EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(2)-ベースラインの特徴と自然大災害シナリオの影響-

EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(2)-ベースラインの特徴と自然大災害シナリオの影響-: ■要旨



EIOPA(欧州保険年金監督局:European Insurance and Occupational Pensions Authority)は、2018年12月14日に「2018年 EIOPA保険ストレステスト報告書(2018 EIOPA Insurance Stress Test Report)」(以下、「今回の報告書」という)を公表した。この報告書により、EIOPAは、2018年に実施された欧州保険会社に対するストレステストの結果に基づく欧州保険会社の脆弱性と耐性力に関する状況を報告している。



前回のレポートでは、今回のストレステスト及び今回の報告書の概要について報告した。今回のレポートでは、報告書の第2章のストレステストの結果の中から、ベースラインの特徴及び自然大災害シナリオの影響について報告する。



■目次



1―はじめに

2―ベースラインの特徴

  1|資産の状況

  2|負債の状況

  3|資産負債比率

  4|自己資本及びSCR

3―自然大災害シナリオによる影響

  1|自然大災害(NC)シナリオの概要

  2|結果の概要

  3|貸借対照表指標及び自己資本指標

  4|SCR指標

4―まとめEIOPA(欧州保険年金監督局:European Insurance and Occupational Pensions Authority)は、2018年12月14日に「2018年 EIOPA保険ストレステスト報告書(2018 EIOPA Insurance Stress Test Report)」(以下、「今回の報告書」という)を公表1した。この報告書により、EIOPAは、2018年に実施された欧州保険会社に対するストレステストの結果に基づく欧州保険会社の脆弱性と耐性力に関する状況を報告している。



前回のレポートでは、今回のストレステスト及び今回の報告書の概要について報告した。今回のレポートでは、報告書の第2章のストレステストの結果の中から、ベースラインの特徴及び自然大災害シナリオの影響について報告する2



 




1 EIOPAのプレス・リリース資料 https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/EIOPA%20announces%20results%20of%20the%202018%20insurance%20stress%20test.pdf


 報告書 https://eiopa.europa.eu/Publications/Surveys/EIOPA%202018%20Insurance%20Stress%20Test%20Report.pdf
2 今回の一連のレポートにおける図表等については、特に断りが無い限り、EIOPAの「2018年 EIOPA保険ストレステスト報告書(2018 EIOPA Insurance Stress Test Report)」からの引用によるものであり、必要に応じて、説明のための数値の強調や翻訳等を行っている。また、図表については、このレポート専用の番号を付けている。
 





2―ベースラインの特徴

この章では、報告書の第2章のストレステストの結果のうち「ベースラインの特徴」について報告する。「ベースライン(Baseline)」は、ストレス前の貸借対照表に基づくものである。



1|資産の状況

次ページの図表1は、ストレステスト参加者の約7.27兆ユーロの総資産構成を示している。



最大の資産カテゴリーは債券で、総資産の46.9%(国債が24.3%、社債は20.9%)を占めている。国債の加重平均修正デュレ-ション3は7.4年であるのに対し、社債の加重平均修正デュレーションは6年である。



インデックスリンク及びユニットリンク契約のために保有されている資産は総資産の24.1%を占めている。保険契約者が価値の変動のリスクを負うため、これらの資産の変動は負債の変動を等しく相殺する。

 




3 マコーレー・デュレーション及び修正デュレーションについての説明は、例えば以下のWikipediaを参照いただきたい。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3
2|負債の状況

次ページの図表2は、ストレステスト参加者の約6.66兆ユーロの総負債構成を示している。



生命保険 TP(Technical Provisions:技術的準備金)(インデックスリンク及びユニットリンクを除く)が、総負債の56.8%を占める最大の負債区分であり、インデックスリンク及びユニットリンクのTPが、総負債の27.3%を占めて続いている。



参加グループのTPの加重平均マコーレー・デュレーション3は、生命保険TPでは12.5年、損害保険TPでは4.1年となっている4。さらに、負債プロファイルは、純粋な財務レバレッジ(即ち、金融機関に対する債務及び再保険預金を除く他の債務)に関して、保険会社は外部市場の資金調達に大きくは依存しておらず、財務レバレッジがTP全体に比べて小さいことを示している。

 




4 TP(技術的準備金)のデュレーションは、最良推定値で加重している。
3|資産負債比率

参加グループ全体のベースラインにおける資産負債(Assets over Liabilities :AoL)比率は109.5%である。参加グループのAoL比率は103.0%から139.5%の範囲にある。ベースラインでは、参加グループ全てのAoL比率が100%を超えている。



LTG(長期保証)措置と移行措置の影響を排除すると、サンプルの総AoL比率は108.2%に1.3%ポイント低下する。4|自己資本及びSCR

全体として、参加グループはベースラインにおいて、規制の観点から適切に資本化されている。



総計では、サンプルのサープラス(即ち、EOF(Eligible Own Funds:適格自己資本)からSCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)を差し引いたもの)は3,316億ユーロであり、これは202.4%のベースラインにおける総SCR比率に対応している。このことは、参加グループが規制目的に必要な資本の約2倍の資本を保有していることを意味している。



OF(Own Funds:自己資本)の大部分(85.7%)はTier 1 OF項目で構成されており、Tier 2及びTier 3 OFは、それぞれ13.1%及び1.2%となっている。これにより、ソルベンシーIIの観点からは自己資本の全体的な品質が高いことが示されている。



サンプルの大多数のグループ(42社のうち35社)はボラティリティ調整(VA)を適用しているが、マッチング調整(MA)は10社が適用している(そのうち7社はVAも適用している)。TPに関する移行措置は20の参加グループ(そのうち17社はVAも適用)によって適用され、1グループのみが金利に関する移行措置を適用した。

 



3―自然大災害シナリオによる影響

この章では、報告書の第2章のストレステストの結果のうち「自然大災害シナリオによる影響」について報告する。



自然大災害(Natural Catastrophe:NC)シナリオの詳細については、以前の保険年金フォーカス「欧州保険ストレステスト2018 (2)-ストレステストのストレスシナリオ及びサイバーリスクに関するアンケートの内容-」(2018.6.4)で説明しているので、詳しくはこのレポートを参照していただくことにして、ここではポイントのみを説明しておく。



1|自然大災害(NC)シナリオの概要

自然大災害シナリオは、4つの欧州の暴風、2つの中央及び東欧の洪水セット及び2つのイタリア等の地震による欧州各地の自然大災害リスクに対する最大規模の保険会社の脆弱性を評価することを目指している。



(1)欧州暴風

風速が150km/時を超える

1の暴風は、欧州全体で約75億ユーロの業界損失を引き起こす。最強の突風は、英国、ベルギー、オランダ南部、ドイツ中央部(ノルトライン・ヴェストファーレン州からザクセン州)にかけての一帯で経験される。



風速が150km/時を超える

2の暴風は、欧州全体で約55億ユーロの業界損失を引き起こす。最強の突風は、ドイツ中部及び北部、オランダ、デンマークで経験される。



風速が170km/時を超える

3の暴風は、欧州全体で約55億ユーロの業界損失を引き起こす。最強の突風は、フランス(ブルターニュ/ルクセンブルク/ドイツとの国境)からドイツ西部に至る地域で経験される。



風速が170km/時を超える

4の暴風は、欧州全体で約45億ユーロの業界損失を引き起こす。最強の突風は英国の南部とウェールズ、オランダの北部などで経験される。



(2)中欧及び東欧の洪水

選択された2つの長年にわたり、広く普及した夏の洪水事象は、

中欧及び東欧の主要河川に沿って実現する。この2つの事象は、オーストリア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアの各地域で発生する。



(3)2つの地震

イタリアの地震- イタリア北部のOrzinuovi断層に浅いマグニチュード(Mw)6.2が発生すると、約70億ユーロの業界損失をもたらす。



モナコ地震- フランスのモナコ - サスペル - ソーゲ断層の南端にマグニチュード(Mw)5.8の浅い地震が発生すると、フランス、モナコ、イタリアに約20億ユーロの業界損失をもたらす。



なお、自然大災害シナリオは、EIOPAが第三者のデータプロバイダと協力して開発したものである。第三者からのデータに関する情報については、以下の説明が行われているので、参考として掲載しておく。

(参考)付録3 - 第三者データに関する情報


Risk Management Solutions、Inc.


大災害イベントに関する情報は、EIOPAによって定義された目標に対してRisk Management Solutions、Inc.(「RMS」)によって提供される。本書の確率的事象に関するRMS情報(「情報」)は、Risk Management Solutions、Inc.(「RMS」)によって提供されている。この情報はEIOPAのライセンスに基づき提供されており、RMSの所有権及び機密情報であり、RMSの事前の書面による同意なしに第三者と共有することはできない。さらに、この情報はEIOPAによって指定された特定の業務目的のためにのみ使用され、他の目的のために使用されず、RMSと競合する商品又はサービスの開発又は調整において、いかなる状況下でも使用されない。RMSは、明示又は黙示を問わず、全ての保証を含む、情報又はその使用の結果としてなされる又は与えられる決定又は助言に関して、一切の責任、義務及び法的責任を明確に否認する。いかなる場合においても、RMS(又はその親会社、子会社、又はその他の関連会社)は、この情報の内容に基づいて行われた又は与えられた決定又は助言又はその使用に関して、直接的、間接的、特殊的、付随的又は結果として生じる損害に対して責任を負わない。



AIR Worldwide Corporation


AIR Worldwide Corporation(「AIR」)は、一連の同等のイベントを提供した。これらの確率論的事象に関する情報は、AIR Worldwide Corporation(以下「AIR」)によって提供されている。 EIOPA 2018保険ストレステストの参加者のみが直接使用することができ、AIR Worldwideの事前の書面による同意なしに再配布することはできない。AIRは、明示又は黙示を問わず、全ての保証を含め、その情報又はその使用の結果としてなされた又は与えられた決定又は助言に関して、一切の責任、義務及び法的責任を放棄する。いかなる場合においても、AIR(又はその親会社、子会社、又はその他の関連会社)は、この情報の内容に基づいてなされた又は与えられた決定又は助言又はその使用に関して、直接的、間接的、特殊的、付随的又は結果として生じる損害に対して責任を負わない。

2|結果の概要

上記で述べた自然大災害シナリオの設定から、このストレステストに参加している42の欧州(再)保険グループのうち、25グループのみが、欧州での自然大災害の所定のセットにさらされた。



NC負債が会社によってどのように満たされるべきであるかの解釈によって残された自由度を考慮して、参加グループは一連の事象の影響を計算するために、以下の3つのアプローチのいずれかを選択した。



(1)現金による請求の即時支払及びそれに続く資産の売却及び協定の満了までの再保険回収額の増加(過半数)。

(2)引き続くTPの増加及び協定の満了までの再保険回収額の増加を伴う補填なしの請求の全額積立

(3)2つの選択肢の間の中間的なアプローチ



資産、TP及びSCRの構成要素がストレス後に影響を受ける程度(市場リスク、損害保険引受リスク、再保険カウンターパーティ信用リスク)は、選択されたアプローチの選択に基づいている。異なるアプローチがeAoL(Excess of Assets over Liabilities:負債超過資産額)とOFに同じ影響を与えたことは注目に値する。



合計で、8つの事象からの保険損失総額は、年間を通じて保険業界にとって約480億ユーロになる。合計すると、25の欧州グループの総損失は、RMSによる推定市場損失の70%に相当している(図表3)。3|貸借対照表指標及び自己資本指標

25のグループは 、2017年12月31日において、欧州の損害保険セクターの約50%を占める約3.38兆ユーロの総技術的準備金及び4,510億ユーロのEOFを保有している。



全体として、eAoLへの影響は、欧州グループによるシナリオへのエクスポージャーに起因するネット(再保険控除後)の総損失のレベルと概ね同程度である(図表4)。



AoL比率は総計110.0%から109.7%に0.3ポイント低下する(図表5)。



一般に、大きな影響を受けている参加者は再保険会社であり、再保険業務にも大きく関与している元受保険会社である。シナリオに含まれる一連の自然大災害に対するグループの耐性力は、ベースラインを基準にしたeAoLの▲2.7%という限られた総計の低下によって確認される(次ページの図表7)。シナリオにおけるLTG措置と移行措置の(絶対的な)限界的効果は、2つのパッケージを除いたeAoLのベースラインに対する▲15.1%の変化によって確認される。



グループへの限定的な影響は、基準日に設定された再保険協定に由来している。総損失の55%が再保険を通じて出再され、元受保険会社に関する純損失総額は151億ユーロとなった。 これは、このコホートの総EOFの3%に相当する。地理的見地からは、再保険に出再された183億ユーロのうち、55%がEUに本拠を置く再保険会社によって捕捉され、残りの部分はバミューダ(22.0%)、スイス(16.3%)、米国(10.9%)及びその他の非EU管轄地域(5.9%)に配分されている。出再損失は限られた数の再保険会社に集中している。自然大災害にさらされている各グループによって報告された上位10社の再保険回収額(支払われる全ての復活保険料について減額)は、100億ユーロに相当する。これは、NCシナリオにおける全ての再保険回収額の70%に相当している。さらに、上位5社の再保険会社で、上位10社の再保険回収額の52%に達している(図表8)。4|SCR指標

NCシナリオの構造を考えると、SCRは規定のショックの影響をわずかに受けると予想される。さらに、所要自己資本に対する全体的な影響は、再保険保護を考慮した後の各個々グループの潜在的エクスポージャーに見合った多数の要因に左右される。



SCRの構成要素に対する理論的な影響は以下の通りである。



- 市場リスク:請求の即時支払による資産の減少により生じる資本要件の潜在的な減少

- 損害保険引受リスク:これらの事象を将来の請求見積りに組み入れることによる必要資本の潜在的な増加

- カウンターパーティ信用リスク:再保険回収可能額の増加により、タイプ1エクスポージャーの集中度が高まったことによる潜在的な影響



これらの影響は、NCシナリオを適用する際に採用されたアプローチと密接に関連している。



結果は、総SCRに対する限界的な影響の一般的な期待を裏付けるものである。全体のSCRはその中央値に変化はなく、0.5%増加した(図表9)。ただし、影響の重要性が低いことと、NCシナリオを計算するためのアプローチの不均一性を考えると、SCR要素の変更によって全ての理論的影響を完全に確認することはできない。一方で、市場や損害保険及びカウンターパーティの要素の動きが予想と一致している場合、他方で、請求の即時支払いを選択したいくつかのグループにとっては、SCR全体の変化は、主にLAC DT(繰延税金損失吸収効果)によってもたらされている。



ストレス後の総SCR比率は、主にEOFの減少により3%減少した(図表10)。

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、報告書の第2章のストレステストの結果の中から、ベースラインの特徴及び自然大災害シナリオの影響について報告してきた。



次回のレポートでは、報告書の第2章のストレステストの結果の中から、市場ストレスシナリオの影響について報告する。





【関連レポート】

EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(1)-EIOPAの報告書の概要報告-

欧州 保険ストレステスト2018(2)-ストレステストのストレスシナリオ及びサイバーリスクに関するアンケートの内容-

欧州 保険ストレステスト2016-EIOPAがEU全体の保険のストレステストの実施内容を公表-

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