J リート市場は金利上昇への耐性を備えているか
J リート市場は金利上昇への耐性を備えているか: 日本銀行は7月末の金融政策決定会合において金融政策の修正を行った。このうち、長期金利(10年国債利回り)については、従来よりも2倍の変動範囲を容認(-0.2%~0.2%)するとして、金融機関の収益低迷や国債市場の機能低下など緩和長期化に伴う副作用に配慮する内容となった。
この発表を受けて、Jリート市場(不動産投資信託)では今後の金利上昇に対する警戒感が広がっている。アベノミクスによる日銀の金融緩和策(金利低下とJ リート取得)は、(1)J リートに対する要求利回りの低下、(2)資産デフレ脱却による不動産価格の上昇、(3)借入コスト低減による分配金の増加、(4)需給の改善などを通じて、これまでJリート市場の上昇に大きく貢献してきた。それゆえ、政策修正に伴う金利の上昇は当然ながら市場を押し下げる要因となる。ただし、現在の価格は前回の景気拡大期と比べて金利上昇リスクを織り込んだ水準にあり、金利上昇への耐性をある程度備えていると思われる。
図表1は、前回(2002年2月~2008年2月、点線)及び今回(2012年12 月~継続中、赤線)の景気拡大期におけるJリート市場のイールドスプレッド(分配金利回り-10 年国債利回り)を示している。一般に、イールドスプレッドが大きい(小さい)ほどバリュエーションは割安(割高)とされる。前回の景気拡大期では、金融引き締めがスタートした2006年以降も分配金の成長期待などを背景にイールドスプレッドは縮小し、一時1%を下回る水準まで低下した。これに対して、今回はイールドスプレッドの縮小はみられず、2015年以降はむしろ拡大傾向にある。9月末時点のイールドスプレッドは4.0%で過去平均(3.4%)を0.6%上回っている。つまり、今後10年国債利回りが現在の0.1%から0.7%へと上昇した場合でもイールドスプレッドは過去平均の水準にとどまることとなり、金利上昇に対するバッファーは十分に厚いと言える。
また、図表2はJリート市場のNAV 倍率の推移を示している(見方は図表1と同じ)。NAV 倍率とは市場時価総額がJ リートの解散価値(時価ベースの資産額-負債額)の何倍であるかを表わす指標で、NAV 倍率が高い(低い)ほどバリュエーションは割高(割安)とされる。通常、不動産価格の上昇局面ではNAV の成長期待からNAV 倍率は1倍を超えることが多い。前回の景気拡大期では、NAV倍率が期間後半の2007年にピークを付けたのに対して、今回は比較的早い段階でピークを迎えたのち、2017年以降は過去平均(1.16倍)を下回る水準で推移している。9月末時点の市場時価総額は12.9兆円、NAV は12.1兆円で、NAV倍率は1.06倍となっている。開示資料によると、6月末時点における保有不動産の還元利回りは4.3%(評価額18.9兆円)である(図表3)。仮に、無リスク金利を10年国債利回りとしてその他の前提が変わらないとした場合、J リート市場のNAV倍率が過去平均(1.16倍)と一致する還元利回りは4.54%である。つまり、今後10年国債利回りが0.24%上昇(0.1%→0.34%)し、その分NAVが減少に転じても、NAV倍率は過去平均の水準にとどまる。現在の価格は資産評価の面においても金利上昇リスクを織り込んだ水準にあると言えそうだ。
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図表1は、前回(2002年2月~2008年2月、点線)及び今回(2012年12 月~継続中、赤線)の景気拡大期におけるJリート市場のイールドスプレッド(分配金利回り-10 年国債利回り)を示している。一般に、イールドスプレッドが大きい(小さい)ほどバリュエーションは割安(割高)とされる。前回の景気拡大期では、金融引き締めがスタートした2006年以降も分配金の成長期待などを背景にイールドスプレッドは縮小し、一時1%を下回る水準まで低下した。これに対して、今回はイールドスプレッドの縮小はみられず、2015年以降はむしろ拡大傾向にある。9月末時点のイールドスプレッドは4.0%で過去平均(3.4%)を0.6%上回っている。つまり、今後10年国債利回りが現在の0.1%から0.7%へと上昇した場合でもイールドスプレッドは過去平均の水準にとどまることとなり、金利上昇に対するバッファーは十分に厚いと言える。
また、図表2はJリート市場のNAV 倍率の推移を示している(見方は図表1と同じ)。NAV 倍率とは市場時価総額がJ リートの解散価値(時価ベースの資産額-負債額)の何倍であるかを表わす指標で、NAV 倍率が高い(低い)ほどバリュエーションは割高(割安)とされる。通常、不動産価格の上昇局面ではNAV の成長期待からNAV 倍率は1倍を超えることが多い。前回の景気拡大期では、NAV倍率が期間後半の2007年にピークを付けたのに対して、今回は比較的早い段階でピークを迎えたのち、2017年以降は過去平均(1.16倍)を下回る水準で推移している。9月末時点の市場時価総額は12.9兆円、NAV は12.1兆円で、NAV倍率は1.06倍となっている。開示資料によると、6月末時点における保有不動産の還元利回りは4.3%(評価額18.9兆円)である(図表3)。仮に、無リスク金利を10年国債利回りとしてその他の前提が変わらないとした場合、J リート市場のNAV倍率が過去平均(1.16倍)と一致する還元利回りは4.54%である。つまり、今後10年国債利回りが0.24%上昇(0.1%→0.34%)し、その分NAVが減少に転じても、NAV倍率は過去平均の水準にとどまる。現在の価格は資産評価の面においても金利上昇リスクを織り込んだ水準にあると言えそうだ。
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