米中間選挙結果と今後の経済政策への影響-追加減税やオバマケア廃止の軌道修正は必至
米中間選挙結果と今後の経済政策への影響-追加減税やオバマケア廃止の軌道修正は必至: (議席数・投票率):下院で民主党が過半数を奪取。関心の高さから投票率は大幅上昇
11月6日に行われた中間選挙では、上院(100議席)のおよそ3分の1に当る35議席、下院(435議席)の全議席が改選された。上院では共和党が53議席、民主党が47議席と共和党が過半数を維持した。また、下院は共和党が199議席、民主党が235議席、勝敗未定1議席*と、民主党が過半数を獲得した。民主党が下院で勝利するのは08年の選挙以来である。
トランプ大統領は、中間選挙を自身の信任投票と位置付け、共和党候補者の応援を積極的に行ってきた。出口調査では「中間選挙に投票したのはトランプ氏が理由か」との質問に、6割超が「トランプ氏が理由」と回答しており、有権者も同大統領に対する信任投票と位置付けていたことが分かる。
また、今回の中間選挙に対する関心は非常に高く、投票率は49.2%と、16年の大統領選挙時(60.1%)は下回ったものの、前回の中間選挙(36.7%)から10%ポイント以上上昇した[図表1]。一般的に大統領を選出しない中間選挙は、大統領選に比べて投票率が低くなる傾向がある。実際、04年~12年では中間選挙の投票率が大統領選に比べて20%ポイント程度低かった。
このため、前回の大統領選からの低下幅が10%程度に留まったことは、今回の中間選挙に対する有権者の関心がいかに高かったかが分かる。
(ねじれ議会):党派性が強まっている中で議会は機能不全に陥る可能性
来年からの新議会(第116議会)では上下院で多数政党の異なるねじれ議会となる。
米国ではねじれ議会は特殊ではなく、オバマ前政権時代の1期目後半(第112議会)と2期目の前半(第113議会)、それ以前では共和党レーガン政権時代の1期目前半から2期目前半(第97議会~第99議会)でねじれ議会となっていた。
このため、ねじれ議会になってもトランプ大統領による政権運営への影響は限定的との見方もあるようだ。しかしながら、筆者はねじれによる影響は大きいと考えている。
米国議会で法案を成立させるためには、上下両院を通過させる必要があるが、ねじれ議会では与野党が対立する法案を成立させることは難しい。
また、近年は、共和党議員はより保守的に、民主党議員はよりリベラルな投票行動を採る傾向が強まっており、超党派での政策協調が困難になっている。
実際、オバマ前政権による10年のオバマケア関連法や、トランプ政権による昨年の税制改革法は、与党議員の賛成のみで成立させており、与党が両院で過半数を確保していたからこそ可能であった。
さらに、オバマ前政権時代の最初のねじれ議会(第112議会)では、与野党の対立激化から2年間の法案成立数が僅か284本に留まったほか、法案成立率も2%と過去最低となった[図表2]。このため、第112議会は「最も生産性の低い議会」と非難されていた。
トランプ大統領は政策実現に向けて、超党派での政策協調を促すために一定程度野党民主党の意向を政策に反映する必要がある。
しかしながら、20年に大統領選挙を控えていることや、トランプ大統領の好戦的な性格から、民主党との協調路線をとる可能性は低いとみられる。
このため、第116議会は、第112議会の再来となり、議会が機能不全に陥る可能性が高いだろう。(中間選挙の争点):「医療」や「移民」、「経済・雇用」が争点。「税」の関心は低い。
出口調査に基づき、有権者に関心が高かった政策の争点をみると、オバマケアを巡る「医療」が26%と最も高く、次いで「移民」(23%)、「経済・職」(19%)となっていた。一方、それぞれの争点毎に、投票先の政党には、大きな乖離がみられる[図表3]。
なお、トランプ大統領が実現に意欲を示している「税制改革」は4%に留まったほか、投票先が民主党と共和党で拮抗していたため、有効な争点として有権者にアピールできていない。
一方、有権者の関心が最も高かった「医療」に関しては、民主党がオバマケア廃止に反対する方針を明確に示している。
また、追加減税についても同様に反対する意向を示していることから、トランプ大統領が実現を目指すこれらの政策では、民主党の反対で法案成立が不可能なため、軌道修正は必至だろう。
(今後の経済政策)
中間選挙後の経済政策で最も注目される通商政策のうち、「米中貿易戦争」に関しては、トランプ大統領が、中国に対して強硬姿勢で臨んでいることを評価する声は多い。
中国による知的財産権の侵害や、強制的な技術移転問題に関する課題意識は、与野党、財界、日本や欧州などの先進国で共有されており、トランプ大統領に対する期待が大きい。このため、トランプ大統領による対中強硬姿勢に変化はないだろう。もっとも、同大統領が制裁手段として追加関税を多用していることについては、米経済への悪影響から、財界を中心に見直しを求める声は多い。
一方、トランプ大統領が通商政策で標的としているのは中国だけではない。来年以降に交渉が本格化するとみられる輸入自動車に関しても、同大統領は、追加関税を示唆している。輸入自動車関税が賦課される場合には米国をはじめ世界経済への影響が非常に大きいため、今後の交渉が注目される。
なお、本来議会の権限である通商政策交渉について、トランプ大統領が安全保障などを理由に、大統領権限を行使し、議会を無視する形で制裁手段の決定が行われていることに関しては、議会からの反発が強い。このため、議会には大統領権限を縛るための法律を立法化する動きも一部にみられているが、実現は難しいだろう。
インフラ投資については、トランプ大統領と、民主党ともに投資の拡大を目指しており、両者で政策協調の可能性が残っている。
ただし、20年の大統領選挙を睨んでトランプ大統領の成果にしたくない民主党の政治的な思惑や、インフラ投資実現のための財源問題などもあって、実際に政策協調できる可能性は低いとみられる。
(財政・債務残高):財政状況の悪化が経済政策の制約要因に
トランプ大統領が実現した大型減税や拡張的な財政政策の結果、財政状況は急激に悪化している。
議会予算局(CBO)は、現在の予算関連法が継続すると仮定した場合に債務残高(名目GDP比)は、足元の78%から20年後には118%への増加を見込んでいる[図表4]。
また、一部時限措置となっている減税や歳出拡大を恒久化した場合は、同148%まで拡大すると試算しており、財源確保なしに、財政収支を悪化させる新たな政策を実現することは困難である。
一方、財源確保策については、共和党は増税に反対するほか、民主党は国防以外の歳出削減に反対することが予想されるため、与野党が合意出来る財源確保は難しい状況である。
このため、トランプ大統領が実現を目指す追加減税やインフラ投資の拡大は財政面からも実現が困難だろう。
*12月12日時点
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トランプ大統領は、中間選挙を自身の信任投票と位置付け、共和党候補者の応援を積極的に行ってきた。出口調査では「中間選挙に投票したのはトランプ氏が理由か」との質問に、6割超が「トランプ氏が理由」と回答しており、有権者も同大統領に対する信任投票と位置付けていたことが分かる。
また、今回の中間選挙に対する関心は非常に高く、投票率は49.2%と、16年の大統領選挙時(60.1%)は下回ったものの、前回の中間選挙(36.7%)から10%ポイント以上上昇した[図表1]。一般的に大統領を選出しない中間選挙は、大統領選に比べて投票率が低くなる傾向がある。実際、04年~12年では中間選挙の投票率が大統領選に比べて20%ポイント程度低かった。
このため、前回の大統領選からの低下幅が10%程度に留まったことは、今回の中間選挙に対する有権者の関心がいかに高かったかが分かる。
(ねじれ議会):党派性が強まっている中で議会は機能不全に陥る可能性
来年からの新議会(第116議会)では上下院で多数政党の異なるねじれ議会となる。
米国ではねじれ議会は特殊ではなく、オバマ前政権時代の1期目後半(第112議会)と2期目の前半(第113議会)、それ以前では共和党レーガン政権時代の1期目前半から2期目前半(第97議会~第99議会)でねじれ議会となっていた。
このため、ねじれ議会になってもトランプ大統領による政権運営への影響は限定的との見方もあるようだ。しかしながら、筆者はねじれによる影響は大きいと考えている。
米国議会で法案を成立させるためには、上下両院を通過させる必要があるが、ねじれ議会では与野党が対立する法案を成立させることは難しい。
また、近年は、共和党議員はより保守的に、民主党議員はよりリベラルな投票行動を採る傾向が強まっており、超党派での政策協調が困難になっている。
実際、オバマ前政権による10年のオバマケア関連法や、トランプ政権による昨年の税制改革法は、与党議員の賛成のみで成立させており、与党が両院で過半数を確保していたからこそ可能であった。
さらに、オバマ前政権時代の最初のねじれ議会(第112議会)では、与野党の対立激化から2年間の法案成立数が僅か284本に留まったほか、法案成立率も2%と過去最低となった[図表2]。このため、第112議会は「最も生産性の低い議会」と非難されていた。
トランプ大統領は政策実現に向けて、超党派での政策協調を促すために一定程度野党民主党の意向を政策に反映する必要がある。
しかしながら、20年に大統領選挙を控えていることや、トランプ大統領の好戦的な性格から、民主党との協調路線をとる可能性は低いとみられる。
このため、第116議会は、第112議会の再来となり、議会が機能不全に陥る可能性が高いだろう。(中間選挙の争点):「医療」や「移民」、「経済・雇用」が争点。「税」の関心は低い。
出口調査に基づき、有権者に関心が高かった政策の争点をみると、オバマケアを巡る「医療」が26%と最も高く、次いで「移民」(23%)、「経済・職」(19%)となっていた。一方、それぞれの争点毎に、投票先の政党には、大きな乖離がみられる[図表3]。
なお、トランプ大統領が実現に意欲を示している「税制改革」は4%に留まったほか、投票先が民主党と共和党で拮抗していたため、有効な争点として有権者にアピールできていない。
一方、有権者の関心が最も高かった「医療」に関しては、民主党がオバマケア廃止に反対する方針を明確に示している。
また、追加減税についても同様に反対する意向を示していることから、トランプ大統領が実現を目指すこれらの政策では、民主党の反対で法案成立が不可能なため、軌道修正は必至だろう。
(今後の経済政策)
中間選挙後の経済政策で最も注目される通商政策のうち、「米中貿易戦争」に関しては、トランプ大統領が、中国に対して強硬姿勢で臨んでいることを評価する声は多い。
中国による知的財産権の侵害や、強制的な技術移転問題に関する課題意識は、与野党、財界、日本や欧州などの先進国で共有されており、トランプ大統領に対する期待が大きい。このため、トランプ大統領による対中強硬姿勢に変化はないだろう。もっとも、同大統領が制裁手段として追加関税を多用していることについては、米経済への悪影響から、財界を中心に見直しを求める声は多い。
一方、トランプ大統領が通商政策で標的としているのは中国だけではない。来年以降に交渉が本格化するとみられる輸入自動車に関しても、同大統領は、追加関税を示唆している。輸入自動車関税が賦課される場合には米国をはじめ世界経済への影響が非常に大きいため、今後の交渉が注目される。
なお、本来議会の権限である通商政策交渉について、トランプ大統領が安全保障などを理由に、大統領権限を行使し、議会を無視する形で制裁手段の決定が行われていることに関しては、議会からの反発が強い。このため、議会には大統領権限を縛るための法律を立法化する動きも一部にみられているが、実現は難しいだろう。
インフラ投資については、トランプ大統領と、民主党ともに投資の拡大を目指しており、両者で政策協調の可能性が残っている。
ただし、20年の大統領選挙を睨んでトランプ大統領の成果にしたくない民主党の政治的な思惑や、インフラ投資実現のための財源問題などもあって、実際に政策協調できる可能性は低いとみられる。
(財政・債務残高):財政状況の悪化が経済政策の制約要因に
トランプ大統領が実現した大型減税や拡張的な財政政策の結果、財政状況は急激に悪化している。
議会予算局(CBO)は、現在の予算関連法が継続すると仮定した場合に債務残高(名目GDP比)は、足元の78%から20年後には118%への増加を見込んでいる[図表4]。
また、一部時限措置となっている減税や歳出拡大を恒久化した場合は、同148%まで拡大すると試算しており、財源確保なしに、財政収支を悪化させる新たな政策を実現することは困難である。
一方、財源確保策については、共和党は増税に反対するほか、民主党は国防以外の歳出削減に反対することが予想されるため、与野党が合意出来る財源確保は難しい状況である。
このため、トランプ大統領が実現を目指す追加減税やインフラ投資の拡大は財政面からも実現が困難だろう。
*12月12日時点
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