中国の生命保険市場(2017年版)基礎データ【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(35)
中国の生命保険市場(2017年版)基礎データ【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(35): ■要旨
■目次
1-市場概況
2-商品構成
3-販売チャネル構成
4-保険金・給付金、解約払戻金等の支払いの状況
5-主要な保険会社の業績状況
6-資産運用状況
7-収支状況
8-保険の地域別普及状況〔生損保合計〕
9-世界における中国生命保険市場の位置づけ
10-おわりに2017年の中国における生命保険(健康保険、傷害保険などを含む「広義の生命保険」)の収入保険料は、前年比20.3%増の2兆6,746億元であった。日本円では約46兆円規模にあたる1。
中国の生保市場は、国民の所得の向上、高い保障ニーズに加えて、2014年以降、予定利率の上限の緩和措置が奏功し、急速な成長を遂げている。収入保険料の増加率は前年の2016年には及ばなかったものの20%台を超え、収入保険料の規模はこれまでで最大となった(図表1)。2017年は、市場の健全化を深める1年であった。これまで問題とされてきたユニバーサル保険は、2016年の段階的な販売総量規制によって、2017年に入ってからは大幅に縮小した2。3月の全人代以降、金融市場全体として、金融リスク、システミックリスク発生への懸念が強まり、政策面での整備が急速に進められた。保険の監督当局である中国保険監督管理委員会(当時)は、この時期、保険会社に対してリスクコントロールを強く求める施策を相次いで発表している。このような状況は、一連の騒動を受けて4月に保監会のトップ項俊並主席が更迭されて以降、急増した。6月にはユニバーサル保険の販売で海外投資などを大規模に行っていた安邦保険グループの呉小暉CEOが拘束、起訴されるに至っている。当局は、保険の本来あるべき役割を果たすべく、保障性商品、長期平準払商品(貯蓄性商品)へのシフトを保険会社に強く求めたこともあり、市場では新たに年金保険の販売が増加した。7月には年金保険など老後の生活を支える貯蓄性商品について、保険料控除の対象とする意向を発表し、保険市場の更なる活性化に努めた(実施は2018年5月以降)。
一方、2017年には、中国初の生保相互会社が誕生している。信美人寿相互保険社は、アリババグループ傘下のアント・フィナンシャルが運営資金の34.5%を拠出している。加えて、このアント・フィナンシャルが筆頭株主の天弘ファンドも24.0%を拠出するなどプラットフォーマー系の保険会社となっている。アリババ経済圏のツールを使って加入・決済から給付金の受け取りまで行い、顧客やビッグデータを経済圏内に囲い込む戦略をとっている。具体的には、アリババ経済圏の会員向けに、サービスや決済を利用したことでためたポイント(点数)を保障コスト(保険料に相当)として利用できる保障プランを開発するなど、新たな保障のあり方も提示した。
2-商品構成
2017年の商品構成(収入保険料ベース)は、有配当保険は前年比0.4ポイント増加し、32.3%を占めた。また、無配当保険が前年より1.5ポイント増加し、全体の49.7%と最も多くを占めた(図表2)。無配当保険は、2013年後半の予定利率の上限緩和措置以降、販売が拡大し、構成比は11.1%から49.7%まで急速に増加した。当局による市場の健全化策の一環として、これまでの養老保険に加えて、年金保険の販売が増加したことも奏功した。
一方、健康保険・傷害保険の構成比は前年から2.1ポイント減少して17.5%となった。ユニバーサル保険を運用特約として付帯することが規制され、運用特約付きの介護保険の販売が縮小したことが影響していると考えられる。保険の種類別でみると、収入保険料ベースで最も増加したのは、無配当保険(前年比23.8%増)であった(図表3)。次いで有配当保険(前年比22.1%増)となった。投資連結保険、ユニバーサル保険については、販売総量規制の影響もあり、保険料のうち投資に充てられる部分が大幅に縮小した。
2017年の生保収入保険料(健康保険、傷害保険を含む)のうち、59.0%が新契約の保険料であった。市場健全化策の一環で、平準払い契約の増加が推進され、新契約のうち、前年比6.9ポイント増の37.6%が平準払契約の初年度保険料となった(図表4)。平準払契約のうち、期間10年以上の契約が全体の52%と最も多くを占めたが(前年からの増減なし)、期間が4~5年の契約が前年より2.3ポイント減少し、替わって3年以下が1.7ポイント増加するなど、相対的に期間の短い契約が増加した。
3-販売チャネル構成
2017年の販売チャネル(収入保険料ベース)は、個人代理人が50.2%と最も多くを占めた(図表5)。
次いで、銀行窓販が40.7%を占め、上掲の個人代理人と合計すると全体の90.9%とおよそ9割を占めた。
販売チャネルの構成比は商品とは異なり、大きな変動はなく、個人代理人は全体の5割程度、銀行窓販は4割程度で推移している。
インターネットや電話による販売を含む直販は6.7%を占めた。生保各社では、スマートフォンのアプリを活用した保険の販売や諸手続きの普及を積極的に進めている。
4-保険金・給付金、解約払戻金等の支払いの状況
2017年の生命保険の死亡保険金や満期保険金等の支払いは、前年より0.6%減少し、4,575億元となった(図表6)。2015年以降、生命保険の保険金・給付金の支払は安定して推移している。一方、健康保険は短期の契約も多く、前年比29.4%増の1,295億元となった。
また、解約払戻金は、前年比37.3%増の6,118億元となった(図表7)。商品別の構成比をみると、無配当保険は、販売が増加するのと同様に解約も増加しており、前年比13.2ポイント増の80.0%と最も多くを占めた。国内系生保、外資系生保の会社資本別でみると、市場占有率92.6%を占める国内系生保が全体の95.0%を占めた。解約率をみると、国内系生保が6.58%と、外資系生保の5.58%と比べて相対的に高い。
5-主要な保険会社の業績状況
2017年、国内系の生命保険会社(医療保険専門、企業年金専門の保険会社を含む)は56社、外資系生保は28社であった。市場占有率(収入保険料ベース)は、国内系生保が92.6%を占め、外資系生保は7.4%であった。
2017年の市場占有率の高い上位3社は、中国人寿、平安人寿、安邦人寿である(図表8)。そのうち、国有生保最大手である中国人寿の業績をみると、保険料収入も安定して増加し、加えて、金融市場の回復により、運用面でも底堅く収益を確保できた。2016年から一転して純利益、EPS(一株あたりの利益)が大幅に増加した。
一方、民間生保最大手である平安人寿は、平安保険グループ全体でフィンテック事業に力を入れている。医療アプリ(平安好医生)など健康、医療に加えて、P2Pレンディング(趣分期)など金融、資産といったビッグデータを活用し、販売を進めている。平安保険グループは、金融事業のコングロマリット化の促進や、フィンテックをいち早く事業の柱に据えるなど、市場の変化に俊敏に適用している点が既存の国有大手と大きく異なる点である。保険料収入では首位の中国人寿の後塵を拝しているものの、純利益、EPSといった収益面では中国人寿を凌いでいる。
安邦人寿は、2015年後半~2016年にかけて一連の高利回商品を大量販売し、海外の有名ホテルや金融機関を次々と買収していた。2017年以降は商品を変えて販売を強化しており、国内系生保では3位となった。しかし、2017年6月に同社のトップである呉小暉氏が資金調達における詐欺行為と業務上横領の疑いで起訴された。2018年2月に同社は当局に接収されている。
外資系生保については、中国の国内銀行が50%以上を出資するアクサ、シグナといった銀行系生保が上位を占めている。グレートイースタンは銀行窓販で年金保険を大量に販売し、外資系生保2位に急浮上した。外資系生保については、規模は小さいながらも、営業収入、純利益が大きく伸びている会社が多い。各社の市場占有率(収入保険料ベース)は、近年、大きく変動している。中国の生保市場は、これまで国有系大手生保の占有率が高かったが、直近数年間では新興の中堅生保が急速に占有率を伸ばしている。
図表9は、2017年末時点で市場占有率上位10社について、2012年時点に遡って5年間の推移を示したものである。最大手の中国人寿は2012年から2017年までの5年間で占有率が12.7ポイントも下落している。一方、急速に勢力を伸ばしているのは、新興・中堅生保であった安邦人寿(0.1%→7.3%)、華夏人寿(0.1%→3.3%)である。両社はいずれも2015年から2016年にかけて高利回りを謳ったユニバーサル保険を大量に販売した保険会社である。
2012年から2017年までの間で、多くの国有系大手生保の市場占有率は下落している。例えば、上掲の中国人寿(32.4%→19.7%)に加えて、新華人寿(9.8%→4.2%)、中国人民人寿(6.4%→4.1%)などが挙げられる。上掲の新興・中堅生保の急伸もさることながら、上位の会社で占有率を唯一安定して維持しているのが民間最大手の平安人寿である。2017年は占有率が14.2%まで上昇した。わずか5年間で、首位の中国人寿との占有率の差は、19.5ポイントから5.5ポイントまで縮小している。2017年の生保の総資産は、前年比6.3%増の12兆2,144億元であった3。中国では、生命保険業全体の資産運用状況は公表していないため、以下では、生保大手3社(中国人寿、平安人寿、太平洋人寿)について確認し、運用の全体像を概観する4。
図表10は3社の資産のうち、負債を運用し、収益を確保することを目的とした実働資産について債券や株式など運用手段別に分類し、合計したものである。それによると、2017年は銀行の定期預金(12.3%)、貸付(13.1%)、債券(49.1%)といったインカム資産が実働資産全体の74.5%を占めており、安全な資産を中心に運用されている。
また、およそ半分を占める債券については、国債・政府債が38.1%、金融債が18.0%と安全性の高い債券が過半の56.1%を占めている。その他には、高収益が期待される理財商品などが含まれている。
3 資産運用残高については、生保、損保などの分類での公表はない。
4 上位5社のうち、3位の安邦人寿は2018年2月に銀保監会に接収され、2017年のディスクロージャー資料を公表していないため除外した。また、泰康人寿は、2017年のディスクロージャー資料において、運用手段別の分類がされていないため、除外した。なお、中国人寿、平安人寿、太平洋人寿の市場占有率の合計は、40.6%である。
7-収支状況
中国の生命保険業全体の収支動向は公表されていないため、以下では生保大手4社(中国人寿、平安人寿、太平洋人寿、泰康人寿)について確認し、収支の全体像を概観する。
2017年の大手4社の営業収入の総額は、前年比24.8%増の1兆5,281億元であった(図表11)。2017年は保険料等収入の大幅な増加に加えて、株式市場の回復から資産運用収益が増加した。
営業支出では、責任準備金等の繰入、手数料・コミッションも増加したが、営業利益も前年より増加した。
最終的な純利益は大幅に増加し、前年比42.6%増の863億元となった。
8-保険の地域別普及状況〔生損保合計〕
2017年の1人あたりの保険料拠出は2,632元(生損保合計)で、2016年より374元増加した(図表12)。
地域別の普及状況は、所得の高い東部地域が最も進んでいる。1人あたりの保険料拠出が最も多い北京市は、全国平均のおよそ3.5倍の規模となっている。また、2017年の公表データのうち、最も少ない貴州省(1,108元)は全国平均のおよそ4割、北京市の1/8となり、普及の地域格差は引き続き大きい。
9-世界における中国生命保険市場の位置づけ
スイス再保険会社のSigma 「World insurance in 2017」によると、国・地域別の生命保険料の規模において、中国は米国に次いで世界第2位となった(図表13)5。上位5カ国の伸び率について、近年の状況を見ると、中国が23.0%とその他の4カ国を遥かに凌いでいることが分かる(図表14)。中国は、その市場規模、成長率から、世界の生命保険市場を牽引する存在になりつつあると言えよう。一方、人口が多く、地域によって経済格差が大きいこともあり、「GDPに占める生命保険料収入の割合」は2.7%、「国民1人当たりの生命保険料収入」は225ドルと相対的に低く、いずれも世界平均にさえ達していない(図表15、図表16)。国民1人1人に広く保険が普及している状況とは言い切れず、引き続き今後の成長の余地は大きいと考えられる。
10-おわりに
2017年は、監督当局トップの更迭や保険会社トップの拘束など、2015年以降顕在化してきた問題に向けた健全化対策が強力に推し進められた。そのような中でも、保険本来の役割を果たすべく、保障性、貯蓄性商品の販売が奨励され、市場の成長は引き続き堅調であった。
一方で、新たな動きも見られた。プラットフォーマーであるアリババが生保分野に進出し、生保相互会社が誕生した。ネットを通じた相互保険商品の提供に加えて、アリババ経済圏内で活用されているポイントを保障コスト(保険料に相当)に充当できる保障プランを開発し、ネット決済のアリペイを通じて爆発的に普及させた。このような新たな保障のあり方は、既存の保険会社による従来型の保障のあり方を改めて問い直す事態となった。
プラットフォーマーによる保険分野への進出は世界的にも注目をされているが、中国の国内市場においてはそれが急速に進んでいる。2017年は、収入保険料の規模が世界第2位になるなど、世界の成長に貢献したことで、プレゼンスが更に向上した。今後は、プラットフォーマー系の保険会社がどのような成長の軌跡を見せるのか、既存の保険会社との競合や規制はどうなるのかなど、中国の生保市場が世界における一つの実験場として、その役割を果たす可能性もある。
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- 急成長を続ける中国の生命保険市場は、2017年にアメリカに次いで2番目の規模となった。
- 上位5カ国の収入保険料の伸び率を見てみると、中国がその他の4カ国を遥かに凌いでいる。中国は市場規模、伸び率から、世界の生命保険市場を牽引する存在になりつつあると言えよう。
- 加えて、国民1人あたりの生命保険料収入や、GDPに占める生命保険料収入の割合は世界平均にも達しておらず、今後の成長余地は大きい。
- 国内市場をみてみると、2017年の生保収入保険料は、前年比20.3%増の2兆6,746億元で、日本円ではおよそ46兆円規模となった。
- 商品については、予定利率の上限緩和措置を受けて、無配当保険の販売が伸び、市場全体の49.7%を占めた。販売チャネルについては、個人代理人が全体の50.2%、銀行窓販が40.7%と2大チャネルとなっている。
- 保険会社は、国内系生保の市場占有率が高く、外資系生保の市場占有率は7.4%であった。しかし、国内系生保のうち、国有大手の占有率は急速に下がっている。直近5年間で、国有最大手の中国人寿(13ポイント減)、新華人寿(6ポイント減)などが軒並み下がる一方、替わって台頭しているのが新興の中堅生保である。
- 資産運用について、既存の大手3社を中心に概観すると、債券、定期預金、貸付といった安全な資産を中心に運用されている。
- 2017年も市場の健全化が強力に推し進められた。一方で、市場の成長も堅調であった。今後は、新たに誕生した相互保険会社などプラットフォーマー系生保の成長が注目される。
■目次
1-市場概況
2-商品構成
3-販売チャネル構成
4-保険金・給付金、解約払戻金等の支払いの状況
5-主要な保険会社の業績状況
6-資産運用状況
7-収支状況
8-保険の地域別普及状況〔生損保合計〕
9-世界における中国生命保険市場の位置づけ
10-おわりに2017年の中国における生命保険(健康保険、傷害保険などを含む「広義の生命保険」)の収入保険料は、前年比20.3%増の2兆6,746億元であった。日本円では約46兆円規模にあたる1。
中国の生保市場は、国民の所得の向上、高い保障ニーズに加えて、2014年以降、予定利率の上限の緩和措置が奏功し、急速な成長を遂げている。収入保険料の増加率は前年の2016年には及ばなかったものの20%台を超え、収入保険料の規模はこれまでで最大となった(図表1)。2017年は、市場の健全化を深める1年であった。これまで問題とされてきたユニバーサル保険は、2016年の段階的な販売総量規制によって、2017年に入ってからは大幅に縮小した2。3月の全人代以降、金融市場全体として、金融リスク、システミックリスク発生への懸念が強まり、政策面での整備が急速に進められた。保険の監督当局である中国保険監督管理委員会(当時)は、この時期、保険会社に対してリスクコントロールを強く求める施策を相次いで発表している。このような状況は、一連の騒動を受けて4月に保監会のトップ項俊並主席が更迭されて以降、急増した。6月にはユニバーサル保険の販売で海外投資などを大規模に行っていた安邦保険グループの呉小暉CEOが拘束、起訴されるに至っている。当局は、保険の本来あるべき役割を果たすべく、保障性商品、長期平準払商品(貯蓄性商品)へのシフトを保険会社に強く求めたこともあり、市場では新たに年金保険の販売が増加した。7月には年金保険など老後の生活を支える貯蓄性商品について、保険料控除の対象とする意向を発表し、保険市場の更なる活性化に努めた(実施は2018年5月以降)。
一方、2017年には、中国初の生保相互会社が誕生している。信美人寿相互保険社は、アリババグループ傘下のアント・フィナンシャルが運営資金の34.5%を拠出している。加えて、このアント・フィナンシャルが筆頭株主の天弘ファンドも24.0%を拠出するなどプラットフォーマー系の保険会社となっている。アリババ経済圏のツールを使って加入・決済から給付金の受け取りまで行い、顧客やビッグデータを経済圏内に囲い込む戦略をとっている。具体的には、アリババ経済圏の会員向けに、サービスや決済を利用したことでためたポイント(点数)を保障コスト(保険料に相当)として利用できる保障プランを開発するなど、新たな保障のあり方も提示した。
2-商品構成
2017年の商品構成(収入保険料ベース)は、有配当保険は前年比0.4ポイント増加し、32.3%を占めた。また、無配当保険が前年より1.5ポイント増加し、全体の49.7%と最も多くを占めた(図表2)。無配当保険は、2013年後半の予定利率の上限緩和措置以降、販売が拡大し、構成比は11.1%から49.7%まで急速に増加した。当局による市場の健全化策の一環として、これまでの養老保険に加えて、年金保険の販売が増加したことも奏功した。
一方、健康保険・傷害保険の構成比は前年から2.1ポイント減少して17.5%となった。ユニバーサル保険を運用特約として付帯することが規制され、運用特約付きの介護保険の販売が縮小したことが影響していると考えられる。保険の種類別でみると、収入保険料ベースで最も増加したのは、無配当保険(前年比23.8%増)であった(図表3)。次いで有配当保険(前年比22.1%増)となった。投資連結保険、ユニバーサル保険については、販売総量規制の影響もあり、保険料のうち投資に充てられる部分が大幅に縮小した。
2017年の生保収入保険料(健康保険、傷害保険を含む)のうち、59.0%が新契約の保険料であった。市場健全化策の一環で、平準払い契約の増加が推進され、新契約のうち、前年比6.9ポイント増の37.6%が平準払契約の初年度保険料となった(図表4)。平準払契約のうち、期間10年以上の契約が全体の52%と最も多くを占めたが(前年からの増減なし)、期間が4~5年の契約が前年より2.3ポイント減少し、替わって3年以下が1.7ポイント増加するなど、相対的に期間の短い契約が増加した。
3-販売チャネル構成
2017年の販売チャネル(収入保険料ベース)は、個人代理人が50.2%と最も多くを占めた(図表5)。
次いで、銀行窓販が40.7%を占め、上掲の個人代理人と合計すると全体の90.9%とおよそ9割を占めた。
販売チャネルの構成比は商品とは異なり、大きな変動はなく、個人代理人は全体の5割程度、銀行窓販は4割程度で推移している。
インターネットや電話による販売を含む直販は6.7%を占めた。生保各社では、スマートフォンのアプリを活用した保険の販売や諸手続きの普及を積極的に進めている。
4-保険金・給付金、解約払戻金等の支払いの状況
2017年の生命保険の死亡保険金や満期保険金等の支払いは、前年より0.6%減少し、4,575億元となった(図表6)。2015年以降、生命保険の保険金・給付金の支払は安定して推移している。一方、健康保険は短期の契約も多く、前年比29.4%増の1,295億元となった。
また、解約払戻金は、前年比37.3%増の6,118億元となった(図表7)。商品別の構成比をみると、無配当保険は、販売が増加するのと同様に解約も増加しており、前年比13.2ポイント増の80.0%と最も多くを占めた。国内系生保、外資系生保の会社資本別でみると、市場占有率92.6%を占める国内系生保が全体の95.0%を占めた。解約率をみると、国内系生保が6.58%と、外資系生保の5.58%と比べて相対的に高い。
5-主要な保険会社の業績状況
2017年、国内系の生命保険会社(医療保険専門、企業年金専門の保険会社を含む)は56社、外資系生保は28社であった。市場占有率(収入保険料ベース)は、国内系生保が92.6%を占め、外資系生保は7.4%であった。
2017年の市場占有率の高い上位3社は、中国人寿、平安人寿、安邦人寿である(図表8)。そのうち、国有生保最大手である中国人寿の業績をみると、保険料収入も安定して増加し、加えて、金融市場の回復により、運用面でも底堅く収益を確保できた。2016年から一転して純利益、EPS(一株あたりの利益)が大幅に増加した。
一方、民間生保最大手である平安人寿は、平安保険グループ全体でフィンテック事業に力を入れている。医療アプリ(平安好医生)など健康、医療に加えて、P2Pレンディング(趣分期)など金融、資産といったビッグデータを活用し、販売を進めている。平安保険グループは、金融事業のコングロマリット化の促進や、フィンテックをいち早く事業の柱に据えるなど、市場の変化に俊敏に適用している点が既存の国有大手と大きく異なる点である。保険料収入では首位の中国人寿の後塵を拝しているものの、純利益、EPSといった収益面では中国人寿を凌いでいる。
安邦人寿は、2015年後半~2016年にかけて一連の高利回商品を大量販売し、海外の有名ホテルや金融機関を次々と買収していた。2017年以降は商品を変えて販売を強化しており、国内系生保では3位となった。しかし、2017年6月に同社のトップである呉小暉氏が資金調達における詐欺行為と業務上横領の疑いで起訴された。2018年2月に同社は当局に接収されている。
外資系生保については、中国の国内銀行が50%以上を出資するアクサ、シグナといった銀行系生保が上位を占めている。グレートイースタンは銀行窓販で年金保険を大量に販売し、外資系生保2位に急浮上した。外資系生保については、規模は小さいながらも、営業収入、純利益が大きく伸びている会社が多い。各社の市場占有率(収入保険料ベース)は、近年、大きく変動している。中国の生保市場は、これまで国有系大手生保の占有率が高かったが、直近数年間では新興の中堅生保が急速に占有率を伸ばしている。
図表9は、2017年末時点で市場占有率上位10社について、2012年時点に遡って5年間の推移を示したものである。最大手の中国人寿は2012年から2017年までの5年間で占有率が12.7ポイントも下落している。一方、急速に勢力を伸ばしているのは、新興・中堅生保であった安邦人寿(0.1%→7.3%)、華夏人寿(0.1%→3.3%)である。両社はいずれも2015年から2016年にかけて高利回りを謳ったユニバーサル保険を大量に販売した保険会社である。
2012年から2017年までの間で、多くの国有系大手生保の市場占有率は下落している。例えば、上掲の中国人寿(32.4%→19.7%)に加えて、新華人寿(9.8%→4.2%)、中国人民人寿(6.4%→4.1%)などが挙げられる。上掲の新興・中堅生保の急伸もさることながら、上位の会社で占有率を唯一安定して維持しているのが民間最大手の平安人寿である。2017年は占有率が14.2%まで上昇した。わずか5年間で、首位の中国人寿との占有率の差は、19.5ポイントから5.5ポイントまで縮小している。2017年の生保の総資産は、前年比6.3%増の12兆2,144億元であった3。中国では、生命保険業全体の資産運用状況は公表していないため、以下では、生保大手3社(中国人寿、平安人寿、太平洋人寿)について確認し、運用の全体像を概観する4。
図表10は3社の資産のうち、負債を運用し、収益を確保することを目的とした実働資産について債券や株式など運用手段別に分類し、合計したものである。それによると、2017年は銀行の定期預金(12.3%)、貸付(13.1%)、債券(49.1%)といったインカム資産が実働資産全体の74.5%を占めており、安全な資産を中心に運用されている。
また、およそ半分を占める債券については、国債・政府債が38.1%、金融債が18.0%と安全性の高い債券が過半の56.1%を占めている。その他には、高収益が期待される理財商品などが含まれている。
3 資産運用残高については、生保、損保などの分類での公表はない。
4 上位5社のうち、3位の安邦人寿は2018年2月に銀保監会に接収され、2017年のディスクロージャー資料を公表していないため除外した。また、泰康人寿は、2017年のディスクロージャー資料において、運用手段別の分類がされていないため、除外した。なお、中国人寿、平安人寿、太平洋人寿の市場占有率の合計は、40.6%である。
7-収支状況
中国の生命保険業全体の収支動向は公表されていないため、以下では生保大手4社(中国人寿、平安人寿、太平洋人寿、泰康人寿)について確認し、収支の全体像を概観する。
2017年の大手4社の営業収入の総額は、前年比24.8%増の1兆5,281億元であった(図表11)。2017年は保険料等収入の大幅な増加に加えて、株式市場の回復から資産運用収益が増加した。
営業支出では、責任準備金等の繰入、手数料・コミッションも増加したが、営業利益も前年より増加した。
最終的な純利益は大幅に増加し、前年比42.6%増の863億元となった。
8-保険の地域別普及状況〔生損保合計〕
2017年の1人あたりの保険料拠出は2,632元(生損保合計)で、2016年より374元増加した(図表12)。
地域別の普及状況は、所得の高い東部地域が最も進んでいる。1人あたりの保険料拠出が最も多い北京市は、全国平均のおよそ3.5倍の規模となっている。また、2017年の公表データのうち、最も少ない貴州省(1,108元)は全国平均のおよそ4割、北京市の1/8となり、普及の地域格差は引き続き大きい。
9-世界における中国生命保険市場の位置づけ
スイス再保険会社のSigma 「World insurance in 2017」によると、国・地域別の生命保険料の規模において、中国は米国に次いで世界第2位となった(図表13)5。上位5カ国の伸び率について、近年の状況を見ると、中国が23.0%とその他の4カ国を遥かに凌いでいることが分かる(図表14)。中国は、その市場規模、成長率から、世界の生命保険市場を牽引する存在になりつつあると言えよう。一方、人口が多く、地域によって経済格差が大きいこともあり、「GDPに占める生命保険料収入の割合」は2.7%、「国民1人当たりの生命保険料収入」は225ドルと相対的に低く、いずれも世界平均にさえ達していない(図表15、図表16)。国民1人1人に広く保険が普及している状況とは言い切れず、引き続き今後の成長の余地は大きいと考えられる。
10-おわりに
2017年は、監督当局トップの更迭や保険会社トップの拘束など、2015年以降顕在化してきた問題に向けた健全化対策が強力に推し進められた。そのような中でも、保険本来の役割を果たすべく、保障性、貯蓄性商品の販売が奨励され、市場の成長は引き続き堅調であった。
一方で、新たな動きも見られた。プラットフォーマーであるアリババが生保分野に進出し、生保相互会社が誕生した。ネットを通じた相互保険商品の提供に加えて、アリババ経済圏内で活用されているポイントを保障コスト(保険料に相当)に充当できる保障プランを開発し、ネット決済のアリペイを通じて爆発的に普及させた。このような新たな保障のあり方は、既存の保険会社による従来型の保障のあり方を改めて問い直す事態となった。
プラットフォーマーによる保険分野への進出は世界的にも注目をされているが、中国の国内市場においてはそれが急速に進んでいる。2017年は、収入保険料の規模が世界第2位になるなど、世界の成長に貢献したことで、プレゼンスが更に向上した。今後は、プラットフォーマー系の保険会社がどのような成長の軌跡を見せるのか、既存の保険会社との競合や規制はどうなるのかなど、中国の生保市場が世界における一つの実験場として、その役割を果たす可能性もある。
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