女性のライフコースの理想と現実-最も人気の「両立コース」の実現度は3割弱。就労継続の鍵は?
女性のライフコースの理想と現実-最も人気の「両立コース」の実現度は3割弱。就労継続の鍵は?: ■要旨
■目次
1――はじめに
~M字カーブは解消傾向、子育て期も働く女性が増加。女性の理想のライフコースとは?
2――現代女性の理想のライフコース
1|理想のライフコース
~「両立」や「再就職」の『働く母親コース』が6割、若いほど「両立」が多い
2|属性別に見た理想のライフコース
~大学院卒や大卒(共学)、高専卒で「両立」が多く、働く 母の影響も大
3――現代女性のライフコースの理想と現実
1|ライフコースの理想と現実
~40・50代女性の実現度は4割、人気の「両立」は7割が実現できず
2|「両立コース」を実現している女性の特徴
~若い世代、中部地方や九州地方、正規雇用者、母親も「両立コース」、
実家の手助け、若い世代では義理の実家の手助けも、体力あり
4――おわりに
~女性が理想のライフコースを実現するために必要な環境整備は、実は男性にも必要M字カーブは解消傾向にあり、子育て期も働く女性が増えている。M字カーブは、就業率の高い未婚女性が増えることによっても底上げされるのだが、近年の底上げ要因は、主に既婚女性の就業率の上昇によるものだ1。政策の後押しもあり、今後とも仕事と子育てや介護を両立するための環境整備が進むことで、働く女性は増えるだろう。一方で、そもそも女性達はライフコースに対して、どのような希望を持っているのだろうか。かつては学校卒業後に就職し、適齢期に結婚をして寿退社、あるいは出産で退職し、子育てが落ち着いたらパートなどで働き始めるというように、皆、同じようなライフコースをたどっていた。しかし、M字カーブの底上げが進む通り、結婚・出産後も働き続ける女性は増えている。また、未婚化・晩婚化、晩産化が進み、同じ年齢でもライフコースは多様化している。
本稿では、現代女性の理想のライフコースとあわせて、実際に歩んでいる現実のライフコースも捉えることで、両者のギャップの有無を把握する。また、女性のライフコースの中でも特に課題が多いであろう、結婚・出産をして、その後も働き続ける「両立コース」を実現している女性の特徴を分析する。分析には、ニッセイ基礎研究所が実施した25~59歳の女性5千人を対象にした調査2のデータを用いる。
1 久我尚子「『M字カーブ』底上げの要因分解」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017/12/21)
2 「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176
2――現代女性の理想のライフコース
1|理想のライフコース~「両立」や「再就職」の『働く母親コース』が6割、若いほど「両立」が多い
現代女性は、どのようなライフコースを理想としているのだろうか。25~59歳の女性で最も多いのは「両立コース」(34.1%)であり、次いで、結婚や出産などを機に退職し、その後、また働き出す「再就職コース」(25.9%)、そして、退職後は専業主婦となる「結婚退職・専業主婦コース」(13.7%)、「出産退職・専業主婦コース」(10.4%)と続く(図表2)。年代別に見ると、50~54歳以外は「両立コース」が最多で3割を超える。次いで「再就職コース」が多い。50~54歳では、「再就職コース」(31.4%)が「両立コース」(30.4%)を若干上回っている。つまり、年齢階級別に見ても「両立コース」や「再就職コース」を理想とする女性が多い。また、55~59歳を除けば3、年齢が若いほど「両立コース」を理想とする女性が多い傾向がある。なお、『働く母親コース』を理想とする割合は、年齢によらず6割前後である。
3位以下は、いずれの年齢階級でも、「出産退職・専業主婦コース」や「結婚退職・専業主婦コース」が続いており、30代では出産退職が、40~50代や25~29歳では結婚退職の方が多い傾向がある。この背景には、30代では、40代以上と比べて女性の社会進出が進み、近年の政策の後押しもあって、育児休業制度や時間短縮勤務制度などの仕事と子育ての両立環境の整備が進んでいる可能性がある。
3 55~59歳で「両立コース」を理想とする割合が高い背景には、例えば、「男女雇用機会均等法」が施行される前の世代であるために女性が働き続けることへの権利意識が強い可能性のほか、ネット調査のモニター属性の影響などが考えられる。2|属性別に見た理想のライフコース~大学院卒や大卒(共学)、高専卒で「両立」が多く、働く母の影響も大
どんなライフコースを理想とするのかには、年齢(世代)のほか、居住地域や最終学歴、職業、女性の母親が働いていたかどうかなどの影響も予想される。
これらの違いについても見ると、居住地域については、地域による大きな違いは見られず、いずれも「両立コース」が最多で、次いで「再就職コース」が多い(図表3)。最終学歴については、短期大学卒以外は、いずれも「両立コース」が最多で、「再就職コース」が続く。短大卒は「再就職コース」が最多で、僅差で「両立コース」が続く。このほか全体と比べて、中学校卒で「結婚退職・専業主婦コース」が、高等専門学校卒や大学卒(共学)、大学院卒で「両立コース」が、大学卒(女子大)で「出産退職・専業主婦コース」が多い傾向がある。これらを見ると、女性が結婚・出産後も働き続けたいかどうかは、高専卒や大学院卒など専門性の高い職に従事しやすい学歴を保有しているかどうかのほか、同じ大学卒でも共学か女子大かで違いがあることから、女性が働くことについての価値観や受けた教育環境の違いの影響もうかがえる。なお、本調査では、働くことに関する意識についても調査しており、大学院卒や大学卒(共学)では「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」や「専業主婦として家庭に専念するより、少しでも働いていたい」といった女性が外で働くことを重視するような志向が強い傾向がある4。
また、女性のライフコース選択には身近なモデルとして母親の影響もあるだろう。母親のライフコース別には、母親が「再就職コース」以外は、いずれも「両立コース」が最多で、次いで「再就職コース」が多い。母親が「再就職コース」では、女性自身の理想も「再就職コース」が最多である。このほか全体と比べて、母親が「結婚退職・専業主婦コース」であれば女性自身も理想は「結婚退職・専業主婦コース」が多いというように、母親と同じコースを理想とする割合が高い傾向もある。なお、母親が「両立コース」や「再就職コース」の『働く母親コース』であると、この傾向がより強い。
職業については、結婚や出産などのライフステージの変化で働き方が変わる女性も多いだろうが、「両立コース」を理想とする割合は、現在の職業が公務員や正社員・正職員、自営業・自由業で多くなっている(いずれも半数程度)。
4 一般財団法人社会文化研究センターの助成研究「子育て世帯の消費実態~女性の働き方による価値観の違いに注目して」(平成30年8月)。今後、研究成果をWebで公開予定。
3――現代女性のライフコースの理想と現実
1|ライフコースの理想と現実~40・50代女性の実現度は4割、最も人気の「両立コース」の実現度は3割弱
さて、現代女性の理想のライフコースは、全体で見ても属性別に見ても、「両立コース」や「再就職コース」の『働く母親コース』の人気が高かった。一方で、女性達は現実的には、どのようなライフコースを歩んでいるのだろうか。ここでは、ライフコースが固まりつつある40~50代の女性を対象に、理想と現実のギャップを確認する。
40~50代の女性で理想のライフコースと現実のライフコースが一致している割合は41.8%である。理想のライフコース別に、現実のライフコースの状況を見ると、理想が「独身非就業コース」と「両立コース」以外では、理想が「結婚退職・専業主婦コース」であれば現実も同じコースというように理想通りのライフコースを歩んでいる割合が最も高くなっている(図表4)。なお、理想が「独身非就業コース」では現実は「独身就業コース」が、「両立コース」では現実は「再就職コース」が最多である。前者は働きたくなかったが働いている、後者は仕事を辞めたくなかったが、結婚や出産で一旦辞めざるを得なかったという様子がうかがえる。さらに、理想のライフコース別に、理想と現実の一致度(実現度)をランキングとして見ると、実現度が最も高いのは「独身就業コース」で7割を超える(図表5)。次いで「再就職コース」や「結婚退職・専業主婦コース」が続き、それぞれの実現度は5割程度である。一方、理想のライフコースとして最も人気の高い「両立コース」の実現度は、9つのライフコースの中で最下位であり、実現度は3割に満たない。つまり、「両立コース」を理想とする女性が最も多いにも関わらず、現実的には7割が実現できていない。
ライフコースによる実現度の違いは、例えば「独身就業コース」では主に本人の意志のみで決定できる一方、「両立コース」は結婚できるかどうか、出産できるかどうか、そして、結婚・出産後も働き続けられるかどうかというように、本人の意志のみでは決められない要因が複数あるなど、要因の種類と数の違いによるものだろう。
なお、一連の専業主婦コースは「再就職コース」と比べて要因の数が少ないようにも見えるが(再び仕事に就けるかどうかという要因が無い)、実現度は「再就職コース」の方が高い。この背景には、長らく続いた景気低迷の中で配偶者の経済状況が過去と比べて厳しくなったために、再び仕事に就くことよりも配偶者の収入だけで生活ができることの方が実現は難しくなっていることがあるのだろう。2|「両立コース」を実現している女性の特徴~若い世代、中部地方や九州地方、正規雇用者、母親も「両立コース」、実家の手助け、若い世代では義理の実家の手助けも、体力あり
さて、「両立コース」を理想通り実現している女性には、どのような特徴があるのだろうか。ここでは、理想のライフコースを「両立コース」と回答した女性のうち母親を対象に、現実も「両立コース」を歩んでいる女性と、それ以外のコースを歩んでいる女性の違いを分析する。前項のように年齢を限定しない理由は、年齢が若くても既に母親であれば「両立コース」の実現可否を把握できるためだ。
比較結果を見ると、「両立コース」を実現している女性は、30代など女性の社会進出がより進んだ若い年代で多い(図表6)。また、居住地域は中部地方や九州地方で比較的多い。中部地方のうち、福井県や富山県などの北陸地方は、M字カーブのくぼみが最も浅く(厚生労働省「平成28年版働く女性の実情」)、子育て期の離職が少ない地域だ。なお、同報告書によれば、九州・沖縄地方も同様にM字カーブのくぼみが浅い地域となっている。このほか、「両立コース」を実現している女性は、最終学歴は大学卒(共学)や専門学校卒で、母親のライフコースは「両立コース」で、就業状態は「正規雇用者(経営者含む)」で、年収は「300~700万円未満」で、配偶者の就業状態は「正規雇用者(経営者含む)」で、配偶者の年収は「300~500万円未満」で、義理の実家との距離は「別居」で、体力の程度は「どちらかと言えば体力のある方」から「どちらともいえない」で多い傾向がある。
就業状態については、前述の通り、結婚や出産などのライフステージの変化で働き方が変わる女性も多いだろう。ただし、実際に「両立コース」を実現している女性では正規雇用者が多いことから、「両立コース」を実現している女性では、仕事と子育ての両立に関わる制度などが整った環境で働いている女性が多い可能性がある。
配偶者の年収は「両立コース」を実現している女性の方が低い傾向がある(高年収における割合が低い)。これは、配偶者の経済力が高くないために仕事を辞めずに家計を支えている可能性もあるが、若い年代ほど「両立コース」を実現している女性が多いために、配偶者も若くなることで、配偶者の年収が低くなる可能性もある。なお、「両立コース」を実現している女性の平均年齢は42.2歳、それ以外のコースを歩んでいる女性は45.1歳(「両立コース」実現女性+2.9歳)である。
また、実家との距離については、「両立コース」を実現している女性では、同居と近居をあわせると合計37.0%だが、実現していない女性では32.7%(▲4.3%pt)である。よって、おおむね実家の手助けを得やすい環境にある女性の方が「両立コース」を実現しているようだ。もともと実家と同居・近居しているために両立を実現できている可能性もあるが、両立を実現する上で実家を近くに呼び寄せたという可能性もある。一方、「両立コース」を実現している女性では、義理の実家との距離は別居が多かった。これらの状況をあわせると、実家の手助けを得やすい状況にあり、義理の実家の目は遠くにある女性の方が、結婚・出産後も仕事を辞めずに働きやすいように見える。
しかし、この解釈には注意が必要だ。実は義理の実家との距離は年代によって傾向が異なっている。年齢とともに親と死別した女性が増えるため、特に50代ではより詳細を見る必要があるのだが、30代以下では、「両立コース」を実現している女性の方が実現していない女性と比べて、義理の実家と同居・近居している割合が高い(44.1%⇔37.1%)。一方、40代(26.7%⇔40.2%)や50代(24.6%⇔29.2%)では逆である。女性の社会進出が進む中で、親世代も、そして、女性自身も、女性が家の外で働くことに対する価値観が変わることで、若い世代では義理の実家の手助けも上手く得ながら、「両立コース」を実現する女性が増えている可能性がある。
最後に、体力の程度については、「体力がある方だ」と「どちらかと言えば体力がある方だ」を合わせた『体力あり』の割合は「両立コース」を実現している女性の方が高い(30.5%⇔21.6%)。先天的なものか後天的なものかは不明だが、「両立コース」は歩んでいる女性の方が現状は体力があるようだ。
4――おわりに
現代女性の理想のライフコースは、結婚や出産後も働く「両立コース」や「再就職コース」の人気が高く、若いほど「両立コース」が多くなっていた。「両立コース」と「再就職コース」を合わせた『働く母親コース』を理想とする割合は、年齢によらず6割前後であった。
一方で、「両立コース」の実現度は、今回の調査で例示した9つのライフコースの中で最も低く、3割に満たなかった。それは、「両立コース」を実現するには、結婚できるかどうか、出産できるかどうか、出産後も働き続けられるかどうか、という本人の意志のみでは決定できない要因が多いためだ。
実際に理想通り「両立コース」を実現している女性の特徴を見ると、若い世代、北陸などの中部地方や九州地方居住者、高専卒や大学卒(共学)、正規雇用者、母親も「両立コース」、実家と同居・近居、義理の実家とは別居、一方で若い世代では義理の実家とは同居・近居が多くなっていた。
つまり、女性が仕事と家庭を両立することへの意識が高い社会(世代や地方、家庭環境)で育ち、両立に関わる環境(職場の制度や家庭での手助け)が整っている女性ほど、両立を実現できている。また、高専卒など専門性の高い仕事に従事しやすい学歴も有効のようだ。一方で、これらの条件が整っている女性は決して多くないために、「両立コース」の実現度が低い現状がある。
仕事と家庭の両立という話題は、女性の問題として語られがちだ。しかし、子育てが落ち着いて、しばらく後には親の介護という問題が生じる。実は、この10年余りで介護の状況は大きく変化している。厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、2000年代初頭は、同居の主たる介護従事者で圧倒的に多いのは嫁であった。しかし、嫁の割合が低下する一方、息子の割合が上昇することで、現在では息子が嫁を上回るようになっている。そして、男性が仕事と介護の両立をしやすい環境を考えた際に必要なものは、実は時間短縮勤務制度や月単位の長期休暇など、現在、育児中の女性が利用しているものと同様だ。また、介護との両立においても、家族を含め何らかの手助けが必要だ。
つまり、女性が理想のライフコースを歩むための諸条件は、実は女性だけでなく男性も、皆にとって必要なものだ。「女性の活躍推進」政策や「働き方改革」の後押しもあり、現在、働き方に関わる制度や慣習は改善傾向にある。まだ、いくつもの課題はあるが、まずは「女性だけでなく男性も含めて、皆にとって必要」という認識を強く持つことが必要なのではないか。
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- かつて女性は皆、同様のライフコースをたどっていた。学校卒業後に就職し、結婚・出産で退職し、子育てが落ち着いたらパートなどで働き始める。しかし、子育て期も働く女性が増え、未婚化・晩婚化、晩産化で同年代でもライフコースは多様化している。本稿では、25~59歳の女性5千人を対象とした調査を用いて、現代女性の理想のライフコースと現実のギャップを捉え、理想を実現している女性の特徴を分析する。
- 女性の理想のライフコースで最も多いのは結婚・出産後も働き続ける「両立コース」、次いで、結婚・出産を機に退職し、その後、また働き出す「再就職コース」が多い。若いほど「両立コース」が多いが、両者を合わせた『働く母親コース』を理想とする割合は年齢によらず6割だ。
- 居住地域や学歴等の属性別に特徴を見ると、いずれも「両立コース」や「再就職コース」が人気だが、「両立コース」は特に高専卒や大学卒(共学)、大学院卒で、また、母親も「両立コース」であった女性で理想とする割合が高い。
- ライフコースが固まりつつある40~50代の女性について、理想のライフコースと現実の一致度(実現度)を見ると、全体で41.8%だ。実現度が最も高いのは「独身就業コース」で7割を超え、最も低いのは「両立コース」で3割に満たない。「両立コース」は理想のライフコースで最も人気が高いだが、現実的には7割が実現できていない。
- 「両立コース」を理想通り実現している女性は、若い世代、北陸などの中部地方や九州地方居住者、高専卒や大学卒(共学)、正規雇用者、母親も「両立コース」、実家と同居・近居、義理の実家とは別居、一方で若い世代では義理の実家とは同居・近居が多くなっていた。
- 仕事と家庭の両立という話題は、とかく女性の問題として語られがちだ。一方で親の介護は嫁ではなく息子へと移っている。男性が仕事と介護を両立しやすい環境を考えた際、実は必要なのは時間短縮勤務制度や月単位の長期休暇など、現在、育児中の女性が利用しているものだ。つまり、女性が理想のライフコースを歩むための諸条件は、実は女性だけでなく男性も、皆にとって必要なものだ。
■目次
1――はじめに
~M字カーブは解消傾向、子育て期も働く女性が増加。女性の理想のライフコースとは?
2――現代女性の理想のライフコース
1|理想のライフコース
~「両立」や「再就職」の『働く母親コース』が6割、若いほど「両立」が多い
2|属性別に見た理想のライフコース
~大学院卒や大卒(共学)、高専卒で「両立」が多く、働く 母の影響も大
3――現代女性のライフコースの理想と現実
1|ライフコースの理想と現実
~40・50代女性の実現度は4割、人気の「両立」は7割が実現できず
2|「両立コース」を実現している女性の特徴
~若い世代、中部地方や九州地方、正規雇用者、母親も「両立コース」、
実家の手助け、若い世代では義理の実家の手助けも、体力あり
4――おわりに
~女性が理想のライフコースを実現するために必要な環境整備は、実は男性にも必要M字カーブは解消傾向にあり、子育て期も働く女性が増えている。M字カーブは、就業率の高い未婚女性が増えることによっても底上げされるのだが、近年の底上げ要因は、主に既婚女性の就業率の上昇によるものだ1。政策の後押しもあり、今後とも仕事と子育てや介護を両立するための環境整備が進むことで、働く女性は増えるだろう。一方で、そもそも女性達はライフコースに対して、どのような希望を持っているのだろうか。かつては学校卒業後に就職し、適齢期に結婚をして寿退社、あるいは出産で退職し、子育てが落ち着いたらパートなどで働き始めるというように、皆、同じようなライフコースをたどっていた。しかし、M字カーブの底上げが進む通り、結婚・出産後も働き続ける女性は増えている。また、未婚化・晩婚化、晩産化が進み、同じ年齢でもライフコースは多様化している。
本稿では、現代女性の理想のライフコースとあわせて、実際に歩んでいる現実のライフコースも捉えることで、両者のギャップの有無を把握する。また、女性のライフコースの中でも特に課題が多いであろう、結婚・出産をして、その後も働き続ける「両立コース」を実現している女性の特徴を分析する。分析には、ニッセイ基礎研究所が実施した25~59歳の女性5千人を対象にした調査2のデータを用いる。
1 久我尚子「『M字カーブ』底上げの要因分解」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017/12/21)
2 「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176
2――現代女性の理想のライフコース
1|理想のライフコース~「両立」や「再就職」の『働く母親コース』が6割、若いほど「両立」が多い
現代女性は、どのようなライフコースを理想としているのだろうか。25~59歳の女性で最も多いのは「両立コース」(34.1%)であり、次いで、結婚や出産などを機に退職し、その後、また働き出す「再就職コース」(25.9%)、そして、退職後は専業主婦となる「結婚退職・専業主婦コース」(13.7%)、「出産退職・専業主婦コース」(10.4%)と続く(図表2)。年代別に見ると、50~54歳以外は「両立コース」が最多で3割を超える。次いで「再就職コース」が多い。50~54歳では、「再就職コース」(31.4%)が「両立コース」(30.4%)を若干上回っている。つまり、年齢階級別に見ても「両立コース」や「再就職コース」を理想とする女性が多い。また、55~59歳を除けば3、年齢が若いほど「両立コース」を理想とする女性が多い傾向がある。なお、『働く母親コース』を理想とする割合は、年齢によらず6割前後である。
3位以下は、いずれの年齢階級でも、「出産退職・専業主婦コース」や「結婚退職・専業主婦コース」が続いており、30代では出産退職が、40~50代や25~29歳では結婚退職の方が多い傾向がある。この背景には、30代では、40代以上と比べて女性の社会進出が進み、近年の政策の後押しもあって、育児休業制度や時間短縮勤務制度などの仕事と子育ての両立環境の整備が進んでいる可能性がある。
3 55~59歳で「両立コース」を理想とする割合が高い背景には、例えば、「男女雇用機会均等法」が施行される前の世代であるために女性が働き続けることへの権利意識が強い可能性のほか、ネット調査のモニター属性の影響などが考えられる。
どんなライフコースを理想とするのかには、年齢(世代)のほか、居住地域や最終学歴、職業、女性の母親が働いていたかどうかなどの影響も予想される。
これらの違いについても見ると、居住地域については、地域による大きな違いは見られず、いずれも「両立コース」が最多で、次いで「再就職コース」が多い(図表3)。最終学歴については、短期大学卒以外は、いずれも「両立コース」が最多で、「再就職コース」が続く。短大卒は「再就職コース」が最多で、僅差で「両立コース」が続く。このほか全体と比べて、中学校卒で「結婚退職・専業主婦コース」が、高等専門学校卒や大学卒(共学)、大学院卒で「両立コース」が、大学卒(女子大)で「出産退職・専業主婦コース」が多い傾向がある。これらを見ると、女性が結婚・出産後も働き続けたいかどうかは、高専卒や大学院卒など専門性の高い職に従事しやすい学歴を保有しているかどうかのほか、同じ大学卒でも共学か女子大かで違いがあることから、女性が働くことについての価値観や受けた教育環境の違いの影響もうかがえる。なお、本調査では、働くことに関する意識についても調査しており、大学院卒や大学卒(共学)では「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」や「専業主婦として家庭に専念するより、少しでも働いていたい」といった女性が外で働くことを重視するような志向が強い傾向がある4。
また、女性のライフコース選択には身近なモデルとして母親の影響もあるだろう。母親のライフコース別には、母親が「再就職コース」以外は、いずれも「両立コース」が最多で、次いで「再就職コース」が多い。母親が「再就職コース」では、女性自身の理想も「再就職コース」が最多である。このほか全体と比べて、母親が「結婚退職・専業主婦コース」であれば女性自身も理想は「結婚退職・専業主婦コース」が多いというように、母親と同じコースを理想とする割合が高い傾向もある。なお、母親が「両立コース」や「再就職コース」の『働く母親コース』であると、この傾向がより強い。
職業については、結婚や出産などのライフステージの変化で働き方が変わる女性も多いだろうが、「両立コース」を理想とする割合は、現在の職業が公務員や正社員・正職員、自営業・自由業で多くなっている(いずれも半数程度)。
4 一般財団法人社会文化研究センターの助成研究「子育て世帯の消費実態~女性の働き方による価値観の違いに注目して」(平成30年8月)。今後、研究成果をWebで公開予定。
3――現代女性のライフコースの理想と現実
1|ライフコースの理想と現実~40・50代女性の実現度は4割、最も人気の「両立コース」の実現度は3割弱
さて、現代女性の理想のライフコースは、全体で見ても属性別に見ても、「両立コース」や「再就職コース」の『働く母親コース』の人気が高かった。一方で、女性達は現実的には、どのようなライフコースを歩んでいるのだろうか。ここでは、ライフコースが固まりつつある40~50代の女性を対象に、理想と現実のギャップを確認する。
40~50代の女性で理想のライフコースと現実のライフコースが一致している割合は41.8%である。理想のライフコース別に、現実のライフコースの状況を見ると、理想が「独身非就業コース」と「両立コース」以外では、理想が「結婚退職・専業主婦コース」であれば現実も同じコースというように理想通りのライフコースを歩んでいる割合が最も高くなっている(図表4)。なお、理想が「独身非就業コース」では現実は「独身就業コース」が、「両立コース」では現実は「再就職コース」が最多である。前者は働きたくなかったが働いている、後者は仕事を辞めたくなかったが、結婚や出産で一旦辞めざるを得なかったという様子がうかがえる。さらに、理想のライフコース別に、理想と現実の一致度(実現度)をランキングとして見ると、実現度が最も高いのは「独身就業コース」で7割を超える(図表5)。次いで「再就職コース」や「結婚退職・専業主婦コース」が続き、それぞれの実現度は5割程度である。一方、理想のライフコースとして最も人気の高い「両立コース」の実現度は、9つのライフコースの中で最下位であり、実現度は3割に満たない。つまり、「両立コース」を理想とする女性が最も多いにも関わらず、現実的には7割が実現できていない。
ライフコースによる実現度の違いは、例えば「独身就業コース」では主に本人の意志のみで決定できる一方、「両立コース」は結婚できるかどうか、出産できるかどうか、そして、結婚・出産後も働き続けられるかどうかというように、本人の意志のみでは決められない要因が複数あるなど、要因の種類と数の違いによるものだろう。
なお、一連の専業主婦コースは「再就職コース」と比べて要因の数が少ないようにも見えるが(再び仕事に就けるかどうかという要因が無い)、実現度は「再就職コース」の方が高い。この背景には、長らく続いた景気低迷の中で配偶者の経済状況が過去と比べて厳しくなったために、再び仕事に就くことよりも配偶者の収入だけで生活ができることの方が実現は難しくなっていることがあるのだろう。2|「両立コース」を実現している女性の特徴~若い世代、中部地方や九州地方、正規雇用者、母親も「両立コース」、実家の手助け、若い世代では義理の実家の手助けも、体力あり
さて、「両立コース」を理想通り実現している女性には、どのような特徴があるのだろうか。ここでは、理想のライフコースを「両立コース」と回答した女性のうち母親を対象に、現実も「両立コース」を歩んでいる女性と、それ以外のコースを歩んでいる女性の違いを分析する。前項のように年齢を限定しない理由は、年齢が若くても既に母親であれば「両立コース」の実現可否を把握できるためだ。
比較結果を見ると、「両立コース」を実現している女性は、30代など女性の社会進出がより進んだ若い年代で多い(図表6)。また、居住地域は中部地方や九州地方で比較的多い。中部地方のうち、福井県や富山県などの北陸地方は、M字カーブのくぼみが最も浅く(厚生労働省「平成28年版働く女性の実情」)、子育て期の離職が少ない地域だ。なお、同報告書によれば、九州・沖縄地方も同様にM字カーブのくぼみが浅い地域となっている。このほか、「両立コース」を実現している女性は、最終学歴は大学卒(共学)や専門学校卒で、母親のライフコースは「両立コース」で、就業状態は「正規雇用者(経営者含む)」で、年収は「300~700万円未満」で、配偶者の就業状態は「正規雇用者(経営者含む)」で、配偶者の年収は「300~500万円未満」で、義理の実家との距離は「別居」で、体力の程度は「どちらかと言えば体力のある方」から「どちらともいえない」で多い傾向がある。
就業状態については、前述の通り、結婚や出産などのライフステージの変化で働き方が変わる女性も多いだろう。ただし、実際に「両立コース」を実現している女性では正規雇用者が多いことから、「両立コース」を実現している女性では、仕事と子育ての両立に関わる制度などが整った環境で働いている女性が多い可能性がある。
配偶者の年収は「両立コース」を実現している女性の方が低い傾向がある(高年収における割合が低い)。これは、配偶者の経済力が高くないために仕事を辞めずに家計を支えている可能性もあるが、若い年代ほど「両立コース」を実現している女性が多いために、配偶者も若くなることで、配偶者の年収が低くなる可能性もある。なお、「両立コース」を実現している女性の平均年齢は42.2歳、それ以外のコースを歩んでいる女性は45.1歳(「両立コース」実現女性+2.9歳)である。
また、実家との距離については、「両立コース」を実現している女性では、同居と近居をあわせると合計37.0%だが、実現していない女性では32.7%(▲4.3%pt)である。よって、おおむね実家の手助けを得やすい環境にある女性の方が「両立コース」を実現しているようだ。もともと実家と同居・近居しているために両立を実現できている可能性もあるが、両立を実現する上で実家を近くに呼び寄せたという可能性もある。一方、「両立コース」を実現している女性では、義理の実家との距離は別居が多かった。これらの状況をあわせると、実家の手助けを得やすい状況にあり、義理の実家の目は遠くにある女性の方が、結婚・出産後も仕事を辞めずに働きやすいように見える。
しかし、この解釈には注意が必要だ。実は義理の実家との距離は年代によって傾向が異なっている。年齢とともに親と死別した女性が増えるため、特に50代ではより詳細を見る必要があるのだが、30代以下では、「両立コース」を実現している女性の方が実現していない女性と比べて、義理の実家と同居・近居している割合が高い(44.1%⇔37.1%)。一方、40代(26.7%⇔40.2%)や50代(24.6%⇔29.2%)では逆である。女性の社会進出が進む中で、親世代も、そして、女性自身も、女性が家の外で働くことに対する価値観が変わることで、若い世代では義理の実家の手助けも上手く得ながら、「両立コース」を実現する女性が増えている可能性がある。
最後に、体力の程度については、「体力がある方だ」と「どちらかと言えば体力がある方だ」を合わせた『体力あり』の割合は「両立コース」を実現している女性の方が高い(30.5%⇔21.6%)。先天的なものか後天的なものかは不明だが、「両立コース」は歩んでいる女性の方が現状は体力があるようだ。
4――おわりに
現代女性の理想のライフコースは、結婚や出産後も働く「両立コース」や「再就職コース」の人気が高く、若いほど「両立コース」が多くなっていた。「両立コース」と「再就職コース」を合わせた『働く母親コース』を理想とする割合は、年齢によらず6割前後であった。
一方で、「両立コース」の実現度は、今回の調査で例示した9つのライフコースの中で最も低く、3割に満たなかった。それは、「両立コース」を実現するには、結婚できるかどうか、出産できるかどうか、出産後も働き続けられるかどうか、という本人の意志のみでは決定できない要因が多いためだ。
実際に理想通り「両立コース」を実現している女性の特徴を見ると、若い世代、北陸などの中部地方や九州地方居住者、高専卒や大学卒(共学)、正規雇用者、母親も「両立コース」、実家と同居・近居、義理の実家とは別居、一方で若い世代では義理の実家とは同居・近居が多くなっていた。
つまり、女性が仕事と家庭を両立することへの意識が高い社会(世代や地方、家庭環境)で育ち、両立に関わる環境(職場の制度や家庭での手助け)が整っている女性ほど、両立を実現できている。また、高専卒など専門性の高い仕事に従事しやすい学歴も有効のようだ。一方で、これらの条件が整っている女性は決して多くないために、「両立コース」の実現度が低い現状がある。
仕事と家庭の両立という話題は、女性の問題として語られがちだ。しかし、子育てが落ち着いて、しばらく後には親の介護という問題が生じる。実は、この10年余りで介護の状況は大きく変化している。厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、2000年代初頭は、同居の主たる介護従事者で圧倒的に多いのは嫁であった。しかし、嫁の割合が低下する一方、息子の割合が上昇することで、現在では息子が嫁を上回るようになっている。そして、男性が仕事と介護の両立をしやすい環境を考えた際に必要なものは、実は時間短縮勤務制度や月単位の長期休暇など、現在、育児中の女性が利用しているものと同様だ。また、介護との両立においても、家族を含め何らかの手助けが必要だ。
つまり、女性が理想のライフコースを歩むための諸条件は、実は女性だけでなく男性も、皆にとって必要なものだ。「女性の活躍推進」政策や「働き方改革」の後押しもあり、現在、働き方に関わる制度や慣習は改善傾向にある。まだ、いくつもの課題はあるが、まずは「女性だけでなく男性も含めて、皆にとって必要」という認識を強く持つことが必要なのではないか。
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