サクセッションプランニングの焦点-後継者計画の課題は決め方より育成にある

サクセッションプランニングの焦点-後継者計画の課題は決め方より育成にある: ■要旨



2018年6月の「コーポレートガバナンス・コード(以下、コード)」の改訂によって、サクセッションプランニング(後継者計画)が改めて企業の懸案事項となった。後継者計画とは「社長・CEOの意図的かつ計画的な育成・選定」である。本稿は、企業で検討が進む後継者計画について、先行する米国の考え方を参考にしながら、現状の育成・選定に関わる論点の考察を通じて後継者計画のあり方を検討する。



後継者計画には、国や企業の歴史と文化、経営に対する考え方が反映する。後継者計画で先行する欧米と日本を比較していずれかが優れるというわけではないが、現在の日本の課題は、関心が高い次期経営トップとなる後継者の決め方より、その育成にあると考える。経営という職務が高度化・複雑化し守備範囲も拡大している状況を直視すれば、経営者を高度専門職と位置付け、意図的かつ計画的に育成する必要があるではないだろうか。海外の後継者計画から活用可能な育成の考え方や施策を賢明に取り入れるという工夫が求められる。企業は経営者次第であるからこそ、優れた経営者を育成・輩出するための後継者計画は、コーポレートガバナンスを支える基盤であり出発点である。



■目次



1――サクセッションプランニングとは

2――先行する米国の後継者計画

3――日本の後継者計画の現状

4――決め方の課題

5――育成の課題

6――後継者計画こそ形式より実質

7――日本固有の育成課題

8――後継者計画の意義2018年6月の「コーポレートガバナンス・コード(以下、コード)」の改訂によって、サクセッションプランニング(後継者計画)が改めて企業の懸案事項となった。後継者計画とは、一般に「継続的に組織の中の将来のリーダーを特定し、リーダーの役割を果たすことができるよう育成するプロセス」を指す1。本稿では、我が国におけるコーポレートガバナンスの議論に即して、後継者計画を「社長・CEOの意図的かつ計画的な育成・選定」とする。



後継者計画は、コーポレートガバナンスの要諦である社長・CEOの選任に直結している。本稿は、これらを一体として扱い、後継者計画で先行する米国の考え方を参考にしながら、日本における経営者の育成・選定に関わる論点の考察を通じて、後継者計画のあり方を検討する。



 




1 先行する海外では後継者計画の対象者は社長・CEOに限定されず、副社長・CFO以下の経営陣から広く組織・階層のリーダー職まで広がっている。クリスティー・アトウッド(石山恒貴訳)「サクセッションプランの基本 ―人材プールが力あるリーダーを生み出す―」ASTDグローバルベーシックシリーズ(2012年)pp.15-16

 



2――先行する米国の後継者計画
日本では馴染みの薄い後継者計画は、米国では早くも1950年代には普及していた2。米国では企業史として、創業経営者から経営を承継する時代の到来が日本より早かった結果、経営の承継を円滑に行う工夫が発達したからだ3。創業者の後に続く経営者たちが、創業者に劣らぬほど企業を発展させることは現実には容易でない。スティーブ・ジョブズの後継者としてアップルを更に飛躍させるという挑戦を想像してみて欲しい。後継者への承継には準備が必要であるから、育成を含めた周到な計画が立案されることになる。米国は日本とは異なり、職務の権限と責任を明確に規定する職業文化であるから、後継者計画は経営という職種(経営職)を規定し要件を定め、その要件を満たすように育成する内容となる。日本との違いとして、米国に限らず海外でも経営職は管理職の延長線上にはないという考えが一般的である。経営職は、会社全体の舵取りである新規事業参入や事業撤退のような、正解のない、本質的に不確定な未来に向かって働きかける職務だからである4。困難ではあっても上位から与えられた目標(正解)を遂行する管理職とは質的に異なる5。従って、将来有望な候補者には現場の実務経験もそこそこに、早期に選抜して経営者にするための経験を積ませるという考え方である。早期選抜の対象者には生まれ持った資質(器)や経営の知識を有していることが望まれる。経営者を志望する入口段階で、経営の専門知識を修得する教育機会として経営学修士(MBA)が機能している6



米国の経営者育成は、将来有望な候補を若い段階から「はじめる、やめる、変える」など、管理とは別次元の困難な職務に敢えて配置(タフ・アサインメントという)して鍛えることが柱となっている。例えば、外資系日本法人の社長に、日本の感覚からすれば非常に若い外国人が就任にしているケースなどは、欧米とは全く異質な文化や言葉の壁がある日本に敢えて配置し、小規模でも若くして経営を経験させ、実際に経営者としてビジネスを拡大できるのかを評価するというタフ・アサインメントである7。このように、後継者計画には、企業の歴史、職業文化、経営に対する考え方が反映する。米国における後継者計画は、経営の重要な課題として、経営職という高度専門職を、早期選抜と修羅場経験を通じて育成する仕組みとして確立されている。



 




2 ピーター・キャペリ「ジャスト・イン・タイムの人事戦略 不確実な時代にどう採用し、育てるか」日本経済新聞出版社(2010)P.15
3 三品和広「経営戦略を問い直す」筑摩書房(2006年)pp.150-151
4 前掲注3 pp.171-172
5 八木洋介・金井壽宏「戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ」光文社(2012)P.166
6 米国有名校MBA修了には一般に2,500万円を超える学資等が必要とされ、高額の学資負担を伴うMBA取得は、米国社会で経営職志望の意思表示になるとともに、その選抜候補に入る有力資格というシグナリング効果がある。
7 米国S&P500株価指数企業では2014年から2017年の4年間に、半数近い220社でCEOが交代したが、内部昇格がそのうち78%を占めている。大卒が生涯平均して5回転職するといわれる米国では(前掲注1 P.24)、当然、生え抜きではないが、米国でも経営者は内部昇格が基本である。加えて、外部の厚い経営人材マーケットの存在が経営者の外部招聘というオプションを提供し、米国の経営者計画を柔軟かつ強靭なものにしている。


SpencerStuart“CEO TARNSITIONS 2017”https://www.spencerstuart.com/research-and-insight/2017-ceo-transitions
 





3――日本の後継者計画の現状

日本企業には後継者計画が実際どの程度存在しているのだろうか(図表1)。明確に存在しないという企業が約半数(48%)である一方、存否が「わからない」(29%)として存在する可能性もある企業を合わせると、最大では半数の企業に後継者計画が存在するとみられる(図表1破線囲み)。図表1「その他」の詳細は、「漠然とこんな感じで育成していく、というものはある」として計画というには曖昧なケースと、「文書として存在しないが、社長・CEOの頭の中にある」というケースが典型である8。「わからない」という回答もアンケート回答者のレベルでは存否が「わからない」に過ぎないとすれば、社長・CEOの頭の中にあるケースが多いと推測される。



計画として曖昧なケースは、日本企業の経営者育成に対する考え方の反映と見ることができる。日本では「人(経営者)は地位に就けば自然に育つ」という考えが支配的である。また、経営者とは高度専門職という捉え方ではなく、高度なゼネラリストとしてきた。育成の実態も、年功序列の職業文化の下、明確な計画はなくとも、長期にわたる異動経験の中で、企業独自のスキルや人脈を築きながら、多数の評価者による査定を経て、会社内部では客観性と納得度の高い後継者の絞込みが行われてきた9。その意味では、欧米とは異なる日本式の後継者計画があるといえるだろう。いずれかが優れているという訳ではなく、これも日本における企業の歴史、職業文化、経営に対する考え方の反映なのである。しかしながら今、後継者計画の必要性が問われている背景には、日本企業の現状に課題が存在するのも確かである。



 




8 経済産業省「CGSガイドラインのフォローアップについて(CGS研究会(第2期)第3回事務局資料)」(2018年)P.26
9 石山恒貴 訳者解説「クリスティー・アトウッド『サクセッションプランの基本 ―人材プールが力あるリーダーを生み出す―』ASTDグローバルベーシックシリーズ(石山恒貴訳)」(2012年)P.132
 





4――決め方の課題

日本企業の課題とは、まず後継者の決め方である。「後継者計画が社長・CEOの頭の中にある」というケースでは、後継者計画とその結果である後継者指名が、実質的に現社長・CEOの専権事項となっている。これに対し、目下、取締役会の監督機能を強化する流れにある日本では、2018年9月改訂の経済産業省「CGSガイドライン」が次のように懸念を要約する

 



  • 後継者の選定は現社長・CEOの人物眼といった属人的な要素に依存し、客観的な基準や評価情報が用いられることが少ない。
  • 後継者の育成計画も(あったとしても)現社長・CEO の頭の中だけに存在し、明確な育成方針や育成プロセスが存在しなかった企業が多い。
  • 後継者の指名は、客観性と透明性が必ずしも十分ではない(中略)、指名の際に、社内論理10や、現社長・CEO の主観的な判断や個人的な都合11など、企業価値の向上以外の観点が優先され、幅広い候補者の中から最適な人材が選ばれていない。


しかしながら、現社長・CEOの人物眼については、その依頼を受けた専門外部機関が後継者候補のアセスメントを行ってみると、最も総合評価の高い人物が、現社長・CEOの「主観的な」意中の次期候補者と一致するケースが、実際には多いようである。



社内者と社外者の人事情報の非対称性から、後継者の選出は社内の経営執行側がある程度主導せざるを得ない。そこで今回のコード改訂では、取締役会や(任意の)指名委員会による社外者の後継者計画への監督・関与の強化が要請された。その結果、現社長・CEOが選抜や指名の理由や妥当性について、少なくとも社外者に対し説明することが求められ、現社長・CEOが提示した指名案が承認される場合でも社外者を入れた審議を経ることになる。後継者計画が社長・CEOの頭の中だけに存在した際には入り込んでいたかもしれない恣意性や社内論理等の余地は、必然的に抑制されていく構造にあり、今後もこの監督強化の流れは強まっていくだろう。後継者計画の実効性を確保するために、取締役会や社外取締役が後継者の決め方を監督することは極めて重要である。ただ一方、妥当性を確保するための手続きが担保されれば、後継者計画の真の目的である優れた経営者の輩出が約束されるという訳ではない。



 




10 経済産業省「CGSガイドライン」P.35脚注26 「例えば、年功序列や入社年次・年齢、社内派閥間や事業部門間のバランス、出身部門や学歴、過去の人事慣行など。」
11 前掲注7, P.35脚注27「例えば、現社長・CEOが退任後も影響力を行使しやすいなど。」
 





5――育成の課題

最適な人材を後継者に選定するには、経営が務まる人材が質・量ともに確保されなければならない(経営人材プールという)。後継者に経営を承継する当事者としてこの点を最も理解している現社長・CEOは、人材育成の状況をどのように見ているのだろうか(図表2)。将来の経営人材の確保・育成は、全体で見ると順調と不安がおよそ半々である。しかし、「確保できている/順調に育っている」と確信できている社長・CEOはわずか14.2%に過ぎない12。勿論、人材育成とは永遠の課題であり、とりわけ経営者の育成は結果としてうまく行かないことも少なくないだろう。とはいえ、現社長・CEOの8割以上が、後継者に経営を引き継ぐ準備自体に自信を持てていないのは由々しき状況といえるのではないか。現社長・CEOの思い描くような万全の経営承継が実現する割合は14.2%より更に低くなってしまうと見るべきだ。後継者の決め方以前に、その育成こそ日本企業の課題である。現在の高度化・複雑化し変化の激しい経営環境において、これまでのような「人は自然に育つ」といった成り行き任せの曖昧な育成では、図表2が示す窮状はおそらく変わらないだろう。この社長・CEOアンケートの結果は、図表1で後継者計画を有する企業が11%に過ぎないことと考え合わせれば、明確な意図と計画なしには、優れた経営人材の十分かつ安定的な育成は覚束ないことを示している。



 




12 経営人材の用語について本アンケートは特定の定義を置いていない。アンケート回答者の主観により、経営人材を社長・CEO以外の副社長・役付役員、機能別責任者(CFO等のC-classポジション)、事業責任者等まで広く想定している点に留意が必要である。但し、日本企業ではこれら職位も社長・CEOにつながっていくため、本稿の後継者計画の対象である。
改訂コードは、後継者計画の策定・運用とともに、取締役会は後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう適切に監督すべきであると、育成の重要性にも言及した(補充原則4-1③)。しかし、欧米流の後継者計画を策定すべきだいう趣旨ではない。取締役会評価と同様に、馴染みの薄い海外の実務用語に惑わされ、計画立案という手段が自己目的化しないよう留意が必要である(図表3も計画のイメージを理解する一助にすぎない)。実際、海外でも後継者計画は標準化には至っておらず、ニーズと文化に即して企業の数だけ存在する13。日本企業にも既に経営者を育成する一定の仕組みが存在している。これに立脚しながら、意図と計画性を備えさせ、育成を明確な目標を伴った仕組みにすることが肝要である。



日本企業が育成に対し明確な意図と計画性を備えさせる場合、目標となる「あるべき社長・CEO像」の設定が共通して不可欠となる。コードの改訂と同時に策定された「投資家と企業の対話ガイドライン(以下、ガイドライン)」も、「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、経営環境の変化に対応した 果断な経営判断を行うことができるCEOを選任するため、CEOに求められる資質14について、確立された考え方があるか」(同3-1)を、投資家は企業に問うべきとしている。



後継者に求められる資質と能力を誰よりも身をもって理解しているのが現社長・CEOである。自社のこれからの後継者に求められる知識、スキル、行動特性、思想・価値観などを現社長・CEOの頭の中から開陳してもらった上で、外部の知見を取り入れ、(任意の)指名委員会等も絡んで経営者の要件を練り上げていくことが、自社固有のあるべき社長・CEO像を設定する近道である。後継者計画を持つ多くの企業で挙げられる経営者の要件の例は、ガイドラインも指摘する「変化に適切かつ即座に対応する力(アジリティ:敏捷性の意で速さ+適切さ)」である。経営者に求められる才覚は時代によって異なる。あるべき社長・CEO像は、経営環境の変化や会社の事業方針の変更に応じて見直すべきものである。



経営職は会社全体の1%程度とも言われ、その育成は能力の底上げのための階層別研修やこれまでのようなOJTでは達成しがたく、欧米のような「個人に合わせた育成計画」を策定し実行することが理想である。候補者の未経験分野や不得意能力要件を踏まえ、個々に適したタフ・アサインメントとして、新規事業の立ち上げ、投資先ベンチャー企業への出向、不採算事業の再建、海外子会社トップへの配置などによって経営者候補として成長を促す。



日本企業には後継者計画が機能しにくい構造的問題がある。後継者計画と、人事部門が役員候補者や管理職向けに実施している各種の選抜や育成施策がそれぞれ別個に運用され、一つの流れとして連動していないことが多いのである15。後継者計画に沿って選抜者にタフ・アサインメントを課すにも、まず人事部門が後継者計画を理解しておくことや、配置ポジションのある事業部門の理解も必要となる。既存の人事体系に起因する縦割りや前例踏襲を排除し、後継者計画を実効的に運用するには、現社長・CEOの積極的関与が成否を分ける。人事部門は後継者計画を支えることはできるが、経営者を育て上げることはできない。



後継者育成に対する社外者の役割として、薫陶の機会など現社長・CEOの関与の積極性を質す、関係部門にまたがる人材育成体系の構築・運用状況を確認するなど、重要だが会社内部からは改善作用が働きづらい点に、全体最適の視点で監督を行うことが期待される。



 




13 前掲注1, P.18
14 「資質」とは慣用的に「生まれつきの性質や才能」(広辞苑第7版)を意味するため、後継者たる要件という趣旨であれば後天的要件を加えて「資質と能力」に訂正する必要があろう。
15 前掲注10 別紙4, P.121 脚注90
 





7――日本固有の育成課題

米国で最も多くの経営人材を輩出してきたゼネラル・エレクトリック(GE)は「アカデミー企業」と賞賛され、日本でも信奉者が多い。その日本法人、日本GEでリーダー育成の陣頭指揮をとった八木洋介氏は、経営人材の育成において日本特有の課題を指摘する。八木氏の経験によれば、日本人は、教育や文化の影響もあって、与えられた仕事を真面目にこなす働き方(フォローワー)を好みがちで、忠実で機能発揮の素晴らしいフォローワーは多くとも、そこから更に、自らビジョンを示しフォローワーを巻き込んで成果を出す経営職にはなかなか育っていかないという。その理由を、自我の確立している外国人と比べ、日本人には「自分を突き動かすもの」が欠けていることが多いからだと見る。内発的動機が欠如している状況で、どれほど高度な経営者教育を施しても成果にはつながりにくいというこの日本的課題は、世界展開する日本企業において、外国籍と日本人の幹部候補を対比する機会が増える中でも認識されつつあるようだ。現社長・CEOの世代には、入社時から経営者を目指して頑張るという動機があったかもしれない。それが今日的な経営者になる内発的動機であるのかは別にしても、少なくとも現在の若手社員たちはそのような心境にもないだろう。



この日本的課題に対する一つの解をファーストリテイリングに見ることができる16。経営人材の育成は同社にとって急成長と世界展開に伴う経営の最優先事項となっている。同社は「使命感」を経営人材育成の中核に位置付ける。社員は全員、入社時に始まりキャリアの節目で自分と深く向き合い、各自この会社という場で人生を賭けて成し遂げたいもの、「志」を考える。個々の社員により異なる「志」を、更に社会の発展に寄与する「使命感」と結びつけ、お題目ではない高い次元の「経営者になる覚悟」を醸成する仕組みを整えている。使命感に裏打ちされた理想の追求が、経営者になる強い内発的動機となるのである。またその理想の追求が「服を変え、常識を変え、世界を変える」という同社のワクワクさせる企業理念を実現させることにつながっていく。同社の事業拡大を担う執行役員は50名を超えるが、その大半は早期抜擢され修羅場経験を通じて育成された30代、40代の若き経営陣とされる。また、企業の存在意義や働くことの意味が改めて問われる、価値観の大きな転換期にあって、経営や経営者育成のあり方としても示唆に富む取組みであると思われる。



 




16 宇佐美潤祐「若手を抜擢し経営者に育成する ユニクロに学ぶ経営者人材の育て方」ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2017年4月号
 





8――後継者計画の意義

後継者計画には、国や企業の歴史と文化、経営に対する考え方が反映する。後継者計画で先行する欧米と日本を比較していずれかが優れるというわけではないが、現在の日本の課題は、関心が高い次期経営トップである後継者の決め方より、その育成にあると考える。経営という職務が高度化・複雑化し守備範囲も拡大しているという状況の変化を直視すれば、経営者を高度専門職と位置付け、意図的かつ計画的に育成する必要があるではないだろうか。自社の文化や考え方に即して、海外の後継者計画から活用可能な育成の考え方や施策を賢明に取り入れるという工夫が求められる。



後継者計画を本格的に取り組むのに日本ほど恵まれた環境もない。欧米とは異なり、後継者計画に沿って手塩にかけて育ててきた候補者が競合他社に引き抜かれる可能性は相対的に低く、人材投資によるリターンを享受できるからだ17。今回、コードが取締役会に後継者計画の導入・監督を要請したことは、困難な経営環境にあって改めて経営者育成のあり方を検討する好機であるともいえる。企業は経営者次第であるからこそ、優れた経営者を育成・輩出するための後継者計画は、コーポレートガバナンスを支える基盤であり出発点なのである18



 




17 前掲注16, p.41
18 本稿の執筆に際して、コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社の岡部雅仁氏から後継者育成について多くの貴重な示唆を得たことを記して、厚く謝意を表したい。
 



 







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