7%台半ばの堅調な成長続くも、先行きのインフレリスクに注意

7%台半ばの堅調な成長続くも、先行きのインフレリスクに注意: インド経済は16年11月の高額紙幣廃止や17年7月の物品サービス税(GST)導入を背景とする景気停滞局面を脱し、消費主導の力強い成長軌道が戻ってきている。4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比8.2%増と、高成長だった前期の同7.7%増から更に上昇し、2年ぶりの8%成長に到達した(図表1)。比較対象となる昨年4-6月がGST導入前の経済の混乱で消費と投資が鈍化していたことから、ベース効果1が成長率を押し上げたものと考えられる。





 




1 ベース効果とは、実質GDPを前年比で示す場合、比較対象となる前年の実質GDPの水準が高い(または低い)と今年の上昇率が低く(または高く)なる算術的な影響を意味する。
経済の先行きは、7-9月期まではGST導入による景気減速の反動から高めの成長が続くものの、ベース効果の剥落によって成長率の低下は避けられないだろう。しかし、来春の総選挙を控えて政府支出と農村部の消費が拡大することから、7%台半ばの堅調な成長は続こう。モディ政権は財政赤字目標(GDP比)を緩めることにより今年度予算のインフラ整備や農村・中小企業支援策に重点配分している。来春の総選挙を控えて政府支出は拡大しよう。もっともインドは中期的な財政健全化計画の途上にあり、総選挙後には財政再建を進める可能性が高い。19 年度後半には政府部門の景気の押上げは期待できなくなりそうだ。また民間消費については、先行きの物価上昇が家計の実質所得を目減りさせるほか、インド準備銀行(RBI)の段階的な利上げが重石となるだろう。しかし、今後は農作物の最低調達価格(MSP)の引上げに伴い農業所得が回復するほか、インフラ整備の進展で建設労働者を中心に雇用が拡大することから消費は堅調に推移しよう。また消費者信頼感指数は昨年こそ経済の混乱で低迷していたが、足元では持ち直してきている(図表2)。消費者マインドが改善することにより、これまで先延ばしされていた消費が顕在化するものと考えられる。民間投資については、まずインフラや住宅開発などの政府プロジェクトが呼び水となって建設投資をサポートするだろう。また内需拡大を背景に製造業の設備稼働率が上向くなど、企業は生産能力の拡張に前向きになってきているほか、景気が回復したインド市場が魅力的な投資先と判断されて外国直接投資が前年を上回っており、設備投資も底堅く推移しよう。さらに今後はGST導入や破産倒産法などモディ政権の構造改革のプラス効果が顕在化することも投資の持続的な拡大に寄与するものと見込まれる。一方、金利が上昇するなかで国有銀行が不良債権処理を進めていくことから、貸出の大幅な拡大は見込みにくい。設備投資の本格回復にはもう暫く時間が必要だ。農村部の消費は、南西モンスーン(季節風)の雨に依存するカリフ作(雨季作、6-9月)の穀物生産の動向に左右される。過去2年のカリフ作は概ね平年ベースの雨量が得られ、穀物生産量は2年連続で増加した。しかし、穀物や豆類の市場価格は供給過多により低迷して農業所得の増加を阻み、一部の州では農民に対する債務免除を実施する事態にまで発展している。2022年までの農家の所得倍増を掲げる政府は7月4日、来春の総選挙での集票を意識して今年のカリフ期に収穫される農作物の最低調達価格の引上げ(前年比14.8%増、加重平均ベース)を発表した(図表3)。今年6-9月の南西モンスーンの雨量は平年ベースを9%下回る「通常以下」となったものの、MSPの引上げが功を奏して作付けが順調に伸びた。9月26日に政府が発表した第一次生産予測によると、今年のカリフ作の穀物生産は前年比0.6%増と、3年連続で増加する見通しとなっている(図表4)。農産物の価格と生産量が揃って拡大すると、農業所得が増加して農村部の購買力は向上するものと見込まれる。民間消費は都市部に続いて農村部の回復が追い風となりそうだ。先行きの懸念事項はインフレの加速である。足元の物価は食品価格の下落により一旦落ち着きを取り戻しつつあるものの、燃料価格は上昇を続けている。石油の輸入依存度の高いインドでは、足元の国際原油価格の上昇は国内燃料価格の上昇に加え、経常赤字の拡大に繋がる。国際金融市場において米国の金融引き締めを背景とする新興国通貨安の動きが続く中では、慢性的な経常赤字というインド経済の脆弱性は通貨ルピー安を通じて輸入インフレを加速させる恐れがある。これに対してRBIは、今年6月と8月の金融政策決定会合で政策金利を0.25%ずつ引き上げている(図表5)。10月の会合では、金融政策は据え置かれたものの、12月には利上げを再開する可能性は高そうだ。物価を安定させて高インフレ体質から脱却しなければ、現在の消費主導の成長に水を差しかねないだけに、物価動向と金融政策の行方は引き続き注目を集めるだろう。





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