の2項目について、IFRS第17号「保険契約」の修正を調査することの意味合いについて議論した。

a. IFRS第17号の発効日

b. IFRS第4号「保険契約」におけるIFRS 第9号「金融商品」の適用からの一時的免除の期限満了日



IFRS第17号の修正を議論するかどうかを検討する計画を考え、そのような潜在的な修正を評価するための基準を考慮して、審議会は以下のように暫定決定した。

a. IFRS第17号の強制発効日(mandatory effective date)は1年延期されるべきであり、会社は2022年1月1日以降に開始する事業年度についてIFRS第17号を適用することが要求されることになる。

14名の全ての理事がこの決定に賛成した。

b. 従って、IFRS第9号の適用からのIFRS第4号の一時的免除の固定された期限満了日は、全ての会社が2022年1月1日以降に開始する年度についてIFRS第9号を適用することを要求されるように修正されるべきである。

14名の理事のうち13名がこの決定に賛成し、1名が反対した。



IASBは、IFRS第17号の修正を議論するかどうか検討する予定である。これらの修正に関する不確実性がIFRS第17号の適用の進展を混乱させる可能性があるとのスタッフの意見を踏襲し、 IFRS第17号により引き起こされる重要な変更は、延期を正当化する例外的な状況を構成することになる、とした。



さらに、IFRS第9号の一時的免除の固定された期限満了日の延期については、1年の延期が、既に適用を開始している会社の4年後(IFRS第9号の発行から8年後)までIFRS第9号を適用しないことを意味するため、より議論を呼ぶ問題であった、ただし、延期がなければ、短期間に2回の主要な会計上の変更があり、財務諸表作成者や利用者に大きなコストと労力をもたらすことになることから、審議会は、IFRS第9号とIFRS第17号の両方を同時に適用できるようにするため、免除期限を1年延期することを暫定決定した。

なお、世界の保険業界団体等からは強制発効日5の2年の延期要請が

行われていたが、延期が長くなると、進行中の導入プロセスに伴うコストが増加するのに対して、対応するベネフィットがないとの意見や一部のステークホルダーが1年間の延期が有用であると判断していることもあり、1年間のみ延期することを暫定決定した。準備を不当に混乱させるべきではないというステークホルダーからのコメントに対応しつつ、IFRS第17号に関する審議会の議論から生じる不確実性を認識したものと整理されている。



より具体的には、審議会の資料によれば、発効日の延期に関するステークホルダーの意見及びそれらを踏まえてのスタッフの分析については、以下の通りとなっている。



 




4https://www.ifrs.org/news-and-events/calendar/2018/november/international-accounting-standards-board/
5 レポートの以下の文中における「発効日」という文言については、いわゆる「強制発効日(mandatory effective date)」を意味しているケースも多いが、原文の表現に忠実に従う趣旨又は文章の流れから誤解を招く恐れもないと思われることから、基本的には「発効日」という表現を使用している。
懸念と実施上の課題


11.一部のステークホルダーは、発効日までにIFRS第17号を適用するのに十分な時間がないと述べている。一部のステークホルダーは、以下の理由により、審議会はIFRS第17号の発効日を1年、2年又は3年延期すべきだと提案した。


(a)会社は、当初の想定よりも準備に時間がかかっている。


(b)IFRS第17号の実施を成功させるためには、内部又は第三者の専門家、特にアクチュアリー及びITシステムプロバイダーへの依存が必要となる。一部のステークホルダーは、それらのリソースの利用可能性における制限が、IFRS第17号を予定通りに実施することを困難にすると懸念している。


(c)IFRS第17号の実施から生じる報告情報の重要な変化について、一部のステークホルダーが投資家、アナリスト及びその他の利用者に財務諸表を通知し準備するのに十分なリードタイムがない。


(d)リソース、教育、業務変更管理、規制上の資本及び監督ならびに課税に関する、会社の管理外の他の要素は、現実的に2021年1月1日までに完了しないかもしれない。


(e)EU(欧州連合)の承認プロセスの潜在的な遅延は、世界中の会社がIFRS第17号を同時には適用開始しないことを意味するかもしれない。



12.一方で、他のステークホルダーは、2021年1月1日までに要求事項を適用する準備が整うことを想定していると述べている。そのようなステークホルダーの一部は、1年という短期の延期は有益だが、より長期の延期は破壊的であり、対応するベネフィットがなく、コストが増加する可能性がある、とコメントした。例えば、いくつかの会社は既に進行中である実施プロセスを妨げられ、又はそれらの実施プロセスに割り当てられたリソースの優先順位を下げるか削除することに苦しむことになるかもしれない。一部のステークホルダーは、規制変更を実施する際に発効日を変更した経験から、発効日を延期するとコストが増加する可能性があることが実証されたと強調した。



13.延期の必要性についての彼らの見解に関係なく、多くのステークホルダーは、審議会がIFRS第17号の発効日を修正するのであれば、直ぐにでも判断することが(例えば、計画や予算目的のために)有用であると述べた。

スタッフ分析


14.スタッフは、審議会が2016年4月に、発行後であるがその強制発効日より前にIFRS第15号を修正したことに留意した。審議会は、これらの修正を検討しながら、2015年9月にIFRS第15号の強制発効日を延期した。その時に、審議会はIFRS第15号の実施前の強制発効日の延期は、IFRS第15号の実施を巡る環境の例外的性質のためにのみ正当化されると述べた。審議会は、IFRS第15号の状況は3つの理由で例外的であると結論付けた。そのうち1つ-いかなる修正も、IFRS第15号 を適用するのと同時にそれらの修正を適用したい会社に影響を与える-だけが、IFRS第17号に関連する可能性がある。IFRS第15号の発効日を延期するという審議会の決定の根拠は、このペーパーの付録に記載されている。



15.このペーパーのパラグラフ9に記載されているように、スタッフはまた、IFRS第17号が、保険契約を発行する大部分の会社の保険契約の会計処理への根本的な変更を表し、これらの会社の内部と外部の両方で、リソースに対する重大な要求を課すことになる、という認識の下で、強制発効日を設定したことを強調した。発効日の設定において、審議会は、この基準を適用する際に一部の会社がデータの収集、情報技術システム及びプロセスの変更を要求されることを予想して、IFRS第17号の公表から発効日までの間にかなりの時間を提供した。



16.IFRS第17号を既に実施してきており、2021年1月1日までに要求事項を適用する準備ができていると想定する会社にとって、発効日の延期は、進行中のプロジェクト計画の修正や費用の増加をもたらす可能性がある。その結果、発効日を延期すると、2021年に向けて準備が整っていると想定している会社には不利益を与え、実施が遅い会社に報酬を与えることになるようにみえる。それはまた、まだ基準の実施をまだ始めていない一部の会社に、その実施をさらに遅らせるように奨励することになるかもしれない。



17.従って、スタッフは、会社がより多くの時間を要するという議論が、IFRS第17号の強制発効日の延期を正当化するとは考えていない。



18.しかしながら、スタッフは、審議会が2018年12月の会議でIFRS第17号の修正を探求するかどうか検討することが想定されていることを指摘する。2018年10月の会議で、審議会は、修正の必要性を証明することに加えて、スタッフは、提案がいかなる修正も既に進行中の実施を不当に妨げることがなく、また既存の広範な保険会計実務における多くの不備に対処するために必要なIFRS第17号の発効日を過度に遅延させるリスクをもたらすものでないことを含む、特定の基準を満たしていることを示さなければならないことを暫定的に決定した。



19.スタッフは、審議会がIFRS第17号の修正を提案するのであれば、それらの修正についての不確実性がIFRS第17号の実施における作成者の進捗を妨げる可能性があると指摘する。さらに、一部のステークホルダーは、延期を認める前に発効日近くになるまで待つことは、最も実施が進んでいる殆どの会社に悪影響を及ぼすと述べている。それらのステークホルダーは、彼らが延期を望んでいるかどうかにかかわらず、IFRS第17号の発効日を修正するかどうかを直ぐにでも示すよう審議会に要求している。



20.スタッフは、ステークホルダーが特定した懸念及び実施上の課題を考慮した場合に、審議会がIFRS第17号に提案するかもしれない修正は少なくとも1年間は最終決定されない可能性が高いと考える。これは、公開草案を作成し、適切なコメント期間を設け、提案を再審議する必要があるためである。さらに、2018年10月の審議会におけるアジェンダ・ペーパー2D「懸念及び実施上の課題」におけるスタッフの予備的見解は、その発効日の延期を促したIFRS第15号の修正とは対照的に、いかなる修正も、単にIFRS第17号の要求事項を明確化することを超える可能性があることを示している。あるものは、審議会が修正案の最終決定を行うか、又は進行しないことを決定するまで、IFRS第17号の修正の可能性について不確実性が続くと主張するかもしれないが、修正に関する審議会の基準は、既存の広範囲の保険会計実務における多くの不備に対処することが必要とされていることを条件に、IFRS第17号の発効日における過度の遅延のリスクを伴う変更に対して大きなハードルがあることを要求している。



21.スタッフは、この不確実性が、IFRS第17号が保険契約を発行する多くの会社にもたらす重大かつ広範囲にわたる変更と相まって、IFRS第17号の実施を取り巻く例外的な状況を表していると考える。もし審議会が同意すれば、今IFRS 第17号の発効日を延期することを示すことができる。いかなる修正も既に進行中の実施を不当に混乱させたり、IFRS第17号の発効を過度に遅延させるべきではないという審議会の基準を満たすためには、その延期を、会社が 2022年1月1日以降に開始する年度からIFRS第17号を適用することが要求されるように、1年に制限することができる。延期を1年に制限することはまた、実施が最も進んでいる会社への混乱を最小限に抑えるだろう。

なお、延期の提案は、2019年に行われる予定の公開協議(パブリック・コンサルテーション)の対象となる。3|IASBpodcast

IASBは、10月26日に、10月のIASB会議でのIFRS第17号「保険契約」に関する議論に関するpodcastをリリース6した。



Darrel Scott理事は、審議会はまず、IASBスタッフが、審議会が修正案を検討することを正当化するかどうかの評価に適用するために開発した基準について議論し、次に、スタッフによって特定された25項目の懸念や問題に対して、これらの基準を一種のテストランの中で使用した、しかしながら、何らの決定もなされなかった、と述べた。



IASBは、11月18日に、IFRS第17号の発効日を延期する暫定決定に関して、Darrel Scott理事がこの決定の背後にある審議会の合理性について説明するpodcastをリリース7した。



Darrel Scott理事は、IASBはIFRS第17号の発効日を遅らせるという一般的な要請にあまり賛意を示していないが、基準の修正の可能性を検討するという審議会の決定は、適用の延期を正当化する不確実性の状況を作り出した、と説明した。



4|保険契約移行リソースグループ会議のリスケジュール

これらの審議会の動き等にも関連して、IFRS第17号「保険契約」の次の移行リソースグループ(TRG)の会議は、2018年12月4日から2019年4月4日に変更された8



TRG会議は、前回の2018年9月の TRG会議以降の提出が限定されていたことと、それらの提出のいくつかの範囲の狭さを考慮して、リスケジュールされたが、これにより、ステークホルダーがさらなる実施上の質問を提出するための追加の時間が確保できることになる、とした。



Darrel Scott理事は、podcastの中で、「TRGへの提出案件は、より詳細なものになってきており、これは実施プロセスが深化していることを示しており、良い兆候だ。」と述べた。



 





3―10月及び11月のIASB会議の内容を踏まえた関係者の反応

11月14日のIASB会議におけるIFRS第17号の発効日の1年延期の暫定決定等を受けての、関係団体の反応は、以下の通りである。



1|グローバルな保険業界団体の反応

前回のレポートにおいて、10月16日に、IFRS第17号を適用する必要がある地域からの保険会社からの9つの協会が、共同で、IASBのHans Hoogervorst議長宛にレターを送付して、IFRS第17号の実施時期の2年延期を要請した、ことを報告した。ここに、9つの協会とは、ASISA(南アフリカ貯蓄投資協会)、CLHIA(カナダ生命保険健康保険協会)、ニュージーランド金融サービス協議会、韓国損害保険協会、カナダ保険局、オーストラリア保険協議会、ニュージーランド保険協議会、Insurance Europe(保険ヨーロッパ)、韓国生命保険協会、であった。



これらの9つの協会に、新たにNAMIC(米国相互保険会社協会)と南アフリカ保険協会が加わった11のグローバルな保険団体からなるグループが、保険会計基準であるIFRS第17号の施行の2年延期を要請する増大する声を支援するために、あらためて12月6日に、IASB議長Hans Hoogervorst氏に共同レター9を送った。



11のグローバルな保険業界団体は、IFRS第17号の実施を2022年1月1日に延期させるという11月のIASBにおける決定を歓迎する一方で、保険会社は1年延期では基準を適切に実施するには不十分だと述べた。



新たなレターの中で、「私たちは、IFRS第17号の問題を解決し、基準のグローバルな実施の成功のために保険会社に十分な時間を与えるために、2年の延期が必要であるという強い見解を引き続き有している。」と述べた。



さらに、「IASBは、基準に対する潜在的な修正を検討するのに必要な時間をかけることが重要である。さらに、詳細なファクトベースの業界分析によって支持された、業界が提起した重要な運用上の懸念事項も考慮に入れる必要がある。」と述べた。



なお、「2年間の延期が実施プロジェクトを停止又は遅らせるとは予想していないが、むしろ会社が運用上及び関連する場合には規制上の影響に対処することを可能にする。」と述べた。



加えて、「欧州のEFRAGで行われたテストの実施が、前例がないものであり、世界中の会社からの継続中の実施プロジェクトとともに、潜在的な修正を評価する際に考慮されるべき重要な新しい情報と証拠を提供している、ということを強調する。」とした。



(参考)NAMIC(米国相互保険会社協会)が共同レターに加わった理由

なお、IFRS第17号は通常は相互保険会社には適用されないが、NAMICが今回の共同レターに加わった理由について、NAMICの金融規制マネージャーであるJonathan Rodgers氏は次のように述べた。「NAMICメンバーが新しいIFRS 第17号に関心を持つ理由はたくさんある。これらの懸念の中でも、基準を実施するためのコストと複雑さが問題視されている。NAMICには、IFRS財務諸表、米国 GAAP財務諸表、米国法定会計財務諸表を提出する必要があるメンバーがいる。」



さらに、「IFRSと米国GAAPとの差異は重要であり、IFRS第17号の多くの実施上の問題は未解決のままである。実施に関する懸念に加えて、NAMICのメンバーは、IAIS(保険監督者国際機構)によって策定中の基準がIFRS会計基準の影響を大きく受けているという事実を心に留めている。」と述べた。

2018年12月6日 ブリュッセル
ReIASB 11月の審議会のIFRS17号のフォローアップに関するグローバルな保険業界のレター


親愛なる Hoogervorst議長へ



保険会社がIFRS第17号を適用することが求められる多くの市場を代表する団体として、私たちは、IFRS第17号の発効日を1年延期することを提案した審議会の決定に従い、私たちの考え方を書いている。



私たちは、IFRS第17号及びIFRS第9号の発効日を延期するという審議会の決定を歓迎するが、IFRS第17号の問題を解決し、基準のグローバルな実施の成功のために保険会社に十分な時間を与えるために、2年の延期が必要であるという強い見解を引き続き有している。



投資家、アナリスト、その他の利用者が期待している、質の高い決定に有用な情報を提供するには、グローバルな実施が成功することが不可欠である。IASBは、基準に対する潜在的な修正を検討するのに必要な時間をかけることが重要である。さらに、詳細なファクトベースの業界分析によって支持された、業界が提起した重要な運用上の懸念事項も考慮に入れる必要がある。



前述の通り、2年間の遅延が実施プロジェクトを停止又は遅らせるとは予想していないが、むしろ会社が運用上及び関連する場合には規制上の影響に対処することを可能にする。



私たちは、欧州のEFRAGで行われたテストの実施が、前例がないものであり、世界中の会社からの継続中の実施プロジェクトとともに、潜在的な修正を評価する際に考慮されるべき重要な新しい情報と証拠を提供している、ということを強調する。



業界は、質の高い財務報告基準の策定に引き続きコミットしており、成功したグローバルな採択を確実にするためにIASBとの積極的な関わりに期待している。

2|Insurance Europe(保険ヨーロッパ)の反応

IASBの1年延期の暫定決定を受けて、保険ヨーロッパのOlav Jones副事務局長は、「IASB審議会は、最後に、改善とIFRS第17号の延期、それと整合させるためにIFRS第9号のタイミングを調整することを検討する必要性を認識したけれども、IFRS第17号の問題を修正し、保険会社に基準を適切に実施するのに十分な時間を与えるのには、2年の延期が必要である。」と述べた。



さらに、保険ヨーロッパは、単独でも12月6日に上記と同様な声明10を公表して、2年の延期を強く求めるスタンスを対外的に明らかにしている。

 



2018年12月6日
IFRS17号:世界の保険会社は、問題を解決して基準を適切に実施するには1年の延期は十分でないと言う



国際会計基準審議会(IASB)の議長であるHans Hoogervorst氏に、世界の11の保険協会からなるグループが、保険契約を対象とした国際財務報告基準(IFRS)第17号の2年延期を要求した。このレターは、IASBが基準の発効日を1年延期することを提案するという決定に続いている。



IFRS第17号及び金融商品をカバーするIFRS第9号の発効日を遅らせる決定を認識した上で、レターは、IFRS第17号の問題を解決し、保険会社に基準を適切に実施するのに十分な時間を与えるのに2年の延期が必要であることを強調している。



IFRS第17号を使用する全ての管轄区域での実施が成功することは、投資家、アナリスト及び他の利用者が期待している高品質で有用な情報を提供する上で重要である。従って、IASBは、基準に対する潜在的な修正を検討するのに必要な時間をかけることが重要である。このレターでは、EFRAGのケーススタディテスト及び継続中の実施プロジェクトから得られた情報が、修正を検討する際に考慮すべき新しい情報を構成することも強調している。



レターでは、2年の延期が保険会社の実施プロジェクトを停止したり、遅らせることはないと述べている。むしろ、企業が運用上及び関連する場合には、規制上の影響に対処することを可能にするだけである、と付け加えている。

3|ABI(英国保険会社協会)の反応

ABI(英国保険会社協会)の健全性規制担当責任者のSteven Findlay氏は、提案された1年間の延期は「正しい方向への一歩」であるが、「フィールドテストで特定された重要な専門的で運用上の変更が修正されることを可能にするのに十分な時間ではない。」と述べ、「業界の2年延期の要求は、より現実的である。」と述べた。



Findlay氏は、IFRS第9号との意味合いから短期間の延期を推薦するというIASBのコメントに関して言及して、「保険会社は資産と負債を一緒に管理することから、IFRS第9号とIFRS第17号は同じコインの異なる部分である。一般的には両者を同時に導入することが理にかなっており、これはIFRS第17号を修正して実施するために必要な時間に基づいて行われるべきである。」とし、また「多くの英国保険会社にとって、IFRS第9号はその数値を大幅に変更する可能性は低い。彼らはすでに、金融資産の大部分を公正価値で評価している。」と述べた。4|EIOPA(欧州保険年金監督局)の反応

保険のリスクや資本管理に関するオンライン情報サービス会社のInsuranceERMからの情報に基づくと、EIOPA(の会長)は以下の通り反応している。



EIOPAのGabriel Bernardino会長は、IASBが、2019年における公開協議(パブリック・コンサルテーション)を条件に、IFRS第17号の発効日を延期するという決定を歓迎した。



EIOPAは、EUの承認プロセスにおけるオブザーバーとしての地位を付与されており、前回のレポートで報告したように、10月19日に、ソルベンシーIIとIFRS第17号の違いを概説する詳細な技術分析を公表した。報告書では、EIOPAは一般的に基準について肯定的だったが、特に割引率などの重要な要素を決定する際に、原則ベースの性格について懸念を示していた。



Gabriel Bernardino会長は、11月20日に開催されたEIOPAの第 8 回年次総会において、InsuranceERM からの質問に答えて、「全体として、IFRS第17号は比較の方向性への良いステップであると見ている。私たちはまた、これらの目標の達成に関していくつかの懸念を抱いている。これらの領域は、IASBで検討される必要がある。例えば、領域の1つは割引率に関連している。」とし、「IFRS第17号は、選択肢にあまりにも多くの幅を持たせている。私たちは、その選択の幅からの結果が比較可能性の欠如になると懸念している。」と述べた。



Gabriel Bernardino会長は、EIOPAはIASBにこれらの問題を見るように促し、その意味で、反映のための時間を許容するために1年の延期を歓迎する、と述べた。5|EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)の反応

EFRAGは、IASBによるIFRS第17号の発効日延期の暫定決定を受けて、11月22日のEFRAGの理事会11で、IASBが修正案を検討している間に、IFRS第17号の承認プロセスを今後どのように継続すべきかを議論した。



EFRAGの理事会メンバーの何人かは、積極的なアプローチを推奨したが、多くの他のメンバーは、IASBが基準をどのように変更するのかを知らずに、EFRAGが作業を再開すべきではないと述べた。



EFRAG副会長のAndreas Barckow氏は、「IASBがどこに行くのかわからないと、EFRAGのリソースが無駄になる。少なくとも、IASBが真剣に検討している問題を知る必要がある。」と語った。



EFRAG理事会は、2018年12月18日の会議で、修正される可能性があるIFRS第17号の領域に関するIASBの暫定的な決定の前に、EFRAGが積極的であるべきかどうか、そしてそうである場合どのように、について検討することを決定した。



6|ASAF(会計基準アドバイザリー・フォーラム)での126日の議論

IASBのアドバイザリーグループである会計基準アドバイザリー・フォーラム(Accounting Standards Advisory Forum:ASAF)は、IFRS第17号のいくつかの修正案を検討するため、12月6日及び7日に会議を開催した。そこで、IASBの10月の会議資料において、スタッフが審議会によって設定された基準を満たす方法で、修正するかもしれないことを示唆した項目として、以下の6つのトピックが挙げられた12(番号は、10月24日のIASBの資料に基づく)。



1) IFRS第17号の範囲:保険リスクを移転するローンや他の形態の信用供与

3) 契約境界線外の更新の獲得キャッシュフロー

7) 契約上のサービスマージン:一般モデルにおけるカバー単位

12) 保有再保険契約:基礎となる保険契約が不利な場合の当初認識

15) 資産グループと負債グループの分離表示

24) 経過措置:修正遡及アプローチ:さらなる修正



これらの6つのトピックのうち、5つのトピックはEFRAGが9月に掲げていたものである。ASAFは9月にEFRAGが提起した「年次コホート」については言及しなかったが、代わりに「保険リスクを移転するローンや他の形態の信用供与」について、採り上げた。



これに関しては、例えば、いくつかの管轄地域で、クレジットカードを発行すると、購入する商品が目的に合っているかどうかを確認する保険が付いてくるが、これが重大な保険リスクとみなされた場合、多くの管轄地域でクレジットカード債権が保険契約になってしまうという問題がある。



7|APRA(オーストラリア健全性規制機構)の反応

オーストラリアの保険監督当局であるAPRA(Australian Prudential Regulation Authority:オーストラリア健全性規制機構)は、11月16日に、保険会社に対して、「AASB第17号保険契約を保険会社の資本及び報告枠組に統合するためのロードマップ(ROADMAP FOR INTEGRATION OF AASB 17 INSURANCE CONTRACTS INTO THE CAPITAL AND REPORTING FRAMEWORKS FOR INSURERS)」13とのレターを送付した。



AASB第17号は、オーストラリアにおける保険契約に関する会計基準であり、IFRS第17号に基づいており、IFRS第17号と殆ど同じであるが、オーストラリア特有の規定も含まれている。オーストラリアの保険会社は現在、AASB 1023 損害保険契約及びAASB 1038 生命保険契約をそれぞれ損害及び生命保険契約の会計基準として使用しているが、AASB 第17号は、これらの2つの基準を置き換えることになる。



一方で、APRAは、生命保険及び損害保険会社の資本枠組みを持ち、一般的に生命保険及び損害保険資本、又はLAGICフレームワークと呼ばれている。



AASB第17号は2021年1月1日から施行される予定で、これまで、APRAはAASB 第17号を資本及び報告枠組みと整合させることを検討していたが、この計画が、IFRS第17号の延期による影響を受ける可能性がある。APRAは、IFRS第17号の延期に関する最終的なポジションが分かれば、これを再検討することができると述べた。



APRAはまた、民間健康保険会社の資本ルールも見直しており、AASB第 17号の統合に合わせたレビューのプロセスを概説して、その業界に対して別のレターを書いている。

「AASB 第17号の実施とLAGICフレームワークの更新と改良及び民間健康保険資本基準の見直しの間には、重要な相互作用があり、それを考慮に入れる必要がある。」とAPRAは述べた。



APRAは、2018年後半から2019年の初めにかけて、保険会社やその他のステークホルダーにワークショップやその他の非公式協議の機会を提供する予定である。APRAは、AASB第17号の適用時期とアプローチについて、保険会社からのフィードバックを歓迎している、と述べた。



8|IAAInternational Actuarial Association:国際アクチュアリー会)の反応

IAAは、今回のIASBによるIFRS第17号の発効日の延期に関して、11月15日に声明14を発表した。これによれば、吉村雅明IAA会長は、「保険業界を含むアクチュアリー及び全てのステークホルダーが、この延期期間を、基準の質の改善を検討し、それを強固な方法で実施するために、効果的に使用することが重要である。」と述べた。



「IAAは、保険契約に関する技術的に健全な国際会計基準の開発と適用を常に支持し続けている。私たちは、IASBがIFRS第17号の修正をもたらす可能性のあるいくつかの問題を検討すると理解している。IAAは、IASBの検討事項及びIFRS第17号移行リソースグループの作業の成功に貢献することを楽しみにしている。」

とし、さらに、以下のように述べた。



「IAAは、IFRS第17号の実施のための支援の一環として、メンバー協会が考慮するISAP(モデルアクチュアリー実務国際基準)を発行する予定であり、公共の利益に資するために、アクチュアリー(及び他の専門家)の教育ノートを発行することを計画している15。」

 



2018年11月15日
IAA会長は、IFRS17号の保険契約の延期に関する声明を発出



11月14日、国際会計基準審議会(IASB)は、IFRS第17号保険契約の適用を1年延期するよう勧告した。



IAA理事長の吉村雅明氏は、次のように述べている。「保険業界を含むアクチュアリー及び全てのステークホルダーが、この延期期間を、基準の質の改善を検討し、それを強固な方法で実施するために、効果的に使用することが重要である。」



「IAAは、保険契約に関する技術的に健全な国際会計基準の開発と適用を常に支持し続けている。私たちは、IASBがIFRS第17号の修正をもたらす可能性のあるいくつかの問題を検討すると理解している。IAAは、IASBの検討事項及びIFRS第17号移行リソースグループの作業の成功に貢献することを楽しみにしている。」



IAAは、IFRS第17号の実施のための支援の一環として、メンバー協会が考慮するISAP(モデルアクチュアリー実務国際基準)を発行する予定であり、公共の利益に資するために、アクチュアリー(及び他の専門家)の教育ノートを発行することを計画している。このトピックに関するIAAの作業の詳細については、事務局までお問い合わせください。

 




14https://www.actuaries.org/IAA/Documents/Publications/News_Releases/2018/News_Release_IFRS17_Deferral_EN.pdf
15 IAAは、IFRS第17号に関して、例えば2018年5月29日に、教育モノグラフ「IFRS第17号の下での保険契約の理数調整」を発行している。 https://www.actuaries.org/IAA/Documents/Publications/News_Releases/2018/News_Release_Risk_Adjustment_Monograph_EN.pdf
 





4―12月13日のIASB会議の内容

1|1213日のIASB会議

IASBは、12月13日の審議会において、IFRS第17号「保険契約」及び2018年10月に潜在的な修正案の候補として特定された基準に関する25項目の懸念及び実施上の課題のうちの以下の13項目について、検討を行った。



 4) 測定(契約上のサービスマージン(CSM)を調整するためのロックイン割引率の使用)

 5) 測定(主観性:割引率とリスク調整)

 6) 測定(エンティティグループのリスク調整)

 8) 測定(契約上のサービスマージン:リスク軽減例外の適用の限定)

 9) 測定(保険料配分アプローチ:受取保険料)

10) 測定(企業結合:契約の分類)

11) 測定(企業結合:決済期間中に取得した契約)

14) 測定(保有再保険契約:未発行の基礎となる保険契約から発生する期待キャッシュフロー)

15) 財政状態計算書における表示(資産グループと負債グループの分離表示)

16) 財政状態計算書における表示(未収保険料)

17) 財務業績計算書の表示(保険金融収益又は費用のその他の包括利益(OCI)オプション)

18) 定義(直接連動有配当保険契約)

19) 期中財務諸表(会計上の見積りの取扱)



審議会は、10月に合意された修正案を評価するための基準を適用して、審議会の決定・修正案の可否を検討するか否かを議論した。



その結果、「1)表示(資産グループと負債グループの財政状態計算書における分離表示)」について、IFRS第17号の要求事項を修正することを暫定的に決定した。



問題の変更は、保険契約を表示する際の集約レベルに関連している。財政状態計算書における資産及び負債において、グループレベル(すなわち、収益性、発行時期、リスクタイプ)で契約を表示する代わりに、保険会社はそれらをポートフォリオレベルで表示することができる。



IFRS第17号は、既存の多くの保険会計実務に適用されるより高いレベルの集約ではなく、グループレベルでの契約の認識、表示、開示及び測定を要求している。これにより、新たなシステムや既存システムの大幅な変更に関連した多額の追加費用が発生する、と考えられていた。資産又は負債の表示の集約レベルが高いほど、多くの保険会社の基準の導入コストが削減するのに役立つことになる。



また、「8)測定(リスク軽減例外の適用範囲の限定)」のうちの移行要件については、特にOCIに関連しての移行要件のより一般的な議論に繰り延べられて、投票が行われなかった。



その他の項目については、修正のための合意された基準を満たしていないとして、修正しないことを暫定的に決定した。



2018年10月のIASB会議において提示された懸念及び実施上のうちの残りのトピックについては、今後の審議会で検討される。



審議会が全ての個別のトピックを検討した後、審議会は、修正を行うことの便益が費用を上回るかどうかを結論付ける前に、修正のパッケージを全体として検討することを計画している。



さらに、変更が確認される前に、提案された修正に関する公開協議が続くことになる。2|IASBのHans Hoogervorst議長によるAICPA(米国公認会計士協会)の規制進展に関する年次総会におけるスピーチ

IASBのHans Hoogervorst議長は、12月11日に開催されたAICPA(米国公認会計士協会)による規制進展に関する年次総会における「私たちは次の危機に準備ができているのか?(Are we ready for the next crisis?)」とのタイトルのスピーチ16において、IFRS第17号に関して、以下のように述べて、IFRS第17号がいかに金融安定性に貢献するのかを説明した。



これによれば、IFRS第17号の適用により、1)保険負債の適切な測定、2)透明性のあるオプションと保証のコスト、3)リスクマージンの最新化された情報、4)不利な契約の即時認識、5)前払い収益計上の終結、6)利益調整の減少、が図られることから、金融安定性に貢献すると述べた。

 



2018年12月11日
IFRS第17号の金融安定性への貢献



今、私は保険に向かおう。保険負債の長期的な性質を考えると、保険業界は銀行より急激な流動性危機にさらされにくい。それにもかかわらず、膨大な金融資産を保有しているため、保険会社はシステミックリスクの影響を受ける。さらに、保険会社のビジネスモデルは、現在の低金利環境によって圧力を受けている。



国際通貨基金(IMF)は、2017年の金融安定性報告書において、利回りの追求において、保険会社はより多くの信用リスクと流動性リスクを抱えていると警告した。保険会社が保有する低格付債券のシェアは大幅に上昇したと指摘した。IMFはまた、業界が不透明で異質な金融情報開示と会計及び規制制度の不備に苦しんでいることを指摘した。



これがもちろん、IASBが保険契約の新基準であるIFRS第17号を公表した理由である。



私は、IFRS第17号が保険業界の金融安定性に非常に重要な貢献をもたらすと確信している。



第1に、オプション及び保証の費用を含む保険負債は、適切に測定され、定期的に更新され、より良い情報を提供する。持続不可能な株式ポジションの構築は、より早く見えるようになる。FASBは、過去の費用測定を現在の測定に置き換え、保険基準に同様の変更を加えた。



第2に、IFRS第17号は前払いの収益計上を終結させる。収入は、サービスが提供されている場合にのみ認識される。明らかに、これは、年金のような長期契約の利益を先取りできる、世界のいくつかの地域での現在の慣行よりも保守的である。



さらに、IFRS第17号は、異なる世代の契約間の束縛のない平均化を終わらせることにより、収益性の傾向に関するより良い情報をもたらす。現在の会計基準は、保険会社が異なる世代の契約の収益性を一緒くたにするために多くのフリーウェイを与えている。収益性の高い契約を収益性の低いより新しい契約と一緒くたにすることで、損益計算書を滑らかにすることができる。古い契約は、満了後も現在の収益に貢献することさえある。



明らかに、この慣行は、投資家が収益動向を識別することを非常に困難にする。また、保険会社の業績が悪化しても、慎重な配当配分の余地を生み出す。IFRS第17号では、保険契約の異なる期間を明確に区別することを保険会社に要求する。利益が減少し始めると、それははるか早く表示される。

 





5―12月前後の各種団体等からの反応等

1|CFO Forumの反応

欧州保険会社のCFO(最高財務責任者)の集まりであるCFO Forumは、12月5日に、IASB議長のHans Hoogervorst氏宛に、IFRS 第17号への修正に関する意見を述べるレター 17を送った。



このレターの中で、CFO Forumは、「IFRS第17号の潜在的な修正を検討し、IFRS第9号とIFRS第17号との間の発効日の整合性を維持するという審議会の最近の決定に感謝する。」と述べたが、一方で「私たちが一貫して述べてきているように、私たちは EFRAGテストにおいてCFO Forumのメンバーによって特定された未解決の問題を評価することが非常に重要であると信じている。」と述べて、さらに「これらの問題は、新基準が業績を公正に反映し、その結果が投資家や他の利用者に分かりやすいものになるようにするために、IFRS第17号の修正を通じて解決される必要がある。」とした。



加えて、「CFO Forumは、特定された全ての問題に対して可能な解決策を提供し、業界は改善されたIFRS第17号を完成させる勢いを維持することを約束し続けている。」と延べ、(前回のレポートで報告した)10月にCFO Forumが提示した解決策の検討を進めることを促した。



そして、「12月の会議で発表されたスタッフの報告書に基づくと、EFRAGテストからの強力な証拠及びCFO Forumによって提案された解決策が真剣に検討されておらず、問題が時期尚早に却下される可能性があることを私たちは非常に心配している。」として、12月のIASB会議での決定等に対して、不満及び大きな懸念を表明した。

 



2018年12月5日
Re: IFRS 17号への修正



この機会を利用して、あなたと他のIASB理事が最近、CFO Forum及び保険ヨーロッパのメンバー会社の多くのCFOとの間で行った電話に感謝する。この電話会議では、IFRS第17号に関するIASBの最近の決定及び進行中の作業が議論された。



私たちは、IFRS第17号の潜在的な修正を検討し、IFRS第9号とIFRS第17号との間の発効日の整合性を維持するという審議会の最近の決定に感謝する。私たちが一貫して述べてきているように、私たちは EFRAGテストにおいてCFO Forumのメンバーによって特定された未解決の問題を評価することが非常に重要であると信じている。進行中の実施プロジェクトと共に、かなりの数の主要な保険会社によるこのテストは、重大な問題、それらの影響及び関連するコストと複雑さについての実質的な新しい証拠を提供した。これらの問題は、新基準が業績を公正に反映し、その結果が投資家や他の利用者に分かりやすいものになるようにするために、IFRS第17号の修正を通じて解決される必要がある。



CFOフォーラムは、特定された全ての問題に対して可能な解決策を提供し、業界は改善されたIFRS第17号を完成させる勢いを維持することをコミットし続けている。そして、私たちが先に述べた電話で示したように、私たちはIASBがCFO ForumのメンバーがEFRAGに提出した広範囲のテスト証拠に留意することが重要であると考えている。



私たちは、IASBに、私たちの関係メンバーが問題、詳細な証拠及び提案された解決策を提示することを提供した。EFRAGのテストに参加した個々のメンバー会社は、問題、テストの結果としての新たな証拠及び提案されたCFO Forumの解決策を説明するために、IASB(のスタッフ)に手を差し伸べ続ける。私たちは、Forum全体が特定された問題を解決するための提案が証拠によって理解され支持されることを確実にするために必要な支援を何でも提供する用意があると繰り返し述べている。



12月の会議で発表されたスタッフの報告書に基づくと、EFRAGテストからの強力な証拠及びCFO Forumによって提案された解決策が真剣に検討されておらず、問題が時期尚早に却下される可能性があることを私たちは非常に心配している。私たちは、あなたがForumによって提示された問題にどのように対処し、私たちの個々のメンバーからの相当量のEFRAGテスト結果を評価し、IFRS第17号への必要な修正を加える上で業界と連携するかを理解することができれば、喜ばしく思う。

2|EFRAGの反応

EFRAGは、12月18日に開催された理事会で、IASBにおける最近の議論の進展に基づいて、EFRAGがIFRS第17号への変更案の将来の公開草案(ED)の可能性に備えて積極的に準備すべきであるかどうか、もしそうであればどのように検討すべきかについて検討した。3|アナリストの反応(KPMGによる調査結果報告書)

KPMGは、12月に、保険会計に関するアナリストの現在の見解と、IFRS第17号の下で状況がどのように変わるかについての彼らの期待を調査した結果である報告書「Can you see clearly now? Feedback from analysts on the insurance reporting landscape:今やはっきりと見ることができるのか? 保険広告展望に関するアナリストからのフィードバック」18を公表した。





(1)調査の内容

この報告書は、IFRS第17号の導入にあたって、保険会社の事務システム上等の実施上の課題とは別に、アナリストや投資家のコミュニティに、彼らが準備ができ、彼らが見るものを理解できるように、予想される影響を伝えることが、もう1つの重要な側面であるとして、これにより光を投げかけるために、IFRS第17号の下で状況がどのように変化するかについての彼らの期待を理解するために、現在の保険会計についての彼らの見解を評価すべく、代表的な20名のアナリストのサンプルの中で調査を行っている。



(2)調査結果のポイント

この調査結果によれば、アナリストは現在のIFRSに不満を抱いており、IFRS第17号の下でいくつかの重要で期待できるベネフィットを見ているが、しかし彼らはまた多くの不確実性と潜在的な懸念を有している、ことがわかった。



具体的には、以下の点が挙げられている。



・IFRS第17号は、アナリストが保険会社をどのように評価するかに影響を与えるが、今と同様に、将来的にはIFRSにのみ焦点を当てることはないだろう。



・アナリストは、IFRS第17号が、保険会社に対する投資をより魅力的にし、資本コストを削減するかどうか、のような重要な質問に関して、意見が分かれている。



・IFRS第17号の下での比較可能性の大幅な改善にもかかわらず、アナリストは依然として代替的な業績指標の場所を探している。多くは、ソルベンシーIIとエンベデッド・バリュー(EV)報告がIFRS財務諸表と同じくらい重要であると想定している。



・アナリストはまだIFRS第17号に精通していない。彼らはIFRS第17号の影響とその準備のために何をしているのかについて、会社からより多くのことを聞きたいと思っている。



・新しい基準が円滑に開始され、よりまとまりのある、より情報に富んだ市場を創造するためには、より多くのコミュニケーション、議論、そして意識の向上が必要とされる。



(3)調査結果の具体的内容からの抜粋

IFRS第17号の実施に伴う影響に関連する、より具体的な内容の抜粋は、例えば以下の通りである。



・IFRS第17号により、アナリストの70%は、保険会社間の財務実績の比較可能性が改善されると予想し、3分の2近くが財務実績の透明性の向上を予想している。さらに、半数以上が保険グループ内の報告の整合性の向上を期待している。



・しかし、IFRS第17号が投資家による保険業界への理解の向上につながると期待しているのは、(30%で)3分の1に満たない。



・アナリストは、IFRS第17号を含むいかなる原則ベースの会計基準も保険会社間の良好な比較可能性を提供できることにやや悲観的なままである。半数以上(55%)が、原則ベースの基準による比較可能性が達成可能な範囲について懸念を抱いており、さらに1/4はまだ不明確である、と述べている。



・アナリストが保険会社の業績をよりよく理解するのに役立つと思う追加の開示範囲については、保険会社間の標準化された基礎に関する主要な前提の感応度分析(90%)、トップラインとボトムラインと配当余力の間のより明確なリンケージ(85%)、異なるコホート又はヴィンテージからの結果への貢献に関するより明確な情報(70%)、が挙げられている。



・アナリストの3/4は、新基準によって、保険会社を評価するために使用されるアプローチを、直接又は更新が必要なモデルへのインプットを通じて変更すると考えている。



・IFRS第17号は、75%のアナリストが保険会社間の比較可能性を向上させるとしているが、60%のアナリストがIFRSに基づく保険会社と米国GAAPに基づく保険会社間の比較可能性を低下させると考えている。



・規制上の報告(ソルベンシーII等)と財務報告との間に有益でない相違がある可能性があるという大きな懸念がある。



・アナリストの大多数は、IFRS第17号、ソルベンシー報告及びエンベデッドバリュー(EV)などの代替的な業績指標が引き続き同様に重要であり、明確な勝者はないと考えている。



・一方で、(別の保険会社に対する調査によれば) 回答者の64%が、IFRS第17号及び第9号の数値を代替的な業績指標で補完し続けることを考えているが、これらの保険会社の大多数が、EVなどの代替的な業績指標を継続して使用するのではなく、IFRS第17号とソルベンシーIIなどの規制指標の両方を反映するように一連の指標を再設計すると考えている。



・アナリストの10%だけが自分たちが基準に精通していると考えているが、90%のアナリストは知識が限られていると認めている。



・多くのアナリストは、新基準を明確にするために会計専門職の出版物に依存している。しかし、10名中7名のアナリストは、保険会社がもっと投資家やアナリストのための十分な教育や訓練を提供すべきだと考えている。



なお、この報告書の中で述べられているIFRS第17号の原則ベースの性格に関するアナリストの批判は、先に述べたEIOPAのGabriel Bernardino会長が提起した懸念を反映している。



(4)報告書作成者からのコメント

以上のような調査結果に関連して、例えばこの調査報告書の作成者の1人であるKPMGのアクチュアリーのグローバルリーダーであるFerdia Byrne氏は、報告書の中で、以下のように述べている。



「良いニュースは、IFRS第17号が利用者とのコミュニケーションを著しく手助けする追加の開示、特に、より優れた感応度分析や異なる契約のヴィンテージからの貢献に関するより詳細な情報、を提供することである。しかし、また克服すべき課題もある。アナリストは、標準化されたエンベデッドバリュー(EV)の感応度が開発されたのと殆ど同じ方法で、標準化された開示の開発を必要とするかもしれない整合的な基礎に基づいて提示される情報に飢えている。保険会社は、トップラインとボトムラインを如何にリンクさせるのかを学び、IFRS第17号の下での結果の主要なドライバーを説明しなければならないが、これは彼らが広範な様々なシナリオの下でどのように反応するのかを見るために、新しい基礎での結果の複数の繰り返しを要求することになる。そして、私たちは目一杯のリアリズムを維持する必要があり、たとえこれらの変更の後でも、世界は完全ではなく、ローカルの多様性は依然として残るだろう。例えば、配当余力は一般的にローカルの資本と規制要件によって左右され続けることになる。」以上、今回のレポートでは、IFRS第17号公表後の各国・各地域におけるIFRS第17号の採択の検討を巡るこの1年半の動きの中から、EFRAGにおける検討状況、欧州監督当局等の反応、保険業界団体等からの実施時期の延期を求める動き等を受けての、10月24日のIASBにおけるIFRS第17号に関する議論再開以降の動き、具体的には、IASBにおける会議の概要やそれを受けての関係団体の反応及びKPMGが策定したIFRS第17号の導入に伴う影響に関するアナリストに対する調査結果の報告書の内容等について報告してきた。



前回のレポートで述べたように、保険業界はグローバルに一致団結して、IFRS第17号の最低2年の実施延期や基準の問題点の修正等を求めてきている。一部の保険会社は、基準通りの2022年1月 1日からの適用に間に合わせる形での準備を進めてきて、実際に対応可能との姿勢も示している。ただし、中小の保険会社を中心に、多くの保険会社にとって、今回のIFRS第17号の実施が極めて大きな変更を保険会社に求めるものであることから、十分な準備ができておらず、今回の実施延期要請につながっている。さらには、IFRS第17号の導入の検討を進めていく中で、IFRS第17号の策定過程においても問題になっていた事項も含めて、改めて実際に発行された基準を適用することを検討するプロセス等を通じて、基準の問題点が浮き彫りになってきていることから、これらの修正を求める動きになってきている。1|実施時期の延期問題

実施時期の延期問題については、前回のレポートで報告したように、カナダ生命保険健康保険協会(CLHIA)が延期を求める理由として挙げている6つの項目で代表される内容、即ち、保険契約の長期性からくる各種の課題(過去からの比較データの構築のためのデータ整備やレガシーシステムへの対応)や既契約への遡及適用に伴う課題といったIFRS第17号実施のための保険会社内部での事務・システム上の課題が大きな問題となっている。



さらには、これらに加えて、新たな基準の適用に伴う各国の会計基準体系への反映や保険会社の税制への影響等の各国の法令・規制等に絡む課題への対応も必要になっている。



より本質的には、新たな会計基準の下での、保険会社自身の経営管理体制のあり方等について考え方の整理等の対応も求められてくることになり、これらを踏まえて、投資家やアナリストや保険契約者等のステークホルダーにどう説明していくのかということが重要になってきている。



ただし、今回のIASBの強制発効日の1年延期の決定は、延期が長くなると、進行中の導入プロセスに伴うコストが増加するのに対して、対応するベネフィットがないとの意見や一部のステークホルダーが1年間の延期が有用であると判断していることとの理由から、実施プロセスにおいて最も進んだ会社への混乱を最小限に抑制することを考慮してのものとなっている。ある意味では、2年の延期を強く望むステークホルダーと、現行規定通りの発効日を望むステークホルダーの間の妥協案、折衷案との見方もできるものとなっている。なお、1年を超える延期に否定的な理由としては、既に他の金融機関等で適用されているIFRS第9号の適用を(現行でも3年遅れになっているものを)さらに遅らせることに対する反対意見の存在もあった。



これに対しては、保険業界からは、引き続き2年の延期を強く求める声明が出されている。今回のIFRS第17号の実施は、保険会社にとって、極めて重要な意味のある、従って大変な労力とコストの負担を要求されるものとなっている。そうした中で、中小の保険会社を中心に、いまだ十分な準備ができておらず、各種の人的・物的リソースの制約等もあり、プロジェクトのスタートすらできていない会社もあるようである。また、今回のレポートで紹介したKPMGの報告書が明らかにしているように、アナリストや投資家等の利用者にとっても、新しいIFRS第17号に伴う財務諸表の内容や分析等を理解する上で大きな課題を抱える形になっている。



一部の保険会社は既に準備が進んでいるとはいっても、追加の時間があれば、単に基準の適用という最小のコンプライアンスで求められているものを超えて、今回のIFRS第17号の導入が真に会社の付加価値を高めることができるように対応していくことが可能になる。追加の時間は、現行のスケジュールのままではあまりにも切迫しているプロジェクトに一定の余裕を与えることにもなり、各種のリスクの軽減にも役立つものと思われる。それが、結局は、IFRSが追求している金融の安定性の確保という目標にも貢献するものと思われる。



なお、実施が最も進んでいる会社への混乱を最小限に抑えるという目的であれば、こうした会社に対しては既に早期適用が認められていることから、こうした会社に引きずられる形で、全ての会社に対する強制発効日まで前倒しする必要性は必ずしもないとも考えられる。



さらに、KPMGの報告書の中で、アナリストからは、保険会社からのIFRS第17号に関する情報や教育機会等の提供の不十分さに対する批判も多くでている、と報告された。ただし、この実態は、現段階では保険会社も自らの対応に精一杯で、とてもそこまで手が回っていないというのが実情であろう。その意味では、こうしたアナリストや投資家のコミュニティとのコミュニケーションを十分に図っていくためにも、一定の時間を確保していく必要があるものと思われる。



こうした点を考慮すれば、保険業界が要望する2年間の延期を認めることが妥当であるとも思われるがいかがなものであろうか。前回のレポートでも述べたように、新たな保険会計基準の設定を巡る議論は20年にもわたって行われてきたものである。その意味では、この段階での2年といった実施時期の延期が持つ意味合いがどの程度のものなのか、IASBが目指す「高品質の会計基準」の設定という観点等からすれば、拙速な対応は望ましくないものとも考えられるが、いかがなものであろうか。



なお、今回の強制発効日の1年延期に関しては、今後協議されていく基準の修正内容とも関連して、公開協議に図られる予定であることから、保険業界等からの意見等を踏まえて、今後の基準の修正協議の状況等によっては、さらなる延期が行われる可能性も考えられることになる。



せっかく長期間にわたる議論を重ねてきて、関係者の一定の合意が得られる形で策定された基準である。一部のステークホルダーの意見等ということではなく、その適用において最も大きな負荷がかかってくる多数の保険会社の要望を踏まえた上で、実施プロセスが成功裏に進められていくことが望まれる。2|基準への修正要望問題

EFRAGが「構成員が提起した問題」で提示した問題等については、現在IASB審議会で議論されており、10月の会議において25項目の懸念及び実施上の課題が提起され、12月の会議ではその一部の項目について審議が行われた。ただし、そのうち何らかの対応が図られるとの決定がなされた項目はわずか1つに留まっている。



これに対しては、CFO Forumが大きな課題意識を有して、IASBのHans Hoogervorst議長宛にレターを送付して、再考を促している。



前回のレポートで述べたように、IASBが、比較可能性の確保と透明性の高い財務報告の実現に向けて、本当に質の高い基準の作成を目指しているとするのならば、こうしたグローバルな保険業界団体等からの各種の基準修正に関する要請に対しては、実際に基準を適用して財務諸表を作成していく保険会社サイドからの切実な意見として、真摯に耳を傾けて、尊重していく姿勢が求められている。



CFO Forumは、自らが提示した課題に対する解決策も提案しており、これらの解決策の是非については、今一度十分に議論していくことが求められていると言えるだろう。3|IFRS 17号の導入による影響評価

前回のレポートではIFRS 第17号の導入による影響評価に関して、EFRAGが外部委託したコンサルタントによる報告書「IFRS 第17号 保険契約の影響分析のためのEFRAGへの支援」の内容を紹介した。



今回は、IFRS 第17号の導入に関して、アナリストの現在の見解と、IFRS第17号の下で状況がどのように変わるかについての彼らの期待を調査した結果であるKPMGによる報告書「Can you see clearly now? Feedback from analysts on the insurance reporting landscape:今やはっきりと見ることができるのか?」を紹介した。



EFRAGにおける報告書の中では、多くの生命保険会社が「FRS第17号に関連する会計規則の複雑さの増大は、意図された透明性をもたらさないとコメントし、逆に高度に専門性の高くない投資家に対しては、セクターをよりオープンでないものにする。」との意見を述べていると紹介されていたが、今回のKPMGの報告書は、別の側面から、こうした見方をサポートする事実を示しているともいえなくもない結果が示されている。



IFRS第17号の導入は、これを適用して財務諸表を作成する保険会社だけでなく、これを利用するアナリストや投資家及び保険契約者、さらには監督当局等にも大きな影響を与え、その見方・考え方に大きな変革を求めるものとなっていく可能性が高い。



その意味では、IFRS第17号の導入については、十分な準備期間と必要な議論を重ねていくことが、結局はその導入の目的の達成を着実に達成していくことにつながっていくものと想定される。4|日本の生命保険会社の対応等

日本の生命保険会社のうち(グループの親会社がIFRSを適用している場合を除いては)、現時点では、IFRS第17号の発効日と同時に、IFRS第17号の適用を計画している会社はみられないようである。その意味では、今回のIFRS第17号を巡る議論の動向によって、事務・システム対応等の面で現時点において直接的に大きな影響を受ける会社はないように思われる。



ただし、将来的にこのIFRS第17号がグローバルな保険契約の会計基準として定着し、一定の評価を得ていくのであれば、日本の生命保険会社も適用していかざるをえない状況になっていくことが考えられることになる。その意味で、現段階においても、各社とも各種の分析を行って、必要に応じて、所要の対応を進めているものと思われる。 



なお、日本においては、現時点では相互会社の適用は認められていないことから、まずは現在でも選択的に適用可能な株式会社が、相互会社等に先行する形で適用していくことが想定されることになる。その場合でも、特別な事情の変化等がなければ、まずは欧州等の保険会社が適用した後に、その評価等も踏まえながら、一定程度の期間を経た後に、適用していくことになるものと想定される。



いずれにしても、日本の生命保険会社も、現在のIFRS第17号を巡る動きについては、極めて注意深く監視し、必要に応じた意見発信等を行ってきている。



以上、前回と今回の2回のレポートで、IFRS第17号公表後の各国・各地域におけるIFRS第17号の採択の検討を巡るこの1年半の動きの中から、EFRAGにおける検討状況、関係団体による実施時期の延期を求める動き及びこれに対するIASBにおける議論再開後の動きや関係団体等の反応を中心に、ここ数か月における状況を報告してきた。



IASBは2019年に入ってから、IFRS第17号の懸念及び実施上の課題の残りの項目について、議論し、それらを踏まえた上で公開協議等を行っていくことを予定している。これまでのIASBの決定内容については、今回のレポートで報告したように、保険業界が十分には納得していない模様である。従って、いずれにしてもIFRS第17号がここ数年で導入されていくことになるとしても、その強制発効日や基準の内容等を巡る問題についてはまだまだ紆余曲折があることも考えられ、引き続き不透明要因を抱えている状況にあるものと思われる。



そうした状況の中で、今後のIFRS第17号を巡る動きがどのようになっていくのかという点については、多くの関係者が深い関心を有して、見守っていることから、今後とも引き続き注視していくこととしたい。





【関連レポート】

IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について(1)-各国の実施延期を求める動き及びIFRS導入の影響分析等-

IASBによる新たな保険契約会計基準(IFRS第17号)への反応と今後の課題-生命保険会社はどのような影響を受け、どう対応していくことになるのか-

欧州大手保険グループの2018年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

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