ビルメンテナンス「業務用清掃ロボット最前線」現状と課題、注目のロボット機種は? 日本ビルメンロボット協議会のパネル討論

ビルメンテナンス「業務用清掃ロボット最前線」現状と課題、注目のロボット機種は? 日本ビルメンロボット協議会のパネル討論:

「人手不足のため労働スタッフのコストはこれから上昇していく一方。現状ではロボットはまだまだコストが高いが、これから普及していけば導入コストが下がり、どこかで人権費との損益分岐点を突破するだろう。その意味では、イベント会場でソフトバンクロボティクスが展示している「Whiz」は、月額2.5万円、1時間500平米、4リットルの紙パック、1充電3時間、と非常にコストパフォーマンスが高いと感じる。パネルディスカッションが終わったら100台くらい予約をしたい」

各種ロボットの実証実験を積極的に行っている三菱地所の渋谷氏がそう語ると、会場内がざわめいた。



ソフトバンクロボティクスは新規参入だが、清掃ロボット業界にも新たな動きを誘発したようだ。

「ビルメンヒューマンフェア&クリーンEXPO 2018」で初展示されたソフトバンクロボティクスの業務用清掃ロボット「Whiz」(ウィズ)

業務用清掃ロボット最前線、3年間の移り変わり

11月20日~22日にかけて開催された「ビルメンヒューマンフェア&クリーンEXPO 2018」が開催され、3日間で約25,000名が来場した。22日には「業務用清掃ロボット最前線 サードステージ」と題し、ビルオーナー、ビルメンテナンス、ロボット各分野の有識者による特別パネルディスカッションが行われた。

経産省の田中幸仁氏が日本ビルメンロボット協議会の特別顧問という立場で司会を行い、三菱地所株式会社、グローブシップ株式会社、株式会社アクティオ、広島工業大学(建築保全業務ロボット研究センター)からパネリストが登壇した。

冒頭の三菱地所の渋谷氏のコメントはこの中で発せられたものだ。

司会進行の田中氏は、今回講演タイトルを「業務用清掃ロボット最前線」の「サードステージ」と命名した理由から解説した。

日本ビルメンロボット協議会 特別顧問 経済産業省 田中幸仁氏

「2016年に清掃ロボットと言うと “二足歩行ロボットがモップを持つのか?” という社会認識だった。”清掃ロボットに手足はありません”からはじまって、昨年のセカンドステージではビルメン業界とロボットメーカー業界などの方々と一緒に具体的なお話をさせて頂いた。今回のサードステージでは業務用清掃ロボットはどこまで来ているのか、今後広めるためには何が必要かを見ていきたい」とした。更に、業界内では清掃ロボットの注目が上がっていることを肌で感じられる一方で、実際に導入した企業からは「早く具体的な導入成果をだせ」「機能的にこんなことすらできない」といった辛辣な意見も聞かれるという

ロボットの高度化ではなく使う側の工夫が重要

単一の業務に特化して仕事をこなすロボットアームなどの産業用ロボットに比べ、清掃ロボットなどのサービスロボットはさまざまなシーンや現場で利用され、更には移動しながら仕事をするという難しさを強調した。また、サービスロボットは機能的にみて人間にはまだまだ劣っている。にも関わらず、自動化をはかる上で人間がやっている業務そのままで、人と入れ替えたところで上手くいくわけがない。それを解決するには「ロボットの高度化を期待すること」と「使う側がロボットを使いこなすための工夫をする」というふたつの選択肢があるが、現状では後者が重要だという見解を述べた。「業務用ロボットの高度化は目指す道ではあるものの、現状のスペックで使う側が工夫して使いこなしていくことを考えるのが、現在のステージではないだろうか」と提起した。



「あれができない、これができない、と言って闇雲にロボットの高度化を求めるのではなく、ユーザーやステークホルダーの関係者を含めてよく議論し、”こうやったら上手く使えた”や”使ってよかった”という意見を交換しながら使いこなす方法を探りながら進めていくことが大切」とした。

続いて田中氏は、ビルメン側の経営者や責任者に対して行った「業務用清掃ロボット導入に向けた課題」アンケートの回答結果を公表した。最も多い回答は「購入費用」だったが、次に多い「ビル・施設オーナーの理解と協力」に注目した。こうした背景から、今回のパネルディスカッションではあえてメンバーにロボットメーカーを加えず、ビル・施設オーナーとビルメン事業関係会社のメンバーでディスカッションを進めていきたいと語った。

掃除ロボット・レンタルと日本ビルメンロボット協議会

次にアクティオの役員であり、日本ビルメンロボット協議会の会長の糸賀氏が登壇し、アクティオは建設機械のレンタルを主力に行っている企業て、掃除ロボットのレンタルも行っている。日本ビルメンロボット競技会は業務用清掃ロボットの普及促進を目的に発足し、現在はメーカー、取扱企業が23社、オブザーバーが5団体、ふたつの大学で構成され、定期的に会合を開催し、今年7月よりコンソーシアムから協議会へと移行したと言う。

株式会社アクティオ 上席執行役員 新規事業開発部 ロボットセンター長 糸賀浩延氏。「午前中のソフトバンクさんの講演の超満員だったが、ロボットに対する注目度の高さを示している」

日本ビルメンロボット協議会では、「業務用清掃ロボット導入のための手引き書」を作成し、導入支援のツールとして配布しているとのこと。

市場の清掃ロボットを評価レビュー

続いて登壇したグローブシップの渡辺氏は現場運営で困っていること、使用している大型機材、現場が望むロボットなどについて「現場のアンケート」を紹介し、それに伴う意見なども公開した。同社は人手不足の課題に直面しているこの業界にあって、「指をくわえてただ見ているわけにもいかない」と昨年6月より清掃ロボットの研究や開発、実証をはじめたと言う。



グローブシップ株式会社 営業三部長代理 渡辺健一郎氏

渡辺氏は主な清掃ロボットの評価結果も紹介した。同社は市場で既に利用されている業務用清掃ロボットをまずは研究するため、さまざまな機種を使ってみて自社内で独自の評価を行っている。スライドでは各清掃用ロボットの特長や評点、総評が一覧されていてとても興味深いものだった。

ロボットは使ってみなければわからない

安全管理を含めて警備や清掃などビルの運営管理を行う三菱地所の渋谷氏が登壇した。

同社は大手町・丸の内エリアに多数の物件を持っていて、更に日本一の超高層ビル建築も控えることから、ロボットを活用した豊かな街作りをテーマに自動化への取り組みを積極的に進めている。同時に警備、清掃業界は特に人手不足が深刻で、ロボット導入等による自動化は喫緊の課題だとしている。

三菱地所株式会社 ビル運営事業部 兼 経営企画部 デジタルトランスフォーメーション推進室 統括 渋谷一太郎氏

こうした関係から、セグウェイ、警備ロボット、清掃ロボット(ソフトバンクロボティクス/日本信号/マクニカ等)、案内ロボット、運搬ロボットなどを次々に実証実験で導入してきた。「まずは使ってみないと有用性も課題もわからない」「実証実験を行うことで、ロボットごとの良さや欠点も明確に見えてきた」と語った。

また、同社はロボット開発ベンチャーのSEQSENSE(シークセンス)社に5億円を出資し、自律移動型ロボットの開発を支援しているが、これは「ロボットの実用面の課題についてメーカーと議論し、機能開発についても参画していきたい」と、その動機の一端を語った。

横浜ランドマークタワーでの実証実験の様子(SEQSENSE社の警備ロボット)

更には実証実験を超えて、ロボットの実導入段階フェーズに入ったとし、今月、福岡の商業施設「MARK IS 福岡ももち」に運搬ロボット「EffiBOT」(エフィボット/仏エフィボット社)と清掃ロボット「RS26」(ソフトバンクロボティクス/Brain Corp社)の実導入を発表した。

「MARK IS 福岡ももち」に運搬ロボット「EffiBOT」(右上)と清掃ロボット「RS26」(左下)を実導入

横浜ランドマークタワーで行った実証実験にも触れ、大空間で複数の警備・清掃・運搬ロボットを同時に導入した場合の課題と有用性についても確認を行った。その上で、動線について検証・検討した結果、横だけでなくロボットの縦の動線についての重要性や課題も浮き彫りになってきた、と言う。

業務用清掃ロボットを性能実験

広島工業大学の杉田教授は、市場に導入されている業務用清掃ロボットについて、大学内で行った性能検証について詳しく解説した。例えば、掃除ロボが実際に往路と復路の軌跡をトレースする正確性や誤差や、どれだけブラシが床面全体を網羅できているかについて独自の検証を行ったものだ。

広島工業大学 建築デザイン学科 教授 建築保全業務ロボット研究センター センター長 杉田洋氏



また、吸い込み性能のテスト結果も公表した。砂に比重が似ているカラーゼオライトと、0.6〜0.7gのナットネジを用意し、それらを床面に置き、どれだけ残ってしまっているかを可視化してテストした。「TVのCMなどでは掃除機が吸い取った量を見せているが、実際には吸い込めなかった、つまり残ってしまった量が重要」とした。


実験は数回にわたって行われ、カラーゼオライトでは約90%、ナットについては約80%程度の吸い込みを検証できた。これらを積み重ねることで掃除性能の指標になるのではないかと語った。


業務用ロボットの場合は、家庭用のルンバのように壁にぶつかりながら掃除することはできない(オーナーやテナントから苦情が来るため)。その点を含めて、ロボットが掃除るす範囲と人間の手作業が必要な範囲はを分担し、ロボットができない部分を人が補完していく考え方はやはり重要、と締めくくった。

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