遺伝子検査って何?どう役にたつの?-急激に下がった解析コスト ゲノムの全容解明が進行中-
遺伝子検査って何?どう役にたつの?-急激に下がった解析コスト ゲノムの全容解明が進行中-: 2013年に米国の女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝子検査の結果、乳ガンを発症する可能性が高いと判定され、発症のリスクを避けるために両方の乳腺を切除したことは、世界中に大きな衝撃をもたらしました。
その後、急速に遺伝子検査が身近なものになってきました。テレビや雑誌で「遺伝子検査」の広告を見る機会もあります。遺伝子検査とはどんなもので、これからの医療にどのような影響を与えるのでしょうか。
なお「遺伝子検査」という用語は専門的には、「遺伝学的検査」と「遺伝子検査」という用語が使い分けられていますが、本レポートでは「遺伝子検査」という用語で一本化して使用します。○遺伝
顔がそっくり、目や髪の色がいっしょなど、姿形、体質その他の形質が親から子へと引き継がれることを遺伝と呼びます。大まかに言うと、遺伝は細胞の中にある遺伝情報が親から子へ受け継がれることによって起こります。遺伝情報を媒介しているのが遺伝子です。
○DNA
人間の体は37兆とも言われる膨大な数の細胞でできています。その1つ1つに核があり、核の中に染色体があります。染色体は細かく複雑に折り畳まれたDNAとたんぱく質でできています。DNAは、リン酸のひも2本がそれぞれの節々から出した塩基の手をつないで縄ばしごのようになりながら、らせん状の形態をなしているものです。塩基には、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)という4 種類があり、AにはTがつながり、GにはCがつながる、という2通りの組みあわせでしか結合しません(これを対と言います)。ヒトのDNAにはこの塩基対が全部で約30億個あります。
○遺伝子
DNA上の塩基の配列のところどころに「遺伝情報」が書かれています。「遺伝情報」とは「背を伸ばす」とか「二重まぶた」等、そのヒトをつくる設計図のような情報のことです。対になった塩基の並び方によって「遺伝情報」が表現されます。その「遺伝情報」の 1 つ1つの基本単位を「遺伝子」と呼んでいます。ヒトのDNAの中には遺伝子が約2万数千種あると推定されていますが、遺伝子ごとに、構成する塩基配列の長さは、数百塩基~数十万塩基と、かなり異なっています。
○ゲノム
ある生物の「遺伝情報の全体」をゲノムと呼びます。ゲノムは「生物を形成・維持するのに必要な最小限の遺伝情報」です。ゲノムは、生まれてから成長し子孫を残して死ぬまでの様々な状況に必要な生命の設計図、仕様書です。遺伝子は特定の機能を持つ部品とその指令書と言えます。ヒトのゲノムの全てを解析しようという「ヒトゲノム計画」は、1990年に開始され、2003年に完了しました。これにより、ゲノムのどこにどのような遺伝子があるかを示す大まかな地図が作成されました。ただし解析したと言っても、まだDNA上の4種類の塩基の並び方(配列)を読み取ったにすぎません。現在、その配列が意味する情報の内容を読み解こうとする研究が続けられています。
ある特定の遺伝子に異常がある場合にある特定の病気を発症しやすいといったことが判明した事例も少なからず出てきました。以前はゲノムを調べるには莫大なコストがかかったものでしたが、テクノロジーが進歩し、今ではかつての100万分の1程度にまで遺伝子検査のコストが下がったといわれます。ゲノム、遺伝子の構造を低コストで解析することが可能となり、「私のゲノムを解析してもらう」といったようなことが自然に行われ身近なものとなる時代が近づいてきています。遺伝子検査は、ゲノム・遺伝子の構成(DNAの塩基対の順序)を解析して、特定の遺伝子に何らかの変異が起こっていないかを確かめたり、その人の体質や特定の病気(遺伝性疾患等)へのかかりやすさ(発症リスク)を解析したりする検査です。
遺伝子検査では血液を使用することが一般的です。しかし、体の全ての細胞は共通の遺伝子の構成を持っていますので、口腔粘膜(綿棒で頬の内側を軽くこすって採取)、皮膚、髪の毛の毛根、爪、唾液(に含まれる口腔上皮細胞)などでも検査は可能です。
後述しますが、がん細胞などで、後天的に起こった、次世代に受け継がれることのない遺伝子変異の検査は、手術などの際に採取された組織を用いて行われます。
また近年、医療とは関係なくインターネットや郵便を通してサービス事業者に体質、能力等についての評価を依頼する、いわゆる「遺伝子検査ビジネス」が登場してきていますが、そのような検査では、唾液の採取や口の中の粘膜を少しこすって採取するといった簡単な方法を用いて自分で採取を行う形が取られています。
なお医療現場では、網羅的に全遺伝子を調べるということはあまりなく、発症した症状に応じて、どの遺伝子に異常があるのではないかとの推測をした上で、特定の1つないし複数の遺伝子のみについて狙いを定めた解析が行われることが通例のようです。1|実施例が多いのは、病原体の遺伝子検査と変異を起こした体細胞の遺伝子検査
図表3のグラフは、櫻井晃洋著『そうなんだ!遺伝子検査と病気の疑問』から抜粋して掲載させていただいています。これは2010年の衛生検査所における遺伝子検査の実施件数を、その目的別に見て、構成比をまとめたものです。2010年と、時点は古いですが、遺伝子検査の現状がよくわかります。
これによると、実施件数が圧倒的に多いのは感染症の細菌等の病原体を対象とする遺伝子検査で、全体件数の94%を占めていることがわかります。次が白血病やがんを発症した患者の病変部の遺伝子検査で、診断を確定するために行われるものです。白血病とがんをあわせて5%を占めています。
前項までに説明してきたような、ゲノム・遺伝子の構造解析を通じて将来の病気発症リスクの予測等を行うような遺伝子検査は現在の所、医療現場ではほとんど行われていないようです。2|実施されている遺伝子検査の代表例
(1)ヒトに感染症を引き起こす病原体の遺伝子検査
肝炎ウイルスや結核菌等、人に感染症を引き起こす細菌、ウイルスなどの核酸を検出・解析する検査です。感染の疑われる様々な臨床検体(血清やその他の体液、組織など)を用いて、病原体の存在の有無を特定し、病気を判別、確定します。
近年の医療現場における遺伝子検査としては、件数ベースでは、この形態が大宗を占めています。
(2)悪性腫瘍(がん組織)等、体細胞の変異を解析する遺伝子検査
がん、白血病等は生まれてから後天的に起こる遺伝子の変異で次世代に受け継がれることはありません。これを対象とする遺伝子検査は「どんな種類のガンか?」「この抗がん剤は効くか?」という、診断や治療方法の選択のために行われます。遺伝子検査は医療機関で行われ、説明も医師や医療従事者によってのみ行われます。
抗がん剤の効果予測は、がん治療で主流となりつつある分子標的薬による治療の効果を確かめるために行われるものです。分子標的薬は、腫瘍組織で活性化したり過剰に発現しているタンパク質などを狙い撃ちしてその機能を抑える薬剤ですが、その薬が有効である遺伝子変異なのかどうか、重い副作用が起きないか等を確かめます。
(3)発症した遺伝病を診断、確定する遺伝子検査
単一の遺伝子の変異により発症する単一遺伝子疾患である遺伝性疾患、家族性腫瘍の発症が疑われる場合に、診断、確定するために行われます。
(4)使用する薬に対する副作用、薬効等を調べる遺伝子検査
何らかの遺伝情報がある場合にある生体反応を起こすことが判明している薬を使用しようとする場合に実施する検査で、その人の当該薬に対する感受性を検査し、薬の効果や副作用を投薬前に予測します。それにより、危険な副作用を避け、効果の乏しい薬を使用することを回避できます。
(5)発病前に実施する、「単一遺伝子疾患の発症リスクを判定する遺伝子検査」
成人期発症の、単一の遺伝子の変異が原因とされる遺伝病(単一遺伝子疾患。神経変性疾患、家族性腫瘍など)を将来発症するリスクがあるかどうかを判定する遺伝子検査です。検査を受ける時点では患者でないため、通常の医療の対象とはならず、すべて自費診療です。3|発病前に実施する、「多因子疾患の発症リスクを判定する遺伝子検査」については、現在 研究中
がん、心血管病、糖尿病、認知症、アレルギー疾患など、多くの疾患は、複数の遺伝的要素と環境要因等の複雑な相互作用により発症すると考えられており、「多因子疾患」と呼ばれています。
「多因子疾患」の発症と関連する遺伝子(DNA上の位置)が特定された事例も出てきていますが、ゲノム・遺伝子のみで「多因子疾患」の発症リスクを診断することは困難です。
将来的には研究が進み、「多因子疾患」の発症リスク判定もできるようになると期待されていますが、現状では医療行為として「多因子疾患」の遺伝子検査を行うことはできないとされています。平成27年6月現在では、36種の遺伝性疾患や一部の悪性腫瘍の遺伝子検査が保険適用となっています1。健康保険の適用が認められている遺伝子検査を行う場合には保険診療となります。
保険適用になっていない疾患は、検査の実費が検査を受ける人の自己負担となります。
近年、郵便やインターネット等のやり取りで、消費者が血液や唾液等を業者に郵送し、業者がその中の遺伝子を解析し、生活習慣病等の罹患しやすさ、体質、能力等を判定・評価する、消費者向け遺伝子検査ビジネスが普及してきています。申し込みの取り次ぎを歯科医等が行っているケースもありますが、基本的には医療機関を介さず直接消費者と業者が契約しますのでダイレクト・トゥ・コンシューマー遺伝子検査(Direct to Consumer Genetic Testing=DTC遺伝子検査)との呼び名もあります。
医療現場での病気の診断や治療・投薬の方針決定を目的とする遺伝子検査とは異なり、統計データに基づき疾患罹患リスクや体質等に関する「確率の情報」を提供し、生活習慣の是正に役立たせることを目的としています。病気罹患リスクの評価は、生活習慣病等、多因子疾患のみを対象としています。単一遺伝子疾患は対象としていません。
「生活習慣の是正に役立つ」といった観点から、たとえば、糖質、脂肪、タンパク質それぞれに対する代謝のしやすさを調べ、その人の太りやすさの傾向を示して、ダイエットの考え方の示唆につなぐといった形で、結果が伝えられているようです。
医療上の診断のための検査ではないことに注意が必要です。遺伝子検査、ゲノム解析の進歩は、医療の「ゲノム医療化」をもたらします。
わが国では2014年に策定された「健康・医療戦略」で「ゲノム医療」に前向きな姿勢が打ち出され、以降、その実現に向けた取組みが続けられています。
「ゲノム医療」とは、ゲノム情報等をもとにして、その人の体質や病状等、個人ごとの違いを考慮して、最も有効な治療、予防等を行うことです。
前項までに見てきた中でも、単一の遺伝子が原因となる一部の難病、がん等において、「個人の遺伝子を調べて薬の効きやすさや副作用の起こりやすさを確かめ、その人に一番あった治療法を考案するオーダーメイド医療」、「がんをひきおこす遺伝子の働きを抑える遺伝子(がん抑制遺伝子)を患者の身体に組み込む遺伝子治療」等の形で、「ゲノム医療」が一部実現され始めています。
一方、多因子疾患(生活習慣病等)においては、ゲノム医療が進歩すれば、医師や保健師等が早期介入、指導を行うことを通じて発症の予防を行えるようになると期待されていますが、いまだ研究段階の域を出ていません。ただし、前述の通り、一部の類似的なサービスが消費者向け遺伝子検査ビジネス(DTC遺伝子検査)として提供されています。
ゲノムの研究がさらに進んだより将来的には、ゲノムの特定の場所を切断したり、切断したところに別の遺伝子を入れ込んだりして、ゲノムを人間の思い通りに改変するゲノム編集すら実現しそうです。
神の領域に踏み込むかのような医療の進歩。実現すれば、人の生き方まで変えてしまいそうですね。
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なお「遺伝子検査」という用語は専門的には、「遺伝学的検査」と「遺伝子検査」という用語が使い分けられていますが、本レポートでは「遺伝子検査」という用語で一本化して使用します。○遺伝
顔がそっくり、目や髪の色がいっしょなど、姿形、体質その他の形質が親から子へと引き継がれることを遺伝と呼びます。大まかに言うと、遺伝は細胞の中にある遺伝情報が親から子へ受け継がれることによって起こります。遺伝情報を媒介しているのが遺伝子です。
○DNA
人間の体は37兆とも言われる膨大な数の細胞でできています。その1つ1つに核があり、核の中に染色体があります。染色体は細かく複雑に折り畳まれたDNAとたんぱく質でできています。DNAは、リン酸のひも2本がそれぞれの節々から出した塩基の手をつないで縄ばしごのようになりながら、らせん状の形態をなしているものです。塩基には、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)という4 種類があり、AにはTがつながり、GにはCがつながる、という2通りの組みあわせでしか結合しません(これを対と言います)。ヒトのDNAにはこの塩基対が全部で約30億個あります。
○遺伝子
DNA上の塩基の配列のところどころに「遺伝情報」が書かれています。「遺伝情報」とは「背を伸ばす」とか「二重まぶた」等、そのヒトをつくる設計図のような情報のことです。対になった塩基の並び方によって「遺伝情報」が表現されます。その「遺伝情報」の 1 つ1つの基本単位を「遺伝子」と呼んでいます。ヒトのDNAの中には遺伝子が約2万数千種あると推定されていますが、遺伝子ごとに、構成する塩基配列の長さは、数百塩基~数十万塩基と、かなり異なっています。
○ゲノム
ある生物の「遺伝情報の全体」をゲノムと呼びます。ゲノムは「生物を形成・維持するのに必要な最小限の遺伝情報」です。ゲノムは、生まれてから成長し子孫を残して死ぬまでの様々な状況に必要な生命の設計図、仕様書です。遺伝子は特定の機能を持つ部品とその指令書と言えます。ヒトのゲノムの全てを解析しようという「ヒトゲノム計画」は、1990年に開始され、2003年に完了しました。これにより、ゲノムのどこにどのような遺伝子があるかを示す大まかな地図が作成されました。ただし解析したと言っても、まだDNA上の4種類の塩基の並び方(配列)を読み取ったにすぎません。現在、その配列が意味する情報の内容を読み解こうとする研究が続けられています。
ある特定の遺伝子に異常がある場合にある特定の病気を発症しやすいといったことが判明した事例も少なからず出てきました。以前はゲノムを調べるには莫大なコストがかかったものでしたが、テクノロジーが進歩し、今ではかつての100万分の1程度にまで遺伝子検査のコストが下がったといわれます。ゲノム、遺伝子の構造を低コストで解析することが可能となり、「私のゲノムを解析してもらう」といったようなことが自然に行われ身近なものとなる時代が近づいてきています。遺伝子検査は、ゲノム・遺伝子の構成(DNAの塩基対の順序)を解析して、特定の遺伝子に何らかの変異が起こっていないかを確かめたり、その人の体質や特定の病気(遺伝性疾患等)へのかかりやすさ(発症リスク)を解析したりする検査です。
遺伝子検査では血液を使用することが一般的です。しかし、体の全ての細胞は共通の遺伝子の構成を持っていますので、口腔粘膜(綿棒で頬の内側を軽くこすって採取)、皮膚、髪の毛の毛根、爪、唾液(に含まれる口腔上皮細胞)などでも検査は可能です。
後述しますが、がん細胞などで、後天的に起こった、次世代に受け継がれることのない遺伝子変異の検査は、手術などの際に採取された組織を用いて行われます。
また近年、医療とは関係なくインターネットや郵便を通してサービス事業者に体質、能力等についての評価を依頼する、いわゆる「遺伝子検査ビジネス」が登場してきていますが、そのような検査では、唾液の採取や口の中の粘膜を少しこすって採取するといった簡単な方法を用いて自分で採取を行う形が取られています。
なお医療現場では、網羅的に全遺伝子を調べるということはあまりなく、発症した症状に応じて、どの遺伝子に異常があるのではないかとの推測をした上で、特定の1つないし複数の遺伝子のみについて狙いを定めた解析が行われることが通例のようです。1|実施例が多いのは、病原体の遺伝子検査と変異を起こした体細胞の遺伝子検査
図表3のグラフは、櫻井晃洋著『そうなんだ!遺伝子検査と病気の疑問』から抜粋して掲載させていただいています。これは2010年の衛生検査所における遺伝子検査の実施件数を、その目的別に見て、構成比をまとめたものです。2010年と、時点は古いですが、遺伝子検査の現状がよくわかります。
これによると、実施件数が圧倒的に多いのは感染症の細菌等の病原体を対象とする遺伝子検査で、全体件数の94%を占めていることがわかります。次が白血病やがんを発症した患者の病変部の遺伝子検査で、診断を確定するために行われるものです。白血病とがんをあわせて5%を占めています。
前項までに説明してきたような、ゲノム・遺伝子の構造解析を通じて将来の病気発症リスクの予測等を行うような遺伝子検査は現在の所、医療現場ではほとんど行われていないようです。2|実施されている遺伝子検査の代表例
(1)ヒトに感染症を引き起こす病原体の遺伝子検査
肝炎ウイルスや結核菌等、人に感染症を引き起こす細菌、ウイルスなどの核酸を検出・解析する検査です。感染の疑われる様々な臨床検体(血清やその他の体液、組織など)を用いて、病原体の存在の有無を特定し、病気を判別、確定します。
近年の医療現場における遺伝子検査としては、件数ベースでは、この形態が大宗を占めています。
(2)悪性腫瘍(がん組織)等、体細胞の変異を解析する遺伝子検査
がん、白血病等は生まれてから後天的に起こる遺伝子の変異で次世代に受け継がれることはありません。これを対象とする遺伝子検査は「どんな種類のガンか?」「この抗がん剤は効くか?」という、診断や治療方法の選択のために行われます。遺伝子検査は医療機関で行われ、説明も医師や医療従事者によってのみ行われます。
抗がん剤の効果予測は、がん治療で主流となりつつある分子標的薬による治療の効果を確かめるために行われるものです。分子標的薬は、腫瘍組織で活性化したり過剰に発現しているタンパク質などを狙い撃ちしてその機能を抑える薬剤ですが、その薬が有効である遺伝子変異なのかどうか、重い副作用が起きないか等を確かめます。
(3)発症した遺伝病を診断、確定する遺伝子検査
単一の遺伝子の変異により発症する単一遺伝子疾患である遺伝性疾患、家族性腫瘍の発症が疑われる場合に、診断、確定するために行われます。
(4)使用する薬に対する副作用、薬効等を調べる遺伝子検査
何らかの遺伝情報がある場合にある生体反応を起こすことが判明している薬を使用しようとする場合に実施する検査で、その人の当該薬に対する感受性を検査し、薬の効果や副作用を投薬前に予測します。それにより、危険な副作用を避け、効果の乏しい薬を使用することを回避できます。
(5)発病前に実施する、「単一遺伝子疾患の発症リスクを判定する遺伝子検査」
成人期発症の、単一の遺伝子の変異が原因とされる遺伝病(単一遺伝子疾患。神経変性疾患、家族性腫瘍など)を将来発症するリスクがあるかどうかを判定する遺伝子検査です。検査を受ける時点では患者でないため、通常の医療の対象とはならず、すべて自費診療です。3|発病前に実施する、「多因子疾患の発症リスクを判定する遺伝子検査」については、現在 研究中
がん、心血管病、糖尿病、認知症、アレルギー疾患など、多くの疾患は、複数の遺伝的要素と環境要因等の複雑な相互作用により発症すると考えられており、「多因子疾患」と呼ばれています。
「多因子疾患」の発症と関連する遺伝子(DNA上の位置)が特定された事例も出てきていますが、ゲノム・遺伝子のみで「多因子疾患」の発症リスクを診断することは困難です。
将来的には研究が進み、「多因子疾患」の発症リスク判定もできるようになると期待されていますが、現状では医療行為として「多因子疾患」の遺伝子検査を行うことはできないとされています。平成27年6月現在では、36種の遺伝性疾患や一部の悪性腫瘍の遺伝子検査が保険適用となっています1。健康保険の適用が認められている遺伝子検査を行う場合には保険診療となります。
保険適用になっていない疾患は、検査の実費が検査を受ける人の自己負担となります。
近年、郵便やインターネット等のやり取りで、消費者が血液や唾液等を業者に郵送し、業者がその中の遺伝子を解析し、生活習慣病等の罹患しやすさ、体質、能力等を判定・評価する、消費者向け遺伝子検査ビジネスが普及してきています。申し込みの取り次ぎを歯科医等が行っているケースもありますが、基本的には医療機関を介さず直接消費者と業者が契約しますのでダイレクト・トゥ・コンシューマー遺伝子検査(Direct to Consumer Genetic Testing=DTC遺伝子検査)との呼び名もあります。
医療現場での病気の診断や治療・投薬の方針決定を目的とする遺伝子検査とは異なり、統計データに基づき疾患罹患リスクや体質等に関する「確率の情報」を提供し、生活習慣の是正に役立たせることを目的としています。病気罹患リスクの評価は、生活習慣病等、多因子疾患のみを対象としています。単一遺伝子疾患は対象としていません。
「生活習慣の是正に役立つ」といった観点から、たとえば、糖質、脂肪、タンパク質それぞれに対する代謝のしやすさを調べ、その人の太りやすさの傾向を示して、ダイエットの考え方の示唆につなぐといった形で、結果が伝えられているようです。
医療上の診断のための検査ではないことに注意が必要です。遺伝子検査、ゲノム解析の進歩は、医療の「ゲノム医療化」をもたらします。
わが国では2014年に策定された「健康・医療戦略」で「ゲノム医療」に前向きな姿勢が打ち出され、以降、その実現に向けた取組みが続けられています。
「ゲノム医療」とは、ゲノム情報等をもとにして、その人の体質や病状等、個人ごとの違いを考慮して、最も有効な治療、予防等を行うことです。
前項までに見てきた中でも、単一の遺伝子が原因となる一部の難病、がん等において、「個人の遺伝子を調べて薬の効きやすさや副作用の起こりやすさを確かめ、その人に一番あった治療法を考案するオーダーメイド医療」、「がんをひきおこす遺伝子の働きを抑える遺伝子(がん抑制遺伝子)を患者の身体に組み込む遺伝子治療」等の形で、「ゲノム医療」が一部実現され始めています。
一方、多因子疾患(生活習慣病等)においては、ゲノム医療が進歩すれば、医師や保健師等が早期介入、指導を行うことを通じて発症の予防を行えるようになると期待されていますが、いまだ研究段階の域を出ていません。ただし、前述の通り、一部の類似的なサービスが消費者向け遺伝子検査ビジネス(DTC遺伝子検査)として提供されています。
ゲノムの研究がさらに進んだより将来的には、ゲノムの特定の場所を切断したり、切断したところに別の遺伝子を入れ込んだりして、ゲノムを人間の思い通りに改変するゲノム編集すら実現しそうです。
神の領域に踏み込むかのような医療の進歩。実現すれば、人の生き方まで変えてしまいそうですね。
【関連レポート】
がんの治療はどのくらい進歩していて、どのくらい費用がかかるものなの?
健康保険を使えないことがあるの?自由診療、混合診療って?-健康保険がカバーする領域 混合診療-
入院日数を短くしようという動きがあるの?-医療の進歩と医療費適正化政策で入院日数の短期化が進行中-
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