長期化する連邦政府機関閉鎖-政府閉鎖による実体経済への影響が拡大

長期化する連邦政府機関閉鎖-政府閉鎖による実体経済への影響が拡大: ■要旨



  1. 暫定予算の期限切れに伴う連邦政府機関の一部閉鎖は1月24日で34日間となり、史上最長を更新し続けている。本稿執筆時点で連邦政府機関の再開に目処はたっていない。


     
  2. 今回、期限切れとなった暫定予算は歳出全体のおよそ4分の1程度に過ぎず、政府閉鎖の対象が15省のうちの9省に留まるなど、クリントンやオバマ政権下での政府閉鎖とは様相が異なる。


     
  3. 一方、政府閉鎖の長期化に伴い、実体経済への影響が懸念される。閉鎖に伴い80万人の連邦政府職員に対する給与が停止されているほか、連邦政府向けの請負会社にも影響がでている。また、連邦政府が提供する多数の行政サービスについても、主要な経済統計の発表が先送りされているほか、1月28日からの納税申告や税還付手続きで混乱が予想されるなど、サービスの提供停止や遅延などの影響が懸念されている。


     
  4. 大統領経済諮問委員会(CEA)は、政府閉鎖に伴うGDPへの影響額を毎週▲0.13%ポイントと試算しているが、影響額は閉鎖期間長期化に伴い拡大するとしている。また、米中貿易戦争などで米景気減速懸念がでている中で、資本市場や消費者、企業センチメントへの影響が懸念される。


     
  5. 連邦政府機関閉鎖の行方は予断を許さないが、今回の件でトランプ大統領と議会民主党の対立は先鋭化しており、同大統領の今後の政策運営に影を落とそう。
■目次



1.はじめに

2.連邦政府機関の閉鎖と経済への影響

  ・(連邦政府機関の閉鎖とは):合衆国法典の「不足金禁止条項」に基づく措置

  ・(連邦政府閉鎖の背景):「国境の壁」予算を巡るトランプ大統領の変心

  ・(連邦政府閉鎖の状況)

   :連邦政府職員80万人の給与未払い、多くの政府プログラムも遅延

  ・(経済への影響)

   :毎週GDPが▲0.13%ポイント毀損。消費者、企業マインドの悪化を懸念

3.今後の見通し米国では、暫定予算の期限切れに伴う連邦政府機関の一部閉鎖が持続しており、閉鎖期間は本稿執筆時点(東京時間1月25日)で34日と史上最長を更新している。政府機関の閉鎖に伴いおよそ38万人の連邦政府職員が一時帰休となっているほか、42万人が無給で業務を継続させられており、合計80万人が影響を受けている。1月25日には政府閉鎖から2回目の給与支給日を迎えるが、トランプ大統領と議会民主党の対立が続いており、政府機関再開の目処は立っていない。



連邦政府機関の閉鎖が長期化するにつれて、米実体経済への影響が懸念されている。大統領経済諮問委員会(CEA)は、政府機関の閉鎖に伴う経済損失について週毎にGDPを▲0.13%ポイント毀損させると試算しており、影響額は閉鎖期間の長期化に伴い拡大するとしている。米中貿易戦争などに伴う景気減速懸念が拡がる中で、連邦政府機関の閉鎖は、実体経済に対する更なるリスクとなっている。



本稿では連邦政府機関閉鎖の仕組みや、今回の閉鎖の背景について整理したほか、米経済への影響についてまとめた。連邦政府閉鎖に伴う経済への影響は不透明な部分が多いものの、閉鎖が解除されれば相当程度は復元されるとみられる。もっとも、政府閉鎖に関する一連の政治的な混乱から、今後の政治的な不透明感を嫌気し、資本市場の不安定化や、好調な消費者や企業のセンチメントが悪化する場合には、実体経済への影響は拡大しよう。

 



2.連邦政府機関の閉鎖と経済への影響

(連邦政府機関の閉鎖とは):合衆国法典の「不足金禁止条項」に基づく措置

連邦政府機関の閉鎖は、歳出法の不成立に伴う資金不足によって発生する。合衆国憲法は、第1章(立法部)、第9条(連邦立法権の制限)第7項で「国庫からの支出は法律で定める歳出予算によってのみ、これを行わなければならない」1と明記しており、連邦政府機関に対して歳出予算によらない国庫からの支出を禁止している。また、公式法令集である合衆国法典の31編、第1341条の「不足金禁止条項」(Antideficiency Act)では、資金不足が解消されない場合に、法律によって継続的な活動を許可される場合を除き、政府機関は活動を停止しなければならないことを定めている。



このため、通年予算や暫定予算の期限が切れて資金不足が発生する場合には一部の業務を除いて連邦政府機関の閉鎖が発生する2



トランプ政権下では、18年1月と2月にも政府閉鎖が発生しており、12月からの閉鎖は3回目となる。



一方、12月からの閉鎖期間(1月24日時点)は34日となっており、クリントン政権下で95年12月からの21日間、カーター政権下で78年9月からの17日間、オバマ政権下で13年9月からの16日間などを上回り、史上最長となった(図表2)。



なお、政府閉鎖は76年から79年にかけては高頻度で発生していたが、議会調査局(CRS)によれば、当時の連邦政府機関は資金不足の状態となっても将来の予算成立を見越して通常業務を継続していたようだ。その後、80年および81年に当時のシビレッティ司法長官が「不足金禁止条項」の厳格な適用を求める意見書を提出したほか、90年には同条項の例外規定が「国民の生命や財産保護に不可欠な機能」と明確化されたため、連邦政府機関の閉鎖に伴う業務への影響範囲は70年代と90年以降とでは大きく異なる。



一方、政府機関の閉鎖対象については、前述のクリントン政権下とオバマ政権下での閉鎖が全連邦政府機関となっていたのに対し、今回の閉鎖では15の省のうち、閉鎖対象が9省に留まるなど様相が異なっている。これは、19年度の歳出法案12本の内、国防総省などを含む5本については既に通年の予算が成立しており、7本の暫定予算が期限切れとなったためだ。実際、歳出額でみると19年度の裁量的経費1.3兆ドルのうち、期限切れとなっている金額は、国土安全保障省を含む3,200億ドル分と全体の25%に過ぎない(前掲図表1)。



 




1 アメリカンセンターJAPANのアメリカ合衆国憲法参照 https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2566/
2 連邦政府機関閉鎖に関して、詳しくは議会調査局(CRS)の”Shutdown of the Federal Government: Causes, Processes, and Effects“(18年12月10日)を参照。https://fas.org/sgp/crs/misc/RL34680.pdf
(連邦政府閉鎖の背景):「国境の壁」予算を巡るトランプ大統領の変心

連邦政府機関の一部閉鎖を招いた要因は、トランプ大統領と民主党による「国境の壁」予算を巡る攻防と、同大統領の変心である。19年度予算(18年10月~19年9月)審議では、昨年11月の中間選挙を前に「国境の壁」予算に関して、トランプ大統領の要求額(50億ドル)と野党民主党の要求額(16億ドル)に開きがあり、審議の難航が予想された。このため、国土安全保障省を含む7本の歳出法案が中間選挙後の12月を期限とする暫定予算となっていた。



中間選挙後に再開された予算審議では、トランプ大統領が引き続き50億ドルを要求していたものの、民主党首脳部との12月11日の会談を経て、18日にホワイトハウスのサンダース報道官が、トランプ大統領が予算額で譲歩する可能性を示唆した。この動きを受けて、19日に上院は「国境の壁」予算の審議は継続するものの、21日の暫定予算の期限を前に、2月8日を期限とする50億ドルを含まない暫定予算を可決した。



しかしながら、上院可決後にトランプ大統領が共和党保守議員を含む支持者から予算譲歩に対する非難を受けると、同大統領は50億ドルを含まない歳出法案に署名しないスタンスに変心した。このため、下院は上院の暫定予算案を修正し、大統領の要求通り57億ドルの予算を盛り込んだ法案を翌日可決した。この結果、暫定予算の期限切れ直前に、上下院で異なる予算案が可決された状況となった。



上院では、下院案に対する民主党議員の反対により、議事妨害を回避して下院案を可決するのに必要な60議席の確保が困難とみられていたほか、上院予算案を可決した後、クリスマス休暇を前に散会していたため、議員の多くが地元に帰っており、審議が困難な状況となっていた。このため、共和党のマコネル院内総務は、暫定予算の審議を断念し、21日からの政府閉鎖が決定した。



19年入り後の新議会では、過半数を奪還した下院民主党が主導し、昨年上院が可決した50億ドルを含まない暫定予算案を可決した。一方、上院では共和党が57億ドルと3年間のDACA維持を含む暫定予算案を1月24日に提出したものの、採決にかけるかを判断するための投票段階で否決されており、暫定予算案が可決される目処は経っていない。



これらの経緯を後掲図表3にまとめた。(連邦政府閉鎖の状況):連邦政府職員80万人の給与未払い、多くの政府プログラムも遅延

12月21日からの閉鎖では、前述の9省に加え、環境保護局(EPA)や航空宇宙局(NASA)など多くの局や規制委員会も閉鎖対象となっている。この結果、連邦政府職員のおよそ38万人が一時帰休を余儀なくされているほか、42万人が無給での勤務を強いられており、合計80万人の給与が未払いとなっている。



一方、各政府機関における一時帰休職員の割合は省庁によって幅があり、国土安全保障省や司法省ではシェアが1割台に留まっている一方、運輸・住宅都市開発省(HUD)などでは9割超の職員が一時帰休となっている(図表4)。連邦政府職員の一時帰休などに伴い、連邦政府が提供する多数のサービスが一部休止や通常より遅延する事態となっている。例えば、米企業が外国人の採用に際して、米国での就労資格を確認するのに活用されるE-Verifyシステムは国土安全保障省の閉鎖に伴いサービスが停止されている。



また、経済統計を推計、公表している商務省センサス局や経済分析局(BEA)の閉鎖に伴い貿易統計や小売統計の発表が遅延しているほか、30日に予定されているGDP統計についても遅延する可能性が濃厚となっている。



一方、交通省所管で空港保安検査などを担当する運輸保安庁(TSA)では欠勤率が7%~10%と1年前(2.5%~3%)の倍以上になっており、一部空港で荷物検査にかかる時間が増えている。



さらに、財務省の外局である内国歳入庁(IRS)では、1月28日から納税申告受付と税還付開始を予定しているが、担当職員が不足しているほか、税制改革に伴う大幅な税制ルール変更への準備不足などが指摘されており、税還付が遅れる懸念が強まっている。このため、トランプ政権は、政府閉鎖当初に3万5千人の職員を無給労働、4万5千人を一時帰休としていた方針を1月15日に転換し、一時帰休の職員3万人に対して無給で職場に呼び戻される事態となっているが、納税申告対応が混乱することは不可避とみられている。(経済への影響):毎週GDPが▲0.13%ポイント毀損。消費者、企業マインドの悪化を懸念

政府閉鎖が継続していることもあり、実体経済への影響を評価するのは難しい。現在、政府閉鎖に伴い80万人の連邦政府職員に給与が未払いとなっているほか、連邦政府ビルの警備員など政府機関の閉鎖によって中小企業を中心に1万社3程度の請負会社の職員給与も未払いとなっている。



大統領経済諮問委員会(CEA)は、これら連邦政府職員と請負業者に対する影響を反映して政府閉鎖によるGDPへの影響額は、週毎に▲0.13%ポイントの毀損と試算した。この試算に基づけば、政府閉鎖により10-12月期のGDPは▲0.2%ポイント、1-3月期は現時点までに▲0.4%ポイント減少したとみられる。このため、政府閉鎖が早期に解消される場合には、実体経済への影響は限定的となろう。一方、CEAのハセット委員長は政府閉鎖が3月末まで継続した場合には1-3月期のGDP成長率がゼロになる可能性を示唆しており、閉鎖期間の長期化に伴い実体経済への影響は拡大が見込まれている。もっとも、これらの経済損失は政府閉鎖が解消された後に無給労働した連邦政府職員に対しては過去に遡って給与が支給されるため、解消後に相当程度復元される可能性が高い。



一方、一連の政府閉鎖が経済により深刻な影響を与える可能性として、資本市場の不安定化や消費者、企業センチメントの悪化が懸念される。米中貿易戦争や海外経済の減速懸念、FRBの独立性に対する懸念を含む金融政策などを背景に、米国経済の減速懸念が意識され、12月以降株式市場は不安定な動きとなっている(図表5)。



消費者センチメントや企業センチメントは依然として高い水準を維持しているものの、昨年の秋口からのピークアウトが明確となっている(図表5、図表6)。このような中で税還付の遅延や市民サービスの停滞による市民生活への影響、主要な経済指標が発表されないことでそれらの統計に基づく民間企業の購買や投資決定の先送りなどによって、消費者や企業センチメントが悪化する可能性は否定できない。



実際、一連の閉鎖問題にみられるように、1月からのねじれ議会で与野党対立に伴う議会の機能不全が鮮明となっている。これから3月には米国債のデフォルトリスクを孕む連邦政府債務の上限引き上げ問題を控えているほか、20年度の予算編成作業など重要な法案審議が予定されている。さらに、議会が機能不全となっている状況では、景気が減速した場合の景気対策などの審議がまとまらない可能性が高い。



これらの国内政治の混乱を嫌気し、資本市場の不安定な状況が長期化する場合や、消費者や企業のセンチメントが大幅に悪化する場合には消費や設備投資の鈍化から実体経済への影響は大きくなろう。

 




3 ワシントンポスト”Nearly 10,000 companies contract with shutdown-affected agencies, putting $200 million a week at risk”(19年1月16日) https://www.washingtonpost.com/graphics/2019/business/contractors-shutdown/?utm_term=.95d04f99dc98
 





3.今後の見通し

本稿執筆時点(1月25日)で政府閉鎖解除の目処は立っていない。1月29日に予定されていたトランプ大統領の施政方針演説(一般教書)は閉鎖解除後に行うことが既に発表されたことから、今月中に閉鎖が解除される可能性は低いとみられる。



共和党、民主党議員ともに政府機関の早期再開方針では一致しているものの、大統領が再開の条件としている「国境の壁」予算でどのように大統領と折り合いをつけるのか、解決の糸口を見出せていない。



一方、AP-NORCアメリカ全国世論調査センターが実施した最近(1月16~20日)の世論調査4では、国民の65%が政府閉鎖を「深刻な問題」と回答しているほか、60%が「トランプ大統領」が政府閉鎖の責任を負っていると回答しており、「議会民主党」(同31%)や「議会共和党」を上回っている。



前述のように1月28日からの納税申告や税還付手続きでは大きな混乱が見込まれているため、これまで以上に政府閉鎖のネガティブな側面が可視化される可能性が高い。このため、世論調査結果も踏まえて、来月以降にトランプ大統領は民主党と一定程度妥協せざるを得なくなるだろう。



また、トランプ大統領が、民主党の求めるDACAなどの移民問題での妥協と引き換えに「国境の壁」予算を確保する場合には、同大統領のコア支持層からの評価を下げる可能性もあり、同大統領としても難しい判断を迫られよう。



いずれにせよ、ロシア疑惑捜査が佳境を向かえる中で、政府閉鎖問題はトランプ大統領の政治資本を毀損させる可能性が高い。



トランプ大統領が年初から野党民主党との対立を先鋭化させたことで、新議会では同大統領が目指す経済政策で成果を挙げるのは益々難しい状況となったと言えよう。



 



 







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