「子育て支援住宅」認定制度の導入状況と普及への課題~東京都墨田区の賃貸マンション「ネウボーノ菊川」に学ぶ成功の鍵~

「子育て支援住宅」認定制度の導入状況と普及への課題~東京都墨田区の賃貸マンション「ネウボーノ菊川」に学ぶ成功の鍵~: ■要旨



自治体の子育て支援策として、一定の広さや安全性、子育て支援サービスを備えた集合住宅を「安心して子育てしやすい住宅」として認定する制度が徐々に増えている。しかし各自治体の実績をみると、認定件数が目標に届かないなど、大きな成果を挙げているとは言えない。全国的な広がりにも欠けている。東京都が2016年に導入した「子育て支援住宅認定制度」の実施状況を例に分析してみてみると、事業者にとって、費用面やサービス提供の難しさ等のハードルがあることが分かった。そこで、東京都墨田区で事業化に成功している賃貸マンション「ネウボーノ菊川」を取材し、その現状と仕組みから、成功の鍵について検証した。



■目次



はじめに

1――東京都の「子育て支援住宅認定制度」の実績と課題

  1|認定制度の内容

  2|制度導入の背景

  3|モデル事業の実施及び入居者ニーズの把握による課題の抽出

2――成功事例「ネウボーノ菊川」(東京都墨田区)のスキームと現状

  1|子育て世帯向けの充実した設備とサービス

  2|事業を開始するまでの経緯

  3|事業性確保の鍵

3――おわりに~結びに代えて~最近、自治体による子育て支援策の一環として、子育て世帯向けの広さや安全性、サービスを備えた集合住宅を「安心して子育てできる住宅」として認証する制度が徐々に増えている。望ましい住環境やサービスを整備することで、ファミリー世帯を我が街に呼び込んだり、出生率の低下に歯止めをかけたりしようという狙いがある。2002年度に東京都の墨田区が全国に先駆けて導入し、その後、大阪市や埼玉県、東京都などが導入した1。国土交通省も2014年9月に設けた「安心居住政策研究会」の中で、認証制度等に取り組む自治体の施策推進について議論し、国としてガイドラインを策定することを検討している。



自治体がファミリー世帯向けに行ってきた住宅関連施策といえば、従来は、低所得の新婚世帯や多子世帯を対象に公営住宅等を提供する福祉事業が主要だったが、認定制度はそれらとは異なり、所得に関わらず、子育て世帯を応援していこうというものであり、少子化対策に比重を置いている点が特徴である。



筆者は認定制度には意義があると考えているが、各自治体の実施状況をみると、認定件数が目標に届いていないなど、現状では大きな成果を挙げているとは言えないようだ。自治体の導入状況は、全国的な広がりにも欠けている。本稿では、東京都が2016年に始めた「子育て支援住宅認定制度」を取り上げ、その課題について考察したい。その上で、認定を受けた集合住宅の中から、積極的な子育て応援サービスを提供し、事業化に成功している事例として東京都墨田区の賃貸マンション「ネウボーノ菊川」を紹介し、認定制度が今後、浸透していくための鍵について検証したい。



 




1 制度の名称は墨田区が「すみだ良質な集合住宅認定制度(子育て型)」、大阪市が「子育て安心マンション認定制度」、埼玉県が「子育て応援マンション認定制度」、東京都が「子育て支援住宅認定制度」とするなど、自治体によってまちまちである。
 





1――東京都の「子育て支援住宅認定制度」の実績と課題

1認定制度の内容

東京都は2016年2月、住戸面積50m2以上で、子育てしやすい設計やサービスを行っている集合住宅を認定する「子育て支援住宅認定制度」を導入した。耐火構造または準耐火構造で、新築または既存の物件が対象となる。住戸部分と共用部分の各性能や設計、立地、提供するサービス等について、細かく条件が定められ(図表1参照)、一定以上の項目をクリアすれば認定を受けられる。賃貸であることなど一定の条件を満たした場合は、市区町村が事業者への補助制度を設けている場合に限り、共同施設や子育て支援施設等の整備費について、都から市区町村に補助額の最大2分の1を交付している2)。2017年度からは、容積率緩和の対象にもした。認定を受けた事業者は、入居者募集や分譲の際、広告に利用することができる。都は、2025年度末までに目標認定件数を10,000戸と掲げている。

 




2 市区町村が独自に設けている補助金メニューもあるため、事業者は条件を満たせば、市区町村独自の補助金も受け取ることができる。
2制度導入の背景

東京都がこの制度を導入した背景には、都は合計特殊出生率が1.21と47都道府県の中で最下位であり3、都内の「子育てしづらい環境」を改善したいという政策目標があった。特に住環境に関しては、2013年住宅・土地統計調査によると、住宅1戸あたりの平均床面積が持家90㎡(全国平均121m2)、借家39m2(同46m2)と、全国で最も狭い。23区に限定すると持家85m2、借家39m2である。 東京都は、出生率を改善するためにも、住環境を改善する必要があると考えた。国立社会保障・人口問題研究所が2015年、全国の18歳以上50歳未満の独身男女と50歳未満の有配偶女性を対象に行った第15回出生動向基本調査によると、夫婦の理想の子どもの人数の平均値は2.32人であるが、夫婦が実際に持つ予定である子どもの数は2.01 人と理想を下回っており、その差の理由を尋ねると(複数回答)、1割以上が「家が狭い」を理由に挙げている4



また、住宅内における子どもの事故が多いという点も問題視した。東京消防庁の報告書「救急搬送データからみる日常生活事故の実態」(2017年)によると、年間救急搬送件数13万6,213件を5歳区分の年齢別に集計すると、特に高齢者と乳幼児が多い(図表2)。そして0~5歳の乳幼児の事故が起きる場所は、「住宅等の居住場所」が7割を占めている(図表3)。



同報告書によると、0歳ではベッドやソファなど家具から落ちる事故が多く、一人歩きを始める1歳は、階段やいす、ベッド等の家具から落ちる事故や、テーブルなど家具に起因して転ぶ事故が多いという。2歳では転ぶ事故や自転車の補助いす等から落ちる事故の他、ドアにはさまれる事故が多い。子どもの指は大人よりも小さいため、住宅の玄関ドアと壁の隙間や、引き戸の隙間など、狭いスペースにも入るためである。3~5歳では、階段や道路で転ぶ事故や落ちる事故、ビー玉類の誤飲事故などが多いという。さらに、集合住宅で子どもの重大事故につながりやすいのが、ベランダや窓からの転落である。2013~2017年の5年間で、5歳以下の乳幼児105人が住宅等の窓やベランダから転落して救急搬送されたという。

 




3 厚生労働省「2017年人口動態統計」より。全国平均は1.43。
4 この質問に対する回答は、回答割合が高い順に「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」56.3%、「高年齢で生むのはいやだから」39.8%、「欲しいけれどもできないから」23.5%、「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」17.6%、「健康上の理由から」16.4%、「自分の仕事(勤めや家業)に差し支えるから」15.2%、「家が狭いから」11.3%などとなっている。
3モデル事業の実施及び入居者ニーズの把握による課題の抽出

以上から、都は一定の床面積があり、設計や性能に安全性を備えた住宅の供給量を増やす必要があると考え、2010年度から2014度にかけて、認定制度の基となるモデル事業を実施した。6件の賃貸集合住宅を対象に、入居者を「18歳未満の子どもがいる世帯」と限定した上で、住戸部分はベビーカーの収納スペースを設けたり、床や壁の遮音性を向上させたりと一定の性能を求めた他、認可保育所や学童クラブを開設したり、NPOに委託して育児支援ヘルパーを派遣するなど、子育て応援サービスの提供を求めた。



そこで入居者アンケートを行ったところ、「初めての子育ては不安が多いので気軽に相談できる人が近くにいると心強い」「同じ住宅内に知り合いがいると安心」など、子育て期間中のコミュニティを求める声が多かった。そのため「ハードとソフトが子育て支援住宅の両輪」と考え、2016年2月から本格実施した「子育て支援住宅認定制度」においては、ハード面に関する細かい条件を定めたことに加え、ソフト面でもコミュニティ醸成に資する取り組みを必須条件とした。また認定制度では、広く事業者に認定を目指してもらうため、賃貸だけなく分譲マンションも対象に加え、「18歳未満の子どもがいる世帯」という入居条件も外した。



しかし、これまでの認定実績をみると、2018年3月時点で合わせて13物件440戸にとどまっており、都が掲げる目標には程遠い。特に分譲マンションはそのうち1物件80戸と少ない。事業者にとって何がハードルとなっているのだろうか。都がこれまでに行ったヒアリング結果等を基に分析すると、次のような課題が浮かび上がってくる。



第一はコスト面である。共用部分に設けるキッズスペース等の整備費はもちろんのこと、例えば、親が子どもを抱っこしたままでも住戸の通路を通りやすいように幅員を広くしたり、子どもが小さいうちは親が子どもと一緒にトイレに入れるように広めに設計すれば、建設費が上がる。子育て中は便利ではあるが、だからといって、費用の上昇分を賃料に上乗せしても入居者が入るかというと、難しいというものである。



第二は、認定を受けるメリットが明確ではないことだ。たとえ事業者が認定を取得して「都のお墨付きを得た」と宣伝しても、肝心の入居者側がその制度について知らなければ響かず、物件に付加価値がつかない。入居者募集や分譲時において、特典につながらないというものである。



第三に、不動産会社が子育て支援サービスを手がけること自体の難しさがある。多くの不動産会社は、ソフト事業を行った経験がないため、例えば「入居者同士のコミュニティ醸成のための配慮をして」と言われてもノウハウがない。また、ソフト事業を実施するには人の配置が必要となるため人件費がかかり、事業性が厳しくなる、というものであった。



第四に、分譲マンションには独自の課題が生じる。入居時に乳幼児だった子どもも、入居後10~20年経つと年代が上がり、キッズルーム等の設備が形骸化する恐れがある。また事業者が分譲前に認定を取得しても、分譲後は管理組合が認定内容に関する管理業務を引き継ぐことになるため、都に提出する報告書を作成したり、イベント運営を担ったりすることが管理組合にとって大きな負担となり、事業者に敬遠される可能性がある。1子育て世帯向けの充実した設備とサービス

上述のような課題をいかにクリアしていけるかを検討する上で、東京都が「子育て支援住宅」に認定し、活発なサービスを行っている賃貸マンション「ネウボーノ菊川」(墨田区立川、以下「ネウボーノ」)の取り組みについてみていきたい。このマンションは都内で不動産賃貸業を営む「株式会社萬富(まんとみ)」が所有、管理運営しており、同区の類似事業「すみだ良質な集合住宅認定制度(子育て型)」にも認定されている。同社は2016年11月、もともと自社が所有し、駐車場として利用していた土地にネウボーノを建設した。敷地面積554m2、地上7階建てで、2LDK(床面積約57m2)10戸、2SLDK(同約57m2)12戸、1DK(同29m2)4戸から成る。大きな特徴は、子育て世帯を応援する賃貸マンションとして機能するように、入居者を原則として未就学児がいる世帯か、出産を控えている世帯に限定したことである。賃貸業者として、入居者を限定することにはリスクがあったが、結果的に2017年度から満室状態が続いているという。「分譲マンションを購入した」などの理由でこれまでに2世帯が退居したが、いずれもすぐに次の入居者が見つかり、一時は入居待機世帯もあったという。



この物件は、ハード、ソフト両面から子育て応援に資する多くの工夫が盛り込まれている。その中核となっているのが、1階のエレベータから共同玄関に向かう途中に設けられた約36.7m2のキッズスペースである(写真2)。隣にはパーティスペース(36.7m2)があり、普段は扉を開放して一体的に利用されている。キッズスペースの棚には絵本やおもちゃが置かれ、子ども用トイレやおむつ交換台もある。入居者は毎日午前10時から午後8時まで自由に利用でき、平日は5組ほどの親子が遊びに来るという。



入居者の活発な利用を促している秘訣が、保育士資格や子育て経験のある管理人の存在である。水曜と金曜以外は、マンション内の見回りをしている時間を除いてキッズスペースに常駐し、子どもの相手をしたり、母親たちの育児相談に乗ったりしている。また、月1回開く親睦会や七夕祭り、ハロウィン、クリスマスなどのイベントを企画運営するなど、様々な交流の機会と場を設けることで、入居者同士を橋渡しする役割を果たしている。管理人は、有料で託児サービスも受け付けている。



パーティスペースの隣には和室が設けられ、祖父母が子育ての手伝いに来てくれた時などに宿泊できるようになっている。庭に出ると菜園と砂場が設けられ、春にはキュウリやトマトの苗植えイベント、秋にはサツマイモの収穫祭などが行われている。駐車場にはカーシェアリング専用の車があり、入居者は月会費無料(利用料は別途必要)で利用できるため、約7割が登録しているという。



住戸部分は、都や同区の認定基準に沿って安全と使いやすさに配慮した設計がなされている他、ネウボーノ独自の工夫も施されている。例えばベランダに出る窓の鍵は、子どもの手が届かない高さにつけられている。また、すべての窓にはストッパーが設けられており、親が鍵をかければ、幅約10センチしか開かない仕様になっている。親が目を離した隙に、ベランダや窓から子どもが走り出て転落することを防ぐものだ。筆者が取材に訪れた11月中旬、キッズスペースで長男(4歳)を遊ばせていた主婦(30歳代)に話を聞くと、夫の勤務地に近い立地で物件を探し、たまたまネウボーノを見つけて入居したという。長男が通っている幼稚園では、園児らの居住地がバラバラなため、親子が互いに集まって交流する機会が少ないが、ネウボーノでは毎日、他の親子とキッズスペースで顔を合わせるため、自然と親しくなると言う。主婦は「管理人さんにもちょっとした子育ての相談もできるし、同年代の子どもを持つ親同士も情報交換できる。子どもも友達と思いっきり遊べるので、とても住み心地が良い」と喜んでいた。3歳の長男を連れて来ていた別の主婦(30歳代)も「マンション暮らしだと子どもの転落が一番怖い。ネウボーノは、窓が大きく開かず、子どもが勝手に出ていくことができないので安心できる。カーシェアリングのサービスも、たくさん買い物をする時にとても助かっている」と話していた。



しかし、ここで生じる問題は、入居者の子どもたちが大きくなった時にどうするか、という点である。同社では、子育てが終わった世帯であっても、強制的に退居させることは避けた。その代わりに、子ども部屋を4.1畳や4.0畳と小さく設計し、子どもが成長して自分の部屋で勉強したり過ごしたりする時間が長くなったときに、自然に「より広いマンションに引っ越したい」と思ってもらうことを企図したとのことである。もちろん、本当に退居するかどうかは入居者次第であり、同社も確約が持てないとしているが、現状ではマイホームの購入等を機に入居者の入れ替わりが起きていることから、滑り出しは順調だとみている。2事業を開始するまでの経緯

同社はこの物件を「子育て応援賃貸マンション」と銘打って運営しているが、これは不動産賃貸業を主とする同社にとっても、初めての取り組みであった。同社は1845年創業の老舗企業で、地域の発展と自社の事業永続のために、次世代に貢献する事業をしたいと考え、自身も子育て世代であった小山敦社長が、子育て応援に資するマンションの企画を指示したという。これを受けて、社内で2014年初春頃から準備を始め、どのようなマンションにするかを考えていた時に、東京都や墨田区の認定制度の存在を知り、それぞれの基準に合わせた仕様にし、認定を取得したという。社員の妻たちの意見や建設会社の設計士らのアドバイスを取り入れ、独自設備も整えた。また、「子育て世帯向け」を謳った他社のマンションを見学したり、子育て支援活動や病児保育などを行うNPO、行政など8団体にヒアリングを行ったりして、不動産業者としてできること、できないことを整理したという。



その結果、設備面における安全対策や利便性はもちろんのこと、多くの親は子育てに対する不安を持っており、親同士で情報交換したり、相談に乗ってもらったりするコミュニケーションの場が必要だと判断したという。また、既存の分譲マンションには、事業者がせっかくキッズスペースやバーベキュー場などを整備したのに利用されなくなったところもあり、設備を活用して機能させるためには、サービスを担う“人”の存在が必要であることを実感したという。



もちろん、設備を整え、人を雇うには費用がかかる。しかし同社は、一般的な賃貸マンションを建設したとしても、10年経てば新築物件に対する競争力が落ち、賃料が下がっていくが、サービス付きマンションであれば、20年、30年後でも賃料を維持することができ、長期的な視点に立てば収益を確保することができると考えた。その裏付けとなったのが、同社が東京都江東区で30年以上運営してきた、単身者向けサービス付き賃貸マンションである。食堂や大浴場を設けて複数の法人から社宅として利用されており、周辺の賃貸マンションよりも高めの賃料設定にもかかわらず、今でもほぼ満室だという。因みにネウボーノは、事業開始当初から単年度でも収益を確保しており、今後、2棟目、3棟目の建設も検討しているという。3事業性確保の鍵

ここで、ネウボーノの成功の鍵をまとめたい。第一に、萬富が自社所有の土地を利用して建てたことが順調な滑り出しにつながっている。事業者が子育て支援住宅への参入を検討する際、1件目から土地購入費を支出するとなると、費用が嵩み、参入のハードルがより高くなることは事実だろう。ただし、土地を所有していない事業者には実施できないということではない。ネウボーノは都が容積率緩和制度を導入するよりも前に建設されたため、緩和の対象にはなっていないが、今後建築する事業者であればこれを活用して住戸数を増やした上で、高めの賃料設定に耐えられる共働き層をターゲットとし、都心に近くて通勤に便利な立地を選ぶ等、事業計画を工夫すれば、収益化の余地はあるのではないだろうか。



第二は、賃貸マンションであることだ。分譲マンションだと、上述のように入居当初は子育て世帯だったとしても、10年、20年後には世代が代わり、設備もソフト事業も形骸化する可能性が高い。ネウボーノは、子育てを終えた世帯に退居を強制するのではなく、部屋の設計を工夫することによって自然に入居者が「卒業」し、入れ替わることを想定している点が注目される。



第三は、ソフト事業に力を入れたことである。例えばキッズスペースや菜園、砂場というハードを整備したとしても、もし日常的に管理人がいて管理運営していなければ、整理整頓や衛生面で現在ほど良い状態が保てないかもしれない。キッズスペースに行けば、管理人が育児相談に乗ってくれたり、子どもに話しかけたりしてくれるという安心感が、入居者にとって足を運ぶ動機になり、安心できる生活につながっている。月1回のイベントも、管理人が手間隙かけて企画運営することで、入居者の参加意欲を高めていると考えられる。つまり、管理人が行うサービスによって、入居者同士がつながり、マンション内に子育て情報を共有できるコミュニティが生まれているのである。これは、県外から引っ越してきた人たちには特に心強いだろう。さらに、カーシェアリングのサービスも、たくさんの買い物をする子育て世帯の満足感を高めているようである。

 



3――おわりに~結びに代えて~

今後、各自治体に子育て支援住宅を普及し、子育てしやすい住環境の整備を進めていくためには、まずは行政が、ネウボーノのように事業化に成功している事例について情報収集・蓄積し、成功のヒントを積極的に事業者に発信していくことが不可欠である。同時に、消費者に対しても、制度の存在を広く啓発することが必要である。東京都の担当者も「今後は制度の認知度を高め、ブランド化を目指したい」としている。認定制度のブランド化が進めば、認定物件に付加価値をつけることができ、事業者への取得の動機も高まる。



住宅は、親が子どもと長い時間を過ごす場所であり、子育ての「主戦場」でもある。特に乳幼児のうちは、住宅内の事故なく安心して育てられるかどうかは、設計や設備ひとつで助けにもなり、危険にもなる。また、祖父母との同居が減り、地域とのつながりが薄れた現代においては、親が子育てに関する不安やストレスをためやすい。特に都内においては、古里を離れ、頼れる親族が少ないという世帯も多い。保育所や幼稚園、児童館等を利用すれば、育児のプロに相談したり、親同士で情報交換したりする機会は得られるが、居住するマンション内でそれができれば、より安心して楽しく子育てができる。各事業者が、不動産を通じたコミュニティ形成に一役買ってくれれば、子育てを巡る状況は大きく改善するだろう。



住宅・不動産分野における子育て支援の取り組みは、官民ともに、まだ緒についたばかりであり、戦略次第で、大きな伸びしろがある分野だともいえる。今後の住宅・不動産業界の理解と協力に期待したい。





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