地方法人課税に関する2019年度税制改正について~近年の税制改正で地域間格差は縮小したのか~

地方法人課税に関する2019年度税制改正について~近年の税制改正で地域間格差は縮小したのか~: ■要旨

 



  • 近年、地方公共団体間の地方税収の地域間格差縮小に向けて、実質的に東京都を中心とする都市部から税収を吸い上げ、地方へ分配するという税制改正が数度にわたって行われている。そして、2019年度税制改正案においても同様の方向性が示された。では、近年の税制改正によって、地域間格差は実際に縮小しているのだろうか。本稿では、税制改正が地域間格差にもたらす効果について分析した。


     
  • 地方税全体の都道府県別人口一人当たりの税収格差(ジニ係数)の推移について見ると、2008年度以降は低下傾向にある。その要因を地方税の主要税目別に探ったところ、地方法人二税(法人住民税及び法人事業税)や地方消費税に関する近年の税制改正が寄与していることがわかった。また、2019年10月1日から実施される地方法人二税に関する措置の効果についても試算したところ、同様に地域間格差縮小に寄与するという結果となった。


     
  • 近年の税制改正は、地域間格差の縮小という観点からは妥当な税制改正であると言えるが、2019年度税制改正案については場当たり的な対応と言わざるを得ない。近年の地方法人課税に関する税制改正では、税制の抜本的な改革によって「税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系を構築」するまでの暫定措置が継続されてきた。2019年度税制改正では、2016年度税制改正によって廃止が決まっていた暫定措置の事後対応が焦点となっていたが、新設される制度は税制の抜本的な改革という旗を降ろすような内容となっている。


■目次



1――はじめに

2――地方税収の地域間格差について

  1|地方税とは

  2|地方税の地域間格差とは

  3|地方税の税収及び地域間格差の推移

3――地方税における主要税目別の税制改正とその効果

  1|地域間格差縮小に向けた近年の税制改正

  2|税目別の税収及び地域間格差の推移

4――地方法人課税に関する近年の税制改正とその効果

  1|地方法人課税に関する税制改正の背景と概要(2008・2014・2016年度税制改正)

  2|2019年度税制改正案の概要

  3|近年の税制改正の効果検証

5――おわりに12月14日に平成31年度与党税制改正大綱が公表された。その中で、地方公共団体(都道府県及び市区町村、以下同様)における財政力の地域間格差是正に向けた、地方法人課税に関する改正案が掲載されている。これは、地方公共団体間で地方税収の格差が生じており、特に法人課税が東京都と地方の間における格差を拡大していることを踏まえたものである。法人課税以外にも、ここ数年で数度にわたって地方消費税の清算基準の見直しが行われる1など、地方税については実質的に東京都を中心とする都市部から税収を吸い上げ、地方へ分配するという方向で税制改正が行われている。近年、東京都への人口及び企業の流入超過が加速し、ますます税収の東京都への一極集中を招いてきた。これに対して、政府は「まち・ひと・しごと創生本部」を創設し、仕事や人を東京都から地方へ移転させることで税収の過度な東京都一極集中を是正しようとしているが、現状では歯止めがかかっておらず、税制改正によって対応せざるを得なくなっている。



こうした国の方針に対して、税収の流出が続く東京都は反発を強めているが、地方法人課税に関する2019年度税制改正案でも都市部から税収を吸い上げ、地方へ分配する方向となっている。では、近年の税制改正によって、地域間格差は実際に縮小しているのだろうか。本稿では、地方税収の地域間格差と格差縮小に関する近年の税制改正に注目し、税制改正が地域間格差にもたらす効果を分析する。



本稿の構成は、以下の通りである。



まず、第2章では、地方税の税収及び地域間格差の推移について紹介する。



次に、第3章では、地方税を構成する4つの主要税目別に、近年の税制改正が地域間格差にもたらした効果を分析する。



そして、第4章では、2019年10月1日から実施予定の地方法人課税に関する2016年度及び2019年度の税制改正における方針が地域間格差にもたらす効果を試算する。



 




1 地方消費税の清算基準は、2015年度、2017年度、2018年度の税制改正で見直しが実施された。
 





2――地方税収の地域間格差について

1|地方税とは

地方税とは、国に対して納税される国税に対して、地方公共団体に対して納税される税金で、国税と地方税の税収の割合はおよそ6:4となっている。地方税は、道府県が賦課する道府県税と市町村が賦課する市町村税から成り立っており2、いずれも地方公共団体が住民に公共サービスを提供するうえでの主要な財源となっている(図表1)。また、2016年度の地方税収を税目別に見ると、個人住民税の割合が31.7%と最も高く、固定資産税(22.6%)、地方法人二税(法人住民税及び法人事業税(17.8%))、地方消費税(11.9%)と続いている(図表2)。

 




2 東京都については原則として道府県税に関する規定が、東京都23区については市町村税に関する規定が準用される。しかし23区の市町村税の一部の税目は都が賦課している。
2|地方税の地域間格差とは

税源の地域間格差については、水平的公平性の観点から人口一人当たりの税収をもって議論されることが多い。水平的公平性とは、同じ税負担をしている個人は居住地(地方公共団体)によらず、同じ水準の公共サービスを受けられ得るというものである。地方公共団体間で税収格差が生じると、水平的公平性の観点から不公平が生じるため、人口一人当たりの税収格差はできるだけ小さい方が望ましい。しかし、2016年度の地方税の都道府県別人口一人当たりの税収3を見ると、図表3の通りとなる。全国平均を100とした場合、最小の沖縄県は70を下回るのに対して、最大の東京都は約170と突出しており、両者の格差は約2.5倍にも及んでいる。政府は地方税収におけるこの東京都の突出度合いを問題視しており、地方税については実質的に東京都を中心とする都市部から税収を吸い上げ、地方へ分配するという方向で近年は税制改正が行われている4



では、近年の税制改正は実際に格差縮小に寄与しているのだろうか。まず、近年の地方税収の地域間格差の推移を見るべく、総務省の地方財政統計年報をもとに2003年度から2016年度まで5のジニ係数6を算定する。なお、総務省等の資料でよく掲載されている最大/最小倍率7については最大の都道府県(東京都)の突出度を把握する上では有用な指標であるが、全体の格差の大きさを表す指標ではないため、参考値とする。





 




3 本稿では、都道府県内の市区町村と都道府県の税収を合計した上で、都道府県別に比較している。
4 地域間格差の評価対象を人口一人当たりの一般財源(地方税+地方交付税等)とした場合、地方交付税等の財源調整機能によって東京都は110程度(全国平均=100)に落ち着く一方で、最大の島根県は約160、最小の埼玉県は約70となる。一般財源を評価対象とした場合、東京都は突出しているとは言えず、地方税のみに着目して東京都と地方の格差を是正すべきと判断するのは不適切だという意見も一理ある。しかし、地方交付税に依存するのではなく、地方税単体で税収の地域間格差を小さくする地方税体系の構築が望ましいという観点から本稿では地方税収における地域間格差と税制改正に焦点を当てる。
5 ただし、税収額は「平成29年度都道府県普通会計決算の概要(速報)」及び「平成29年度市町村普通会計決算の概要(速報)」で2017年度分が把握できるため、税収の推移は2017年度も対象とした。
6 ジニ係数とは、所得や資産の不平等あるいは格差をはかるための尺度の一つ。ジニ係数は0から1までの値をとり、ジニ係数が大きいほど格差が大きいことを表す。
7 最大/最小倍率は、一人当たりの税収額が最大の都道府県と最小の都道府県の一人当たりの税収額の倍率を比較するものである。
3|地方税の税収及び地域間格差の推移

まず、地方税収の推移について見ると、2007年度までは景気の拡大や2007年度における所得税(国税)から個人住民税(地方税)への約3兆円の税源委譲によって地方税収は増加したが、リーマンショックによる景気悪化によって2009年度は前年度から1割以上も落ち込んだ(図表4)。それ以降も税収の落ち込みが続いていたが、2013年度以降は景気の回復や2014年度の地方消費税の税率引き上げ(1.0%→1.7%)によって再び増加傾向にあり、2017年度はリーマンショック以前の水準近くまで回復している。次に、地方税全体の都道府県別人口一人当たりの税収格差の推移について見ると、2003年度から2007年度にかけてジニ係数は上昇傾向であったが、2008年度以降は低下傾向にあり、2016年度のジニ係数は0.10を下回っている(図表5)。最大/最小倍率についても概ね縮小傾向である点は共通している。

 



3――地方税における主要税目別の税制改正とその効果

前章では、地方税の都道府県別人口一人当たりの税収格差が縮小傾向にあることを確認したが、どのような要因が影響しているのか、地方税における4つの主要税目((1)個人住民税、(2)地方法人二税、(3)地方消費税、(4)固定資産税)別に、景気変動及び税制改正の観点から分析したい。1|地域間格差縮小に向けた近年の税制改正

地方税については、「税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系の構築」という基本的考え方のもとで8、地域間格差縮小に向けた税制改正が実施されてきた(図表6)。



そして、その税制改正の方向性は、各税目の特徴を踏まえたものであった。具体的には税収の安定性が高く、地域間格差の比較的小さい地方消費税については、地方税全体に占める割合を拡大する。一方で、税収の安定性が低く、地域間格差の大きい地方法人二税については、地方税全体に占める割合を縮小する、もしくは地方法人二税の格差を縮小することで地方税全体の格差を縮小するという方向性である。前者については、1997年度税制改正で消費税率引上げ(3%→5%)とあわせて地方消費税が創設(当初の税率は1.0%)されて以降、2014年度税制改正では消費税率引上げ(5%→8%)とあわせて地方消費税率も1.7%へ引上げられた結果、地方消費税の税収は増加し、地方税全体に占める割合も上昇している。さらに、2019年10月1日の消費税率引上げ(8%→10%)とあわせて2.2%への引上げも予定されている9



後者については、地方法人二税を構成する法人事業税と法人住民税のうち法人税割は所得に課税されるため10、大企業が集積する都市部に地方法人二税税収が集中し、格差拡大をもたらしている。2008年度税制改正では法人事業税の税収の一部を地方法人特別税(国税)として分離し、譲与税化して再度都道府県に分配するという制度が創設された。そして、2014年度税制改正では法人住民税法人税割の税収の一部を地方法人税(国税)として分離し、交付税原資化するという制度が創設された。これらの措置では、(1)格差拡大をもたらす法人事業税と法人住民税法人税割の一部を国税として分離することで、地方税に占める両者の割合を下げる、(2)分離分を格差縮小に寄与するような基準で再分配するという2段階の格差縮小に向けた措置が行われている。なお、(1)の効果は地方法人二税のジニ係数でも確認できるが、(2)の効果については再分配される税収が地方法人二税に含まれないため、地方法人二税のジニ係数では確認できない。したがって、再分配した税収を含めた広義の地方法人二税のジニ係数11で確認する必要がある。



その他には、個人住民税に関して、国と地方の財政関係の不均衡の是正や地方分権の推進という主旨で、2004年度から2007年度にかけて国庫補助金の縮減、税源委譲、地方交付税の改革が一体(三位一体の改革)で行われ、国税である所得税から地方税である個人住民税へ3兆円規模の税源が移譲された。



 




8 旧自治省は、『地方税制の現状とその運営の実態』(1997年)において地方税原則を明文化しており、地方税にふさわしい税目の特性として「普遍的かつ十分な収入」と「収入の安定性」を挙げている。地方分権推進委員会の第2次勧告(1997年7月8日)においても「できるだけ税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系の構築に配慮すべきである」とされた。その後も、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」や「税制改正大綱」などで度々引用されている。
9 軽減税率が適用される場合の地方消費税率は1.76%(2.2%の10分の8)となる。
10 法人住民税のうち均等割は、資本金や従業者数によって税率が異なる。また、法人事業税についても資本金1億円超の法人は、外形標準課税として所得以外に付加価値額や資本金等の額にも課税される。
11 広義の地方法人二税のジニ係数の算定方法は後述する図表20の注2を参照。
2|税目別の税収及び地域間格差の推移

当節では、4つの主要税目((1)個人住民税、(2)地方法人二税、(3)地方消費税、(4)固定資産税)別に税収及び地域間格差の推移を見ていくことで、税目別の特徴と税制改正の効果を確認したい。(1) 個人住民税

個人住民税の税収推移を見ると、所得税から個人住民税への税源委譲によって、2006年度から2007年度にかけて大きく増加したが、それ以降は景気の悪化や回復による大きな変動は見られない。したがって、個人住民税は比較的安定的で税収の変動が小さい税目といえるだろう(図表7)。また、個人住民税の都道府県別人口一人当たりの税収格差について見ると、地方税全体と同様に格差が年々縮小傾向にある(図表8)。ただし、ジニ係数は恒常的に地方税全体を上回っている。



2006年度から2007年度にかけて格差が大きく縮小しているのは、2007年度に個人住民税のうちの所得割の税率が従来の累進構造(5%、10%、13%の3段階)から一律構造(10%)へ改正されたことが主因と考えられる。この改正によって、高額所得者が多い都心部の地方公共団体は減収となる一方で、低額所得者が多い地域の地方公共団体は増収となり、格差が縮小した。(2) 地方法人二税

地方法人二税の税収推移を見ると、2007年度まで増加傾向が続いていたが、景気悪化によって2008年度から2009年度にかけて大きく落ち込んだ(図表9)。その後は景気回復によって税収も回復傾向にある。



税制改正の観点からは2008年度に法人事業税の一部が地方法人特別税(国税)として、そして2014年度には法人住民税法人税割の一部が地方法人税(国税)として分離されたため、税収の押下げ要因となった。しかし、この分離分を戻した広義の地方法人二税で比較したとしても、2008年度から2009年度にかけて4割近くも落ち込んでおり、やはり地方法人二税は景気変動の影響を受けやすく、税収の変動が大きい税目といえるだろう。次に、地方法人二税の都道府県別人口一人当たりの税収格差について見ると、ジニ係数は恒常的に0.15を上回っており、主要4税目の中で最大となっている(図表10)。格差の推移は2007年度に最大となった後、2009年度までに大きく縮小したが、その後2014年度まで拡大し、2015年度は横ばい、2016年度は縮小となった。景気変動の観点からは、景気が拡大すると地方法人二税税収は増加するが、大企業が集積する東京都などの都市部を中心に増加するため、格差は拡大する。したがって、景気拡大が続いた2007年度までは格差が拡大した後、景気悪化によって格差は縮小したが、ここ数年は景気回復によって再び格差が拡大したと言えるだろう。



一方で、税制改正の観点からは2008年度及び2014年度の税制改正によって、格差拡大をもたらす法人事業税と法人住民税法人割の一部を分離したため、格差縮小に寄与したと考えられる。2008年度税制改正については景気の落ち込みによる格差縮小とあいまって、その効果は定かでないが、2014年度税制改正については景気の回復による格差拡大を相殺した結果、2015年度及び2016年度の格差は横ばいから縮小したと考えられる。(3) 地方消費税

地方消費税の税収推移を見ると、2014年度の地方消費税率の引上げ(1.0%→1.7%)に伴い、税収が大きく増加したことを除けば、景気の悪化や回復による大きな変動は見られない。地方消費税は安定的で税収の変動が小さい税目といえるだろう(図表11)。なお、2019年10月に地方消費税率が1.7%から2.2%まで引上げられるため、さらに地方消費税収の増加が見込まれる。次に、地方消費税の都道府県別人口一人当たりの税収格差について見ると、ジニ係数は恒常的に0.06未満と地方税全体よりかなり小さく、主要4税目の中で最小となっている(図表12)。



また、格差の推移は、2013年度以前はジニ係数の変動が小幅に留まっているが、2014年度以降は縮小傾向となっている。これは、2015年度、2017年度、2018年度と三度にわたる税制改正での清算基準の見直しが寄与している。



清算とは、仕向地原則のもと最終消費地と税収の最終的な帰属地を一致させるという主旨の制度であり、一旦納税された税収を各都道府県間で「消費に相当する額」に応じて按分している。「消費に相当する額」は、商業統計調査・経済センサス活動調査などの統計データが利用されるが、統計上の課題12を踏まえ、代替指標として人口や従業者数も清算基準に組み込まれている。「消費に相当する額」は周辺地域から東京都へと集中するため、東京都への按分割合も相対的に高いが、三度にわたる税制改正では代替指標の割合、特に人口の割合が引上げられたため、格差縮小に寄与している。





 




12 統計において、「消費に相当する額」が最終消費地とは異なる事業所の所在地で計上されているとの理由で、2015年度税制改正において情報通信業等を除外、そして2017年度税制改正においては通信・カタログ販売及びインターネット販売を除外することとされた。
(4) 固定資産税

固定資産税の税収推移を見ると、2012年度に東日本大震災の影響で若干落ち込んだが、都市部の地価上昇等に伴い、回復傾向にある。固定資産税は、土地・家屋や償却資産の価格に課税されるものであるため、地価や設備投資など景気に左右される側面もあるが、その影響は限定的で地方消費税同様、安定的で税収の変動が小さい税目といえるだろう(図表13)。



固定資産税の都道府県別人口一人当たりの税収格差について見ると、ジニ係数は恒常的に0.08~0.09で推移しており、主要4税目の中では地方消費税に次いで格差が小さい(図表14)。また、格差の推移については、固定資産税において格差縮小に関連する税制改正が行われていないこともあって、ジニ係数の変動が主要4税目の中で最小である。以上をまとめると、税制改正の影響を除く税収の安定性は地方法人二税が低い一方で、他の3税目は比較的安定している(図表15)。近年、地方税収が増加しているのは、景気回復に伴う地方法人二税の税収増加と税制改正に伴う地方消費税の税収増加の寄与度が大きい。



また、地域間格差の大きさは、地方法人二税が最も大きく、地方消費税が最も小さい(図表16)。近年、地方税全体の格差が縮小しているのは、格差の大きい地方法人二税の税収増加が拡大要因となるも、地方法人二税における税制改正が縮小要因として相殺していることに加え、格差の小さい地方消費税の地方税全体に占める割合が上昇していることが寄与していると考えられる。改めて確認してきたように、地方税については「税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系を構築する」という基本的考え方のもとで、各税目の特徴を踏まえた税制改正が行われており、実際に地域間格差縮小にも寄与している。なお、地方法人課税に関する2016年度税制改正と2019年度税制改正案で示された方針については、ともに2019年10月1日から実施される予定であるため、次章では地方法人課税に関する税制改正に焦点を当て、これらの効果を試算したい。1|地方法人課税に関する税制改正の背景と概要(2008・2014・2016年度税制改正)

2003 年度以降、地方法人二税の税収増加に伴い、地方税収の地域間格差が拡大したことから、2007年度に格差の縮小が大きな議論となった。当初は、税収の安定性が高く、地域間格差の小さい消費税と税収の安定性が低く、地域間格差の大きい地方法人課税の税源を交換13することで地方税全体の安定性の向上と地域間格差の縮小を図ることも検討されたが、最終的には消費税を含む税制の抜本的な改革は見送られた。そして、税制の抜本的な改革において偏在性の小さい地方税体系が構築されるまでの暫定措置として、法人事業税の一部を譲与税化することとなった(図表17)。そして、2008年度税制改正では、地方法人特別税及び譲与税制度が創設され、法人事業税の一部を国税である地方法人特別税として分離し、分離分を地方法人特別譲与税として都道府県に対して人口及び従業者数によって按分したうえで譲与することとなった。制度創設時は、税源交換とほぼ同様の格差縮小効果が得られるよう、当時の地方消費税1%相当分である2.6兆円が地方法人特別税(国税)として分離された。



また、2014年度税制改正では、2014年4月の地方消費税率の引上げを踏まえ、再び地方法人課税のあり方の見直しによる税収の地域間格差の縮小に向けた議論がなされた。その結果、法人住民税法人税割の一部を国税である地方法人税として分離し、税収の全額を交付税の原資として交付税及び譲与税配付金特別会計に直接繰入れる仕組みが創設された(図表18)。そして、地方法人特別税・地方法人特別譲与税制度については、税制の抜本改革の途中段階であることも考慮し、地方法人特別税(国税)の規模を3 分の2 に縮小し、縮小分を法人事業税に復元することとされた。



さらに、2016年度税制改正では、消費税率10%への引上げ時(当初は、2017年4月)に、法人住民税法人税割の交付税原資化をさらに拡充する一方で、地方法人特別税・地方法人特別譲与税制度については廃止する方針が示された14(以下、この方針を「2016年度税制改正」と表記)。しかし、消費税率10%への引上げが2019年10月に延期されたことに伴い、これらの措置もあわせて延期されている。

 




13 地方法人二税を国税化し、国税化相当分の地方消費税率を引上げることによって税源を交換する。
14 2016年度税制改正大綱には、「消費税率10%段階においては、(中略)地方法人特別税・譲与税を廃止するとともに現行制度の意義や効果を踏まえて他の偏在是正措置を講ずるなど、関係する制度について幅広く検討を行う。」とされた。
2|2019年度税制改正案の概要

2019年度税制改正に際しては、地方法人特別税・地方法人特別譲与税制度廃止後、すなわち2019年10月1日以降の新たな格差是正措置が焦点とされた。そして、2018年11月20日には地方法人課税に関する検討会15の報告書において、法人事業税における新たな偏在是正措置の具体的な方策等が示された。



報告書で示された具体的な方策等を見ると、2016年度税制改正によって地方法人特別税・地方法人特別譲与税制度は廃止するとされていたにも関わらず、新設される制度は地方法人特別税(国税)や地方法人特別譲与税の記載こそないものの、実質的には従来の制度と同様の仕組みとなっている(図表19)。両者の違いは、新たな制度では各都道府県への按分基準が人口のみを基本としていること16と、従来の譲与税化に加えて、より格差是正効果の高い交付税原資化も選択肢に入れていることが挙げられる。なお、報告書が示された後も金額の詳細などが政府与党で検討され、与党税制改正大綱で詳細が明らかになった。与党税制改正大綱によると、法人事業税から分離する国税には「特別法人事業税」、さらにそれを譲与税化したものについては「特別法人事業譲与税」という仮称がつけられた。また、按分方法については、東京都など普通交付税の財源超過団体への分配額を単純計算の4分の1とし、残りの4分の3については他の都道府県に分配するという、東京都への集中攻撃とも言える基準が追加されている。



地方法人特別税・地方法人特別譲与税制度は税制の抜本的な改革において偏在性の小さい地方税体系の構築が行われるまでの間の暫定措置という位置づけであったため、本来であれば制度の廃止にあたって税制の抜本的な改革についても検討されるべきところ、その様子は見られない。さらに、報告書の内容によると、「新たな措置は、将来に向かって安定した制度とすべき」とあり、従来の「暫定措置」という位置づけや、その先にある「税制の抜本的な改革」という旗を降ろすような記述となっている。



 




15 地方法人課税に関する検討会は、平成30 年度与党税制改正大綱(2017 年12 月14 日自由民主党・公明党)を踏まえ、2019年度税制改正に向けて、地方法人課税における税源の偏在を是正する新たな措置について、地方法人課税に関する専門的見地からの検討を行うため、2018年5 月に総務省の地方財政審議会に設置され、2018年11月までに7回の会合が開催された。
16 現行における按分基準は、人口と従業者数を2分の1ずつとしている。従業者数は人口と比べて、東京都に集中しており、東京都と地方間の格差拡大を招いている。
3|近年の税制改正の効果検証

当節では、2019年10月1日からの実施が予定されている2016年度税制改正及び2019年度税制改正案の措置によって、どの程度地域間格差が縮小されるかについて、2016年度の税収実績をもとに試算を行った(図表20)。試算においては、(1)一切の措置が実施されていない、(2)現状(法人事業税及び法人住民税法人税割における2014年度改正が実施されている)、(3)2019年10月1日以降(法人住民税法人税割における2016年度改正及び法人事業税における2019年度税制改正が実施される)の3つのパターンに分類した。措置による影響については、広義の地方法人二税におけるジニ係数17が、(1)(0.219)→(2)(0.135)→(3)(0.095)と税制改正による措置によって格差が縮小していることがわかる。特に(3)2019年10月1日以降のジニ係数は、地方税全体と同程度となっている。



また、東京都への影響額は、(2)現状から(3)2019年10月1日以降にかけて法人住民税法人税割では3000億円弱、法人事業税では2000億円弱、総額で4500億円超の追加減収となっている。さらに、(1)一切の措置が実施されていない場合と(3)2019年10月1日以降を比べると、減収総額は9000億円以上にも及んでいる。



次に、法人事業税における2019年度税制改正について、地方法人課税に関する検討会の報告書では、「譲与税化により十分な偏在是正効果を得られない場合には、交付税原資化も視野に入れて検討する」と記載されているため、(4)2019年10月1日以降に法人事業税の分離分が交付税原資化される場合((3)の代替案)についても試算を行った(図表21)。

措置による影響については、広義の地方法人二税におけるジニ係数が(3)から(4)にかけて0.095から0.132へとむしろ上昇している。これは、(3)でも一人当たりの広義の地方法人二税税収が少ない埼玉県、千葉県、神奈川県(下位4都道府県のうちの3県、残りは奈良県)が、(4)ではさらに減収となるなど新たな格差が生じるためである。したがって、当面は譲与税化に留め、しっかり検証したうえで交付税原資化も視野に入れるべきであろう。



 




17 先述の通り、これらの措置では(1)格差拡大をもたらす法人事業税と法人住民税法人税割の一部を国税として分離することで、地方税に占める両者の割合を下げる、(2)分離分を格差縮小に寄与するような基準で再分配するという2段階の格差縮小に向けた措置が行われている。地方法人二税のジニ係数では(1)の効果しか確認できないため、広義の地方法人二税のジニ係数を対象とし、(1)および(2)の両方の効果を確認する。
 





5――おわりに
地方公共団体における税源の地域間格差については、人口一人当たりの税収格差ができるだけ小さい方が望ましい。そして、格差の縮小に向けては、「税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系の構築が必要」という基本的考え方のもと、地方税収の地域間格差を縮小していくことで、税源の地域間格差を縮小していくことが望ましいと考える。近年の税制改正は、税収の安定性が高く、地域間格差の比較的小さい地方消費税の地方税全体に占める割合を拡大する、また税収の安定性が低く、地域間格差の大きい地方法人二税については、地方税全体に占める割合を縮小する、もしくは地方法人二税の格差を縮小するといった方向性で行われてきた。そして、税制改正の効果を見ても、実際に地域間格差縮小に寄与している。現時点で未実施の地方法人課税に関する2016年度税制改正及び2019年度の税制改正案についても、その効果を試算したところ、地域間格差縮小に寄与すると見られ、地域間格差の縮小という観点からは妥当な税制改正であると言えるだろう。



しかし、2019年度税制改正案については場当たり的な対応と言わざるを得ない。地方法人課税に関連する近年の税制改正の背景を振り返ると、地方法人特別税・地方法人特別譲与税制度は、2007年当時に地域間格差是正への早急な対応が求められた中で、あくまで消費税と地方法人課税の税源交換など税制の抜本的な改革を行うまでの暫定措置という位置づけで開始された。したがって、本来であれば2016年度の税制改正によって地方法人特別税・地方法人特別譲与税制度が廃止されることが決まった時点で、同制度に代わる対応として税制の抜本的な改革も検討すべきではなかったのだろうか。しかし、実際には法人事業税を対象とした新制度の創設が選択され、しかも地方法人課税に関する検討会の報告書には、新制度を「将来に向かって安定した制度とすべき」とあり、従来の「暫定措置」という位置づけや、その先にある「税制の抜本的な改革」という旗を降ろすような記述となっている。



確かに、東京都に地方法人二税の税収が過度に集中していることを踏まえると、格差縮小に向けた税制改正が必要なことについては同感である。しかし、その方策として近年実施されているような各地方公共団体への分配、すなわち地方公共団体の中でのゼロサムゲーム的な対応では、不十分である。税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系の構築に向けては、地方法人二税を国税化し、国税化相当分だけ地方消費税率を引上げるというような抜本的な改革を検討するべき時期が既に到来しているのではないだろうか。 



 







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