病床を減らそうとしているらしいけど、なぜ?

病床を減らそうとしているらしいけど、なぜ?: ■目次



1――なぜ病床を減らそうとしているのか

2――病床数の国際比較

  1|突出した日本の病床数

  2|病床が多いと医療費が増加

  3|医療費の増加による影響

3――地域医療構想の概要

  1|地域医療構想に盛り込まれた病床数

  2|地域医療構想の推進プロセス

4――おわりに政府は今、「地域医療構想」という政策を進めています。人口のボリュームが大きい「団塊の世代」が75歳以上を迎える2025年になると、医療・介護需要が増加すると見られており、それに対応できる医療提供体制を整備する観点に立ち、各都道府県が医療計画の一部として2017年3月までに策定しました。



しかし、実際には「病床数を減らすための政策」と位置付けられており、特に財務省は医療費を減らす観点に立ち、地域医療構想に期待している面があります。



では、なぜ病床を減らす必要があるのでしょうか。その結果として、私たちの暮らしにどんな影響があるのか考えてみましょう。

 



2――病床数の国際比較

1突出した日本の病床数

病床削減が進められている背景を考える上では、他の先進国と比べて日本の病床数が突き抜けて多い点を念頭に置く必要があります。人口1,000人当たりの病床数に着目し、OECD(経済協力開発機構)に加盟している他の先進国と比べると、図1の通りに日本の病床数は突出しています。



こう書くと、いくつかの反論が予想されます。例えば、日本は他の国よりも高齢化が進んでおり、病床に対するニーズが大きくなる点を考慮する必要があります。さらに、医療のニーズは事前に予想が難しいため、どれぐらいの病床数が適正あるいは過剰なのか、厳密に示すことは困難です。国ごとの統計区分や国民性の違いを考慮する必要もあります。



しかし、2位の韓国は別にしても、3位以下との差は著しいですし、福祉国家の優等生として取り上げられる機会が多いデンマークで2.2床、スウェーデンで2.3床という状況です。



そう考えると、日本の病床が過剰であることは間違いありません。では、病床数が多いと何が問題なのでしょうか。病床が多ければ患者は容易に医療サービスにアクセスできるようになるので、病床が多いこと自体は一概に悪いと言い切れませんが、費用面の問題を考慮する必要があります。2病床が多いと医療費が増加

医療政策の世界では以前から「病床が多いと医療費を増やす」と考え方が支持されています。これは医療経済学で「医師需要誘発仮説」として知られる考え方で、医療サービスでは患者―医師の情報格差が大きいため、患者のニーズだけでなく、医師の判断や治療が医療の需要を作り出すと考えられています。



その結果、「病床が作られると、患者と医療費が増える」という現象が生まれやすくなるわけです。実際、日本では都道府県別の人口当たり医療費と病床数の間に、高い相関関係が見られることが知られています。こうした状況を踏まえると、国際的に過剰な病床を削れば、増加する医療費を抑制できる可能性を期待できることになります。3医療費の増加による影響

では、医療費が増加すると、何が起きるのでしょうか。公的医療保険で使った医療費を意味する「国民医療費」という統計によると、国民医療費は40兆円を超えており、その費用については、40%程度を国・自治体の税金、30%弱を国民が支払う社会保険料、約20%を会社が支払う保険料、約10%を医療機関で支払う窓口負担で賄われています。



つまり、医療費の増加は国民に課せられる税金や社会保険料が増えることを意味するわけです。しかも、国家財政は今、借金(国債)で財源を調達している状況ですし、人口のボリュームが大きい「団塊の世代」が75歳以上になると、医療費は一層増えると見られており、その抑制が求められています。その方策として地域医療構想が期待されている面があります。



実際、地域医療構想の考え方を初めて打ち出した政府の社会保障国民会議は2008年の中間報告で、「過剰な病床の思い切った適正化」を掲げており、同じ認識は2013年の社会保障制度改革国民会議報告書に継承されています。



では、地域医療構想とはいったい、どんな政策なのでしょうか。次に見ていきたいと思います。

 



3――地域医療構想の概要

1|地域医療構想に盛り込まれた病床数

地域医療構想の策定に際して、各都道府県は厚生労働省の定めた計算式に基づき、(1)難しい手術に対応する高度急性期病床、(2)救急患者を受け入れる急性期病床、(3)リハビリテーションなどで自宅復帰を目指す回復期病床、(4)慢性疾患の人などを受け入れる慢性期病床――の4つの機能について、2025年の姿を予想しました。その際には2025年までの人口変動、高齢者の増加などを反映させています。それが表(B)の「必要病床」です。



さらに、各医療機関から「うちの病院は高度急性期の機能を提供しています」といった報告を都道府県に義務付けており、これを集計したのが表の(A)です。その上で、2つの差を明らかにすることで、4つの機能について将来の需給ギャップを示しました。結果は表の通り、計8万3,000床程度が余るという予想になっています。病床機能別に見ると、高度急性期病床と急性期病床が将来余剰となり、回復期病床は不足します。さらに、慢性期病床については、医療の必要度が低い人を中心に受け入れているため、「症状が軽い患者(医療区分Ⅰ)の70%が退院し、在宅に移る」という前提で計算しました。この結果、慢性期病床が将来余剰と予想されており、その分だけ受け皿としての在宅医療を増やす必要があることを意味しています。2|地域医療構想の推進プロセス

では、地域医療構想の推進に際して、どういったプロセスが想定されているのでしょうか。地域医療構想は策定することが目的ではありません。構想に示されたデータを基に、各地域の課題を抽出し、都道府県や地域の医療・介護従事者などの関係者が議論・調整していくことが期待されており、先に触れた通り、高度急性期病床と急性期病床の削減、回復期病床の充実、慢性期病床の削減と在宅医療の充実が求められることになります。



しかし、こうした議論を進める際、都道府県の面積だと範囲が大きくなり、きめ細かい対応が難しくなります。例えば、北海道の場合、札幌市周辺は人口と病院数が多いわけですが、その他の地域では人口減と医師不足に直面しており、事情が全く異なります。



そこで、各都道府県は地域医療構想の策定に際して、人口20~30万人単位の「構想区域」を設定しました。区域は全国で計341あり、最多の北海道は21区域、東京都は13区域に分かれています。そして、それぞれに「地域医療構想調整会議」という場が作られ、先に触れた関係者が議論・調整することが想定されています。



地域医療構想の内容、病床のデータ、構想区域の区割り、調整会議における議論は都道府県のウエブサイトで把握できると思いますので、興味を持たれた方はチェックしてみて下さい。ここでは東京都のウエブサイトのリンク先を参照として載せておきます。



◇東京都地域医療構想

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/iryo_hoken/kanren/tokyochiikiiryoukousou.html

 



4――おわりに

しかし、病床の削減は地域で混乱を引き起こす時があります。具体的には、「地域の病院から急性期病床がなくなる」「医療機関の集約に伴って、近所の病院の病床数が減る」といった事態が住民の不安や反発を招き、地域社会の分断を招く恐れがあります。現に「今まで救急病院まで5分で行けたのに、病床が削減される結果、来年から15分掛かるようになる」と聞けば、不安を感じない人はいないと思います。いくら行政職員や学識者が将来の需給データや医療費の見通しを示したとしても、目の前の病院の病床が削減される事態について、住民が不安を感じるのは止むを得ない面があります。



実際、医療費を減らそうとする余り、病床数を削り過ぎると、今度は「医療難民」が生まれかねません。そう考えると、病床削減による医療費の抑制だけでなく、患者の利便性を悪化させないバランス感覚が求められます。さらに、都道府県としては今後、住民の不安に対応するため、丁寧な説明や情報提供といった対応が求められるほか、医師の確保やドクターヘリの整備など地域の実情や課題に応じたきめ細かい配慮も必要になります。





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