一帯一路で文化シンクタンク?-香港の国際会議に参加して
一帯一路で文化シンクタンク?-香港の国際会議に参加して: 10月中旬に「香港一帯一路都市間文化交流会議2018(Hong Kong Belt-Road City-to-City Cultural Exchange Conference 2018)」と題した国際会議が香港で開催された。テーマは「文化シンクタンク(Cultural Think Tank)」である。一帯一路という会議のタイトルから、中国政府が文化シンクタンクを創設して、経済政策と同様に広域圏の文化政策を推進するのだろうか?、と疑問を持ちながらの参加だった。
スピーカーとして招聘されたのは、中国(香港、上海、杭州)、インドネシア(ジャカルタ、ジョグジャカルタ)、タイ(バンコク)、ベトナム(ハノイ)、カンボジア(プノンペン)、シンガポール、マレーシア(クアラルンプール、ペナン)、インド(ニューデリー、ハイデラバード)、トルコ(イスタンブール)、スイス(チューリヒ)、英国(カーディフ)、そして日本(東京)の12ヶ国17都市から35名。確かに一帯一路の圏域と重なる地域から、各都市の文化の専門家が招かれたものの、中国政府が推進する広域経済圏構想との関係は希薄だった。ひと言で言うと都市間ネットワークをベースに文化シンクタンクの可能性を模索しよう、というのが会議の趣旨であった。主催したのは実験的なパフォーマンスで国際的に知られる芸術集団ZUNI Icosahedron(進念二十面体)である。香港特別行政区の長官が歓迎のスピーチを行い、会場は同特別区の設置・運営する香港文化センターであったが、民間主体の会議だったことからも、中国政府の経済構想とは距離を置いたものだったことがわかる。会議に先立ち、参加者に対して4つの設問からなるアンケート調査が実施され、冒頭でその結果が発表された(下表)。今後の研究分野やテーマ、視点として、興味深い結果が示されており、日本の文化政策に共通する研究課題も少なくない。会議ではスピーカーの属性に応じて、(1)政府・立法機関、(2)文化財団、(3)大学・研究所・シンクタンク、(4)芸術文化事業の実施団体、という4つのセッションが設けられ、それぞれの視点から文化シンクタンクの重要性や求められる役割について、発表と議論が行われた。
実はこの会議は昨年に続いて2回目の開催で、昨年の成果に基づき今年の会議に備えて調査研究が進められてきた。調査研究に参加したのは、行政官や大学院生、アーティストなど幅広いバックグラウンドを有する若手研究者15名だ。彼らは4つグループに分かれ、前記の各セッションの最後に、グループごとに研究の成果と文化シンクタンクに関するユニークな提案を行った。
こうした会議の内容や進め方、スピーカーの顔ぶれなどから、主催者の意図やねらいを読み取ることができる。つまり、一帯一路という国境を越えた経済政策の広域圏と重ね合わせつつ、アジア、中東、欧州にまたがる参加都市の文化機関や芸術団体のネットワークを活用して「文化に関する調査研究のプラットフォーム=文化シンクタンク」を立ち上げ、域内の文化政策等に関する調査研究、提言活動を推進しよう、というのがこの国際会議を開催したねらいである。
若手研究者による調査研究と発表を会議に組み込んだのは、将来を担う研究者の発掘、育成を視野に入れた戦略的な取り組みと言える。また、研究者だけではなく、国際芸術祭のプロデューサーやアーティストなど芸術活動の実践者、あるいは政策立案者などをスピーカーとして招いたことからは、アカデミックな研究成果より、具体的な文化政策の立案や提言に結びつけようという姿勢が伺える。会議では、今まで経済が中心であったシンクタンクの研究領域に文化も加えるべきだという意見が少なくなかった。
国境を越えた経済圏構想では、大国の覇権争いや国同士の摩擦が起こることも少なくない。実際、一帯一路構想への参加について、日米と欧州諸国で対応に差があった。そうした状況を視野に入れると、国家間ではなく都市間で、経済や政治ではなく文化で国際的な交流を促進することの意義は小さくない。政治的な対立や経済摩擦のある国同士であっても、それが都市間の交流の妨げとなることは少なく、経済と異なり文化では競争関係が発生しにくいためである。
また、今回の国際会議が、自国文化の海外発信や諸外国の芸術団体の招聘といった従来型の国際文化交流ではなく、シンクタンクという知的交流をベースにしたものである点も見逃せない。しかも、特定の都市に研究機関を設立するのではなく、各都市の関係者がネットワークを形成して国際的な文化シンクタンクを形成していこうという構想には、より大きなビジョンや長期的な展望を見出すことが可能だ。いずれにせよ、国際情勢が複雑化する中、文化による国境を越えた相互理解の促進は、ますます重要になるに違いない。
会議が終わって数日後、ZUNIの芸術監督で会議の議長を務めたダニー・ユン氏からメールが届いた。東京も一帯一路の文化シンクタンク構想に何か貢献してもらえないだろうか、というものだ。何ができるか、関係者と相談しながら検討してみたいと思う。
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実はこの会議は昨年に続いて2回目の開催で、昨年の成果に基づき今年の会議に備えて調査研究が進められてきた。調査研究に参加したのは、行政官や大学院生、アーティストなど幅広いバックグラウンドを有する若手研究者15名だ。彼らは4つグループに分かれ、前記の各セッションの最後に、グループごとに研究の成果と文化シンクタンクに関するユニークな提案を行った。
こうした会議の内容や進め方、スピーカーの顔ぶれなどから、主催者の意図やねらいを読み取ることができる。つまり、一帯一路という国境を越えた経済政策の広域圏と重ね合わせつつ、アジア、中東、欧州にまたがる参加都市の文化機関や芸術団体のネットワークを活用して「文化に関する調査研究のプラットフォーム=文化シンクタンク」を立ち上げ、域内の文化政策等に関する調査研究、提言活動を推進しよう、というのがこの国際会議を開催したねらいである。
若手研究者による調査研究と発表を会議に組み込んだのは、将来を担う研究者の発掘、育成を視野に入れた戦略的な取り組みと言える。また、研究者だけではなく、国際芸術祭のプロデューサーやアーティストなど芸術活動の実践者、あるいは政策立案者などをスピーカーとして招いたことからは、アカデミックな研究成果より、具体的な文化政策の立案や提言に結びつけようという姿勢が伺える。会議では、今まで経済が中心であったシンクタンクの研究領域に文化も加えるべきだという意見が少なくなかった。
国境を越えた経済圏構想では、大国の覇権争いや国同士の摩擦が起こることも少なくない。実際、一帯一路構想への参加について、日米と欧州諸国で対応に差があった。そうした状況を視野に入れると、国家間ではなく都市間で、経済や政治ではなく文化で国際的な交流を促進することの意義は小さくない。政治的な対立や経済摩擦のある国同士であっても、それが都市間の交流の妨げとなることは少なく、経済と異なり文化では競争関係が発生しにくいためである。
また、今回の国際会議が、自国文化の海外発信や諸外国の芸術団体の招聘といった従来型の国際文化交流ではなく、シンクタンクという知的交流をベースにしたものである点も見逃せない。しかも、特定の都市に研究機関を設立するのではなく、各都市の関係者がネットワークを形成して国際的な文化シンクタンクを形成していこうという構想には、より大きなビジョンや長期的な展望を見出すことが可能だ。いずれにせよ、国際情勢が複雑化する中、文化による国境を越えた相互理解の促進は、ますます重要になるに違いない。
会議が終わって数日後、ZUNIの芸術監督で会議の議長を務めたダニー・ユン氏からメールが届いた。東京も一帯一路の文化シンクタンク構想に何か貢献してもらえないだろうか、というものだ。何ができるか、関係者と相談しながら検討してみたいと思う。
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