医療費控除によって所得税は軽減されるの?

医療費控除によって所得税は軽減されるの?: 医療費の支払いが年間で一定の金額を超える場合、医療費控除で所得税が軽減されます。本稿では所得税額の計算方法と医療費控除(セルフメディケーション税制を含む)の概要を説明します。理解を深めて制度を上手に活用しましょう。1医療費控除で課税所得が減少し、所得税が軽減

医療費控除で所得税が軽減されるしくみは、所得税額の計算方法から理解できます。まず、所得税は課税所得に税率を掛けた額から税額控除額1を引いて算出されます(式1)。このうち、課税所得は、所得から非課税の手当と所得控除を差し引いた額になります(式2)。



  式1  所得税=課税所得×税率-税額控除

  式2  課税所得=所得-非課税の手当-所得控除



ここで、所得とは、収入から経費を差し引いたものです(式3)。会社勤めの方の収入は、税金や保険料が差し引かれる前の給与、一般的に年収と呼ばれるもので、源泉徴収票に載っている支払金額です。給与での収入に対する経費に相当する金額は、給与所得控除額として定められています2。そのため、会社勤めの方で収入が給与のみの方の所得は「収入-定められた給与所得控除額」になります(式4)。



 式3  所得 = 収入-経費

 式4  給与所得のみの場合の所得 = 収入 -給与所得控除額



そして、課税所得を計算する際に所得から差し引かれるのが、非課税の手当3と所得控除です。医療費控除は、この所得控除の一つです。そのために、医療費控除があると所得控除が増えて課税所得が小さくなり、それによって所得税が小さくなるのです。

 




1 所得控除が課税所得を小さくすることで所得税を減らすのに対して、税額控除は課税所得に税率を掛けた後の所得税額から直接差し引くものです。税額控除の主なものには配当控除、住宅借入金等特別控除があります。国税庁「税額控除」参照。(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1200.htm, 2018/11/27アクセス)
2 給与所得控除額(引用:国税庁「給与所得控除」https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1410.htm、2018/11/27アクセス)


給与所得控除額(引用:国税庁「給与所得控除」

3 手当は原則課税所得ですが、通勤手当や仕事上の都合での転勤費用などが例外的に非課税の手当になります。決められた限度内での非課税の扱いになりますので、詳細は税務署等でご確認ください。
4 国税庁「所得金額から差し引かれる金額(所得控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/shoto320.htm (2018/11/27アクセス)
2所得税の税率

課税所得に掛けられる税率は表2のように定められています。課税所得の額に応じて、課税所得に掛けた税率から、さらに控除額を引いた額が式1の「課税所得×税率」にあたる額になります。たとえば、仮に、課税所得が600万円の人は、772,500円 (6,000,000円×20%-427,500円) が「課税所得×税率」になります。このため、医療費控除の金額が同じでも税率が高い人(すなわち課税所得が高い人)の方が医療費控除で軽減される所得税の金額が大きくなります。

 




5 国税庁「所得税の税率」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm(2018/11/27アクセス)
ここまで、所得税額の算出方法から、医療費控除が所得税を軽減するしくみを説明してきました。では医療費控除の対象、金額、申請方法はそれぞれどのように定められているのでしょうか。



1医療費控除の対象

医療費控除の対象の医療費の要件は (1) 納税者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費であることと、(2) その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費であることの2点です6。具体的に対象になる医療費とならない医療費の内容は、表3のように分類できます。

 




6 国税庁「医療費を支払ったとき(医療費控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm


(2018/12/17アクセス)
7 原則公共交通機関、やむを得ない場合のみタクシー可。患者を一人で通院させることが危険な場合は、付添人も対象。
8 一定の積極的支援のみ。詳細以下参照: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000340408.pdf(2018/12/3アクセス)
9 例) 乳腺炎などの異常があるときの母乳マッサージ等
10 指定介護老人福祉施設(特別擁護老人ホーム)のサービスの対価として支払った額の2分の1、介護老人保健施設、指定介護療養型医療施設(療養型病床群等)介護老人保健施設、介護医療院で受けた施設サービスの対価として支払った額
11 訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、短期入所療養介護等で療養上の世話に相当する金額
12 約6か月以上寝たきりで医師の治療を受けている場合で、おむつを使う必要があると認められるときで、医師が発行した「おむつ使用証明書」が必要。
13 出典1:国税庁「医療費控除の対象となる医療費」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm


(2018/12/3 アクセス)
2医療費控除の金額

医療費控除額は、実際に支払った対象の医療費から、保険金などの補填額(生命保険や損害保険の保険金で支払われた額や、出産育児一時金など)と、10万円か総所得金額の5%の少ない方を引いて算出されます(式5)。医療費控除額の上限は200万円です14



 式5  医療費控除額 = 支払った医療費 - 補填額 -10万円か総所得金額の5%の少ない方



所得税の計算方法から分かるとおり、医療費控除額が所得税の軽減額ではありません。医療費控除額に所得税の税率を掛けた額が医療費控除額によって減税される額になります。たとえば、所得金額が500万円の人で、25万円の対象の医療費があり、生命保険などの補填が無い場合、医療費控除額は、15万円になります (25万円 -10万円)。これに、所得税の税率の20%を掛けた額である3万円が所得税から減額されることになります15





 




14 国税庁「医療費を支払ったとき(医療費控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm 


(2018/12/17アクセス)
15 住宅ローン控除を受けているなどして、納税額が控除額より少なくなる場合は、納税額以上には還付はされません。
3医療費控除の申請方法

会社勤めの多くの方の所得税は、給料から天引きされ会社が代わりに納付しており(源泉徴収)、所得控除を申請する機会には、年末調整と確定申告があります。生命保険料や社会保険料の控除は、年末調整で勤務先を通して調整することができますが、医療費控除は確定申告(還付申告)を行う必要があります。通常の確定申告は、翌年の2月中旬~3月中旬の間に行う必要がありますが、医療費控除のような還付申告は、翌年の1月から5年以内の間に手続きできます。申告の際に必要な書類は以下の表4に記載の通りで、通常自分が住んでいる場所の管轄の税務署に申告の手続きを行います。

 




16 提出は不要ですが、自宅で5年間は保管しておく必要があります。
17 医療費のお知らせなどで所定の項目が記載されたものに限られます。
18 確定申告書の記入方法は以下「確定申告特集」参照(平成29年度)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/yoshiki.htm(2018/12/4アクセス)
19 「平成29年度分所得税及び復興所得税の確定申告の手引き」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki2017/pdf/01.pdf(2018/12/4アクセス)
20 国税庁「医療費控除に関する手続について(Q&A)」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/iryohikozyoQA.pdf


(2018/12/4アクセス)
セルフメディケーション税制は、医療費控除の特例で、「健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人が、平成29年1月1日以降に、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができるもの」21です。従来の医療費控除と併用はできませんが、従来の医療費控除が適用されない場合でも、セルフメディケーション税制は適用される場合があります。また、どちらも適用可能な場合は、どちらで申請した方が還付額が大きくなるのか検討して、申請するとよいでしょう。



1セルフメディケーション税制の適用を受けるための要件

セルフメディケーション税制の適用を受けるためには、健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行ったことを証明する必要があります。この一定の取組とは表5の項目を指します。表5に挙げられた項目のうち、一つでも行っていれば、一定の取組を行ったとみなされます。申告の際には、これらの取組を行ったことを証明する領収書や結果通知表の提出が必要です23。市町村が自治体の予算で住民サービスとして実施する健康診査や、任意で受診した全額自己負担の健康診査は含まれません。また、一定の取組みを行うためにかかった費用は所得控除の対象になりません22





 




21 引用: 厚生労働省「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html (2018/12/17アクセス)
22 厚生労働省「セルフメディケーション税制に関する Q&A」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000176205.pdf (2018/12/17アクセス)
23 厚生労働省 〔「一定の取組」の証明方法について〕https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000143635.pdf (2018/12/17アクセス)
2セルフメディケーション税制の対象

セルフメディケーション税制は平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間の、自己又は自己と生計を一にする者のスイッチOTC医薬品の購入代が対象です。対象品目は構成労働省のWEBサイトで確認できます。一般的なかぜ薬や、胃腸薬、鼻炎薬、目薬、水虫薬など様々な医薬品が対象に含まれます24





 




24 対象品目は厚生労働省の以下のWEBサイトより、「対象品目一覧」参照(2018/12/13アクセス) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
3セルフメディケーション税制による控除金額

セルフメディケーション税制による医療費控除額は、対象の商品の購入費の合計から保険などで補填される金額と1万2千円を差し引いた額(式6)で、最高で8万8千円です25

式6  医療費控除額(セルフメディケーション税制)  = 対象品目の購入費 - 補填額 -1万2千円



 




25 国税庁「特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
4 セルフメディケーション税制の申請方法

セルフメディケーション税制の申請は、通常の医療費控除の申請と同様に確定申告(還付申告)を行う必要があります。申請に必要な書類は、通常の医療費控除の申請と同様で、医療費控除の明細書に代わり、セルフメディケーション税制の明細書が必要です26。セルフメディケーション税制の明細書は対象品目を購入した際の領収書やレシートを元に作成しますが、従来の医療費控除の申請時と同様に領収書やレシート自体の提出は不要です。領収書やレシートは自宅で5年間保管する必要があります。





 




26 国税庁の下記WEBサイトよりダウンロード可能 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/pdf/ref2.pdf  (2018/12/17アクセス)
5 医療費控除とセルフメディケーション税制

従来の医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。セルフメディケーション税制の対象品目の購入費が1万2千円を超え、従来の医療費控除の対象金額は10万円を超えない場合は、セルフメディケーション税制でのみ控除が申請できます。反対に、従来の医療費控除の対象金額が10万円を超え、セルフメディケーション税制の対象品目の購入費が1万2千円未満の場合は、従来の医療費控除でのみ控除の申請が可能です。



セルフメディケーション税制対象品目の購入費が1万2千円以上で、従来の医療費控除の対象金額が10万円以上の場合、還付額を比較するために計算が必要です。まず、従来の医療費控除は控除額の上限が200万円なのに対し、セルフメディケーション税制の上限は8万8千円です。そのため、従来の医療費控除額が8万8千円を超える場合は、従来の医療費控除の方が控除額が大きくなります。



一方、従来の医療費控除額が8万8千円以下の場合は、従来の医療費控除の対象額とそれに占めるセルフメディケーション税制の対象額の大きさから、どちらの方が還付額が大きくなるか計算できます。例えば、総所得金額が200万円以上で、従来の医療費控除の対象額が12万円の場合を考えます。この場合、従来の医療費控除額は2万円(12万円-10万円)です。セルフメディケーション税制の対象額がそのうち4万円の場合、セルフメディケーション税制を適用した場合の医療費控除額は2万8千円(4万円-1万2千円)で、従来の医療費控除額より大きくなります(図1の上の例)。一方、セルフメディケーション税制の対象額が3万円の場合は、セルフメディケーション税制を適用した場合の医療費控除額は1万8千円(3万円-1万2千円)で、従来の医療費控除を活用した方が控除額が大きくなります(図1の下の例)。同一世帯で、夫は従来の医療費控除での申請、妻はセルフメディケーション税制による申請、と別々に申請することも可能です。どの制度を利用して医療費控除の申請を行うかは申請者に委ねられています。自身に最適な方法で制度を活用しましょう。





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