会社法改正における株式交付制度とは~経緯・目的・概要
会社法改正における株式交付制度とは~経緯・目的・概要:
また、対象会社の株主等(売主)にとっても、買収後に買収会社(買主)の株式を保有することを通じて、買収後の買収会社(買主)及び対象会社の成長や業績向上からもたらされる利益を享受することができる。そのため、欧米においては、自社株対価(又は金銭対価との併用)による企業買収は広く活用されている。
日本において自社株対価による企業買収を行うためには、現行の会社法上、①株式交換による方法、又は、②現物出資による方法(買収会社(A社)が、対象会社(T社)の株主からT社株式の現物出資を受け、T社の株主に対して募集株式の発行又は自己株式の処分(会社法199条以下)によりA社株式を割り当てる方法)を採ることが考えられる。
しかし、まず上記のうち①株式交換は、「株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させる」(会社法2条31号)組織再編行為であるため、対象会社を完全子会社とすることまでを企図していない場合(部分買収に留まる場合)や、外国会社を買収する場合には、この方法を用いることはできない。
また、上記②の現物出資による方法を用いる場合、現物出資規制として、(a-1)原則として裁判所の選任する検査役の調査が必要となり、その手続に一定の時間及び費用を要すること(会社法207条)、(a-2)募集株式の引受人である対象会社(T社)の株主及び発行会社である買収会社(A社)の取締役等が財産価額塡補責任を負う可能性があること(会社法212条、213条)、有利発行規制として、(b)買収会社(A社)が公開会社(会社法2条5号)である場合においても株主総会の特別決議が必要となる可能性があること(会社法199条2項、3項、201条1項、309条2項5号)などが障害となるため、当該方法を用いることができないケースは多い。
以上の現状を踏まえて、現在開催されている法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、日本企業の自社株対価による企業買収を促進するために、上記の制約や障害のない制度として株式交付制度を会社法上導入することが検討されている。
他方、株式交付子会社(対象会社)の範囲はやや拡張されており、「株式会社」のほか同種の外国会社もなることができる。但し、株式交付の実施の可否を持株比率という客観的かつ形式的な基準により判断できるよう、持分会社については株式交付子会社(対象会社)にもなることはできず、外国におけるLLC(有限責任会社)やLLP(有限責任事業組合)も株式交付子会社(対象会社)となることは想定されていない。
ここでいう「子会社」は、株式交付の実施の可否を客観的かつ形式的な基準により判断できるよう、株式交付親会社(買収会社)が50%を超える議決権を保有する会社(会社法施行規則3条3項1号に掲げる場合に該当する子会社)に限られており、株式交付親会社(買収会社)が40%以上の議決権を保有し実質的に支配する会社等(同項2号、3号)は含まれない。
また、株式交付の対価には、株式交付親会社(買収会社)の株式が含まれている必要があり、当該株式を全く交付しないことは想定されていない。但し、一部対価として株式交付親会社(買収会社)の株式以外の財産(金銭、社債、新株予約権等)を交付することは可能であり、また、株式交付子会社(対象会社)が種類株式発行会社である場合には、一部の種類株式について無対価又は株式交付親会社(買収会社)の株式以外の財産を対価とすることができる。
また、株式交付親会社の株主等(効力発生日時点の株主等を含む。)、株式交付子会社の株式を譲り渡した者、破産管財人、株式交付を承認しなかった債権者は、効力発生日から6か月以内に、株式交付無効の訴えを提起することができる。
なお、株式交付は、上記の通り、株式交換と同様の規律を適用することにより株式交付親会社の株主及び債権者の保護を図ることが想定されているため、現物出資規制や有利発行規制は適用されないことが前提とされている。
なお、譲受けの対象となる株式交付子会社の株式が譲渡制限株式である場合には、譲渡制限に関する規律が適用されるため、これにより株式交付子会社の株主の保護が図られることになる。
まず、株式交付は、組織法上の行為と同様の性質を有すると整理されているものの、実質的には株式交付親会社と株式交付子会社の株主との間の個別の合意に基づく株式譲渡といえるため、金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の公開買付規制(金商法27条の2以下)の適用除外と解されている組織再編行為とは異なり、株式交付子会社が上場会社等の有価証券報告書提出会社である場合には、当該株式交付による株式交付子会社の株式の取得は公開買付規制の対象となる。
公開買付規制の適用がある場合には、株式交付親会社は、株式交付子会社の全ての株主に対して勧誘を行い、譲り受ける株式数(上記(2)③)を制限する際には、あん分比例の方式により当該株式数を決定する必要があるほか(金商法27条の13第5項)、株式交付後の株式交付子会社株式に係る株式交付親会社の株券等所有割合が3分の2以上になる場合には全部買付義務や全部勧誘義務が生じることになる(金商法27条の2第5項、金商法施行令8条5項3号、金商法27条の13第4項)。
また、株式交付親会社の株式の交付が「有価証券の募集又は売出し」(金商法5条1項)に該当する場合には、有価証券届出書や目論見書の提出が要求されるなど、発行開示規制の対象となる。
但し、株式交付計画に定められた効力発生日において株式交付親会社が譲り受けた株式交付子会社株式の総数が、株式交付計画に定めた下限に満たない場合には、株式交付の効力は生じない。
具体的には、①認定事業者(事業再編計画又は特別事業再編計画の認定を受けた事業者)である株式会社が譲渡により他の株式会社(これと同種の外国会社を含む。)の株式を取得する場合であって、当該取得の対価として募集株式の発行又は自己株式の処分をするとき、又は、②認定事業者である株式会社がその子会社に対して募集株式の発行又は自己株式の処分をするとともに、当該子会社が譲渡により他の株式会社の株式を取得する場合であって、当該取得の対価として当該認定事業者である株式会社の株式を交付するときには、現物出資規制や有利発行規制は適用されない(産強法29条1項、32条1項、2項)。
なお、当該特例は、当該取得により、他の株式会社が関係事業者(認定事業者である株式会社によりその経営を実質的に支配されている事業者)又は外国関係法人(認定事業者である株式会社によりその経営を実質的に支配されている外国法人)となる場合のみならず、他の株式会社が既に関係事業者又は外国関係法人である場合にも適用がある(産強法32条1項)。
また、従前の産強法上の会社法特例の制度が利用されてこなかったことを踏まえ、平成30年改正の租税特別措置法では、平成33年3月31日までに特別事業再編計画の認定を受けた事業者の当該計画に基づく特別事業再編により、対象会社の株主等が、対象会社の株式等を譲渡し、当該認定事業者の株式の交付を受けた場合、対象会社の株主等の譲渡益課税が繰り延べられることとされたため租税特別措置法37条の13の3、66条の2の2、68条の86)、対象会社の株主等にとって産強法上の会社法特例の制度は利用しやすいものとなった。
このように、日本企業の自社株対価による企業買収を促進するためには、会社法上の制約や障害を回避する制度を導入するだけではなく、対象会社の株主の譲渡益課税の繰延措置を合わせて講じることが必要であると考えられる。
株式交付制度は、産強法上の計画認定を必要としない会社法上の制度として導入することが想定されているが、株式交付制度が大いに利用されるよう、当該制度の導入と同時に、株式交付時における対象会社の株主の譲渡益課税の繰延措置が認められることが期待される。
現在開催されている法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、当該中間試案に対するパブリックコメントを受けて、株式交付の利用場面(株式交付子会社の範囲)の拡張や、株主及び債権者の保護手続の拡充等について引き続き議論が行われているが、本稿が日本企業の自社株対価による企業買収に対する理解・関心を高める一助となれば幸いである。
株式交付制度の導入の経緯・目的
自社株を買収対価として用いた場合、買収会社(買主)としては、金銭対価の場合と比較して資金調達負担が軽減することから、大規模な買収や新興企業等の手元資金に余裕のない企業等による買収などが促進されるというメリットが存在する。また、対象会社の株主等(売主)にとっても、買収後に買収会社(買主)の株式を保有することを通じて、買収後の買収会社(買主)及び対象会社の成長や業績向上からもたらされる利益を享受することができる。そのため、欧米においては、自社株対価(又は金銭対価との併用)による企業買収は広く活用されている。
日本において自社株対価による企業買収を行うためには、現行の会社法上、①株式交換による方法、又は、②現物出資による方法(買収会社(A社)が、対象会社(T社)の株主からT社株式の現物出資を受け、T社の株主に対して募集株式の発行又は自己株式の処分(会社法199条以下)によりA社株式を割り当てる方法)を採ることが考えられる。
しかし、まず上記のうち①株式交換は、「株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させる」(会社法2条31号)組織再編行為であるため、対象会社を完全子会社とすることまでを企図していない場合(部分買収に留まる場合)や、外国会社を買収する場合には、この方法を用いることはできない。
また、上記②の現物出資による方法を用いる場合、現物出資規制として、(a-1)原則として裁判所の選任する検査役の調査が必要となり、その手続に一定の時間及び費用を要すること(会社法207条)、(a-2)募集株式の引受人である対象会社(T社)の株主及び発行会社である買収会社(A社)の取締役等が財産価額塡補責任を負う可能性があること(会社法212条、213条)、有利発行規制として、(b)買収会社(A社)が公開会社(会社法2条5号)である場合においても株主総会の特別決議が必要となる可能性があること(会社法199条2項、3項、201条1項、309条2項5号)などが障害となるため、当該方法を用いることができないケースは多い。
以上の現状を踏まえて、現在開催されている法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、日本企業の自社株対価による企業買収を促進するために、上記の制約や障害のない制度として株式交付制度を会社法上導入することが検討されている。
株式交付の概要
(1) 株式交付の意義
会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案において、株式交付は概要以下の通り説明されている。具体的には、株式交付親会社である買収会社(A社)が株式交付子会社である対象会社(T社)の株主からT社株式を譲り受け、当該T社株主に対してA社株式を交付することにより、T社をA社の子会社とする制度である。
(2) 株式交付の主体
株式交付は、「株式会社」が他の会社を子会社化することを前提とした制度とすることが想定されているため、外国会社や持分会社は株式交付親会社(買収会社)となることはできない。他方、株式交付子会社(対象会社)の範囲はやや拡張されており、「株式会社」のほか同種の外国会社もなることができる。但し、株式交付の実施の可否を持株比率という客観的かつ形式的な基準により判断できるよう、持分会社については株式交付子会社(対象会社)にもなることはできず、外国におけるLLC(有限責任会社)やLLP(有限責任事業組合)も株式交付子会社(対象会社)となることは想定されていない。
(3) 株式交付の利用場面
株式交付は、株式を対価として親子会社関係を円滑に創設するための制度とすることが想定されているため、株式交付により他の会社を「子会社」とする必要があり、既に「子会社」である他の会社の株式を追加で取得する場合には株式交付を用いることはできない。ここでいう「子会社」は、株式交付の実施の可否を客観的かつ形式的な基準により判断できるよう、株式交付親会社(買収会社)が50%を超える議決権を保有する会社(会社法施行規則3条3項1号に掲げる場合に該当する子会社)に限られており、株式交付親会社(買収会社)が40%以上の議決権を保有し実質的に支配する会社等(同項2号、3号)は含まれない。
また、株式交付の対価には、株式交付親会社(買収会社)の株式が含まれている必要があり、当該株式を全く交付しないことは想定されていない。但し、一部対価として株式交付親会社(買収会社)の株式以外の財産(金銭、社債、新株予約権等)を交付することは可能であり、また、株式交付子会社(対象会社)が種類株式発行会社である場合には、一部の種類株式について無対価又は株式交付親会社(買収会社)の株式以外の財産を対価とすることができる。
株式交付の手続
(1) 株式交付親会社における手続
株式交付により親子会社関係が創設されることから、株式交付はいわば部分的な株式交換として、組織法上の行為と同様の性質を有すると整理されている。そのため、株式交付親会社には、株式交付親会社の株主及び債権者の保護を図るために、以下の通り、株式交換と同様の規律を適用することが想定されている。① 株式交付計画の策定
株式交付親会社は、株式交付を行うに当たり、以下の事項を定めた株式交付計画を策定しなければならない。- 株式交付子会社となる会社の商号及び住所
- 譲り受ける株式交付子会社の株式数の下限
- 対価に関する事項
- 譲り渡しの申込みの期日
- 株式交付の効力発生日
② 事前開示・事後開示
株式交付親会社は、事前開示手続として、以下の事項等を記載した書面等を本店に備え置かなければならない。- 株式交付計画の内容
- 対価についての定めの相当性に関する事項
- 株式交付子会社についての一定の事項
- 株式交付親会社についての一定の事項
- 譲り受けた株式交付子会社の株式数
- 効力発生日
- 株式交付親会社における手続の経過
③ 株主総会の特別決議
株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、株式交付計画の承認を受けなければならない。但し、交付する対価が一定の水準を超えない場合には簡易手続を認め、当該承認を受けることを要しない。④ 反対株主の株式買取請求
株式交付親会社の株主のうち、当該株式交付計画に反対する株主は、株式交付親会社に対し、自己の保有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。⑤ 債権者異議手続
株式交付親会社の株式以外の対価を交付する場合、株式交付親会社の債権者は、株式交付親会社に対し、株式交付について異議を述べることができる。当該債権者が異議を述べた場合には、合併等の組織再編行為と同様の手続が取られることになると考えられる。⑥ 差止め、株式交付無効の訴え
株式交付が法令又は株式交付親会社の定款に違反する場合において、株式交付親会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株式交付親会社の株主は、株式交付親会社に対し、当該株式交付をやめるよう請求することができる。また、株式交付親会社の株主等(効力発生日時点の株主等を含む。)、株式交付子会社の株式を譲り渡した者、破産管財人、株式交付を承認しなかった債権者は、効力発生日から6か月以内に、株式交付無効の訴えを提起することができる。
なお、株式交付は、上記の通り、株式交換と同様の規律を適用することにより株式交付親会社の株主及び債権者の保護を図ることが想定されているため、現物出資規制や有利発行規制は適用されないことが前提とされている。
(2) 株式交付親会社と株式交付子会社の株主との間の手続
株式交付は、株式交換とは異なり、必ずしも株式交付子会社を完全子会社とするものではないことから、株式交付親会社は、株式交付子会社の株式を法律上当然に取得するのではなく、株式交付子会社の株主との間の個別の合意に基づき、以下の手続に従い、株式交付子会社の株式を取得することになる。- 株式交付親会社から株式交付子会社の株式の譲り渡しの申込みをしようとする者に対する株式交付親会社の商号及び株式交付計画の内容等の通知
- 株式交付子会社の株主から株式交付親会社に対する株式の譲り渡しの申込み
- 株式交付親会社による株式交付子会社の株式の譲渡人及び譲り受ける株式数の決定
- 株式交付親会社から申込者に対する譲り受ける株式の数の通知
- 上記④の通知を受けた申込者から株式交付親会社に対する株式の給付
(3) 株式交付子会社における手続
株式交付の場合、株式交付親会社と株式交付子会社との間に契約関係があることは必要とされておらず、実質的には株式交付親会社と株式交付子会社の株主との間の個別の合意に基づく株式譲渡といえるため、株式交付子会社における手続に関する規律は想定されていない。なお、譲受けの対象となる株式交付子会社の株式が譲渡制限株式である場合には、譲渡制限に関する規律が適用されるため、これにより株式交付子会社の株主の保護が図られることになる。
(4) その他の法令上の手続
株式交付については、会社法上の手続が必要となることに加えて、他の法令上の規制の適用対象となるケースがあることに留意を要する。まず、株式交付は、組織法上の行為と同様の性質を有すると整理されているものの、実質的には株式交付親会社と株式交付子会社の株主との間の個別の合意に基づく株式譲渡といえるため、金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の公開買付規制(金商法27条の2以下)の適用除外と解されている組織再編行為とは異なり、株式交付子会社が上場会社等の有価証券報告書提出会社である場合には、当該株式交付による株式交付子会社の株式の取得は公開買付規制の対象となる。
公開買付規制の適用がある場合には、株式交付親会社は、株式交付子会社の全ての株主に対して勧誘を行い、譲り受ける株式数(上記(2)③)を制限する際には、あん分比例の方式により当該株式数を決定する必要があるほか(金商法27条の13第5項)、株式交付後の株式交付子会社株式に係る株式交付親会社の株券等所有割合が3分の2以上になる場合には全部買付義務や全部勧誘義務が生じることになる(金商法27条の2第5項、金商法施行令8条5項3号、金商法27条の13第4項)。
また、株式交付親会社の株式の交付が「有価証券の募集又は売出し」(金商法5条1項)に該当する場合には、有価証券届出書や目論見書の提出が要求されるなど、発行開示規制の対象となる。
株式交付の効力
株式交付は、株式交付計画に定められた効力発生日にその効力を生じ、株式交付子会社の株式を譲渡した者は、効力発生日に株式交付親会社の株主となる。
但し、株式交付計画に定められた効力発生日において株式交付親会社が譲り受けた株式交付子会社株式の総数が、株式交付計画に定めた下限に満たない場合には、株式交付の効力は生じない。
産業競争力強化法上の類似制度
上記の通り、自社株対価による企業買収の際には会社法上の制約や障害が存在するが、産業競争力強化法(以下「産強法」という。)においては、既にこれらの制約や障害を回避するための会社法特例の制度が設けられている(なお、当該制度は、平成30年産強法改正により、適用対象の範囲を拡張するなどの整備がなされている。)。
具体的には、①認定事業者(事業再編計画又は特別事業再編計画の認定を受けた事業者)である株式会社が譲渡により他の株式会社(これと同種の外国会社を含む。)の株式を取得する場合であって、当該取得の対価として募集株式の発行又は自己株式の処分をするとき、又は、②認定事業者である株式会社がその子会社に対して募集株式の発行又は自己株式の処分をするとともに、当該子会社が譲渡により他の株式会社の株式を取得する場合であって、当該取得の対価として当該認定事業者である株式会社の株式を交付するときには、現物出資規制や有利発行規制は適用されない(産強法29条1項、32条1項、2項)。
なお、当該特例は、当該取得により、他の株式会社が関係事業者(認定事業者である株式会社によりその経営を実質的に支配されている事業者)又は外国関係法人(認定事業者である株式会社によりその経営を実質的に支配されている外国法人)となる場合のみならず、他の株式会社が既に関係事業者又は外国関係法人である場合にも適用がある(産強法32条1項)。
また、従前の産強法上の会社法特例の制度が利用されてこなかったことを踏まえ、平成30年改正の租税特別措置法では、平成33年3月31日までに特別事業再編計画の認定を受けた事業者の当該計画に基づく特別事業再編により、対象会社の株主等が、対象会社の株式等を譲渡し、当該認定事業者の株式の交付を受けた場合、対象会社の株主等の譲渡益課税が繰り延べられることとされたため租税特別措置法37条の13の3、66条の2の2、68条の86)、対象会社の株主等にとって産強法上の会社法特例の制度は利用しやすいものとなった。
このように、日本企業の自社株対価による企業買収を促進するためには、会社法上の制約や障害を回避する制度を導入するだけではなく、対象会社の株主の譲渡益課税の繰延措置を合わせて講じることが必要であると考えられる。
株式交付制度は、産強法上の計画認定を必要としない会社法上の制度として導入することが想定されているが、株式交付制度が大いに利用されるよう、当該制度の導入と同時に、株式交付時における対象会社の株主の譲渡益課税の繰延措置が認められることが期待される。
最後に
以上、会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案において想定されている株式交付制度の仕組みについて概説した。
現在開催されている法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、当該中間試案に対するパブリックコメントを受けて、株式交付の利用場面(株式交付子会社の範囲)の拡張や、株主及び債権者の保護手続の拡充等について引き続き議論が行われているが、本稿が日本企業の自社株対価による企業買収に対する理解・関心を高める一助となれば幸いである。
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