英国におけるソルベンシーII規制を巡る最近の動向-PRA(健全性規制機構)による各種対応-

英国におけるソルベンシーII規制を巡る最近の動向-PRA(健全性規制機構)による各種対応-: ■要旨



Brexit(英国のEU離脱)を巡る動向については、引き続き不透明な状況にあり、このままいけば、No-deal Brexit(合意なしの英国のEUからの離脱)の可能性も否定できない状況になってきている。



こうした状況下で、英国の各監督当局は、No-deal Brexit シナリオを含む形でのBrexitに備えた対応を着実に進めていくことが求められている。これについては、前回の基礎研レポート「Brexitに向けての英国政府の対応-No-deal(合意なし)シナリオも踏まえた保険監督当局等の検討状況-」(2018.10.30)(以下、「前回のレポート」という)で報告した。



その中でも報告したように、ソルベンシーII規制については、Brexit後の英国は、現行の制度をベースとしつつも、今後はソルベンシーIIとの同等性を確保しつつも、独自の規制を行っていく可能性も想定されていくことになる。英国の保険監督当局であるPRA(Prudential Regulation Authority:健全性規制機構)は、これまでもソルベンシーIIに関する各種の政策声明(Policy Statement:PS)や監督声明(Supervisory Statement:SS)を公表することで、ある意味でEUにおけるソルベンシーIIに基づく保険監督をリードしてきたが、昨今はBrexitを踏まえての各種対応を検討してきている。



■目次



1―はじめに

2―PRAの事業計画―ソルベンシーIIに関する内容―

3―Brexitを控える英国におけるソルベンシーII規制を巡る検討状況

  1|内部モデル-マッチング調整(MA)のモデリング

  2|マッチング調整(MA)

  3|内部モデルの変更

  4|ボラティリティ調整(VA)のための監督上の承認

  5|SFCR(ソルベンシー及び財務状況報告書)の外部監査要件

  6|内部モデル-ボラティリティ調整(VA)のモデル化

  7|内部モデルのアウトプット報告の更新

  8|内部モデル-評価、モデル変更及び非常勤取締役の役割

  9|ORSAと終局タイムホライズン-損害保険会社

  10|リスクマージン

4―PRA生命保険・年金リスク部門ヘッドから保険会社のチーフ・アクチュアリー宛のレター

  1|このレターの位置付け

  2|このレターの概要

  3|このレターの具体的内容

5―まとめ

  1|PRAの各種声明の持つ意味合い

  2|EUにおけるソルベンシーII改革の検討Brexit(英国のEU離脱)を巡る動向については、引き続き不透明な状況にあり、このままいけば、No-deal Brexit(合意なしの英国のEUからの離脱)の可能性も否定できない状況になってきている。



こうした状況下で、英国の各監督当局は、No-deal Brexit シナリオを含む形でのBrexitに備えた対応を着実に進めていくことが求められている。これについては、前回の基礎研レポート「Brexitに向けての英国政府の対応-No-deal(合意なし)シナリオも踏まえた保険監督当局等の検討状況-」(2018.10.30)(以下、「前回のレポート」という)で報告した。



その中でも報告したように、ソルベンシーII規制については、Brexit後の英国は、現行の制度をベースとしつつも、今後はソルベンシーIIとの同等性を確保しつつも、独自の規制を行っていく可能性も想定されていくことになる。英国の保険監督当局であるPRA(Prudential Regulation Authority:健全性規制機構)は、これまでもソルベンシーIIに関する各種の政策声明(Policy Statement:PS)や監督声明(Supervisory Statement:SS)を公表することで、ある意味でEUにおけるソルベンシーIIに基づく保険監督をリードしてきたが、昨今はBrexitを踏まえての各種対応を検討してきている。



今回のレポートでは、こうしたPRAによるソルベンシーII規制を巡る各種の動きの中から、トピカルなテーマについて、それらの内容を報告する。

 



2―PRAの事業計画―ソルベンシーIIに関する内容―

ソルベンシーIIに関係する各種の問題については、EU各国間でも、実際の適用状況等に差異があることはこれまでも述べてきた。



英国がEUから離脱する場合、これらの異なる取扱がさらに拡大していくことになるのかは、気になるところである。ただし、前回のレポートで報告したように、当面はソルベンシーIIとの同等性を追求するために、できる限りEU各国と平仄を合わせた取扱を行っていくものと想定される。



PRAは、2018年4月9日に、2018年から2019年にかけての事業計画を公表1している。その中で、ソルベンシーIIに関しては、「ソルベンシーII - 新しい体制の運用に慣れてきたPRAのアプローチを改善し、会社がそれに適応する際に生じるリスクを特定する。」としている。



具体的には、「法定目的を達成するために、ソルベンシーIIの枠組みの中で、英国の保険会社の将来を見据えた判断ベースの監督を引き続き実施する予定である。」としている。さらには、「適切かつ可能な限り、フィードバックを考慮して、経験に照らして監督上のアプローチを調整する。 これには、財務委員会が提起したいくつかの重要な問題2を取り上げることも含まれる。」としている。



PRAは、2017年10月に開始された協議の後、ソルベンシーIIの導入に対して一連の改善を行ってきている。これらには、「マッチング調整」、「内部モデル変更プロセス」及び「報告要件の実施」に関する方針の確定が含まれている。



さらに、2018年4月からは、

(1)中小会社のソルベンシー及び財務状況報告書(SFCR)の外部監査要件の2019年からの廃止

(2)内部モデル会社の「ダイナミック」ボラティリティ調整のモデリング

という2つの分野で協議する予定である、とした。加えて、技術的準備金に関する移行措置の再計算を簡素化する方法を検討する、とした。



以上に加えて、「ソルベンシーIIのリスクマージン」については、現在の方式は、「金利にあまりにも敏感であり、現在の低金利環境、特に長期年金事業では大きすぎると考えている。」とし、「金融政策委員会が以前に指摘したように、潜在的な景気循環的な投資行動を促進すると同時に、現在の設計は、英国の保険会社がオフショアで新たな長寿エクスポジャーの大部分を再保険するようリードしている。PRA、業界、財務省特別調査委員会(Treasury Select Committee)が合意した問題に取り組むよう行動する。」と述べた。



このように、PRAは、具体的な項目を掲げて、ソルベンシーIIに関して必要な見直しを行うことを進めてきている。



 





3―Brexitを控える英国におけるソルベンシーII規制を巡る検討状況

PRAは、2で述べた事業計画に基づいて、ソルベンシーIIの必要な見直しの検討を着実に進めてきている。この章では、事業計画で掲げられた項目等に対するこれまでの検討状況(政策声明や監督声明の公表等)を報告する。



内部モデル-マッチング調整(MA)のモデリング

PRAは、7月13日に「ソルベンシーII:内部モデル-マッチング調整のモデリング」に関する政策声明PS19/183及び監督声明SS8/184を公表した。



これらは、ソルベンシー資本要件(SCR)の計算におけるソルベンシーIIのマッチング調整(MA)の適用に関する、会社に対するPRAの期待を定めている。SS8 / 18で設定された期待は、主に会社のMAポートフォリオ内の社債資産から生じるリスクに適用される。しかし、SS8 / 18の多くは、MAポートフォリオで保有されている他の資産にも適用される可能性があるため、特に明記しない限り、PRAは会社がその内容をより広く適用できると考えている、としている。PRAは、必要に応じて、MAポートフォリオ内の他の資産の処理について、より多くの誂えの期待を出すかもしれない、としている。



この期待は、公表日の2018年7月13日から有効となる。



マッチング調整(MA

PRAは、7月13日に「ソルベンシーII:マッチング調整」に関する政策声明PS18/185及び監督声明SS 7/186を公表した。



これらは、マッチング調整(MA)の適用に関する会社の期待を定めている。MAは、適格保険負債のポートフォリオの最善の見積り計算のために、会社が関連するリスクフリー金利期間構造を調整することを可能にする。



このSSの範囲には、マッチング条件の遵守、MAベネフィットの計算、MAポートフォリオの継続的な管理とコンプライアンス、MA承認の申請、その後のMAポートフォリオへの変更、資産及び負債の適格性の評価及び既存のMAの承認の範囲外であるMAポートフォリオの変更の意味合いが含まれている。



内部モデルの変更

PRAは、7月13日に「ソルベンシーII:内部モデルの変更」に関する政策声明PS 20/187及び監督声明SS 12/16の更新8を公表した。



このうちの監督声明SS 12/16「ソルベンシーII:英国保険会社が使用する内部モデルの変更」は、承認された内部モデルに対する大きな変更(個々の主要な変更又は軽微な変更の蓄積によって引き起こされた大きな変化のいずれか)、又は承認された内部モデルの範囲の拡大(例えば、新しい契約ユニットやリスクをカバーするため)の承認を申請した会社に関するPRAの期待を規定している。この監督声明はまた、承認された内部モデル変更方針を改正するために申請する会社に関するPRAの期待を述べている。会社がEEA又は非EEAグループの一部である場合、監督カレッジは、主要な変更申請を承認するための全体的なプロセスを調整し、合意する必要があるが、これは監督声明に記載されているものとは異なる場合がある。



特に監督声明は以下を対象としている。



・モデル変更適用前及び適用中のPRAとの相互作用

・モデル変更申請の品質

・モデル変更申請と共に提供される情報



ボラティリティ調整(VAのための監督上の承認

PRAは、10月17日に「ソルベンシーII:ボラティリティ調整のための監督上の承認」に関する政策声明PS22/189及び監督声明SS23/1510を公表した。



この監督声明では、ボラティリティ調整(VA)の適用を申請する会社に対するPRAの期待として、特に以下の項目について明らかにしている。



・VAを使用するために申請に含めるべき項目

・PRAが申請の内容を使用して、VAを使用するための法定の条件が満たされているかどうかを評価する方法

・VA承認プロセスがどのように機能するか



SFCR(ソルベンシー及び財務状況報告書)の外部監査要件

PRAは、10月17日に「ソルベンシーII:公衆開示要件の外部監査」についての政策声明PS25/1811、及び「ソルベンシーII:公衆開示要件に関する外部監査及び統治組織の責任」に関する監督声明SS 11/1612を公表した。



監督声明は、統治組織に対して、開示された情報の継続的な妥当性に関する責任とSFCR(ソルベンシー及び財務状況報告書)を承認しなければならない、ことをリマインドさせている。また、SFCRに関する外部監査要件と、PRAが監査人に対して、会社のSFCRを監査する上で従うことが期待されている監査ガイダンスに関して、期待される保証レベルを設定している。



これにより、一定のソルベンシーII対象の小規模会社に対して、SFCRの外部監査要件を取り除く計画が確認された。



ここで、「小規模」保険会社の定義は、保険料総額と最良推定負債に基づいており、会社はSFCRを1年監査する必要があるが、次年度は監査する必要はない。



この不確実性を避けるために、会社は2年連続して小規模保険会社である場合に限り、監査を必要としない。会社が2年連続して臨界値を上回った場合にのみSFCRを監査する必要があることになる。



この取扱は、2018年11月15日から有効となる。



この変更により、150社以上の小規模会社が外部監査要件を免除されることになる、と想定されている。



内部モデル-ボラティリティ調整(VA)のモデル化

PRAは、10月17日に「ソルベンシーII:内部モデル - ボラティリティ調整のモデル化」についての政策声明 PS23 / 1813、及び監督声明SS9/1814を公表した。



これらにより、SCRを計算する際に、動的ボラティリティ調整(Dynamic Volatility Adjustment:DVA)から生じる可能性のあるリスクを決定する際の、内部モデル会社に対するPRAの期待を示している。また、これにより、ソルベンシーIIのボラティリティ調整(VA)の変更をモデル化することができることを確認している。



これまで、英国は、内部モデル会社が、VAが1年間の予測でモデル化された信用スプレッドに沿って移動することができるDVAを使用することを禁止してきた。



DVAを使用することは、重要な資本利益をもたらす。すなわち、スプレッドリスクの資本要件は、一定のVAを使用して導かれたものの約半分であり、そのアプローチはEUの他の国では許可されてきた。



EIOPA(欧州保険年金監督局)は、欧州全域でのDVAの発散的なアプローチに懸念を表明していたが、PRAは、4月にDVAの使用に関する協議を開始し、最終的には今回、軽微な修正と明確化のみを行った政策声明を公表している。会社は、DVAを使用することを希望する場合、主要モデルの変更を申請しなければならず、自らが得る利益を開示しなければならない。



この取扱は、2018年10月17日から有効となる。



14https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/publication/2018/solvency-ii-internal-models-modelling-of-the-volatility-adjustment-ss


 https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/prudential-regulation/supervisory-statement/2018/ss918.pdf?la=en&hash=D91A051A2B2C6789CD9DF55EFD08ABCC55D65E94
内部モデルのアウトプット報告の更新

PRAは、10月17日に「ソルベンシーII:内部モデルアウトプット報告の更新」についての政策声明PS24/1815、及び監督声明SS25/1516を公表した。



この更新は、会社の全体的な報告負担を軽減し、関連するテンプレートの完成をさらに明確にするために行われる。これにより、例えば、損害保険会社がもはやIM.02に関するカウンターパーティ情報を提出する予定がないことを反映するためにパラグラフ2.5を修正するように更新された。さらに、テンプレートとLOGファイルへのリンクが更新され、「規制報告-保険部門」ページで利用可能になった。



この取扱は、2018年12月31日から有効となる。



|内部モデル-評価、モデル変更及び非常勤取締役の役割

PRAは、10月17日に「ソルベンシーII:内部モデル - 評価、モデル変更、非常勤取締役の役割」についての監督声明17/1617を公表した。



これは、先のマッチング調整のモデル化や内部モデルの更新に関する政策声明の公表を受けて、モデル変更プロセスに関する会社の期待を反映するように更新された。



具体的には、以下の分野での期待が示されている。



・内部モデルの申請

・信用リスクの評価

・保険料引当金の変動性の取扱

・ボラティリティ調整に対するストレスの影響

・非常勤取締役の役割

・モデル正当化と検証、取締役会の役割

・モデルを承認する際のPRAの定量分析の使用

・範囲、識別と分類、ガバナンスと内部モデル変更の報告



 




17https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/publication/2016/solvency2-internal-models-assessment-model-change-and-the-role-of-non-executive-directors-ss


https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/prudential-regulation/supervisory-statement/2018/ss1716update2.pdf?la=en&hash=473EDCCB7C5A30A13777BE8275B865EE520423F0
ORSAと終局タイムホライズン-損害保険会社

PRAは、10月17日に「ソルベンシーII:ORSAと終局タイムホライゾン-損害保険会社」についての監督声明SS26/1518を公表した。



この監督声明は、損害保険会社のビジネスが長期的かつ短期的に曝される可能性のある全てのリスクを特定し管理するためのPRAの期待を示している。これにより、会社は、今後12ヶ月間にわたって引受け予定の契約の引受けを中止することを決定する事象においても保険契約者に対する義務を果たし、ストレスのある条件下でそれらの義務を満たすことができる能力を評価することができる。



10リスクマージン

PRAのSam Woods副長官は、6月4日にNicky Morgan下院財務委員会委員長宛にレター19を送付して、EUとの将来の関係に関する継続的な不確実性により、リスクマージンの改革に関する検討を一時停止する、と述べた。



このレターの中で、Woods氏は、まずは、現在のリスクマージンの設計が問題であることと、それが「オフショア再保ストックの積増し」という「意図しない結果」を生んでいる、との課題意識を示した。そして、「無制限のまま放置しておけば、重要な健全性の懸念となる。」とした。ただし、「当社の再保険業務の監督上のレビューは、再保険が行われている方法についての重要な即時の懸念をもたらしていない。同様に、ソルベンシーIIが毎年の価格を通じて、保険契約者に有害な影響を及ぼしているとは見られない。」と述べた。



そして、「リスクマージンの計算を含む多くの関係において、将来のリスク軽減及び移転メカニズムの使用に対する監督上のアプローチを検討してきた。」とし、「このオプションを非常に慎重に検討し、リスクマージンの原因となっている問題の解決策としていくつかメリットがある」とした。しかし、「金融サービスに関連するEUとの今後の関係に関する継続的な不確実性との関連で、会社が価格、資本計画や再保険の使用に頼ることができる十分な確信を持った変更を実行する耐久性のある方法はまだ見当たらない。」と述べた。



 





4―PRA生命保険・年金リスク部門ヘッドから保険会社のチーフ・アクチュアリー宛のレター

PRAの生命保険・年金リスク部門ヘッドであるSid Malik氏は、7月13日に、保険会社のチーフ・アクチュアリー宛に「ソルベンシーII:2年半(Solvency II: Two and a half years on)」とのレター20を送付した。これは、PRAとチーフ・アクチュアリーとの継続的な対話の一環であるとしている。



この章では、このレターの内容について報告する。



|このレターの位置付け

生命保険会社のチーフ・アクチュアリー宛のこのレターは、PRAとチーフ・アクチュアリー・コミュニティとの間の継続的な対話の一部であり、このレターを取締役会や他の人と適切に共有することを推奨する、としている。



このレターの目的については、「ソルベンシーII体制下でのPRAの規制活動から得られた知見及び観察の一部を共有し、当時のPRAが発表した期待の一部を再掲すること」としている。



|このレターの概要

このレターでは、マッチング調整(MA)に重点が置かれているが、これが会社にもたらす重要なベネフィットを考慮すると驚くべきことではない、としている。これは、申請プロセスを効率化し、内部モデルの資本モデリングを向上させるために、さらに埋め込み(embedding)が必要な領域と考えられる、としている。内部モデルは、特に、長寿リスク、信用リスク及び依存関係モデリングの分野において注目を集めている。会社の内部モデル申請の評価の効率は、申請の品質、モデルの検証及び内部モデルの文書に依存している。



なお、PRAは、ユニット・リンク商品の技術的準備金を計算するための予測期間と、リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA) におけるストレステストに対する会社のアプローチに関する主たるテーマのレビューからの観測を含む、ソルベンシーIIが導入した規制要件の他の側面についても検討している。



さらに、「チーフ・アクチュアリーの役割は、シニア・インシュランス・マネジャー・レジーム(SIMR)内のシニア・インシュランス・マネジメント機能である」と述べている。



|このレターの具体的内容

ここでは、レターの具体的内容について報告する。



このレターにより、監督当局がマッチング調整や内部モデルのモデリング等に関して、どのような問題意識を有しており、保険会社のチーフ・アクチュアリーに対して何を期待しているのかを窺い知ることができる。



例えば、会社やチーフ・アクチュアリーに対して推奨すべき点として、以下のような項目が挙げられている。



技術的準備金におけるマッチング調整における基本スプレッド(FS)に関しては、チーフ・アクチュアリーは、信用資産について集計されたFSの表が、割り当てられたFSセクター及び資産信用度ステップ(credit quality step:CQS)に依存することを認識して、適切なFS、特に会社が保持するリスクを反映するFSが適用されるようにする。



内部モデルにおけるマッチング調整(MAについては、(1)資産サイドのリスクモデリング(2)リバランス(3)妥当性検証、の3点が、改善が最も必要とされる分野である。



内部モデルにおける長寿リスクのモデリングに関しては、最良推定前提における死亡率の改善が鈍化するという証拠に重点が置かれるにつれて、内部モデルの長寿リスク較正が、最良推定前提がより高いレベルの改善に戻る可能性を適切に反映するかどうかを会社が検討する。



内部モデルの依存関係のモデリングについては、相関行列の半正定値(positive semi-definite:PSD)性についてのアルゴリズムやアプローチが、最も重要な相関関係に重大な変化をもたらさないようにするプロセスを確立し、モデル検証に組み込むべきである。



内部モデルの文書化については、具体的な記載項目や考え方を掲げるとともに、読者が使いやすくするための提案も行い、チーフ・アクチュアリーがこれらを念頭において会社の文書化と提出物を審査する。



さらに、ORSAのストレステストへのアプローチソルベンシー及び財務状況報告書(SFCRについてのレビューを踏まえて、会社やチーフ・アクチュアリーに期待すべき内容等を述べている。



(1)技術的準備金におけるマッチング調整(MA

(1-1)MA申請への変更

PRAは、MA申請プロセスを実施技術基準(Implementing Technical Standards:ITS)要件の制約内でより合理化するための選択肢を検討する際に、最近発表された監督声明(SS)7/1821において、PRAのアプローチが、会社がその申請において求めてきている変更に対して、比例的で適切である、と述べている。



特に、PRAは、更新された申請の「クリーン」バージョンと、 MA申請で変更されなかった、追跡された変更の一部として強調表示されないテキストが、静的なままであることの確認書とともに、最新のMA申請への変更が明確に示されている場合の更新されたMA申請を受け入れる、としている。申請が承認された場合、会社は直ちに申請審査プロセスで合意された変更を反映した更新版MA申請書の最終版を提出することにより、プロセスを完了させる。PRAは、提案された変更の概要と、更新されたMA申請への適切な相互参照を会社が提供した場合に役立つことを発見した、としている。



会社は、変更がそのセクションに関係しない既存のMA申請のセクションを更新しないことを提案することができる。例えば、更新されたMA申請が単独で新しい資産クラスを追加する場合の死亡率リスク評価を更新する必要はないかもしれない。PRAは、会社が既存のMA申請を更新しないように提案した場所を明確に設定している場合に役立つことを発見した、としている。



PRAがSS7/1821においても述べているように、PRAによって既存の申請が検討されている間に、追加のMA申請を提出できる状況があるかもしれない。例えば、変更間の依存関係が最小限である場合で、第2の適用の状況は、より迅速な決定が可能であるようなケースである。会社が、申請を行う前に監督チームとケースバイケースで対応する可能性について話し合った場合に役立つ。第2の申請が承認されてから第1の申請が承認されると、会社はこれを反映するように第1の申請を更新する必要がある。





(1-2)基本スプレッド(Fundamental spread:FS

基本スプレッド(FS)に関して、以下のように述べられている。



チーフ・アクチュアリーは、信用資産について集計されたFSの表が、割り当てられたFSセクター及び資産信用度ステップ(CQS)に依存することを認識する。監督声明SS3 / 1722で議論されているように、FS格付けプロセスは外部信用評価機関(ECAI)によって提供された信用格付けを持つ資産に対して比較的規定的であるが、内部格付け資産についてはより多くの判断が必要である。



PRAは、2017年に、会社のMAポートフォリオに関する資産情報を収集するための調査を実施した。このデータを検討する際には、資産がFSセクター(例えば、「金融」)にどのように割り当てられているのか、特に流動性の低い資産クラスについて、MAポートフォリオの様々なアプローチに注目した。チーフ・アクチュアリーは、この任務の意義を理解し、適切なFS、特に会社が保持するリスクを反映するFSが適用されるようにすることを推奨する、としている。



より一般的には、SS3 / 17に記載されているように、内部格付け資産のCQSマッピングに重大な依存が置かれている場合に、チーフ・アクチュアリーとチーフ・リスク・オフィサーは、適切なFSが適用されていることを確認する必要がある。 



(2)内部モデルにおけるMAのモデリング

PRAは以前、ソルベンシーIIの他の要素より後のMAの最終化は、ソルベンシーIIの第1日より前に内部モデルにMAを反映させようとする会社にとって、内部モデル開発の課題を提示したことを認めた。したがって、現在、MAをカバーする内部モデルの使用を承認している数多くの会社にとって、さらなるモデル開発が必要とされているか、又は必要である可能性が高い。他の会社は、初めてMAをカバーするモデルの使用を申請しようとしている。



2017/18の協議の後、会社の内部モデルにおけるMAのモデリングについてSS8 / 18を発表した。 SSは、特にストレス下におけるMAポートフォリオのバランスを取るという点で、新しい材料とともに以前に設定されていた多くの点をまとめた、PRAの会社に対する期待を示している。



PRAはストレス下でのMAのモデリングに伴う課題を認識している。特に、MA計算のポートフォリオレベルの性質、MA適格基準を継続的に満たす必要性、MAポートフォリオに影響を及ぼす可能性のある異なるリスク間の相互作用は、モデルが複雑さと使いやすさのバランスを取る必要があることを意味する。政策声明PS19 / 1823に記載されているように、PRAは会社が不必要に複雑なモデリング手法を開発するように求めているわけではない。しかし、会社が、そのアプローチが事業が実質的に曝されているリスクを適切に把握していることを実証することは不可欠である。SSを支える重要な懸念事項は、特に会社がより広い範囲の資産クラスに投資する場合、会社の既存のアプローチが時間の経過とともにこれを継続し続けるかどうかである。



PRAは、改善が最も必要とされる3つの分野として、以下の3点を挙げている。



1.資産サイドのリスクモデリング

一部の会社は、ストレス時にMAのポートフォリオに含まれる資産を再評価するために使用される方法に注意を払うことなく、MAのストレスを決定することにモデリングの努力を集中してきた。PRAは、会社がストレス下でMA適格基準が引き続き満たされることを保証するためには、資産サイドのリスクの適切なモデリングが不可欠である、と考えている。また、会社が保有する資産のリスクを特定し定量化するのに役立ち、特定のストレスシナリオに耐えるために会社がMAに依存している程度について重要な洞察を与えることができる。2.リバランス

マッチングの適切なレベルを維持するために、いくつかのシナリオでMAポートフォリオのバランスを取る必要がある。会社は、提案されたリバランス戦略が仮定された状況において信用できることを正当化する。慎重な健全性の観点からは、会社がバランスをとることができる性質及び程度について、過度に楽観的な前提を用いる結果として、会社のSCRを控えめにすると、重大な懸念が生じる。この懸念は、SS8 / 18に定められた数多くの期待に反するものである。



3.妥当性検証

MAと同様に複雑なバランスシート項目については、結果として得られるストレス較正が異なるレンズを通して考慮され、重要なモデリングの前提条件が適切な精査の対象となることを確実にすることが適切である。そのために、会社が、主な較正及び方法論で使用しているものとは異なる技術を使用して、前提/出力を検証するように奨励した。PRAはまた、そのような検証がストレス下におけるMAの較正の異なる段階を通して行われることを示唆している。SS8 / 18の目的は、会社がMAの並列モデルを維持して実行することではなく、代わりに、使用された結果の較正が過去の経験及びデータならびに現在及び将来の見通しの判断に対して正当化されることを確実にすることを目指している。



最後に、会社が幅広い範囲の資産に投資する傾向が継続していることに注目している。その多くは、本質的にオーダーメイドで流動的であるため、内部モデルがこれらの資産がもたらすリスクを適切に反映することを確実にするためのさらなる課題を形作ることになる。SS8 / 18の焦点は外部格付けの社債であるが、多くの期待は幅広く適用されるため、より多様な資産ポートフォリオに関連付けられるべきである。PRAは、適切な場合には、他の資産クラスに関するさらなる期待を追及するつもりである、としている。



(3)内部モデルにおける長寿リスクのモデリング

殆どの会社は、国民死亡率の改善が鈍化しているという最近の経験を反映するために、長寿の最良推定前提を調整し始めている。一般的に、取り組まれているアプローチは、死亡率改善低下の原因と時間の不確実性を反映して、慎重になっている。さらに、多くの会社が、より高い社会経済的グループに対するより早い死亡率改善の証拠を明白に考慮してきている。



最良推定前提における死亡率の改善が鈍化するという証拠に重点が置かれるにつれて、内部モデルの長寿リスク較正が、最良推定前提がより高いレベルの改善に戻る可能性を適切に反映するかどうかを会社が検討することを推奨する。



保険監督のエグゼクティブ・ディレクターのDavid Rule氏は、2017年の演説で、最近の長寿経験に照らして定量的な指標にいくつかの変更を加えるべきだと結論付けた。これらの指標は、保険会社のモデルがソルベンシーIIのテスト及び基準を満たしているかどうかについてのPRAの見解の1つのインプットとして使用されており、モデル認可の一部として、PRAが定量分析をどのように使用するかのさらなるガイダンスはSS17 / 1624に規定されている。





(4)内部モデルの依存関係のモデリング

内部モデル会社は、相関行列(データ分析と専門家の判断を組み合わせて導出)が半正定値(positive semidefinite:PSD)行列25であることを保証するために、様々なアルゴリズムや手法を使用していることがわかった、としている。



これらのPSDアルゴリズム又はアプローチは、行列が内部的に一貫していることを確認するためにペアワイズ相関を変更する。それらのうちのいくつかは、SCR及び/又は結果としてのリスクマージンに不適切な影響を与える可能性のある重要な相関ペアを大幅に変更する可能性がある。



PRAは、会社がPSDのアルゴリズムやアプローチが最も重要な相関関係に重大な変化をもたらさないようにするプロセスを確立し、モデル検証に組み込むべきであることを奨励している。PRAが観察した良いプラクティスの例には、会社の専門家による判断の適用、重要度による相関を反映する「重み」付きのアルゴリズムの実施、又は相関の動きに対する許容誤差の設定が含まれる、としている。



 




25 対称行列及びエルミート行列Mが「半正定値 (positive-semidefinite) 」であるとは、任意の非零ベクトル z に対して2次形式 z Mz ≥ 0 が成り立つときに言う。あるいはこれは、Mの固有値が全て非負であると言い換えることができる。
(5)内部モデルの文書化

良質の文書化は、関係者全員にとっての利益であり、特に、PRAと会社の双方にとって不必要な作業を引き起こす誤解のリスクを軽減する。



効果的な内容の看板を付ける明確なエグゼクティブサマリーで、読者は主なポイントを理解し、証拠を十分に見つけることができる。カバーされているトピックが内部モデルの他の要素とどのように関連しているかを明確に示している場合、レビューはより効果的である。



会社が、社内モデルの文書化が明確かつ簡潔に示されるようにすることを推奨する。



・提案された方法論の簡潔な要約

・較正の詳細

・データの使用を含む方法論及び較正の形成においてなされた主要な判断

・重要な判断に対する代替案の検討

・資本への影響を含む較正の結果

・重要な判断の感応度分析を含む方法論、較正及び結果の検証

・提案の限界と弱点

・リスクの再較正が要求される基準と状況



文書化がモデルの変更に関係する場合、PRAの見解は、会社が変更の論理的根拠を明らかにするのがよいプラクティスであるということである。



この機会を利用して、「PRAソルベンシーII保険ディレクターズ・アップデート:2015年2月12日」26に記載されているように、以下の内容を含む、モデリング作業における主要な判断の良質な文書化の重要性を会社に喚起させる、としている。



・重要な判断が特定されることを確実にする仕組みがある。

・重要な判断に対する意思決定と承認が適切なレベルで行われるようにするプロセスがある。

・重要な判断に対する課題は、文書内に適切に取り込まれる。

・文書化のレベルと判断の妥当性は、決定の重要性に比例する。

・専門家の判断の定義は、重要な個別のパラメータを特定するだけでなく、次のものを組み込むことができるという点で、適切に幅広い。

・会社がどのように特定の問題を定量化するかに関する基本的な方法論決定

・広範囲の他の決定/判断に影響するプロセスの設計又は暗黙の前提



最後に、会社が文書を読者がより使いやすくするために役立つこととして、次のことを提案している。



・グラフやその他の図的証拠の使用は有用であるかもしれないが、それらが使用される場所では、なぜ関連性があるのか、どのような推論が引き出されているのか、そしてなぜそれが適切であるのかについて説明する必要がある。

・提示された結果は、それらの結果から引き出されるべき結論とともに明確に説明されるべきである。

・会社は、文書に記載されている様々な情報源を明確に説明したりコメントしたり、内部モデルでその情報をどのように使用するかを明確にすべきである。



以上を踏まえて、PRAは、チーフ・アクチュアリーが上記のことを念頭において会社の文書化と提出物を審査することを推奨する、としている。



(6)技術的準備金の計算のための契約の境界/予測期間

ソルベンシーIIの技術的準備金の継続的な見直しの一環として、PRAは、一部の会社が将来のキャッシュ・フローを予測するアプローチと、EIOPAから正しいアプローチとして公表された意見との間に矛盾があることを認識した。PRAは、ソルベンシーII委任規則(委任規則)第18条の解釈及び特定の保険契約の中で一方的な権利が存在して契約を終了させることができるため、この不一致が生じたと理解した。一部の会社は、実際に契約を終了するかどうかにかかわらず、「短期」の予測期間(契約を終了する権利前の通知期間に対するキャッシュ・フローのみを予測する)を適用していた。



2017年12月7日の英国保険会社協会(ABI)のユニット・リンク・フォーラムで述べたように、PRAは、会社が解約オプションを行使する明確な意思を示し、「将来の経営行動」に関する委任規則第23条の要件が満たされている場合を除いて、既に支払われた期間に関連する義務に対する短期のキャッシュ・フローの予測期間を導く委任規則第18条の解釈を適用することは不適切であると考えている。



しかし、PRAは、ソルベンシーIIが、保険及び再保険義務の根底にあるリスクの性質、規模及び複雑さに比例する技術的準備金を計算する方法を会社に使用させることを認めている。このように、PRAは、委任規制第56条の要件が満たされていることを条件に、短期間のキャッシュ・フロー予測期間の使用は許容可能な簡素化である、と考えている、としている。



第56条の要件が満たされているかどうかの評価は、各会社が行うことであり、チーフ・アクチュアリーは、比例した方法論の採用によって導入されたエラーを(定量的及び定性的に)評価する必要があることを覚えておくべきである、としている。(7)ORSAのストレステストへのアプローチ

2017年に、PRAは大規模生命保険会社のサンプルのORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)に記載されているストレステストとリバースストレステストへのアプローチをレビューした。



(7-1)ストレステスト

大部分の会社は、主なリスク・タイプ(例:株式市場の下落、死亡ショック)に適したシナリオ及び感応度の適切な範囲で、ストレステストに合理的なアプローチを行っていた。



ストレスの重大度の範囲が、シナリオにおける会社によって調査された。PRAは、会社が、自ら使用した範囲が最大の重大度を定義していることに満足してはならないと考えている。さらに重大なシナリオが発生する可能性はまだある。



少なくとも1つの会社が「ウォークスルー(walk-through)」シナリオを含んでいた。ウォークスルーのシナリオは、会社が尤度(可能性)を定量化しようとせず、代わりに起こり得る一連の事象について定性的に話し合うケースである。仮定された条件が不利益な場合、この種のシナリオは、その確率と効果が現在容易に定量化できない場合であっても、一連の事象と可能な緩和アクションの探索に役立つと考える。



(7-2)リバースストレステスト

会社は一般的に、(流動性の枯渇、ブランドの評判価値の崩壊、株主支援の欠如、規制当局の承認の取り下げなど)他の可能性とともに資本の枯渇を検討しているより良い会社が、失敗の明確な定義を有していた。



ビジネスモデルが失敗することで、何が起きるのかをじっくり考える上で、オープンマインドであることが重要である。会社は、そのような分析を通じて得られたシナリオが、殆ど起こりそうもないものとみなされる環境の組み合わせであると考え、したがって却下される可能性があるということに、あまりにも容易に満足すべきではない。



PRAは、一般的に十分にカバーされていなかったと考えられる2つのリバースストレステストシナリオに注目した。



1.会社の戦略はいくつかの点で非常に成功しており、これは恐らく未知の分野でのエクスポジャーとリスクの危険な蓄積につながる。



2.会社は、非流動資産にマーク・ツー・モデルを使用しており、その価値は著しく誇張されていることが分かる。



(7-3)経営行動

殆どの会社は、可能な経営行動の合理的な見解を有していたが、そのような行動の使用を計画することはかなり高水準に見えた。ストレスがかかる状況で、そのような行動が期待される効果をもたらすとの確信を高めるために、会社が提案された経営行動をより詳細に熟慮することを推奨する。SS4 / 1827に記載されているように、PRAは、経営行動が現実的で信頼できるものであり、規制当局の期待に合致し、達成可能であることを期待している、としている。





(8)ソルベンシー及び財務状況報告書(SFCR

2017年10月、PRAは、保険会社、投資家、アナリストとともに、9月に開催された3回の円卓会議の後、2017年にEUの保険会社が発行した第1回目のSFCRについて議論した記録を公表28した。特に、PRAは投資家やアナリストから、 いかにしてSFCRの開示を改善することができるのかについての考え方を収集した。これらの議論からのフィードバックは、開示の増加のための2つの主要な領域を示唆した。



・最も重要な優先事項は、市場及びその他の重要な変数の変化に対するSCRのカバレッジレシオの感応度の開示と、これらの感応度の保険会社間での一貫性のある開示であった。



・アナリストと投資家はまた、SCRカバレッジの動きのドライバーについて、より詳細で一貫した開示を求めていた。これには、2017年のDavid Rule氏のスピーチで述べたように、資本の発生源の内訳、リスク前提の変更、モデリング手法の変更などが含まれる。



(9今後の活動

最後に、PRAが着手しているいくつかのイニシアチブについて喚起しておくとして、以下の3点を挙げている。



・PRAは、内部モデルの承認又は既存の内部モデルの変更のための会社の申請の一部として、プロキシモデルを評価するための内部指針のレビューを実施している。このプロセスの一環として、PRAは、会社がプロキシモデリングへのアプローチを高いレベルで把握しようとする会社への調査を実施している。



・PRAは、今月初めに、実効値テストの目的のための非負持分保証の評価と技術的準備金に関する移行措置の適用可能性に関するPRAの期待に関する追加的な明快さを提供することによって、現在設定されている4つの重要な原則に基づいて構築されているSS3 / 17の更新についての協議を公表した。



・PRAは、他の流動性の低い資産のモデル化、特に会社の内部モデル内でのこれらの資産及びこれらに関連するマッチング調整の取扱についての見解をさらに発展させている。

 



5―まとめ

ここまで、今回のレポートでは、英国におけるPRAによるソルベンシーII規制を巡る各種の動きの中から、トピカルなテーマについて、それらの内容を報告してきた。



|PRAの各種声明の持つ意味合い

PRAは、ソルベンシーII規制の実際の適用に伴う各種課題の明確化等に向けて、これまでもEU加盟国の中で最も前向きに取り組んできていたが、2018年に入ってからは、Brexitも見据えた上で、所要の対応等の検討にさらに積極的に取り組んできている。



今回報告した、マッチング調整やボラティリティ調整に関係する各種の課題や内部モデルにおける長寿リスクや依存関係のモデリング及び文書化等の課題は、必ずしも英国だけが抱えるものではなくて、EU加盟各国がその程度の差こそあれ、抱えている課題であるともいえる。その意味で、PRAが自国の保険市場や保険会社の状況等を踏まえて、適時発行してきている各種の声明等は、他のEU加盟国にとっても1つの示唆を与えるものとなってきたものと思われる。



そうした中で、特に、DVA(動的ボラティリティ調整)のモデリングやSFCR(ソルベンシー及び財務状況報告書)の外部監査要件に関する声明は、これまでもEU加盟国の中でも対応が分かれてきたことから、1つの方向性を示したものとなることも想定されることになる。



|EUにおけるソルベンシーII改革の検討

ソルベンシーIIが抱えている課題の中では、リスクマージンの改革が英国の保険業界にとっての最大の関心事であり、それが最も重要な課題であると認識されている。



ソルベンシーII制度の下では、例えば年金引受会社は、ヘッジできないリスクに対して、多額の資本を保有することを余儀なくされている。これに対して、保険会社は、米国やバミューダ等のオフショアで長寿リスクを再保険することで対応してきている。



EIOPAは、今年の2月の標準式のレビューに関する助言の中で、リスクマージンについては、保険業界からの引き下げ要請の高かった6%の資本コスト率について見直さないことを提言した。また、リスクマージンのその他の要素については、2021年のソルベンシーIIの全体的な見直しの中で検討することとした。



このEIOPAからの助言を踏まえて、欧州委員会は現在、現段階におけるソルベンシーII改正について検討しているが、リスクマージンについてはEIOPAの助言に従う方針のようである。



Brexitに伴う合意の方向性が固まってきた場合に、さらにはソルベンシーII改正に関するEUの方針が固まってきた場合に、今後PRAがリスクマージンを初めとすると各種のソルベンシーIIに関係する課題に対して、どのような対応を行っていくのかについては、引き続き注目されることになる。



Brexitを踏まえた英国のPRAのソルベンシーIIへの対応については、多くの人が興味関心を有している事項であり、EUにおけるソルベンシーIIだけでなく、グローバルベースでの規制資本の検討等に少なからず影響を与えていくことも想定されることから、今後も引き続き注視していくこととしたい。





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