日銀短観(12月調査)~大企業製造業の足元の景況感は堅調、設備投資計画も強めだが、先行き懸念は強い

日銀短観(12月調査)~大企業製造業の足元の景況感は堅調、設備投資計画も強めだが、先行き懸念は強い: ■要旨

 



  1. 日銀短観12月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が前回9月調査から横ばいとなり、足元の堅調な景況感が示された。大企業非製造業の業況判断D.I.はやや上昇した。大企業製造業では海外経済減速や貿易摩擦によるマイナスの影響がみられたものの、自然災害の影響剥落、原油安による採算改善というプラス効果が補った。また、大企業非製造業では、インバウンドなどでの自然災害の影響剥落と好天の影響などから景況感が改善した。中小企業の業況判断D.I.も、大企業同様、製造業で横ばい、非製造業で小幅に改善した。


     
  2. 一方、先行きの景況感は幅広く悪化が示された。製造業では、主に海外経済の減速や貿易摩擦の激化に対する懸念が現れた。米中貿易摩擦の終結は見通せないうえ、来年からは日米通商交渉が開始され、米政権からの対日通商圧力が強まることが想定される。非製造業もインバウンドを通じて世界経済との繋がりが強まっているだけに海外情勢への警戒が現れやすくなっているほか、人手不足深刻化に対する懸念が現れたとみられる。


     
  3. 2018年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比10.4%増に上方修正された。12月調査としては2006年度以来の高い伸びとなる。例年12月調査では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正されるという統計のクセがあるが、今回の上方修正幅は例年の平均を上回っており、実勢としても強めの動きと言える。高水準の企業収益(投資余力)に加え、非製造業を中心とする人手不足に伴う省力化投資需要が追い風となったとみられる。ただし、今後も貿易摩擦が激化し、世界経済の減速感が強まる場合は、企業の間で設備投資の様子見や先送りの動きが広がる可能性が高いだけに、楽観視はできない。
■目次



1.全体評価:足元の景況感は堅調だが、先行き懸念は強い

2.業況判断D.I.:全体的に足元は小幅改善も、先行きはかなり悪化

  ・大企業

  ・中小企業

3.需給・価格判断:内外需給はやや悪化、仕入価格上昇圧力が弱まる

  ・需給判断:内外需給はやや悪化、先行きも悪化の見通し

  ・価格判断:販売価格引き上げの動きが一服

4.売上・利益計画: 2018年度収益計画は上方修正

5.設備投資・雇用:人手不足感強まる、設備投資計画は強め日銀短観12月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が前回9月調査から横ばいの19となり、4四半期ぶりに景況感悪化に歯止めがかかった。また、大企業非製造業の業況判断D.I.も24と前回比で2ポイント改善している。



前回9月調査では、7-9月に相次いだ自然災害や中国経済減速、一部原材料価格上昇や人手不足などの影響で、大企業製造業、非製造業ともに景況感が悪化していた。



その後の事業環境を点検すると、追い風としては、自然災害の悪影響剥落が挙げられる。9月にかけては自然災害の影響で生産や消費などの経済活動が落ち込んでいたが、10月以降は持ち直している。10月以降に好天が続いたことも一部サービス消費の追い風となった。一方で、海外発の逆風は強まった。中国や欧州などの海外経済減速を受けて輸出は減速基調となっているうえ、米中貿易摩擦激化が輸出環境悪化に拍車をかけている。中国の企業マインド悪化を通じた同国向け受注の減少など、日本企業でも設備投資関連を中心に悪影響が顕在化しつつある。長引く人手不足も引き続き非製造業を中心に景況感の重荷になっている。



このように強弱材料がともに存在するなか、大企業製造業では海外経済減速や貿易摩擦によるマイナスの影響がみられたものの、自然災害の影響剥落、原油安による一部での採算改善というプラス効果が補う形で景況感が横ばいとなった。また、大企業非製造業では、インバウンドなどでの自然災害の影響剥落と好天の影響に加え、旺盛なIT化関連需要などから景況感が改善した。



中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回から横ばいの14、非製造業が1ポイント上昇の11となった。大企業同様、製造業では横ばい、非製造業では景況感が小幅に改善している。



一方、先行きの景況感は幅広く悪化が示された。製造業では、主に海外経済の減速や貿易摩擦の激化に対する懸念が現れたとみられる。月初の米中首脳会談の結果、米国による対中国関税引き上げは一時猶予されたものの、両国の対立は根深く、米中貿易摩擦の終結は見通せない。さらに、来年からは日米通商交渉が開始され、米政権からの対日通商圧力が強まることが想定される。自動車の関税引き上げや輸出数量規制導入、為替条項導入などによる輸出環境悪化が警戒されていると考えられる。非製造業もインバウンドを通じて世界経済との繋がりが強まっているだけに海外情勢への警戒が現れやすくなっているほか、人手不足深刻化に対する懸念が現れたとみられる。



なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計17、当社予想は16)は市場予想を上回った一方で、先行き(QUICK集計16、当社予想は14)は予想をやや下回った。大企業非製造業は、足元(QUICK集計21、当社予想は20)は市場予想を上回ったが、先行き(QUICK集計20、当社予想は19)は予想と一致した。



2018年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比10.4%増に上方修正された。12月調査としては2006年度以来の高い伸びとなる。例年12月調査では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正されるという統計のクセがあるが、今回の上方修正幅(1.9%ポイント)は例年を上回っており(12月調査における上方修正幅は過去5年平均で1.1%ポイント)、実勢としても強めの動きと言える。高水準の企業収益(投資余力)に加え、人手不足に伴う省力化投資需要が追い風となったとみられる。実際、内訳では人手不足感が強い非製造業の上方修正幅が例年をかなり上回っている。



ただし、今後も貿易摩擦が激化し、世界経済の減速感が強まる場合は、企業の間で設備投資の様子見や先送りの動きが広がる可能性が高いだけに、楽観視はできない。



なお、今回の短観が日銀の金融政策に与える影響はほぼないだろう。足元の景況感は総じて堅調であったほか、設備投資計画が上方修正されるなど一部に前向きな動きもみられるためだ。また、日銀が7月末に副作用軽減を目的とした金融緩和の修正(長期金利の変動許容幅拡大、ETF買入れの弾力化など)を決定してからまだ間がないため、そもそもしばらくは様子見スタンスを維持すると見込まれるという事情もある。



ただし、同時に貿易摩擦の激化や世界経済減速などから企業の先行きへの懸念が強いことや、販売価格引き上げの勢いが鈍化しつつあることも示された。このため、景気・物価下振れ時の政策対応(追加緩和策とその余地)についての説明を求める声が強まる可能性がある。黒田総裁は、従来、追加緩和の選択肢として、「金利の引き下げ」、「国債買い入れによる資金供給量の拡大」、「資産買い入れの拡大」を挙げてきたが、詳細については説明してこなかった。その具体的な効果や副作用、両者のバランス、緩和余地等についてのより具体的な説明が求められそうだ。

 



2.業況判断D.I.

全規模全産業の業況判断D.I.は16(前回比1ポイント上昇)、先行きは10(現状比6ポイント低下)となった。規模別、製造・非製造業別の状況は以下のとおり。



(大企業)

大企業製造業の業況判断D.I.は19と前回調査から横ばいとなった。業種別では、全16業種中、上昇・低下ともに6業種となった(横ばいが4業種)。



生産用機械(8ポイント低下)、業務用機械(5ポイント低下)、はん用機械(1ポイント低下)など、中国の設備投資需要鈍化の影響を受ける設備投資関連の悪化が目立つほか、米中市場低迷という逆風を受ける自動車(2ポイント低下)も悪化した。一方、石油・石炭(12ポイント低下)をはじめ、窯業・土石(4ポイント上昇)、化学(2ポイント上昇)など素材業種の改善が目立った。原油など資源価格下落を受けて、仕入れと販売価格の差が一時的に広がり、採算が向上したとみられる。造船の大型受注があった造船・重機(7ポイント上昇)も上昇している。



先行きについては、低下が12業種と上昇の4業種を大きく上回り、全体では現状比4ポイントの低下となった。



引き続き、はん用機械(11ポイント低下)、生産用機械(6ポイント低下)、自動車(同)といった米中貿易摩擦の影響を受けやすい業種で大幅な悪化がみられる。自動車は来年から始まる日米通商交渉で米国側のメインターゲットとされていることも影響しているようだ。また、足元で改善を示していた石油・石炭(12ポイント低下)、化学(9ポイント低下)も大きく悪化。資源価格下落が製品価格に波及し、採算が悪化することが懸念されているとみられる。



大企業非製造業のD.I.は前回から2ポイント上昇の24となった。業種別では、全12業種中、上昇が9業種と低下の2業種を上回った(横ばいが1業種)。



需要の拡大が続く通信(7ポイント上昇)、情報サービス(4ポイント上昇)、運送費値上げが浸透する運輸・郵便(4ポイント上昇)、自然災害の影響剥落・10月以降の好転で客足が回復した対個人サービス(4ポイント改善)、宿泊・飲食サービス(2ポイント改善)など幅広く改善がみられる。



一方、先行きについては、低下が7業種と上昇の2業種を大きく上回り(横ばいが3業種)、全体では4ポイントの低下となった。



電気・ガス(10ポイント低下)のほか、人手不足が深刻な運輸・郵便(10ポイント低下)、対個人サービス(同)、市場の過熱感への警戒が出やすい建設(3ポイント低下)、不動産(6ポイント低下)、政治的な値下げ圧力を受ける通信(7ポイント低下)などで悪化がみられる。(中小企業)

中小企業製造業の業況判断D.I.は前回から横ばいの14となった。業種別では全16業種中、上昇が9業種と、低下の5業種を上回った(横ばいが2業種)。



大企業同様、石油・石炭(16ポイント上昇)が大きく改善したほか、木材・木製品(5ポイント上昇)、自動車(4ポイント上昇)などで景況感の改善が目立つ。一方で、大企業同様、業務用機械(8ポイント低下)、生産用機械(1ポイント低下)などで悪化がみられる。



先行きについては、低下が14業種と上昇の2業種を大きく上回り、全体では6ポイントの低下となった。はん用機械(23ポイント低下)、非鉄金属(19ポイント低下)、鉄鋼(13ポイント低下)、自動車(11ポイント低下)など、市況や海外経済の影響を受けやすい業種で大幅に悪化している。



中小企業非製造業のD.I.は11と前回比で1ポイント上昇した。業種別では全12業種中、上昇が10業種と低下の2業種を大きく上回った。



大企業同様、通信(6ポイント上昇)、情報サービス(4ポイント上昇)、対個人サービス(1ポイント改善)、宿泊・飲食サービス(3ポイント改善)をはじめ、幅広く改善がみられる。

一方、先行きについては低下が11業種と上昇の1業種(小売)を大きく上回り、全体では6ポイントの低下となった。対事業所サービス(10ポイント低下)のほか、政治的な値下げ圧力を受ける通信(9ポイント低下)、人手不足が深刻化している運輸・郵便(9ポイント低下)などで大幅な悪化が見込まれている。(需給判断:内外需給はやや悪化、先行きも悪化の見通し)

大企業製造業の国内製商品・サービス需給判断D.I.(需要超過-供給超過)は前回比2ポイント下落、非製造業は1ポイントの下落となった。また、製造業の海外需給も前回から1ポイント下落している。



先行きの需給についても総じて悪化が示されている。国内需給は製造業で1ポイント、非製造業で2ポイントの下落が見込まれている。また、製造業の海外需給は国内を上回る3ポイントの低下が見込まれており、貿易摩擦への警戒が現れている可能性が高い。



中小企業の国内需給については、製造業が2ポイント下落する一方で、非製造業が2ポイント上昇した。製造業の海外需給は2ポイント下落している。



先行きについては、国内需給は製造業で3ポイント、非製造業で2ポイント下落、製造業の海外需給も2ポイントの下落と、総じて悪化が示されている(図表4)。(価格判断:販売価格引き上げの動きが一服)

大企業製造業の販売価格判断D.I. (上昇-下落)は前回から1ポイント下落する一方、非製造業は1ポイント上昇した。製造業はこれまで長らくD.I.の上昇が続いてきたが、11四半期ぶりに低下することになった。仕入価格下落を販売価格に反映した影響が大きいが、そもそも賃金が伸び悩む中で、企業が値上げに踏み切りにくい環境が続いていることも影響していると考えられる。



仕入価格判断D.I.は製造業で3ポイント低下、非製造業では2ポイントの上昇となった。この結果、差し引きであるマージンは製造業で改善している(非製造業は悪化)。



販売価格判断D.I.の3ヵ月後の先行きは、製造業で5ポイント、非製造業で1ポイントの低下が見込まれている。企業の値上げの動きに活発化の兆しはうかがわれない。一方、仕入価格判断D.I.の先行きは製造業で4ポイントの低下、非製造業で1ポイントの低下となっていることから、マージンは製造業で小幅に悪化するとの見通しが示されている(図表5)。



中小企業の販売価格判断D.I.は製造業で1ポイント低下、非製造業では横ばいとなった。一方、仕入価格判断D.I.は製造業、非製造業ともに横ばいであったため、差し引きであるマージンは製造業でやや悪化した。



先行きの販売価格判断D.I.は、製造業が2ポイント上昇、非製造業は1ポイント上昇している。しかしながら、仕入価格判断D.I.はそれぞれ1ポイント、3ポイントの上昇が見込まれているため、マージンは非製造業で悪化することが見込まれている。

4.売上・利益計画: 2018年度収益計画は上方修正

18 年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比2.7%増(前回は2.1%増)、経常利益が0.8%減(前回は3.6%減)となった。売上高・経常利益ともに上方修正されたが、経常利益は引き続き前年度比で減益の計画となっている。米国以外の海外経済の減速や米中貿易摩擦等への警戒が計画の抑制要因になっている可能性がある。ただし、企業は年度始めに保守的な利益計画を策定し、年度末にかけて上方修正していく傾向が強いため、今後、内外経済の基調が崩れなければ、次回以降に上方修正されていく可能性が高い。



なお、18年度想定為替レート(大企業製造業)は109.41円(上期109.56円、下期109.26円)と、前回(107.40円)から2円程度円安ドル高方向に修正されている。前回調査以降、ドル円相場が110円を上回る水準で推移してきたことを受けて修正された。



ただし、足元の水準に対しては未だに大幅に円高水準に留まっている。為替は不確実性が高く、特に貿易摩擦が激化すれば、リスク回避的に円高が進む可能性もあるため、今のところ収益に対して保守的な水準に維持している企業も多いとみられる。その意味では、先行きに対する警戒感が現れていると言える。年度末にかけて為替が大幅な円高に振れなければ、想定為替レートが円安方向へと修正され、収益計画の上方修正圧力になる。

5.設備投資・雇用:人手不足感強まる、設備投資計画は強め

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模全産業で前回から横ばいの▲5となった。一方、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)は前回から2ポイント低下の▲35となり、企業の人手不足感は強まった。例年9月調査から12月調査にかけては人手不足感が強まる傾向が強いという季節性があるほか、前回調査時点では自然災害の影響で経済活動が一時的に鈍化していたが、既に回復したことも人手不足感に拍車をかけているとみられる。同D.I.の水準は記録的なマイナス幅を示している。



上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)は前回から1.3ポイント低下し(▲22.6ポイント→▲23.9ポイント)、マイナス(不足超過)幅が拡大している。



なお、雇用人員判断D.I.の内訳を見ると、これまで同様だが、製造業(全規模で▲28)よりも、労働集約型産業が多い非製造業(全規模で▲40)で人手不足感が強い。また、企業規模別では、人材調達力や賃金水準の違いによるものとみられるが、中小企業が▲39と大企業の▲23を大きく下回っている。



人手不足は製造業・非製造業や企業規模を問わず幅広く共有されているが、特に中小企業において問題がますます深刻化している。



先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.(1ポイント低下)、雇用判断D.I.(3ポイント低下)とも低下が見込まれており、両者を反映した「短観加重平均D.I.」も低下する見込み。先行きにかけて、設備、人手の不足感は強まるとの見通しが示されている(図表9,10)。2018年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前回調査で前年比8.5%増へと上方修正され、9 月調査としては1990年度以来の高い伸びとなったが、今回調査では前年比10.4%増とさらに上方修正された。12月調査としては2006年度以来の高い伸びとなる。市場予想(QUICK 集計8.6%増、当社予想は8.3%増)に対しても上回っている。



例年12月調査では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正されるという統計のクセがあるが、今回の上方修正幅(1.9%ポイント)は例年を上回っており(12月調査における上方修正幅は過去5年平均で1.1%ポイント)、実勢としても強めの動きと言える。高水準の企業収益(投資余力)に加え、人手不足に伴う省力化投資需要が追い風となったとみられる。実際、内訳では人手不足感が強い非製造業の上方修正幅が例年をかなり上回っている。



ただし、今後も貿易摩擦が激化し、世界経済の減速感が強まる場合は、企業の間で設備投資の様子見や先送りの動きが広がる可能性が高いだけに、楽観視はできない。 



 







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