「65歳の壁」はなぜ生まれるのか-介護保険と障害者福祉の狭間で起きる問題を考える

「65歳の壁」はなぜ生まれるのか-介護保険と障害者福祉の狭間で起きる問題を考える: ■要旨



障害者が65歳以上になることで、従来の障害者福祉サービスを受けられなくなる「65歳の壁」問題が一部で注目されている。障害者に福祉サービスを提供する障害者総合支援法では、介護保険に同様のサービスがある場合、介護保険を優先するよう求める規定があるため、それまで受けていたサービスが受けられなくなったり、急に負担が増えたりする不都合が生じており、司法判断が下される事態も生まれている。



本レポートでは、介護保険法と障害者総合支援法の概要や相違点、国会での議論などを考察し、2つの制度の狭間で「65歳の壁」が生まれやすい構造を明らかにする。さらに、過去の通知や近年の制度改正、今年3月の岡山地方裁判所の判決などに触れつつ、問題解決に向けた選択肢を提示する。



■目次



1――はじめに~「65歳の壁」問題を考える~

2――「65歳の壁」問題の概略

  1|2つの法律の主な相違点

  2|障害者総合支援法の給付に関する概要

  3|「65歳の壁」のイメージ

  4|「65歳の壁」の実態

  5|国や関係団体の調査

3――「65歳の壁」問題が起きる理由~法的な枠組み~

  1|介護保険優先の原則

  2|介護保険法優先の原則を巡る国会答弁

  3|介護保険法優先の原則の妥当性

4――「65歳の壁」の問題が起きる理由~(2)現場の視点~

  1|2007年3月の通知

  2|自立観の違い

5――「65歳の壁」の解消に向けた制度改正

6――介護保険制度改正の影響を受ける可能性

7――岡山地裁の判決

8――「65歳の壁」の解消に向けた選択肢

  1|制度の統合は困難か

  2|「合理的配慮」の考え方を踏まえた柔軟な対応を

9――おわりに障害者1が65歳以上になることで、従来の障害者福祉サービスを受けられなくなる「65歳の壁」問題が一部で注目されている。障害者に福祉サービスを提供する障害者総合支援法では、介護保険に同様のサービスがある場合、介護保険を優先するよう求める規定があるため、それまで受けていたサービスが受けられなくなったり、急に負担が増えたりする不都合が生じており、司法判断が下される事態も生まれている。



本レポートでは、介護保険法と障害者総合支援法の概要や相違点、国会での議論などを考察し、2つの制度の狭間で「65歳の壁」が生まれやすい構造を明らかにする。さらに、過去の通知や近年の制度改正、今年3月の岡山地方裁判所の判決などに触れつつ、問題解決に向けた選択肢を提示する。



 




1 「障害」は元々、「障碍」と表記されたが、戦後に「碍」が当用漢字、常用漢字にならなかったため、「害」の字を当てた経緯がある。近年、「害」の字が不快にさせる可能性があるとして、「障がい」「しょうがい」などと表記するケースも見られるが、本レポートは法令上の表記に沿って「障害」と記す。
 





2――「65歳の壁」問題の概略

1|2つの法律の主な相違点

具体的な議論に入る前に、「65歳の壁」問題と呼ばれる状況を踏まえておく必要があるだろう。2つの法律の比較は表1の通りである。



まず、2000年に施行された介護保険法は原則として65歳以上の高齢者2を対象に、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態になるリスクを社会全体でシェアすることを想定している3。具体的には、要介護認定(軽度者の場合は要支援認定、以下は原則として要介護認定で統一)を受けた高齢者に対し、ヘルパーが訪問する訪問介護や高齢者を一時的に預かる短期入所生活介護(ショートステイ)などの在宅系サービス、特別養護老人ホームなどの施設系サービス、住み慣れた地域で生活できるようにきめ細かく支援する地域密着型サービス、ケアプラン(介護サービス計画)の作成業務である居宅介護支援を給付している。こうしたサービスを利用する際の自己負担としては、受ける利益に応じて負担する「応益負担」を採用しており、原則として1割負担が求められる4



さらに、自己負担部分を除くサービス給付の財源としては社会保険方式を採用している。具体的には、税金、保険料で50%ずつ賄っており、在宅系サービスについて見ると、税金の部分は国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%の割合、保険料の割合は65歳以上高齢者(第1号被保険者)が23%、40歳以上65歳未満(第2号被保険者)が27%となっている5。一方、障害者総合支援法は成年の障害者を対象としており、サービスは全国一律で提供する「自立支援給付」と、地域の特性に応じて柔軟に実施する「地域生活支援事業」に大別される。



自己負担については、所得に応じて負担額を軽減させる応能負担を採用しており、自己負担を除く部分の財源は全て税金、つまり社会扶助方式(税方式)を採用している。



これらの点を中心に、2つの法律を比較すると、以下のように整理できる。



(1) 想定している給付対象が異なる:介護保険は原則として65歳以上高齢者、障害者福祉サービスは成年の障害者を主に対象としている。



(2) 自己負担の考え方が異なる:介護保険は原則として応益負担、障害者福祉は応能負担をそれぞれ採用している。



(3) 財源方式が異なる:介護保険は社会保険方式を採用しており、50%を保険料で賄っているが、障害者福祉は全額を税で賄う社会扶助方式(税方式)を採用している。



実は、ケアの必要度を判定する仕組みやケアの内容を決定・調整する仕組みは類似している一方、サービス提供の方法などが異なるのだが、これらの説明は後段に回すとして、ここでは「65歳の壁」問題の概略をつかむため、以上の3点を指摘するにとどめ、議論を先に進めることとしたい。



 




2 ここでは詳しく述べないが、第2号被保険者として位置付けられている40歳以上65歳未満の人のうち、16種類の特定疾病患者は介護保険サービスの給付対象となる。特定疾病としては、がん末期、関節リウマチ、初老期における認知症、脳血管疾患などが指定されており、こうした人達は障害者総合支援法よりも、介護保険サービスが優先されるため、「65歳の壁」問題に近い状況が起きる可能性がある。
3 介護保険法第1条の条文は以下の通り。


加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行う(以下略)。
4 ただ、近年は財源を確保するため、現役並み高所得者は2~3割負担となっている。居宅介護支援については、全額を保険財源でカバーしており、自己負担を取っていない。
5 施設系サービスの比率は異なる。国の財政負担は20%、都道府県の財政負担は17.5%。
2|障害者総合支援法の給付に関する概要

次に、障害者総合支援法のサービスを確認する。制度の中核を構成する自立支援給付は表2の通りであり、▽自宅での入浴や食事の介助、通院付き添いなどを行う「居宅介護」(ホームヘルプ)、▽重度な人を対象に見守りや外出支援などを長時間支援する「重度訪問介護」、▽視覚障害者の移動などを支援する「同行援護」、▽単独での行動が難しい知的障害者や精神障害者の外出などを支援する「行動援護」、▽身体リハビリテーションなどを実施する「自立訓練」、▽一般企業で働くことを希望する人を対象に訓練や相談支援を実施する「就労移行支援」、▽一般企業で働くことが困難な人を対象に就労に必要な知識・技術の習得を支援する「就労継続支援」――などのサービス類型に分かれている。



こうして見ると、就労支援に関する訓練等給付が含まれるなど介護保険と異なるサービス類型が整備されている一方、介護給付の居宅介護(ホームヘルプ)など一部サービスについては、介護保険と類似していることを理解できる。3|「65歳の壁」のイメージ

こうした重複を調整するため、障害者は65歳以上になると、原則として介護保険サービスを優先的に使うことが求められる。



具体的には、介護保険に相当するサービスがない同行援護や行動援護、重度訪問介護、就労継続支援などについては、障害者総合支援法の制度を引き続き利用できるが、それ以外のサービスについては、介護保険法で認定を受けたサービス事業者を選択する必要がある。さらに、介護保険のケアプランに盛り込まれたサービスの支給量が介護保険サービスだけで確保できない場合、介護保険サービスに上乗せして障害者総合支援法の支給を受けられる。



そのイメージが図1である。つまり、40歳以上65歳未満の特定疾病患者など一部の例外を除くと、原則として「65歳以上の支援を必要とする高齢者」が介護保険、「65歳未満の支援を必要とする障害者」が障害者総合支援法という整理になっており、障害者の年齢が65歳以上になると、障害者総合支援法の枠組みよりも、介護保険サービスを優先することが「65歳の壁」問題と称されている。4「65歳の壁」の実態

では、その「65歳の壁」による不具合として、どんなことが起きているのだろうか。この点については、障害者当事者による情報発信がいくつか見られる一方、研究者や専門職による論文や実践報告などは決して多くない。以下、筆者が見聞きした範囲も加味しつつ、「65歳の壁」の実情を考察してみよう6



例えば、サービス利用に関する自己負担が変わる可能性がある。先に触れた通り、障害者総合支援法では所得の水準次第で決まる応能負担を採用しているが、介護保険法は原則として1割負担が求められる。このため、障害者総合支援法から介護保険法に移行すると、自己負担が急に増える可能性がある。



サービス提供の内容も変わる。一例として、訪問介護系のサービスで見ると、介護保険の場合、家族が同居している場合の生活援助は時間単位で厳密に区切られるほか、「訪問介護のヘルパーは日常ゴミを出せるが、粗大ごみの処分は不可」といった形で、細かく制限されている。



これに対し、障害者総合支援法では制限が設けられておらず、「障害者とヘルパーが3時間一緒にいる」といったサービス利用も認められている。このため、障害者福祉サービスに慣れた障害者が介護保険に移行すると、生活が細切れになるリスクがある。



さらに、「65歳の壁」は通い系のサービスでも生まれる。例えば、障害者総合支援法に基づく事業所に通っていた障害者が65歳を迎えると、原則として介護保険サービスに移行するため、それまでの事業所に行けなくなり、利用者や専門職との付き合いが断たれることになる。



 




6 ここでは『保健師ジャーナル』Vol.73 No.10、『ノーマライゼーション』2016年7月号、同2014年2月号、『月刊ケアマネジメント』2015年7月号、『賃金と社会保障』2015年3月下旬号、『ゆたかなくらし』2013年12月号のほか、『西日本新聞』2017年3月23日、「NHK生活情報ブログ」2014年9月24日、『読売新聞』2014年2月3日、筆者も参加した市民組織「全国マイケアプラン・ネットワーク」が2018年4月28日に開催したイベントで得た情報を参考にしている。「NHK生活情報ブログ」『西日本新聞』のリンク先は下記の通り。
https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/500/197885.html
https://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/316527/
5国や関係団体の調査

では、こうした「65歳の壁」問題がどの程度の障害者に影響を与えているのだろうか。必ずしも全体像が把握できているとは言えないが、いくつかの統計や調査を基に、その実情を探る。



まず、厚生労働省が実施した2016年度の「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」によると、身体、知的、精神の障害者手帳を持っている65歳以上の人は約341万8,000人と推計されている7。これに障害者手帳を有していないが、障害者総合支援法の自立支援給付を受けている65歳以上の人を加味すると、障害者総合支援法の支給を受けている65歳以上の人は359万6,000人に及ぶとされ、こうした人達が「65歳の壁」に直面している可能性がある。



しかし、これには65歳以降に障害者手帳を取得した人が含まれるため、全員が「65歳の壁」に直面しているわけではない。同じ調査を見ると、65歳以降に初めて手帳を取得した人は身体障害者の36.5%、知的障害者の6.4%、精神障害者の29.1%と推計されており、こうした人達は「65歳の壁」を超えた後、障害者福祉サービスを利用し始めた可能性が高く、もう少し詳細な調査が必要になる。そこで、参考になるのが、みずほ情報総研が厚生労働省から委託を受けた「障害者の介護保険サービス利用等に関する実態調査」である8。この調査は施行から3年を迎えた障害者総合支援法の見直しを図る一環として実施され、市町村に対して以下の3つに該当する人がどうか尋ねている。



(1) 2014年度中に障害者福祉サービスの利用を終了し、介護保険サービスの利用を開始した人。



(2) 2014年度中に障害者サービスを利用した人のうち、2014年4月時点で障害者福祉サービスと介護保険サービスを併用していた人。



(3) 2014年度中に障害者サービスを利用した人のうち、65歳到達後に初めて障害者サービスを利用した人。



その上で、(1)に該当する人は3,048人、(2)に当てはまる人は1万4,590人、(3)は1万3,427人であり、(3)のうち4,782人が障害者福祉サービスと介護保険サービスを併用していたことを明らかにしている。さらに、表3に示している通り、障害者福祉サービスの居宅介護(ホームヘルプ)は介護保険サービスの訪問介護と共通しており、両者の間で代替しやすいサービスを利用している人については、制度の移行が比較的行われやすい可能性、さらに同行援護など介護保険に移行しにくいサービスについてはサービスの併用、あるいは障害者福祉サービスのみの利用となるケースが多いことが推測されるとしている9



一方、「65歳の壁」の実態について定量的に把握しようとする調査がいくつかあるので、以下で取り上げていく。まず、厚生労働省が2015年2月に公表した資料10を見ても、「65歳の壁」問題が起きている様子を見て取れる。その一例として、介護保険サービスと障害者福祉サービスの併用について、65歳を迎えた障害者に対し、市町村サイドの情報提供が不十分になっている可能性である。



先に触れた通り、介護保険優先の原則の下でも、障害者は障害者福祉サービスを利用できるが、これを障害者に事前に案内しているかどうか尋ねた設問を見ると、回答した259市町村のうち108団体が「事例によってはしている」、20団体が「していない」と答えており、65歳になって初めて介護保険優先の原則を知る障害者が存在する可能性を示唆している。



さらに、市町村から介護保険サービスを利用するよう薦められた後も、障害者が要介護認定を申請していないケースの有無を尋ねたところ、有効回答259団体のうち、36.3%の94団体が「ある」と回答していた。こうしたケースでは障害者総合支援法の給付を一方的に切られるケースがあり、「65歳の壁」を生み出している可能性がある。



実際、障害者就労に取り組む団体「きょうされん」が2014年9月に公表した調査結果11によると、回答を寄せた事業所714カ所のうち、介護保険優先の原則を受けている障害者は計1,638人(65歳以上障害者が1,183人、40~64歳の特定疾病患者が455人)であり、62人が障害者福祉サービスの訪問支援を打ち切られたという。さらに、自治体を対象にアンケートを実施した「日本障害者センター」の調査12でも、65歳になった障害者が介護保険の利用申請しなかった場合、集計数506団体のうち21%に相当する107団体が障害者福祉サービスの支給を実質的に停止していると答えている。



以上のような調査結果を見ると、全体像を把握できているとは言えないかもしれないが、「65歳の壁」問題で影響を受けている障害者が少なからず存在することは間違いないであろう。



さらに、身体障害者、障害児の年齢構成を経年変化で見ると、図2の通りに65歳以上の障害者は増加基調にある。このため、「65歳以上障害者の生活を支える福祉サービスをどう提供するか」という点は決してマイナーな問題ではなくなっていると言える13



では、なぜ「65歳の壁」問題が生まれるのだろうか。以下、(1)法的な枠組み、(2)現場の運用――という2つの点に着目して考察を深めたい。



 




7 調査に対する有効回答数(6,175人)を基にした推計。
8 みずほ情報総研(2016)「障害者の介護保険サービス利用等に関する実態調査」。全市町村対象に実施し、62.0%に相当する1,079件を回収したという。
9 みずほ情報総研の「障害者の介護保険サービス利用等に関する実態調査」を基にした玉山和裕(2017)「障害者の介護保険サービス利用等に関する実態と支援の在り方」『保健師ジャーナル』Vol.73 No.10参照。
10 2015年2月18日報道発表資料「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく自立支援給付と介護保険制度の適用関係等についての運用等実態調査結果」。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000074274.html
11 きょうされんの調査結果については、インターネット上で検索できなかったため、『賃金と社会保障』2015年3月下旬号の資料を参考にした。
12 2015年11月24日記者発表資料を参照。
http://shogaisha.jp/center/05/chosa-kaigohokenyusen-kekka20151124.pdf
13 ここでは詳しく述べないが、65歳以上の知的障害者の実態についても同じことが言える。独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園が市町村を対象に実施した調査によると、回答した1,198自治体の31.8%に相当する381自治体が「障害者福祉サービスと介護保険サービスを併用している知的障害者がいる」と答えたという。のぞみの園が2013年4月1日に発行した「ニュースレター」第36号参照。
 





3――「65歳の壁」問題が起きる理由~法的な枠組み~

1|介護保険優先の原則

「65歳の壁」問題が起きる直接的な原因としては、障害者総合支援法の第7条に求められる14。これは介護保険法と障害者総合支援法で同じようなサービスがある場合、前者を優先するという規定である。



そして、この規定の淵源は介護保険法施行直前に遡る。当時、障害者福祉サービスは身体、精神など障害種別に区分されていたが、2000年3月に示された「介護保険制度と障害者施策との適用関係等について」という通知では、介護保険法と障害者施策で重複する在宅介護サービスについて、「支給された介護給付と重複する障害者施策で実施されている在宅介護サービスについては、原則として(注:障害者サービスとして)提供することを要しない」との考えを示していた。



その後、2000年代に入って障害者施策が大幅に変わっていく15中、2005年11月制定の障害者自立支援法で介護保険優先の原則が条文として入り、2013年4月に施行された障害者総合支援法にも継承された。



では、こうした規定はなぜ作られているのだろうか。介護保険優先の原則は最近の国会で話題になっており、答弁から見て取れる論理的な構造を考察する。



 




14 障害者総合支援法第7条の条文は以下の通り。


自立支援給付は、当該障害の状態につき、介護保険法の規定による介護給付、健康保険法の規定による療養の給付その他の法令に基づく給付であって政令で定めるもののうち自立支援給付に相当するものを受けることができるときは政令で定める限度において、当該政令で定める給付以外の給付であって国又は地方公共団体の負担において自立支援給付に相当するものが行われたときはその限度において、行わない。
15 ここでは詳しく述べないが、介護保険制度の導入を含む「社会福祉基礎構造改革」の一環として、障害者施策の見直しが進んだ。具体的には、自治体が支援内容を決定する措置に代わる仕組みとして、2003年度から支援費制度が導入され、契約に基づくサービス利用に変わった。その後、障害者自立支援法が2005年11月に制定された際、▽障害種別ごとに異なっていたサービス体系を一元化、▽障害の状態を示す全国共通の尺度として「障害程度区分」(現名称は「障害支援区分」)の導入、▽国が費用の半額を義務的に負担する仕組みの導入、▽サービスの量に応じて負担する応益負担の導入――といった制度改正がなされたが、自己負担の増加などについて批判の声が高まった。さらに、障害者自立支援法の廃止を掲げた民主党への政権交代も重なり、2012年4月施行の法改正で応能負担に変更されたほか、障害者自立支援法に代わる障害者総合支援法が2013年4月に施行された。
2|介護保険法優先の原則を巡る国会答弁

一つのサービスが公費負担制度でも社会保険制度でも提供されるときは、国民が互いに支え合うために保険料を支払ういわゆる社会保険制度のもとでそのサービスをまず御利用いただく――。2017年4月12日の衆院厚生労働委員会で、塩崎恭久厚生労働相(当時)はこう述べている16。つまり、介護保険優先の原則は財源調達方法に関わると述べているのである。



具体的には、介護保険は主に社会保険料で賄われている社会保険方式を採用する一方、障害者総合支援法では税金で調達される社会扶助方式(税方式)である違いに着目することで、後者よりも前者の方が優先されると説明しているのである。



ここで社会保障を巡る財源方式の違いを改めて整理したい。社会保障費の財源を賄う方法としては、社会保険方式と社会扶助方式(税方式)の2種類があり、日本では年金、医療、介護、雇用、労働災害で前者を採用する一方、障害者福祉や生活保護などは後者の方法を用いている。そして、先の答弁では「65歳の壁」問題に限らず、社会保険方式と社会扶助方式(税方式)が重なり合う場面は保険を優先するのが原則と指摘しているのである。



 




16 第193国会2017年4月12日衆院厚生労働委員会。
3|介護保険法優先の原則の妥当性

確かに社会保険料の負担は個人同士の支え合いである「社会連帯」をベースにしている点が強調され、税金を財源とした「公助」と区分する形で、自分でできることを自分でやる「自助」を「共同化」した「共助」と呼ばれる時がある17



しかし、税金だろうが、社会保険料だろうが、国民の目から見れば、懐が痛んでいる点は同じであり、社会保険方式だけでなく社会保障全体が「社会連帯」と見なすことも可能である。実際、社会保障法の研究書では「一般的抽象的には、社会保障制度が社会連帯の理念に基づいていることは否定できないように思われる」という指摘が見られる18。この点を踏まえると、財源調達方法の違いだけで給付内容に関して機械的に差を付けることについては違和感を持つ19



もちろん、限られた財源を有効に使うのは当然であり、介護保険優先の原則が一定の合理性を有しているのは事実だが、介護保険優先の原則を撤廃しても、財源が社会保険料から税金に振り替わるだけであり、実質的には国民負担は大きく変わらない20。以上のように考えると、障害者総合支援法よりも介護保険法を必ず優先しなければならない蓋然性を余り感じられない。



実際、障害者が障害者自立支援法について起こした違憲訴訟に関して、民主党政権期の2010年1月に交わされた原告団・弁護団と国の基本合意では、介護保険優先の原則を定めた当時の障害者自立支援法の第7条を廃止するとともに、「障害の特性を配慮した選択制等」の導入を図るとしている点に留意する必要がある。



 




17 例えば、2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書では、以下のように記している。


国民の生活は、自らが働いて自らの生活を支え、自らの健康は自ら維持するという「自助」を基本としながら、高齢や疾病・介護を始めとする生活上のリスクに対しては、社会連帯の精神に基づき、共同してリスクに備える仕組みである「共助」が自助を支え、自助や共助では対応できない困窮などの状況については、受給要件を定めた上で必要な生活保障を行う公的扶助や社会福祉などの「公助」が補完する仕組みとするものである。
18 菊池馨実(2010)『社会保障法制の将来構想』有斐閣P36。さらに、1950年10月の社会保障制度審議会勧告では、社会保険制度の拡充を中心に据えつつ、「(筆者注:社会)扶助制度は補完的制度としての機能を持たしむべきである」と指摘している反面、「(筆者注:国民は)社会連帯の精神に立って、それぞれの能力に応じてこの制度の維持と運用に必要な社会的義務を果さなければならない」と指摘しており、社会保険方式だけでなく、社会保障全体について社会連帯の考え方が重要と指摘している。
19 ここでは詳しく述べないが、「社会保険方式と社会扶助方式(税方式)が同じ」という意味ではない。例えば、社会保険料は保険原理に基づき、何らかの形で反対給付を期待できるため、負担と給付の関係が繋がっているが、税金の場合、負担に対する反対給付は想定されていない。しかし、近年は社会保険料を支払う被保険者だけでなく、それ以外の人にも広く薄く受益が行き渡る分野について、社会保険料を充当させる制度改正が相次いでいる。例えば、軽度者を対象とした介護保険の新しい総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)では要支援認定を受けていない人も支援対象となる。さらに、市町村に在宅医療に関与させる「在宅医療介護支援事業」も地元医師会での相談窓口設置に関する経費などについて、介護保険料を充当している。
20 財源が社会保険料から税に振り替わることを通じて、見掛け上の一般歳出が膨らむため、一般会計の規模抑制に力点が置かれがちな財政再建論議に逆行する可能性を踏まえる必要がある。
1|2007年3月の通知

では、介護保険優先の原則の下、2つの法律はどのように運用されているのだろうか。次に現場の視点を加味する。



まず、厚生労働省が2007年3月に出した通知21では、介護保険、障害者福祉の双方を所管する市町村に柔軟な運用を求めている。具体的には「障害者が同様のサービスを希望する場合でも、その心身の状況やサービス利用を必要とする理由は多様であり、介護保険サービスを一律に優先させ、これにより必要な支援を受けることができるか否かを一概に判断することは困難」と指摘した。その上で、「一律に当該介護保険サービスを優先的に利用するものとはしない」とし、市町村が利用者の意向を聞きつつ判断する重要性を強調しており、同じ趣旨の通知は2015年2月にも示されている。





 




21 2007年3月に示された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」という通知。
2|自立観の違い

それにもかかわらず、障害者総合支援法から介護保険法に移行した際、サービス内容が細切れになるなどの弊害が生まれる。その背景としては「自立観」の違いを挙げることができる。



介護保険は元々、日常生活に関わることしか対象にしておらず、「自分でできることは自分でやる」という考え方に立っている。さらに、介護保険では現在、盛んに「自立支援」の必要性が論じられているが、ここで言う「自立」とはリハビリテーションの充実などを通じて介護予防を強化し、要介護状態の維持・改善を図ることを指している。



一方、障害者福祉の「自立」は異なる。当事者運動を経た結果、障害者が日常生活で介助者のケアが必要だったとしても、障害者が自らの人生や生活の在り方を自らの責任において決定、または自らが望む生活目標や生活様式を選択して生きることを「自立」と見なしており、言わば自己決定権を行使しつつ、生活主体者として生きる行為を自立生活とする理念を重視している22



もちろん、障害者福祉でもリハビリテーションなどによる機能維持は重視されているが、介護保険の自立とは「要介護状態の維持・改善」、障害者総合支援法の自立とは「自己決定権の行使」を指している。そして「自立支援」という言葉を分かりやすく整理すると、前者は「できるだけ要介護状態の維持・改善、以前の状態に戻すよう支援すること」、後者は「本人の自己実現を支援すること」を指していることになる。



実は、介護保険も制度創設当初、障害者福祉と同じような議論があった。例えば、有識者として制度創設に関わった行政学者、大森彌による書籍では「自立支援」とは高齢者による自己選択権の現われとし、自己選択を通じて高齢者の尊厳が保たれるとしていた23



しかし、現在は介護保険の給付を抑制する手段として「自立支援」の必要性が論じられるようになり、障害者福祉との乖離が大きくなっていると言える。



 




22 障害者福祉における「自立」については、定藤丈弘(1993)「障害者福祉の基本的思想としての自立生活理念」定藤丈弘ほか編著『自立生活の思想と展望』ミネルヴァ書房を参照。
23 大森彌編著(2002)『高齢者介護と自立支援』ミネルヴァ書房pp7-10。
 





5――「65歳の壁」の解消に向けた制度改正

政府としても「65歳の壁」解消に努めている。具体的には、改正介護保険法と改正障害者総合支援法が2018年4月に施行されたのに際して、高齢障害者の介護保険サービスの円滑な利用を促す制度改正が盛り込まれた。



まず、65歳に達しただけで利用者負担が増える事態を避けるため、自己負担を軽減する措置を導入した。その要件としては、▽65歳に至るまで5年間にわたって障害者福祉サービスの提供を受けていること、▽障害者福祉サービスの居宅介護、重度訪問介護、短期入所、生活介護と、介護保険サービスの訪問介護、通所介護(地域密着型を含む)、短期入所生活介護、小規模多機能型居宅介護の利用者、▽所得が低いまたは生活保護に該当していること、▽障害支援区分が2以上、▽65歳まで介護保険サービスを利用していないこと――を満たす障害者となっている。



さらに、障害者サービスと介護保険サービスの双方に「共生型サービス」というサービス類型を創設することで、同じ事業者が双方のサービスを提供できるようにした。その結果、65歳以上となった障害者が介護保険に移行した後も、円滑にサービスを利用できるように配慮した。

 



6――介護保険制度改正の影響を受ける可能性

「65歳の壁」問題は今後、介護保険制度改正の影響を受ける可能性がある。高齢化の影響を受けて介護保険の財政は逼迫しており、自己負担を含む総予算の規模は制度創設時の約3倍に匹敵する約10兆円に膨らんでいる。その結果、65歳以上高齢者が毎月負担する全国平均の保険料は上昇し続けており、2018年度では制度創設時の2倍程度に及ぶ5,869円にまで増えており、65歳以上高齢者の保険料を今後、大幅に引き上げることは難しい。



このため、財政構造を大幅に見直す必要性に迫られており、財源確保の方策として、保険料を支払う対象年齢を「40歳以上」から引き下げる選択肢が想定される。実際、介護保険制度の創設に際して、厚生省(当時)は「20歳以上」を対象とすることを検討した経緯があり、当時の厚生省幹部が40歳以上で線引きした理由について、「40歳以上でなければならない必然的かつ客観的な理由は少ないなかでの(筆者注:与党や経済界との)妥協の産物であり、介護保険の立ち上げを優先するという判断から、あえて深追いしないこととして問題を後に残した」としている24点を考慮すると、保険料対象年齢の引き下げは懸案であり続けている。2018年度制度改正でも保険料対象年齢を引き下げる是非が浮上したが、経済界などの反対で沙汰止みとなった経緯がある25



しかし、この選択肢を採用する場合、「加齢に伴う要介護」状態を支援するという介護保険の基本的な考え方が修正を迫られる。例えば、保険料を支払う対象年齢を「20歳以上」に引き下げた場合、「加齢」という説明が困難になる一方、どのような原因でも要介護状態になれば給付対象とすることにした場合、加齢を理由としない障害を支援する障害者総合支援法との整合性を図る必要がある。



その結果、論理的な帰結として、介護保険サービスと障害者福祉サービスの相乗りなどが必要になる可能性がある26。むしろ、介護保険と障害者福祉の双方を相乗りさせる共生型サービスの創設は保険料対象年齢の引き下げに向けた布石と考えることも可能かもしれない。





 




24 和田勝編著(2007)『介護保険制度の政策過程』東洋経済新報社pp18-19。菅沼隆ほか編著(2018)『戦後社会保障の証言』有斐閣p351では「25歳あるいは30歳かとかもあり得ると思っていました」という証言が掲載されている。
25 2016年8月31日第62回社会保障審議会介護保険部会議事録参照。
26 ただ、医療保険に上乗せする形で介護保険制度を運用しているドイツやオランダは0歳以上、韓国は20歳以上の国民から保険料を徴収しており、「加齢」という条件にこだわらず、保険料対象年齢を引き下げることは選択肢の一つとなる。
 





7――岡山地裁の判決

「65歳の壁」問題の見直しに向けた動きは行政サイドだけでなく、司法サイドから浮上する可能性にも留意する必要がある。今年3月に示された岡山地裁の判決では「65歳の壁」問題が一つの争点となっており、初の司法判断が下された。以下、判決文のほか、これに関する法学者による論文や新聞記事27など参考にしつつ、論点や内容を考えてみよう。



裁判を起こしたのは脳性麻痺の男性。男性は障害者自立支援法(当時)に基づき、月249時間の訪問介護を無償で受けていたが、65歳になる直前の2013年2月、岡山市の通告で障害者自立支援法の給付を打ち切られた。その後、同年7月に153時間の給付が認められた一方、残りの96時間分については介護保険サービスに切り替わった。ところが、介護保険法に沿うと、96時間分のサービスについては月1万5,000円の自己負担を求められたため、男性が岡山市に対して決定取り消しや損害賠償を訴えた裁判である。



横溝邦彦裁判長は判決理由で、原告の男性には重度麻痺があるため、介助なしに食事や入浴などの日常生活を送れなかったとして、岡山市の決定を取り消すとともに、慰謝料などとして107万5千円の支払いを岡山市に命じ、原告側の主張をほぼ認めた。つまり、原告側の生活環境などを踏まえないまま、障害者福祉サービスの不支給を決めたことなどについて、「考慮すべきことを考慮せず、拙速な判断を行ったことが、本件処分を違法とする理由となっている」と考えられている28。一方、原告側は介護保険優先の原則が違憲であると主張していたが、判決は法律の解釈・適用に関する判断とどまっており、憲法判断を避けた形となった。



地裁判決後、岡山市は控訴したため、裁判は現在も続いており、その結果が注目される。さらに同様の裁判は他の地裁でも起こされており、裁判の結果は「65歳の壁」問題の議論に影響を与える可能性がある。



 




27 永野仁美(2018)「介護保険優先原則を定める障害者自立支援法7条の解釈」『ジュリスト』No.1525、『朝日新聞』2018年3月15日、『毎日新聞』2018年3月15日、『山陽新聞』2018年3月14日更新記事を参照。山陽新聞のリンク先は下記の通り、
http://www.sanyonews.jp/article/683494/1/
28 前掲永野論文。
 





8――「65歳の壁」の解消に向けた選択肢

1|制度の統合は困難か

では、今後は「65歳の壁」の解消に向けて、どういった選択肢があるだろうか。年齢や理由に限らず、障害がある人を継ぎ目なく支える選択肢としては、介護保険法と障害者総合支援法の統合が考えられるが、筆者には現実的と思えない。



確かに介護保険と障害者福祉の共通点は少なくない。例えば、表1で見た通り、ケアの必要度を判定する仕組みとして介護保険法は要介護認定、障害者総合支援法は障害支援区分という仕組みが導入されており、ケアの内容を決定・調整する専門職としても介護保険法ではケアマネジャー(介護支援専門員)、障害者総合支援法では相談支援専門員が置かれている。



これは介護保険法で導入された仕組みを障害者福祉にも適用したことが影響しており、実際に2006年度制度改正に際しては両者の統合論議も浮上し、障害者団体の反対などで見送られた経緯がある。当時の議論では「年齢や障害によって利用する介護制度が異なっているのは不合理です。すべての住民を被保険者とし、(筆者注:年齢に関わらず)すべての介護ニーズを持つ住民にサービスが提供される普遍的なシステムへと改組・充実させる必要がある」といった意見29が出ており、現在も「年齢で分けるのではなく、介護が必要になった人が広く利用できる使いやすい普遍的なサービスとして、介護保険を再構築することも考えられる」という意見がある30。年齢や理由に限らず、心身に不具合がある人を支える普遍的なシステムは一種の理想である。



しかし、2000年以降に実施された制度改正の結果、両者の距離が広がっている点は見逃せない。まず、介護保険法については、先に触れた通り、介護予防に力点を置く「自立支援」に力点が置かれるようになり、障害者総合支援法における「自立」との違いは大きくなっている。一方、障害者総合支援法についても、旧法の障害者自立支援法から改組する際、応益負担から応能負担に転換するなど制度の考え方が大きく変わっており、両者の統合は難しいのではないだろうか。



 




29 『月刊介護保険』2004年6月号におけるインタビューを収録した大森彌(2018)『老いを拓く社会システム』第一法規を参照。
30 大塚晃(2017)「高齢障害者の福祉・介護サービス利用支援に対する課題と考え方」『保健師ジャーナル』Vol.73 No.10。
2|「合理的配慮」の考え方を踏まえた柔軟な対応を

そうなると、2つの制度を前提にしつつ、切れ目のないサービス提供を考える選択肢が必要になる。その一つとしては、介護保険優先の原則を定めた障害者総合支援法第7条の規定を撤廃あるいは見直すことで、どちらの制度を利用するか、障害者の選択権を明記する選択肢を想定できる。



もう1つの選択肢としては、障害者総合支援法第7条の規定を維持しつつ、障害者と市町村の交渉に判断を委ねる現在の方法を維持する方法である。これは現場の裁量性が高まる分、障害者の個別性に配慮できるメリットがあるが、市町村の判断や能力次第で平等な取り扱いが困難になるデメリットが考えられる。



しかし、いずれの選択肢を採用するにしても、法律を統合しない限り、年齢で区分する現在のシステムは維持され、2つの制度のどちらを優先するかという議論からは逃れられない。例えば、認知症に対応するサービスは介護保険の方が充実しているため、「認知症の症状が出始めた時は介護保険サービスを使いたい」といった選択も有り得る。つまり、障害者総合支援法第7条を撤廃するかどうかに関わらず、年齢で区分するシステムが残るのであれば、市町村や専門職が主体性と自主性、専門性を働かせつつ、障害者のニーズや環境に応じて柔軟に対応することが重要になり、65歳になった瞬間、障害者総合支援法の給付を一方的に打ち切るような対応は避けるべきである。



この点については、障害者差別解消法で定められた「合理的配慮」の概念とも符合する。合理的配慮では明確な基準が存在せず、支援の内容や可否、水準については、障害者のニーズに応じて、障害者と対象機関(例:行政機関)が対話→調整→合意を経ることを義務付けており、合理的配慮の考え方に沿えば、条文の存廃問題に関わらず、現場で柔軟な対応が必要になる31

 



 




31 合理的配慮については、拙稿レポート2018年3月23日「『合理的配慮』はどこまで浸透したか」を参照。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=58221
 





9――おわりに

日本の社会保障制度は様々な制度改正を積み重ねた結果、財源や国・自治体の担当部署、専門職の資格などがバラバラという縦割り構造を有している。障害者総合支援法と介護保険法の狭間で起きる「65歳の壁」問題は典型的な事例と言えるかもしれない。さらに、障害者の高齢化に加えて、若年性認知症や高次脳機能障害32など新しい論点への対応を考えると、できるだけ2つの制度が有機的に連携することが望ましい。



しかし、2000年以降の歴史を振り返ると、障害者総合支援法と介護保険法の統合は難しいと言わざるを得ない。このため、年齢で区分する現行制度を前提としつつ、現場に近い市町村、あるいは専門職が障害者の状況やニーズに応じて、柔軟に調整する方が望ましいのではないだろうか。国の明確な基準が定められない分、現場への負荷が大きくなるかもしれないが、言い換えると現場の裁量が大きくなる可能性がある。むしろ、国による一律の対応は市町村や専門職の自主性を奪ってしまう危険性があるのではないだろうか。



今後、司法判断や今後の制度改正が議論に影響する可能性も想定されるが、障害者のニーズに合わせた現場の創意工夫に期待したい。



 




32 高次脳機能障害とは交通事故や心肺停止などの後、知覚、記憶、学習などに不具合が生まれる障害。
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