診療時間外の外来受診が減少~診療時間内の早朝と夕方へシフト

診療時間外の外来受診が減少~診療時間内の早朝と夕方へシフト: ■要旨



診療時間外に、患者の都合(待ち時間が少なくて済むことや、学校や仕事と調整しやすいこと等)で、緊急性のない受診を行うことを「コンビニ受診」と呼び、一時大きな問題となった1



診療時間外に受診すると、医師や看護師等の体制が不十分な時間帯に診療を行うことに対する評価でとして、通常の初診料や再診料が割増しされる。しかし、必ずしも時間外に診療を受ける必要があるケースばかりではなく、2009年の調査では、2割以上の医師が、夜間・時間外に受診する患者の60%以上が「コンビニ受診」だと感じていた。緊急性の高い患者の治療を優先するためにも、医師の負担軽減のためにも、医療費削減のためにも、緊急性のない時間外の受診は避ける必要がある。



本稿では、診療時間による加算の種類を紹介し、加算の算定状況を概観する。



 




1 「“コンビニ受診”は時間外患者の何%?(2009年2月)」(https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/91247/)による。




■目次



1――診療時間外にかかる加算と、診療時間内にかかる加算がある

2――時間外、休日、深夜加算は子ども、夜間・早朝等加算は就労年代

3――時間外、休日、深夜加算は減少傾向、夜間・早朝等加算は増加傾向

4――診療時間外から夜間や早朝の診療時間内へシフト医療機関を受診する際には、各医療機関で、各月の最初に初診料が、2回目以降に再診料(または、外来診療料)がかかる。



受診時間が診療時間外の場合、平日18時~翌朝8時(土曜日正午~翌朝8時)なら時間外加算、日曜日や祝日、年末年始なら休日加算、22時~翌朝6時なら深夜加算のいずれか1つが適用される2。これは、医師や看護師等の体制が不十分な時間帯に診療を行うことに対する評価である。



また、診療所の場合、受診時間が診療時間内であっても、平日18時~翌朝8時または土曜日正午~翌朝8時なら夜間・早朝等加算が適用される(図表1)。こういった診療時間に関連する加算は、医科だけでなく、歯科にもあるが、加算額はそれぞれ異なる(図表2)。

 




2 時間内に受付を済ませていれば、混み具合で実際の診察が時間外になったとしても、時間外加算はかからない
 





2――時間外、休日、深夜加算は子ども、夜間・早朝等加算は就労年代

どういった人が、休日や時間外等で受診しているのか、医科の外来診療についてみる。



厚生労働省による2016年度NDBオープンデータは、当該年度における国内すべての保険診療に関するレセプトの集計である3。このデータによると、外来の初診料・再診料の算定回数に対する各加算算定回数の割合は、夜間・早朝等加算で2.9%、次いで時間外加算4と休日加算がともに0.6%%、深夜加算が0.1%となっていた。このうち、診療時間外の加算である時間外、休日、深夜分を合計すると、全初診・再診の1.3%を占めた。いずれの加算も、初診の方が算定されている割合が高く、初診で合計9.9%、再診で合計3.0%だった。再診時は診療時間内に行くことが増えるようだ。



年齢別にみると、休日加算、深夜加算、時間外加算の算定割合は、年齢が低いほど高い傾向があり、夜間・早朝等加算は就労年代で高い傾向がある(図表3)。



性別にみると、男性の夜間・早朝等加算が30~60歳代で、時間外、休日、深夜加算が10~40歳代で、それぞれ女性を上回っていた。都道府県別にみると、時間外、休日、深夜加算には大きな差はないが、大阪府、東京都、愛知県で夜間・早朝等加算が算定されている割合が高く(図表略)、地域別に見ても、これらを含む近畿地方、関東地方、中部地方が高かった(図表4)。



子どもは、大人と比べて急に体調を崩したり、自分の体調を表現できないこと等によって、診療時間外や休日にも受診が必要となることが多いと考えられる。



一方、夜間・早朝等加算は、軽症者の地域の診療所利用を促進するために導入されており、時間外等加算より割増分は小さい。軽症者も休日や夜間の診療を利用してしまうことで、急病人や重症者を受け入れる病院の医師等への負担が大きくなることを避けるためだ。



性・年代・地域の分布を踏まえると、サラリーマン等が仕事の時間を避けて、朝早くから、または夕方遅くまで開いている診療所を受診していると考えられる。



 




3 公費負担分、および紙レセプトについては集計の対象外となっている。
4 「時間外」には、「乳幼児夜間加算」「時間外特例加算」を含む
 





3――時間外、休日、深夜加算は減少傾向、夜間・早朝等加算は増加傾向

NDBオープンデータは過去3年分しかないため、厚生労働省の「社会医療診療行為別統計(毎年6月審査分のレセプトのみを集計)」で、時系列での10年間の推移をみると、全性・年齢の合計ではおおむね横ばいだった(図表5)。



加算の種類別にみると、いずれの年代も、全受診のうち、時間外加算、休日加算、深夜加算が算定されている割合は低下傾向にあり、夜間・早朝等加算は増加していた。軽症者が地域の診療所を利用するようになっている可能性がある。



また、近年、各自治体では、「乳幼児医療費助成制度」を拡充しており、半数以上の自治体で15歳年度末まで医療費の自己負担分が無料、またはかなりの低額となっている。医療費の自己負担分がかからないことで、安易な時間外の受診が増える可能性があると懸念されているが、今回の比較では、子どもも他の年代層と同じように時間外、休日、深夜加算の算定割合が減少しており、夜間・早朝等加算が増加していた5(図表6)。

 




5 ただし、厚生労働省「患者調査」によると、子どもの外来受療率は上昇傾向にある。
 





4――診療時間外から夜間や早朝の診療時間内へシフト

以上のとおり、診療時間による加算に注目して最近の受診動向をみると、時間外、休日、深夜など



の診療時間外の受診が減り、早朝や夜間の診療時間内の受診が、就労年代を中心に増えていた。厚生労働省「医療施設静態調査」によると、夕方遅くも開いている診療所が増加傾向にあり、外来の機能分化が進んでいるようだ。



医師等の負担について考えると、比較的施設数が多い、内科や外科よりも、施設が少なく夜間や休日の患者が多い、小児科等で問題とされることが多い。小児科の医療体制に関する厚生労働省の「子どもの医療費制度の在り方に関する検討会(2016年に報告書公表)」によれば、小児科医は増加しているが、小児科を持つ医療機関は減っているうえ、地域で偏りがちであり、小児医療体制が不十分な地域では、一部の医療機関で負担が重くなっているとされる。共働き世帯が増え、子どもの診療時間内に受診させられない世帯が増えている可能性がある。また、子どもを持つ人が減少していることで、子どもの健康状態の判断について相談できる友人が身近にいない等によって、医療機関を受診するしかない可能性もある。



医療費についてみると、2016年度の外来の時間外等加算(時間外、休日、夜間)による割増分は、初診・再診あわせると、およそ490億円だった6。外来の医療費が全部で14.4兆円7、初診・再診料(加算は除外)が全部で1.6兆円8であるため、その影響は小さくはない。このうちどの程度が、急病や、患者側で判断がつかない等、時間外に病院に相談したり、診療を受けるのが望ましいものなのかはわからない。しかし、図表3のとおり、就労年代の男性で、時間外、休日、深夜加算の算定割合が女性を上回っており、仕事の都合等による時間外診療もあると想像された。



子どもの健康状態に対して、電話による相談窓口を設置した結果、電話相談が増えて、救急搬送が減った事例がある9。こういった事例を踏まえ、近年、日常での「健康教室」や「小児救急電話相談(♯8000)」を各地で充実させる等、夜間や休日の診療をさらに減らすための政策が実施されている。



また、就労者も日中病院に行くことができれば、または子どもを病院に連れて行くことができれば、時間外受診の問題は多少解消できる。医療体制の整備による課題解決だけでなく、子育て支援や働き方改革の面でも課題解決を図っていく必要があるだろう。



 




6 第3回NDBデータより筆者計算
7 厚生労働省「国民医療費」より
8 第3回NDBデータより筆者計算
9 第3回子どもの医療制度の在り方等に関する検討会資料(2016年1月)
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