病院の待ち時間、かかりすぎじゃない?-「3時間待ちの3分診療」は今は昔?

病院の待ち時間、かかりすぎじゃない?-「3時間待ちの3分診療」は今は昔?: 「3時間待ちの3分診療」と言う言葉があったことをご存知でしょうか。外来の待ち時間の長さとその後の診療時間の短さを揶揄する言葉でした。病院の外来で長時間待たされた経験がある人は多いのではないでしょうか。ここでは病院の待ち時間について見てみることにしましょう。



なお本レポートでは、「病院」の待ち時間について調査・解説しています。いわゆる「診療所(入院設備がない外来専用のものまたは19ベッドまでの設備のもの)」については対象としていません。まず、厚生労働省が実施、発表している「受療行動調査」の結果を用いて、待ち時間の実態を見てみましょう。最新のデータは2018年9月に発表された「平成29年度受療行動調査(概数)の概況」です。調査実施は2017年です。1|待ち時間の分布状況(概括)これによると、外来患者の診察等までの待ち時間は「15分未満」が26.1%で最も多く、次いで、「15分~30分未満」が23.1%、「30分~1時間未満」が20.4%となっており、これらをあわせた「待ち時間1時間未満」の割合は69.6%となっています。



「3時間待ちの3分診療」という言葉に出てくる「待ち時間3時間以上」は1.6%、「2時間以上」に対象を広げても5.4%、それぐらいかかるのが一般的だというような状況ではなさそうです。



筆者の感覚としては、案外、事前の印象ほどには待たされていないなという感じですが、皆さんはどう判断されるでしょうか。



なお、この調査結果では、他に「無回答」の人が7.6%いたので、図表1の各数値を足しあわせても100%にはなりません。以下の図表も同様ですのでご注意ください。2|待ち時間の分布状況(時系列変化)

次に、待ち時間の分布状況を時系列で見たものが図表2と図表3です。総じて待ち時間が少しずつではあるものの短くなってきていることがわかります。1時間未満の比率を見ると、1996年には60.1%であったものが、2017年には69.6%にまで高まってきています。また長い待ち時間の象徴であった3時間以上の割合にはあまり変化はありませんが、1996年の2.1%から2017年の1.6%へと低下しています。



一般的には高齢化が進行すると病院にかかる人が増えると考えられますから、高齢化の進行の中、待ち時間を短縮してきていることは評価すべきことかと思います。3|病院規模別に見た待ち時間の分布状況(2017年)

2017年のデータにもどって、待ち時間を病院の規模別に見たものが図表4です。



この表に記載してあるのは全ていわゆる一般病院で、そのうち病床500 床以上の病院を大病院、100 床~499床の病院を中病院、20 床~99 床の病院を小病院と分類しています。ここでも1時間未満の比率に注目してみると、大病院では66.5%であるのに対して、中病院では67.5%、小病院では73.8%と、規模が小さいほど割合が高くなります。



こうやって比較してみると、やはり規模が大きい病院ほど待ち時間が長くなる傾向があることがわかります。4|待ち時間は患者の最大の不満足ポイント

図表5は病院での外来に関する満足度についての調査結果です。全体としての病院の外来についての満足度を聞いた「総合」では、「満足」と答えた人の割合が59.1%で、「ふつう」と答えた人が30.8%、「不満」と答えた人は4.3%だけでした。



これに対し、「診療までの待ち時間」だけについて聞いた結果では、「満足」が29.0%、「ふつう」が40%で、「不満」と答えた人の割合が26.3%と、他の項目に比べて著しく「不満」の割合が上がります。



少しずつ改善が見られているにしても、いまだ「待ち時間」は、患者の満足度をさらに引き上げるための重要な改善すべきポイントであることがわかります。5| 外来患者の待ち時間と診察時間の分布状況 (2014年調査結果から)

ちなみに、調査時点は一期古くなりますが、「受療行動調査」の2014年版から、「待ち時間」と「診察時間」の分布状況をマトリックス表にしたものが図表6です。「3時間待ちの3分診療」はどのように改善されているでしょうか。もっとも分布が集中しているのは表の左上のあたりの、待ち時間が1時間未満で、診察時間が10分未満といったところでしょうか。



表の左下の方に表される「3時間待ちの3分診療」の近辺だった人はあまりいないようです。1|医療サービス需給のアンバランスが待ち時間の原因

待ち時間は、基本的には、医師や看護師など医療提供側の処理能力を上回る患者数という、医療提供体制のアンバランスによって起こると考えられます。



外来患者数の最高予想値に備えて医師や看護師の体制整備ができればいいのですが、病院の予算も限られていますし、1日のうちの診察時間という限られた時間内に発生する最高予想数に備えて医師や看護師を多めに雇うことは合理的ではありません。外来者数は季節や曜日によって変動しますし、病院は人気のテーマパークのように入場制限をするという訳にもいきません。



しかも日本では、どの病院でいつ診療を受けるかを患者が自由に選べる仕組みを採っていますので、症状の軽い患者までが大病院に行きがちだという事情もあります。そのため、大病院の待ち時間が長くなるとも言われています。2|外来患者数は減少基調、医師数は増加基調

近年、外来患者数が少しずつ減少してきている一方で、医師の数は少しずつ増えてきています。こうしたことがあって、待ち時間が少しずつ短くなってきたのかもしれません。



医師数の増加の背景には、医師の数を増やそうという政策上の意思があります。また先述の通り、一般的には高齢化が進行すると病院にかかる人が増えると考えられる中、外来患者数が減ってきていることの背景にも、病院の機能分化の推進等を進める等の政策的な施策があると考えられます。3病院の機能分化の推進

 たとえば病院の機能分化の推進は、次のような施策により、結果として、病院の待ち時間の短縮につながると考えられます。



(1)紹介状の義務化

2016年4月より実施されている、病床数200以上の大病院は紹介状のない患者の初診や再来に対して特別の料金を徴収するとする紹介状の義務化は、大病院への外来患者数を抑制することとなって、結果として大病院における待ち時間が短縮されることが期待されています。



(2)かかりつけ医制の推進

今後いっそうの推進が見込まれている、かかりつけ医を持つことの推奨も、第一次的な医療を地域の開業医等が行い、そのスクリーニングを受けて紹介状を得た患者だけが二次医療機関たる大病院に行くとすることにより、大病院の外来患者数を減らして待ち時間の短縮につながることと期待されています。4|待ち時間の短縮に向けた取組みの例

(1)予約制の導入

すでに大病院等では導入されていることが多い予約制は、特定の時間枠を一定の人数の患者だけに割り当てられることにより、患者数を平準化させる効果がありますので、待ち時間の短縮に貢献してきたものと考えられます。



(2)待ち時間の見える化

受け付け番号制をとり順番表示モニターで現時点の診察の進行状況を伝え、あと何人で自分の番が来るかを知らせる、院内専用の携帯端末をわたし、診察時間が近づくとブザー等で呼び出し待ち時間中の行動の自由度を高めるといった方式を導入している病院もありますが、これも待ち時間を「見える化」することにより、患者の心理的なストレスを解消することにつながるものと考えられます。

 5|今後のテクノロジーの進化による待ち時間問題解決への期待

 (1)医療機器の性能向上による診察、検査効率のアップ

現在、医療機器の性能の向上が続いていますが、これにより診察、検査の効率化を促されれば、結果として待ち時間の短縮が図られることが期待されます。



(2)遠隔医療、リテールクリニック等 

まだ現実味がありませんが、今後、仮にパソコンやスマホ画面を通じて医師とテレビ回線をつなぎ行う遠隔医療が広く普及すれば、あるいは米国に見られるようなドラッグストアやスーパーの一角に資格を持った看護師等が配置され、風邪や慢性糖尿病等の治療や予防注射等を行うリテールクリニックのような形態が普及すれば、軽度の症状の患者がそちらに向かうことにより、病院の待ち時間の短縮が図れるかもしれません。以上、待ち時間に関する状況を見てきましたが、待ち時間が長い病院が悪い病院であるとは決して言いきれませんが、待ち時間対策までをていねいに考えてくれている病院がいい病院であることに疑いはありません。医療の利用者として賢く病院と付き合っていきたいものですね。





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