リーマン・ショックから10年。その後の不動産収益率を振り返るー不動産の生み出すインカム収益がJリートの本源的価値

リーマン・ショックから10年。その後の不動産収益率を振り返るー不動産の生み出すインカム収益がJリートの本源的価値: 世界的な金融危機の引き金を引いたリーマン・ショックから昨年9月で10年が経過した。この間、Jリート(不動産投資信託)市場も厳しい不動産市況の悪化と信用収縮に見舞われるなか、東証REIT指数(配当込み)は高値から一時▲70%近くも下落した[図表1]。しかし、その後は中央銀行の金融緩和や政府の財政出動などに支えられて世界経済が危機を克服したことで市場は上昇に転じ、2014年末には前回高値を回復。不動産ミニバブル期において高値掴みをしてしまった投資家も忍耐強く長期保有することで、投資が報われる結果となっている。



このように、Jリート市場の投資リターンが前回高値を超えて上昇するなか、不動産投資市場では間もなく市況がピークアウトするのではないかとの見方が増えている。日本不動産研究所の「不動産投資家調査(18年10月)」によると、不動産投資市場の現状認識について、「市場サイクルのなかでピークに達している」との回答が71.8%となった。また、日銀短観によると金融機関の貸出態度DI(不動産大企業)が足もとで低下基調に転じ不動産向け融資の潮目の変化を示唆する指標もみられる[図表2]。今後の経済環境についても、消費税率の引き上げや米中貿易戦争の激化、FRBによる追加利上げなど景気の下押し要因となる懸念材料は多い。



そこで、以下では、前回ミニバブル期におけるJリートの投資行動とその結果について確認する。具体的には、不動産価格が高値圏にあった時期に取得した不動産を対象に、その後の収益率(インカム収益とキャピタル収益)を検証し、収益のボトムラインやいずれ訪れる市況悪化への備えについて考えたい。2007年から2008年の2年間にJリート各社が新規に取得した物件は合計で606棟・2.3兆円となっている。アセットタイプ別では、オフィスビル(52%)、住宅(24%)、商業施設(15%)、物流施設(4%)、ホテル(1%)、その他(4%)となり、「オフィス+住宅+商業」の主要3資産で全体の91%を占める[図表3]。

 また、エリア別では東京都心5区(38%)、その他18区(17%)、東京都下(3%)、その他首都圏(19%)、地方(23%)となり、東京23区で全体の55%を占めている。



まず、前述の物件を対象に取得価額に対する2017年末時点のキャピタル収益率(期中売却による売却損益を含む)を計算すると、全体で▲9%(年平均▲1%)となった[図表4]。アセットタイプ別では、景気感応度の高いオフィスビル(▲14%)やホテル(▲24%)の収益率が大きく落ち込む一方で、不動産キャッシュフローの安定している物流施設(+18%)や住宅(▲4%)の収益率は全体平均を上回った。また、キャピタル収益率のボトムは全体で▲18% (2012年下期)であった。2013年以降の5年間でキャピタル収益率は9%上昇し下落率の半分を戻したことになる。なお、Jリート保有物件の鑑定価格は足もと年率2%のペースで上昇しており、このペースが持続すればキャピタル収益率は5年後にようやくプラス転換することになる。

 次に、2009年から2017年における取得価額に対するインカム収益率(NOI利回り、NOI:賃貸事業純収益)を計算する。アセットタイプ毎に利回り水準が異なるものの(オフィス+3.5%~物流施設+5.4%)、全体では年平均+4.1%となった[図表5]。

 リーマン・ショック後の厳しい環境下においても、保有不動産が毎年確実に生み出すインカム収益(年平均+4.1%)がキャピタルロス(年平均▲1%)を十分に補い、全体でプラスの収益を確保できている。



こうした賃貸借契約に基づいた賃料収入を源泉とする不動産のインカム収益はJリートの本源的価値そのものである。証券投資としてJリートの投資リターンが前回高値を超えて上昇できている大きな要因は、安定したインカム収益を創出する良質で優れた不動産ポートフォリオのおかげだと言えよう。このように、リーマン・ショック後の不動産価格の下落はオフィスビルを中心に大変厳しいものであった。それでも継続して保有する間に不動産価格が回復し、キャピタル収益率のマイナスは年平均でわずか1%に留まる。確かに、市場サイクルのなかで高値掴みを回避したい思いは誰もが抱く心理だが、ピークとなる時期を正確に予測することは困難である。投資を見送ることで生じる機会損失にも十分に留意すべきであろう。



そのため、ゴーイングコンサーンを前提に不動産を長期保有し、期間利益を内部留保できないJリートにとって回避すべきことは、不動産の高値掴みではなく、いざ市況が悪化した時に不動産を購入できずに投資タイミングの分散を図れないことだと思われる。そして、そのリスクへの対応が借入比率(LTV:Loan To Value)の管理である。[図表6]は、リーマン・ショック以降のオフィスビルの価格下落を適用した場合の時価LTVの推移を表わしている。通常、自己資本が厚く余裕があるとされるLTV50%(スタート時点)であっても、価格が最も下落した時点のLTVは65%へ上昇してしまう。これでは、不動産価格が割安な時期において物件を取得するどころかLTVを引き下げるために物件の売却を迫られることになりかねない。不動産価格が上昇する現在の局面において、Jリート各社は自らのポートフォリオに照らして許容されるLTV水準をいま一度確認することが求められる。



そして、Jリートが財務レバレッジに依存してはならないとすると、資本集約的なJリートが収益率(ROE、自己資本利益率)を高めるためには、不動産キャッシュフローを持続的に大きくすることが必要になる。そのためには、国内の不動産市場が長期的に健全であることが大切だ。



最近、Jリート各社は投資主価値向上の一環として、ESG「環境への配慮(E)、社会への貢献(S)、ガバナンスの強化(G)」への取り組みと情報開示を積極的に行っている。Jリートがこうした取り組みを通じて社会との共生を深めることで、今後の国内不動産市場のさらなる健全性向上に貢献することを期待したい。





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