三菱地所とSAP、Inspired.Labを大手町にオープン WHILLの自動運転システム、パナソニックの無人販売ショーケース等の実証実験もスタート

三菱地所とSAP、Inspired.Labを大手町にオープン WHILLの自動運転システム、パナソニックの無人販売ショーケース等の実証実験もスタート:



三菱地所株式会社とSAPジャパン株式会社は、2019年2月1日、オープンイノベーションのためのコラボラティブスペース「Inspired.Lab(https://inspiredlab.jp)」を、三菱地所がリノベーションを進めている大手町ビル(東京都千代田区大手町1-6-1)内にオープンしたと発表し、記者会見を行なった。社会課題を解決する新規ビジネスの創出を目的としている。



WHILL株式会社と三菱電機株式会社による「パーソナルモビリティ自動運転システム」

WHILLはエレベーターやセキュティとの連携実験を行う
記者会見では、 WHILL株式会社と三菱電機株式会社による「パーソナルモビリティ自動運転システム」、パナソニック株式会社と株式会社Liquidによる「無人販売ショーケース」の実証実験の様子も合わせて紹介された。

WHILLは三菱電機と連携し、建物内のエレベーターとWHILLを通信回線でつなげる。無人のWHILLが近づくとエレベーターはWHILLのいる階に停止し、扉の開閉を行い、目的の階までWHILLを送り届ける。異なる階をまたぐ自動走行が可能になる。これによって、特定の場所にWHILLが利用者を迎えに行く、目的地まで到着した後、乗り捨てたWHILLが自動で待機場所に戻っていく、などの運用が可能になるとしている。

またLiquidのセキュリティシステムと連携することで、建物のセキュリティとWHILLの連携実証実験も行う。セキュリティエリアの内外の通行を想定している。記者会見では呼び出されたWHILLがセキュリティエリアからロビーに出てくる様子がデモされた。


具体的には、タッチパネルでWHILLを呼ぶと、WHILLのサーバーから三菱電機側のクラウドサーバーに通信で指示が飛び、そこからさらに数段階あって、ビル内のエレベーター管理のコントローラーに指示を出すようになっているとのこと。

パナソニック「無人販売ショーケース」

無人販売ショーケース
無人販売ショーケースは、Liquid社のクラウド生体認証システムと連携したシステムで、無人販売ができる冷蔵ケース。購入者は事前に指紋と銀行口座を登録しておく必要がある。そして指紋スキャナーを使って冷蔵ケースのドアを開け、欲しい商品を選んで手に取ると、パナソニックのRFID技術でどの商品が取られたのかを認識する。その後、Liquidの生体認証と連動した決済ソリューション「PASS」を通じてショーケース全面のディスプレイに購入商品と価格が表示され、購入タッチで商品購入が可能になるというもの。

無人販売ショーケース概要
既存の冷蔵ケース内にRFIDアンテナが設置することで、コストをおさえたRFIDシェルフによる無人販売が可能になるという。今後は単品管理による発注数予測なども行う。

無人販売ショーケースの特徴



Inspired.Lab

「Inspired.Lab」が目指す姿
「Inspired.Lab」は、社会に大きなインパクトを与え、将来の産業構造を変革していく可能性を秘めた最先端の科学技術や研究成果をベースとするテクノロジーが集積し、企業の協創が生まれる拠点を目指すコラボラティブスペース。広さは約1,000坪。

共用スペース
数十人が入れるオフィスも
こちらは事務局。基本的にガラス張りで中に人がいるかどうかがすぐにわかるようになっている
各社オフィスのほか、工房やスタジオ、イベントスペースなどがある。なお使えるのはメンバー限定で有料となる。

3Dプリンタやレーザーカッターなどを備えた工房

大企業とスタートアップの化学反応を目指す

三菱地所株式会社 執行役常務 湯浅哲生氏
三菱地所株式会社 執行役常務の湯浅哲生氏は、大手町ビルのリノベーション事業について紹介。今回オープンに至った「Inspired Lab」以外にもフィンテックに絞った「FINOLab」、また、KPMGイグニッション東京やPreferred Networks、トヨタ自動車のAI拠点のような先端事業や新事業の集積が進んでいると紹介した。

湯浅氏は「企業成長には充実したエコシステムが必要となる」と続け、「大手町は世界でも屈指の集積を誇っている。三菱地所とSAPが組むことでアカデミアとの連携や、デザインシンキングで生まれたアイデアをすぐに形にできる工房機能などを集めた。考えられうる最良最高のエコシステムを整えてイノベーションの後押しをしていく」と語った。

アイデアと製品化までの間を重視する
特にアイデアを製品化するまでの過程が重要だと考えており、プロトタイプを高速で作る工房と、実証実験の場を提供することで、丸の内仲通り、大手町周辺を様々な技術やアイデアが溢れ出す町とすることを目指す。

SAPジャパン株式会社 代表取締役会長 内田士郎氏
SAPジャパン株式会社 代表取締役会長の内田士郎氏は、「大企業、スタートアップ、アカデミアなどによる化学反応が起こる場所としたい」と述べた。イノベーションを起こすには「People、Process、Place」の3つが重要だと考えているという。変革を志向する大企業における「出島」とし、大企業とスタートアップのコラボレーションを生み出すことを目指す。現在、156社からなるネットワークを集積しており、イノベーションを起こすエコシステムを構築していきたいと述べた。

大企業とスタートアップ、156社が参画している
SAPでは、ファンドでもありファンドリーでもある「SAP.iO(https://sap.io)」を日本国内に持ってきて、技術を提供し、かつ、アクセラレーションする。「SAP.iO」はこれまでに世界6カ国で進めているが、東京は7箇所目となる。SAPがスタートアップに参画することで彼らの事業を次のステージに持っていきたいと述べ、現在、対象となるスタートアップ企業を募集中と紹介した。既にローンチセッションを行ったという。4月まで選考を行い、6社から10社まで絞り込む予定。SAPのグローバルプラットフォームの活用やメンターによる指導、顧客との共同プロジェクトの手伝いなどをしていくという。日本発のグローバルベンチャーを出すことを目指す。なおこの事業はゼロ・エクイティ・ポリシーで進める。

SAP.iOでスタートアップアクセラレーションを進める

大企業とスタートアップで新産業を生み出す場

パネルディスカッションのテーマはスタートアップと大企業の共創
記者会見では短時間のパネルディスカッションも行われた。モデレータはInspired.LabのメンターでもあるTomyK Ltd.代表取締役の鎌田富久氏がつとめた。パネリストは、スタートアップ会員のWHILL株式会社 取締役 福岡宗明氏、同じくエルピクセル株式会社 代表取締役 島原佑基氏、そしてイノベーションパートナーの株式会社アドライト 代表取締役 木村忠昭氏。

TomyK Ltd.代表取締役 鎌田富久氏
はじめに鎌田氏は「東大発のテック系スタートアップが増えてきた」と紹介。「リアルワールドでのコンピューティングによる新産業を生み出したい。そのためにはこのような実証実験ができる場所が必要なので嬉しい」と挨拶した。

WHILL株式会社 取締役 福岡宗明氏
WHILLの福岡宗明氏は、車椅子ユーザーの外出には物理的バリアだけではなく精神的バリアがあると考えたことが創業のきっかけだったと述べ、WHILLのコンセプトを紹介した。さらにWHILLの新しい使われ方を提案したいと考えたと続けて、MaaSによる自動運転サービスのコンセプトとを紹介した。必要なときに呼べば来てくれ、使い終わったらWHILLが自動で帰っていくようなサービスだ。「モビリティ単体だけではなく他の技術とも連携して新しい街を作っていきたい」と述べた。

エルピクセル株式会社 代表取締役 島原佑基氏
キャノンメディカル、富士フィルム、オリンパスなどからトータル30億円の出資を受け、AI画像解析をライフサイエンス領域で展開しているエルピクセルの島原佑基氏は、脳ドックの画像を示しながら「日本の医療、世界の医療をより良くしていきたい」と述べた。行政とも連携しながら新医療機器を認定してもらいながら新しい医療を作ることを目指したいと考えているという。

株式会社アドライト 代表取締役 木村忠昭氏
ベンチャー支援を行なっているアドライトの木村忠昭氏は、「より多くのイノベーションを生み出したいと考えて、こちらに入居している」と述べ、大手企業でもイノベーションを起こせるように、様々なサービスメニューを持っているとアドライトの事業を紹介した。企業の中からスタートアップが生まれるような仕組み・プログラムとなっているという。Inspired Labでもこれまでにイベントなどを実施している。また、アドライトは「FINOLAB」のパートナーも務めている。

重要なことは「人と人との共感」による社会課題の解決

共感と理解が共創のカギだと語ったWHILL福岡氏
スタートアップと大企業とが協業するコツはどこにあるのか。WHILL福岡氏は「共感と理解」がカギだと述べた。共感してくれる人が出てくると社内のハブになって動いてもらえるという。大企業は動きが遅いと言われる。だがそれはマクロで見たときにそう見えるのであって、ミクロで見ると、その人本人はかなり動いてもらっていることが多いと述べ、大企業側の事情をスタートアップが理解することも重要だと語った。

大規模な資金調達に成功したエルピクセルの島原氏も、大企業が出資するに至った理由として、やはり「共感」が重要だと述べた。東レから出資を受けたときには3ヶ月で決めてもらったと語り、それも、共感してくれる一人の人がいなかったらダメだったと振り返った。大企業相手でも「一人の人」との付き合いが大事だという。

では、大企業のなかのキーパーソンをどうやって見つければいいのか。エルピクセルでは以前は毎月ミートアップをしたりして、技術はもちろん、人との出会いを創出していたという。

アドライト木村氏は、大企業側へ向けたアドバイスとして、オープンイノベーションの事業化にあたっては、複数の人材が社内から出ていくことが重要だとコメントした。そして「自分たちの既存の事業範囲に閉じるのではなく、大きな取り組みをしていくのだと考えて外に出ていくことが重要だ」と強調し、今回の「Inspired Lab.」のような「出島」に来ることで事業化を進めていく動きが少しずつ出てくるのではないかと期待を述べた。

大手町から世界を変える

社会課題の解決がスタートアップのやりがい
社会課題を解決するやりがいや楽しさについては、エルピクセル島原氏は、「最初は単に課題解決をしていこうと思っていただけだったが、それがやがて使命感、ミッションへとつながっていった」と述べた。WHILLの福岡氏も同感だとし、一番嬉しいのは、ユーザーから直接、感謝の言葉を伝えられることだと語った。そういうときに「人生をかけて戦う価値のあることだ」と感じるという。採用についても、その魅力がないと難しいとのこと。島原氏は「それはテック系ベンチャーの良いところでもある」と述べた。

アドライト木村氏は「ハードとソフトの両方が重要」と述べ、「一つでも多くの大企業発事例が生まれると良い」と考えていると語った。エルピクセル島原氏は画像解析以外の技術スタートアップとも繋がることで新事業を生み出せればと述べた。WHILL福岡氏は大手町ビルや丸の内で実証実験を行うことで、新しい世界を作りたいとした。

最後に鎌田氏は「日本発スタートアップを作りたい。未来が見える場所、インスパイアされる場所になれば。大手町から世界を変えたい」と述べて、パネルディスカッションを締めくくった。

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