働く女性の消費志向-独身と妻は「こだわり」、母は「安価重視」「環境安全」と「衝動買い」

働く女性の消費志向-独身と妻は「こだわり」、母は「安価重視」「環境安全」と「衝動買い」: ■要旨

 



  • 30代前後の結婚・子育て期で働く女性が増えている。本稿では未既婚や子の有無などに注目して、働く女性の消費志向の特徴を捉える。分析には、ニッセイ基礎研究所が実施した25~59歳の女性5千人を対象にした調査 のデータを用いる。


     
  • まず、女性全体で見ると、「こだわり志向」「中古・シェア志向」「衝動買い志向」「安価重視志向」「環境安全配慮志向」の5つの消費志向が存在する。「こだわり志向」や「衝動買い志向」、「安価重視志向」は若いほど、「環境安全配慮志向」は高年齢ほど、「中古・シェア志向」は30代を中心に強い。また、「安価重視志向」は子のいる女性で、「環境安全配慮志向」は既婚者で強い。


     
  • 働く女性について「独身」「妻」「母」別に見ると、独身と妻は似た特徴を示し、「こだわり志向」が強く、母は「安価重視志向」や「環境安全配慮志向」、「衝動買い志向」が強い。働く母の「衝動買い志向」はモノへの衝動的な欲求やストレス発散ではなく、時間がないために、多めに買いこんでしまうためだ。


     
  • 「独身」「妻」「母」の特徴を年代別や年収別に見ても、全体と同様であり、女性の消費行動は、結婚をしているかどうかよりも、子どもがいるかどうかの影響が大きいと言える。なお、「環境安全配慮志向」は年齢が高いほど、「安価重視志向」は年収が低いほど、顕著に強まる傾向もある。


     
  • 政策の後押しもあり、今後、働く母が増えるだろう。子育て期は出費のかさむ時期であり、家計の管理は妻が担う家庭が多いとすれば、働く母は消費者として魅力的だ。働く母には時間や労力のコストを減らす商品やサービスが響きやすいだろう。働く母は家族のために加えて、自分のための消費にも旺盛だとすれば、働く母が増えれば、日本の消費市場の活性化につながる可能性もある。


■目次



1――はじめに

 ~働く女性の旺盛な消費意欲、個人消費全体を底上げする可能性も

2――女性の消費志向

 ~「こだわり」「中古・シェア」「衝動買い」「安価重視」「環境安全重視」の5つが存在

3――働く女性の消費志向

 ~独身や妻は「こだわり」、母は「安価重視」「環境安全配慮」「衝動買い」

  1|ライフスタイル別に見た違い

  2|働く母で強い「衝動買い」志向

  3|年代別・ライフスタイル別に見た違い

  4|年収別・ライフスタイル別に見た違い

4――おわりに

 ~働く母が増えれば消費市場は活性化する可能性も?時間や労力のコスト低減が鍵M字カーブは解消傾向にあり、働く女性が増えている。同じ年収階級の男女の消費性向を比べると、おおむねどの年収階級でも女性が男性を上回り、働く女性の消費意欲は旺盛だ(図表1)。政策の後押しもあり、今後とも働く女性は増える見込みだ。自分の所得を持つ女性が増え、女性の消費が伸びれば、日本の個人消費全体が底上げされる可能性もある。



一方で家計の管理は妻が担う家庭が多く、女性の消費行動は結婚をしているかどうか、子どもがいるかどうかなど、ライフスタイルの違いによる影響を受けやすい。また近年、就業率が特に高まっているのは30代前後の結婚・子育て期の女性だ。



よって、本稿では、増え行く働く女性の消費志向について、未既婚や子の有無などのライフスタイルによる違いに注目して、その特徴を捉えていく。分析には、ニッセイ基礎研究所が実施した25~59歳の女性5千人を対象にした調査1のデータを用いる。



 




1 「女性のライフコースに関する調査」、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176
 





2――女性の消費志向

はじめに、女性全体でどのような消費志向があるのかを捉えた上で、次いで、働く女性についてライフスタイル別に見ていきたい。調査では、消費行動に関わる30の項目をあげ、それぞれどの程度あてはまるか、「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の5段階の選択肢を用意し、得られたデータに因子分析を行った(図表2)。因子分析の結果より、25~59歳の女性の消費志向には、「こだわり志向」「中古・シェア志向」「衝動買い志向」「安価重視志向」「環境安全配慮志向」の5つが存在する。なお、各志向の名称は、それぞれの志向を構成する主な変数から決定している。「こだわり志向」は、価格が品質に見合っているかなどについて、情報を吟味しながら、自分のライフスタイルや感覚にこだわってじっくりと検討するという意味合いを持つ。また、「中古・シェア志向」は中古品でも気にしない、レンタルサービスやシェアリングサービスを積極的に使う、「衝動買い志向」は計画的というより衝動的に、つい予定外の買い物をしてしまう、「安価重視志向」はとにかく安くて経済的なものを買う、「環境安全配慮志向」は環境や安全性に配慮して商品を買うという意味合いを持つ。



これらの志向の強さについて年代別に見ると、若いほど「こだわり志向」や「衝動買い志向」、「安価重視志向」が強い傾向がある(図表3)。一方で年齢とともに「環境安全配慮志向」が顕著に強くなる。また、30代を中心に「中古・シェア志向」がやや強い。未既婚別に見ると、未婚者では「環境安全配慮志向」が弱い。また、子の有無別に見ると、子どもがいない女性では「安価重視志向」が弱い。就業女性について年収別に見ると、年収とともに「こだわり志向」や「衝動買い志向」が強くなる。一方で年収が低いほど「安価重視志向」が強くなる。また、年収300~700万円や年収700万円で「中古・シェア志向」がやや強く、年収700万円以上で「環境安全配慮志向」が顕著に強い。

 



3――働く女性の消費志向

1|ライフスタイル別に見た違い

ここからは働く女性に注目し、ライフスタイルによる違いを捉える。なお、本稿では、未婚女性を「独身」、既婚で子どものいない女性を「妻」、既婚で子どものいる女性を「母」として、これら3つのセグメントの特徴を見ていく。



働く女性の消費志向について、3つのセグメント別に見ると、全体的に独身と妻は似た傾向があり、母と比べて「こだわり志向」がやや強い(図表4)。「こだわり志向」を構成する主な変数の合致度(「あてはまる」「ややあてはまる」の選択割合の合計値)を見ても、両者の「こだわり」はおおむね変わらないが、妻は「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する」や「自分のライフスタイルにこだわって商品を選ぶ」の合致度がやや高く、独身は「何かを買うときには、事前に情報収集を十分にする」や「欲しいと思えるものとの出会いを求めて、インターネットをよく見る」の合致度が僅かに高くなっており、同じ「こだわり」でも意味合いに若干違いがある。

 一方、母は「安価重視志向」や「環境安全配慮志向」、「衝動買い志向」が強い傾向がある。なお、「環境安全配慮志向」は、独身→妻→母となるにつれて強まる。また、妻と母は「中古・シェア志向」が強い傾向がある。



以上より、独身や妻などの子どものいない女性は、何かを買う時には時間をかけて情報収集をしたり、自分の好みにこだわって選ぶ傾向があるが、母になると、それらのこだわりは弱まり、家計の節約などを考慮して安くて経済的なものを選んだり、子どもをはじめ家族のために環境や安全に配慮して選んでいる様子がうかがえる。2働く母で強い「衝動買い」志向

一方で働く母は「衝動買い志向」も強い傾向がある。その理由を探るために、「衝動買い志向」を構成する主な変数の合致度を見ると、母は、独身や妻と比べて、「いつも予定より多く買い物をしてしまう」の合致度が高い(図表5)。一方、「買ったものでも、すぐ飽きてしまう」や「新しい商品は人より先に買いたい」の合致度はやや低い傾向がある。つまり、働く母の「衝動買い志向」は、モノへの衝動的な欲求というよりも、仕事と育児の両立で限られた時間の中で、買える時にまとめて買うために、つい多めに買ってしまうということなのだろう。なお、調査では、「時間のゆとりの程度」も尋ねているが、やはり母は圧倒的に時間のゆとりがない(図表6)。また、買い物でストレスを発散する女性も少なくないだろうが、実は、働く母は、独身や妻と比べて悩みやストレスがある割合が低い傾向がある(詳細は別途分析予定)。図表6を見ると、悩みやストレスがある割合は、独身>妻>母の順となっている。



よって、働く母の「衝動買い志向」は、衝動的な欲求やストレス発散というよりも、時間がない中で買い込んでしまうということのようだ。



また、独身女性は「買ったものでも、すぐ飽きてしまう」の合致度が比較的高いことから、衝動的な欲求でモノを買う、いわゆる「衝動買い」の傾向が強いのは独身女性と言える。3年代別・ライフスタイル別に見た違い

さらに、働く女性について年代別にライフスタイルによる消費志向の違いを見たところ、いずれの年代でも、全体と同様、妻と独身の特徴が似ており、「こだわり志向」が強い傾向がある(図表7)。また、母では「安価重視志向」や「環境安全配慮志向」、「衝動買い志向」が強い傾向がある。一方で「環境安全配慮志向」は年齢による差が大きく、若い年代では母であっても、他年代と比べて「環境安全配慮志向」は強くない。「環境安全配慮志向」は、子どもを思う母の気持ちもあるだろうが、年齢の影響の方が大きいようだ。また、全体でも妻や母で「中古・シェア志向」が強い傾向があったが、年代別には若い年代ほど、その特徴が顕著に表れている。若いほど「中古・シェア志向」が強い傾向があることは、既出レポートで述べた通りだ2。デジタルネイティブである若者ほど、店舗よりネットでの購入を好む傾向があり、ネットでの個人間売買への抵抗が弱い。さらに、若者は安価なものを求めて情報収集をしている。



 




2 久我尚子「シェアリング志向が強いのは誰?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研究レポート(2018/6/25)
4年収別・ライフスタイル別に見た違い

さらに、年収別にライフスタイルによる消費志向の違いを見たところ、母では年収によらず「安価重視志向」や「環境安全配慮志向」、「衝動買い志向」が強い傾向がある(ただし年収700万円以上はサンプル数が少ないため参考値の部分も多い)。一方で、年収とともに経済的余裕が生まれるためか「安価重視志向」は顕著に弱くなる。なお、この点と矛盾するようだが、年収700万円以上の母では「中古・シェア志向」が強い。その理由については、サンプル数が限られるため、データを深堀りすることが難しいが、年収700万円以上の母では決して若い年代が多いわけではない(50歳代が約6割)。可能性として考えられるのは、前述の既出レポート2でも指摘した点だ。男性では、年収300万円付近と年収1千万円付近で「中古・シェア志向」が強いのだが、前者はとにかく安くおさえたいという経済的理由によるものであり、後者はモノによっては(例えば消耗品など)コストパフォーマンスを重視して安くおさえるという合理的判断の上で利用している。コスパ意識に関連の深い「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する方だ」という問いについて、あてはまる割合を見ると、男性では年収とともに選択割合が上昇し、年収1千万円でピークを示す。同様に、働く女性の年収とコスパ意識の関係を見ると、全体でも母でも、年収とともにコスパ意識は高まり、年収700万円以上で最も高くなる(図表9)。

 



4――おわりに

本稿では、結婚・子育て期の女性で就業率が高まっていることに注目し、働く女性について「独身」「妻」「母」の特徴を捉えた。子どものいる母に対して、子どものいない独身や妻の消費志向は似た特徴を示していた。独身や妻は「こだわり志向」が強く、母は「安価重視志向」や「環境安全配慮志向」、「衝動買い志向」が強い傾向がある。これは年齢別に見ても年収別に見ても同様であり、女性の消費行動は、結婚をしているかどうかよりも、子どもがいるかどうかの影響が大きいと言える。なお、「環境安全配慮志向」は年齢が高いほど、「安価重視志向」は年収が低いほど、顕著に強まる傾向もある。



独身や妻で「こだわり志向」が強いのは、子どものいる母と比べて時間のゆとりがあるために、何かを買う時は時間をかけて情報収集をして、自分の好みにこだわって選ぶ時間があるためのようだ。一方、母になると、独身や妻で見られたこだわりは弱まり、家計の節約などを考慮して安くて経済的なものを選んだり、子どもをはじめ家族のために環境や安全に配慮して選んでいる様子がうかがえた。さらに、母で興味深い点は、衝動買い志向が強いことだ。これはいわゆる女性の衝動買いでイメージされるような、モノへの衝動的な欲求やストレス発散ではなく、時間がないために買える時につい買い込んでしまう、ということのようだ。



政策の後押しもあり、今後、特に子育てをしながら働く女性が増えるだろう。子育て期は出費のかさむ時期であり、家計の管理は妻が担う家庭が多いとすれば、働く母は消費者として魅力的だ。働く母は節約意識や環境や安全に配慮する意識が高く、時間がないためにまとめ買いをするという特徴がある。また、高年収の母はシェアリングサービスなどを活用する傾向もある。働く母には、金額面でのコスト低減のほか、買い物にかかる時間の短縮3、あるいは家事・育児の代行4など時間や労力のコストを減らす商品やサービスが響きやすいだろう。働く母は家族のための消費に加えて、自分のための消費にも旺盛であるため5、働く母が増えれば、日本の消費市場の活性化につながる可能性もある。



 




3 例えば、ネット宅配野菜のオイシックスでは、予め商品がカートに入っており、利用者は不要なものをカーとから削除し、必要なものを追加する仕組みだ。
4 働く母の「中古・シェア志向」の強さと家事や育児のシェアリングサービスの親和性は高い。年収と友に高まる合理的な判断に加えて、スマホワンストップによる利便性の高さも時間のゆとりのない働く母に響きやすいのだろう。
5 久我尚子「働く女性の消費実態 ~独身・妻・母の生活状況や消費志向の違いは?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2013/5/13)
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